UK司法省報告

UK司法省報告

面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書 目次

                                  英国司法省 / 2020年6月

 

面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書

~子どもと親の安全・安心の観点から~

最終報告書

訳:離婚後の養育法制研究会

 

Assessing Risk of Harm to Children and Parents in

Private Law Children Cases

Final Report

 

Assessing risk of harm to children and parents in private law children cases - GOV.UK (www.gov.uk)

 

 

 

 

 

 

目次 (Contents)

要旨 (Executive Summary:3)

第1章 共同代表によるイントロダクション(Introduction from the joint chairs:13)

第2章 委員会における作業の進め方について(2. How the panel went about its work:15)

第3章 法的枠組(3. The Legal Framework:25)

第4章 ドメスティック・アビューズ(DA)その他の危害リスクを扱う難しさ

   (4. Challenges in addressing domesticabuse and other risks of harm:39)

第5章 DAの主張と立証(5. Raising and evidencing domestic abuse:48)

第6章 子どもの声(Children’s voices)(6. Children’s voices:67)

第7章 申立への対応方法(7. How allegations are dealt with:84)

第8章 法廷での安全と経験(8. Safety and experiences at court:108)

第9章 裁判所の命令(9. Orders made:131)

第10章 裁判所の命令により生じる危害(10. Harm arising from family court orders:148)

第11章 勧告(11. Recommendations:171)

 

Annex A: List of Acronyms:188

Annex B: Review of Case Law:190

 

 

Authors

• Professor Rosemary Hunter FAcSS, University of Kent

• Professor Mandy Burton, University of Leicester

• Professor Liz Trinder, University of Exeter Panel Members

• Melissa Case & Nicola Hewer, Director of Family and Criminal Justice Policy, MoJ (Joint Chairs)

• Neil Blacklock, Development Director, Respect

• Eleri Butler, Chief Executive, Welsh Women’s Aid

• Lorraine Cavanagh QC & Deirdre Fottrell QC (joint representatives), Association of Lawyers for Children

• Mr Justice Stephen Cobb, Judiciary

• Nicki Norman, Acting Chief Executive, Women’s Aid Federation of England

• District Judge Katherine Suh, Judiciary

• Isabelle Trowler, Chief Social Worker for England (Children & Families)

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要旨

1.      本報告書は専門家委員会の最終報告であり、エビデンスの照会(call for evidence)から得られた結果を反映している。これは、専門家、親、家庭裁判所の経験を有する子らとともに開催された円卓会議やフォーカスグループの他、イングランドとウェールズの個人と団体からの1200を超える回答を踏まえて行われた。エビデンスの大部分は、ドメスティック・アビューズ(domestic abuse・以下「DA」という。)に意を用いて得られたものである。

 

2.      本最終報告は、子の処遇(arrangements)に関する父母間の紛争を伴うケース、すなわち「私法上の子の手続」(private law children proceedings)として知られるケースにおいて、家庭裁判所がどの程度効果的にDAその他重大犯罪に関する主張を識別し、これに対応しているかの理解を提供するものである。

 

3.      本報告書は、こうした手続に関与した当事者及び子にとっての過程及び結果に関して認定するものであり、DAの被害者を含め、私法上の子の手続における個人的経験を有する者からの個別の回答から結論を導き出している。委員会は、個々のケースの記録を検証することはできなかったが、エビデンスの照会、円卓会議及びフォーカスグループから得られたエビデンスは、文献のレビュー及び関連する裁判例のレビューで補われている。

 

4.      委員会は、家庭裁判所の司法制度(第11章)により今後採られるべき方策について幾つかの勧告を行っており、それは以下のとおり要約される。

 

なぜ変化が必要なのか

5.      日々、社会で最も脆弱な人の一部は家庭裁判所に救済を求めており、そこでは多くの場合非常に感情的なケースにおいて困難な判断が下されている。したがって、システムが彼らをさらなる危害やリスクから保護することができることが不可欠である。

 

6.      1989年児童法(the Children Act 1989)に規定された法的枠組においては、裁判所は、子の福祉に優先的考慮(paramount consideration)を払うことを求められる。それにもかかわらず、委員会に提出されたエビデンスは、私法上の子の手続における子及び被害者の親の主張と証明された危害に対し、家庭裁判所の制度がいかにそれらを認識し、対応しているかについて、継続的な課題があることを示している。

 

7.      委員会は、家庭裁判所の制度において一層増加するプレッシャーの下に働く人達から、優れた実践例や意志を認識する一方で、子どもや成人の双方に対する危害がいかに識別され、管理されるかに影響を及ぼすと認められた、根深い体系的な問題を明らかにした。

 

虐待その他重大な犯罪への対応における課題

8.      エビデンスの照会に対する回答者は、家庭裁判所が、私法上の子の手続においていかにDA及び児童の性的虐待に対応しているかについての懸念を提起した。

回答は、虐待が体系的に過小評価されているという感覚を強調し、それは、子どもの声に耳が傾けられていないこと、主張が無視され、却下され又は信用されないことから、リスクの評価が不十分であること、トラウマティックな裁判所のプロセス、安全でないと認識されている子の処遇、そして虐待者が訴訟を繰り返すことや訴訟を繰り返すという脅迫を通じ継続的な支配権を行使していることにまで及ぶ。委員会は、それらの問題は、検証の対象となった証拠をめぐる、次のような重要な課題に支えられたものと認定した。

·      リソースの制約: 資源の利用可能性が私法上の子の手続の需要の増大に対応するには十分でなく、より多くの当事者が代理人をつけずに裁判所に申立てを行っていること。

·      プロコンタクトカルチャー(pro-contact culture): 回答者は、裁判所が別居親とのコンタクト(contact)を実施させることを不当に優先したと感じており、その結果、DAの主張が体系的に過小評価された。

·      サイロワーキング(Working in silos 訳者注:孤立した業務遂行、縦割りにつながる): 回答は、刑事司法、子の保護(公法)と私法上の子の手続との間のアプローチと文化の違いと、家庭裁判所と他の裁判所及び家庭と協力する機関との間のコミュニケーションと調整不足を強調し、これが矛盾する決定と混乱を招いた。

当事者主義的構造(adversarial system):DA、児童の性的虐待及び自己代理に係る事件において、親たちはしばしば対等な立場にないまま、対立的構造に立たされ、子の関与もほとんど又は全くない。

DAの提起及び立証

9.      回答から得られたエビデンスは、一般に、被害者がDAの問題を提起するのに多くの障壁に直面し、その多くは、上記の問題と重複し、かつ、次に掲げる事項も含むものであることを示した。

·         子の処遇のケースにおける裁判所と専門家のプロコンタクトカルチャー: 回答は、DAがとる様々な形態についての理解不足、子と被害者の親への虐待の継続的な影響の理解不足、システマティックな虐待の過小評価又は否定、そして強力な吟味なしでの反論の受入れを強調した。

·         虐待の証拠: 被害者は虐待を証明する困難さを報告し、それは特に、単一事件や直近の身体的虐待に焦点が当てられ、「理想的な被害者」がどのようにふるまうべきかというステレオタイプな見方に直面する場合である。

·         サイロワーキング: あるシステム、例えば刑事裁判所において虐待が認定された証拠があるが、それが家庭裁判所では認識されないか、又は実質的に考慮されないことに帰結しうる。

 

10.  DAを提起するにあたっては、特に黒人、アジア系および少数民族(BAME)のバックグランドを持つ被害者にとって障壁がある。被害者や彼らを支援する専門家は、これらの障壁を、性差別や階級偏見に加えて、人種差別が関わっていると認識した。また、男性の被害者は特定の障壁に直面しており、一部の回答者は、「リアルな」被害者に関する固定観念が、信じてもらうための障害となっていることを強調している。

 

子どもの声

11.  調査及び回答から得られたエビデンスからは、DAの主張が提起された場合に、子どもの声に耳が傾けられず、又は様々な方法で沈黙させられていることがあまりに多いことが示されている。子どもの大部分は、家庭裁判所の手続に直接関与せず、父母又はケアラー(carere(s))に彼らの意見を代弁することを委ねられる。子どもの見解を有効に伝達することができるためには障壁が多く、委員会には以下のとおり強調された。

·         制限された時間: 回答は、子どもと過ごす時間を最大限にすることは信頼関係を築く上で重要であると指摘しているが、専門家の時間は限られており、相談が行われる場合には、通常、短時間であると報告されている。

·         フォローアップの欠如: 回答は、ひとたび裁判所の命令がなされた場合には、子どもはほとんど相談されることがないと述べており、多くの場合、彼らは有効かつ安全に機能しないであろう取決めとともに捨て置かれることになる。

·         リソースの欠如: 不適当なリソースは、子どもの手続への関与を妨げることになる。

·         プロコンタクトカルチャー: 回答は、選定的聴取(selective listening)を行う過程を明らかにしており、それにより非同居親と交流することを希望する子どもの声に耳は傾けられても、交流を希望しない子どもの意見は聞かれないか、又はその意見を変更するよう圧力をかけられる。裁判所の命令については、特定の状況にかかわらず、多くの場合子どもが虐待を受けるおそれのある親と共に過ごすことを優先させると報告された。

·         サイロワーキング: 回答は、裁判所は多くの場合、子どもとの密接な関係を確立し、個々の事情をより深く知り得る機関と実効的に関わっていないことを強調した。

·         複雑性: エビデンスは、子どもの見解を適切に理解し、代弁することは、子どもは様々な影響に晒されることが多く、そのうちには矛盾するものがあり得、難しいものとなり得るとしている。これには、時間とスキルの双方が必要となる。

 

12.  エビデンスにより、手続において意見を聞かれない子どもに著しい支障を及ぼすことも示された。子どもは、心情を傷つけられ、権威を疑うような心情を残し、子どもの否定的な経験によって裁判制度への信頼が損なわれ得るものである。

 

主張の対応のされ方

13.  2010年家事事件手続規則(Family Procedure Rules 2010)の実務指針(Practice Direction 12J) (PD12J)は、子の処遇のケースにおいてDAの主張がされた場合に裁判所が取るべき措置に関する詳細な指針を規定している。エビデンスは、PD12Jが意図された通りに機能しておらず、一貫性なく実施されているという懸念を提起した。

 

14.  これには以下の懸念が含まれる。

·         プロコンタクトカルチャー: 親の関与の推定、及びDAの主張がどのようなときに関連すると考えられるかに関する決定。

·         当事者主義的構造: 事実認定(Fact-finding)の期日の実施、及び公平性の認識。

·         リソースの欠如: 事実認定の手続及びリスク評価の質、裁判の継続性の欠如、法的アドバイスを得ずにPD12Jの複雑性に直接対処しようとする紛争当事者にとって重大な困難をもたらすことに影響する。

·         サイロワーキング: 事実認定と他の手続との連携の欠如に帰結する。

 

裁判所における安全と経験

15.  DAを受けた被害者にとって裁判手続の経験は、DAを受けた結果として経験したトラウマのほか、身体的安全に対する懸念により影響を受ける。この場合の結果にかかわらず、通常被害者は裁判所で安全とは感じないと報告し、提出されたエビデンスでは、被害者は裁判手続を再びトラウマをもたらすものであることが多いと考えていたことが示された。

 

16.  私法上の子の手続における各段階(裁判所に行くこと、裁判所建物自体の中、法廷内、繰り返される申立に応じるために裁判所に出頭すること)により、以下を含め、それ自体に特定の安全に関する問題を提起したことが報告された。

·         身体的安全: 多くの回答者は、家庭裁判所における手続は、適切な特別措置が講じられなかったことが多く、脅迫や身体に対する攻撃を受けやすい被害者が放置されることになると述べた。

·         精神的健康(well-being): 被害者は、手続に関与し、経験を証するエビデンスを提出することにより、再びトラウマを感じるおそれがある旨報告したが、これは現在、適切に対処されていない。

·         自ら出頭する紛争当事者: 自ら出頭する当事者に関する影響は、安全に関して特に大変な状況にあると認識されており、それは彼らが利用可能な手段及びこれを規定する準則に関する知識を持たず、かつ、それらの者に対し特別措置を求めることのできる法律上の助言が得られないためである。

·         直接反対尋問: 被害者は、虐待者が代理人を付けていない場合に虐待者による反対尋問の可能性、又は、彼ら自身が訴訟当事者である場合に虐待者に対し反対尋問しなければならないことに直面する可能性がある。

 

17.  1989年児童法第91条(14)の規定(申立禁止命令)の下になされる命令は、子の処遇命令を求める反復申立による被害者に対する一層の虐待から被害者を保護するためには、効果がないことが示されている。長年のケースローではこれらの命令は例外的であることが確立しており、命令を得る基準はあまりに過度であると認められ、他方、命令が発せられた場合の取下の基準があまりに低いという結果をもたらしている。

 

命令

18.  DAその他重大犯罪に係る事件について裁判所がする命令は、既に述べた体系的問題のもとで発せられる。これらの問題は、今後は、家庭裁判所による子の処遇命令の発し方において4つの主要な問題を生じさせるものと考えられる。

·         子はコンタクトをすべきこと: 手続の一部として虐待を主張した親及び彼らの支援に従事する専門家からの回答は、ほとんどのケースにおいて、何らかの直接交流がなお命じられるおそれがあると報告した。

·         コンタクトを進めるべきこと: 委員会が受け取ったエビデンスは、裁判所が直接交流に制限を命じた場合、その目的は、通常、無制限に交流するための「進歩」(progress)であると思われることを示した。回答は、DA加害者プログラム(DAPPs)のような介入や監視付きコンタクトサービス(supervised contact services)は、直接交流するための足掛かりと見なされ得ることを示した。

·         共同養育(co-parenting)を推進すること: 個々の事情にかかわらず、DAについて最も重大な主張が提起された場合においても、裁判所は父母が共にコンタクト処遇(contact arrangements)を促進できるように期待していたと、多くの回答者は報告した。

·         裁判所へ依存しないよう推奨されること: 回答及び従前の調査からは、コンセント命令(consent order)が日常的に出されることが示されている。虐待を受けた被害者は、安全でないと考える場合であっても、その命令に同意するようプレッシャーをかけられていると感じている。レビュー・ヒアリング(review hearing)は、その命令の機能及び安全に関する確認をするかもしれないが、あまり推奨されず、ほとんど実施されない。

19.  PD12Jにもかかわらず、回答者は、DAの特徴のあるケースとそうでないケースとの間で、命令においてほとんど差がないと感じていた。裁判所は、ほとんど常に何らかのコンタクトを命じ、多くの場合無制限に、そして虐待したとする者にその行動に対処することを要求しないのが通常であった。

 

家庭裁判所の命令による被害

20.  回答者は、裁判所の命令により、虐待したとされる者によるDAの子ども及び成人被害者に対する継続的なコントロール、及び被害者と子どもの継続的な虐待が可能になったと感じた。多数の資料は、この虐待が子どもの現在及び将来の関係に悪影響を及ぼし、身体的、感情的、心理的、経済的及び教育的な害悪を表すという長期的な影響を明らかにした。

 

21.  多数の回答者は、家庭裁判所における手続を経て、回答者及び子どもが経験した虐待の程度が悪化したと感じた。家庭裁判所の命令により、継続的な虐待を報告しようとする努力が刑事司法及び児童福祉機関(child welfare agencies)に拒絶的に扱われたという懸念がある。さらに、回答者は、虐待を受けた子が虐待をした親と交流をすることを余儀なくされたと感じたというネガティブな影響と、加害者がその行動を変えることにほとんど期待できない一方で母子がコンタクト命令に従うよう負担を強いられたことも強調した。

 

22.  多くの回答者は、虐待をした親と交流することによる長期にわたる子どもに対するネガティブな影響が、その親との継続的な関係の価値を著しく上回っていると感じていた。

 

進むべき道

23.  委員会が提出した勧告の全リストは報告書第11章において見ることができるが、次のとおり要約する。

 

24.  委員会は、この勧告により、裁判官、弁護士、Cafcass、Cafcassウエールズ、その他家庭裁判所の司法に関わる専門家が、私法上の子の手続において最善の可能性に取り組むことを可能にし、とりわけ、DAを経験した子どもと親に利益をもたらすことを望む。

 

25.  勧告は、法改正から研修の改善にまでに及ぶ。司法省は、家庭裁判所の司法システム全体にわたるパートナーとともに、その勧告を推進するとともに、これに併せて実施計画に定められた事項に取り組むものとする。これには、子の処遇のケースにおいて調査的アプローチを試験的に行い、地域と機関との連携の改善を図るとともに、子どもの声の傾聴を増進し、研修の充実を図るとともに、より一般的に、私法上の子の手続について新たに設計される原則の導入を含めることができる。

 

勧  告

1.   概要

·         委員会で得られたエビデンスは、文献的レビューを踏まえ、家庭裁判所が虐待その他重大な犯罪に対する一貫して実効的な対応を可能にする能力に関し、四つの障壁があることを示すものである。

·         裁判所のプロコンタクトカルチャー

·         当事者主義的構造

·         私法上の子の手続のあらゆる側面に影響を及ぼすリソースの制約

·         家庭裁判所がサイロで機能し、DAに対処する他の裁判所や団体との連携を欠くこと

 

2.   家事裁判制度の設計原則

·         私法上の子の手続についての基本的な制度設計の原則は、次のとおりであるべきである。

·         危害からの安全と保護のカルチャー

·         調査と問題解決のアプローチ

·         十分かつ生産的に利用されるリソース

·        異なるシステムの部分間でより有機的なアプローチを取ること。

·         手続は、子ども、訴訟当事者、DAその他の重大な安全上の懸念を中心的な考慮事項として、設計される必要がある。

 

3.   実務指示書(statement of practice)

·         実務指示書は、DAその他重大な犯罪に係る事件について、統一的かつ倫理的な方法を確保するために提案される。

·         委員会は、家事部長官(President of the Family Division)を招待し、実務指示書を促進し、それを子の処遇のプログラムに組み込ませる。

 

4.   親の関与の推定に関する検証

·         1989年児童法のセクション1(2A)における親の関与の推定の検証は、その有害な影響に対処するために緊急に行われる必要がある。

 

5.   子の処遇プログラムの改革

·         家庭裁判所は、私法上の子のケースにおいて、すなわち安全に焦点を当て、障害を認識し、問題解決のアプローチをとる、改革された子の処遇プログラムを試験的に実施し、実行すべきである。

·         子の処遇プログラムには、濫用的申立を識別し、サマリー・コンクルージョン(summary conclusion)に至るまで迅速に管理するための手続を組み込むべきである。

6.   子どもの声の強化

·         委員会は、子どもの意見聴取のための選択肢の範囲を、子の代理、代表、支援とともに、改革された子の処遇プログラムを策定し、試験的に実施する作業の一環として、より完全に探求することを勧告する。

 

7.   裁判所の安全及び保安

·         DAの被害者に対する刑事裁判における特別措置に関すDA法案(Domestic Abuse Bill)の規定は、家庭裁判所にまで拡張されるべきである。この法律は、DAに係るエビデンスがある事件又はDAを手続の対象とする家庭裁判所の手続において、直接的な反対尋問を禁止するように改正されるべきである。

·         家庭裁判所の手続に関与する成年者及び子を保護するための主要な権利体制は、事前訪問(familiarization visits)及び安全・保安の侵害に対する確実な対応を含むように、司法省 Code of Practice for Victims of Crimeをもとに、整備されるべきである。

·         申立禁止命令: DA法案には、第91条(14)の規定による命令にとって「例外的であること」の要件を取り消す措置が含まれるべきである。この措置は、1989年児童法第91条(14)の規定を修正し、改正し、又は補充するものとする。

·         委員会は、特別措置の規定及びDAの被害者に対する専門家の支援の確保について更に勧告する。

8.   連絡調整

·         全国及び地方のレベルにおいて、それぞれの地域にわたる連絡調整、継続性及び整合性のとれた機能を担う体制が整備されなければならない。委員会は、家事部長官の管理の下に、国の水準の機構が置かれるべきものと思料する。国家的メカニズムとプロセスを実行する地方レベルの処遇は、指定家庭裁判所裁判官(Designated Family JudgesDesignated Family Judges)に監督されるものとする。

·         当事者が法律上の援助を受けず、かつ、自らこれに充てることができない場合における警察開示の実施については、家庭裁判所及び政策担当者(policy representatives)とともに、緊急の配慮をなされなければならない。

 

9.   リソーシング(Resourcing)

·         委員会は、子の処遇プログラムの改定案と併せて、多くの分野への追加投資を勧告する。

·         私法上の子のケースに関して利用できる裁判所及び司法資源(これらのケースの審問をしその職務を効果的に行う人たちに対する行政上及び福祉上の支援を含む。)

·         CafcassとCafcassウエールズ

·         家庭裁判所の資源

·         法律扶助

·         専門的審査等に係る資金

·         イングランド及びウェールズのDA法加害者プログラム

·         監視付きコンタクトセンター

·         私法上の子の手続における親に対するDAに関する教育上及び治療上の規定

·         専門家によるDA及び児童虐待の支援事業

 

10.  DA加害者プログラムの見直し

·         DAPPsがDAの影響を受ける子どもと家族の被害軽減に効果的に重点を置いていることを確かなものとし、DAPPsが委員会により勧告された基本的な設計原則で支えられることを確実にするため、DAPPsの現行規定の検証を行う。

·         DAPPsは、イギリスとウェールズでより広く利用可能であるべきであり、私法上の子の手続において親に自己照会(self-referral)することを可能にすべきである。

 

11.  トレーニング

·         委員会は、家庭裁判所の司法制度のすべての参加者に対し、以下を含む幅広いトレーニングを勧告する。それには、私法上の子の手続に改革を導入し及び組み込み、一貫した実施を確保するのに役立つカルチャー変革プログラム、及び改革された子の処遇プログラムの効果的かつ一貫した実施に必要な知識の重要な分野のリストが含まれる。

·         委員会は、一貫したアプローチを確保するため、家庭裁判所の司法制度における全ての専門職と機関において多分野で実施されているトレーニングを考慮すべきことを勧告する。

 

12.  ソーシャルワーカーの認証評価

·         委員会は、ウェールズにおける私法上の子の手続でアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、Group 3 Violence Against Women, Domestic Abuse and Sexual Violence National Training Framework standardでDAについて研修を受けるべきであることを勧告する。

·         委員会は、イングランドにおける私法上の子の手続でアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、国家の正式認可を受けた子どもと家族に関わる実務家であるべきであることを勧告する。

·         委員会は、ウェールズにおける認可トレーニングの内容及びイングランドにおける認証評価は、必要な知識とスキルが十分評価されることを確保することを支援するため、DAの専門家によって検証されるべきことを勧告する。

 

13.  監視・監督

委員会は、以下のとおり勧告する。

 

·         DA、児童の性的虐待及びその他の保護措置に係る事件に関する行政情報の一貫した総合的な収集方法の整備及び実施私法上の子の手続において、DA及びその他重大な害悪を受けている子どもと被害者を保護するに際し、家庭裁判所の状況の監視を維持し、定期的に報告するため、Domestic Abuse Commissionerのオフィス内に、国家的な監視チームを設置する。

·         地方のラーニング・レビュー(learning reviews、イングランド)、子のプラクティス・レビュー(ウェールズ)及び家庭内での殺人に関するレビューにおいて、家庭裁判所が関与し、当該家族が私法上の子の手続において関与すること。

 

14.  更なる研究

法務省は、DA、児童の性的虐待又はその他の重大な犯罪の主張が提起された場合に、現行のCAP、PD12J及び第91条(14)の実施に関する独立した、体系的で遡及的な調査研究を委託すべきである。

「Child Safeguarding Practice Review」委員会は、ベースラインを提供するため今後12か月の間に、また、改革後2~3年のフォローアップを実施し実務状況を検討するため、私法上の子の手続におけるDAのケースの法定の国内慣行に基づく見直しを行うべきであり、また、「National Independent Safeguarding Board Wales」委員会は、ウェールズにおいて、同様の検証を行うべきである。

改革後の子の処遇プログラムの委員会の勧告を検証するために設立されたパイロット(pilot)は、裁判所記録の検討、命令、判断その他の定量的、定性的な調査方法の双方を用いて、確実に評価されなければならない。

上記で設立されるべきと勧告された国家的監視機関の付託権限は、改正後の私法上の子の問題の実施に関する将来のかつ継続的な研究の委託及び実施を含むべきである。

 

                                                                                                                                 【矢野謙次】

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第1章「共同代表によるイントロダクション」

 

2019年に、家庭裁判において、私法上の子の事件の新受件数が54,920件あった。これらの内で、子の処遇やコンタクト(面会交流)事件では、ドメスティック・アビューズ(domestic abuse、以下「DA」という。)の主張やその事実が認定されるものが、49%~62%の割合を占めており(注1)、総人口に占める割合と比較して、顕著に高率となっている。2019年の5月に、司法省は、家事司法制度(family justice system)全体から専門家を集めて委員会を組織し、DAその他の重大な犯罪を含む私法上の子の事件で、家庭裁判所がどのようにして子どもやその親の保護を行ったかについてのエビデンス収集を行うことを公表した。この事業の目的は、子どもをめぐる事件にかかわる者の経験を集積し、問題の全体像を把握し、状況を改善する上で有用な基礎資料をまとめる事にあった。

 

委員会を組織するにあたっては、家事事件に関して豊富な経験を有し、家事司法制度を支え、そこで働いている専門家から幅広く人材を集めた。法律実務家やソーシャルワーカー、裁判官、第三セクター、更に、子どもをめぐる裁判の当事者としての経験を有する人たちから情報提供を受け、より広範な人々の見解を集積することに努めた。この事業の開始時点では、短期集中で、家事司法制度に内在する重要課題の抽出を行う予定であった。しかしながら、非常に広範かつ深刻な問題ある情報が寄せられたことから、委員会がこの最終報告書を完成させるのに、予想以上に時間を要することとなってしまった。

委員会の構成員が幅広い領域の専門家であったことから、見解の対立が生じることも多くあり、これは、司法省の考え方と委員会の見解の間でも同様であった。この報告書やその提言には大方の賛同を得られたが、必ずしも司法省や政府の政策の指針が明示されているわけではない。この報告書では、政府がどのような改善策を構築すべきか、また危害を受ける恐れがある子どもやその親を守るために、家庭裁判所としてはどのような対応をすべきかが示されている。

 

私たちは、家事司法制度にかかわる人々が、子どもの性的搾取と虐待、強姦、殺人その他の暴力犯罪を含めて、これまでにどのような危害を経験してきたか、また、現に経験しているかについての広範なエビデンスを収集してきた。しかしながら、集まったエビデンスは、圧倒的にDAに関するものであり、したがって、本報告書の対象もこの点に焦点を当てるものとなっている。DAの被害者がどのようなことを経験しているかについて、私たちは本報告書により実質的な理解を深めることができる。貴重なエビデンスの提示をしてくれた皆さんと、その分析を担当してくれた委員会の皆さんに、この場を借りて感謝の意を表したい。

本報告書では、対象とする問題について詳細に分析を行っているが、提供されたエビデンスで全ての問題がカバーされているとまでは言えず、また、家事司法制度に関する問題を完全に代表しているとまでも言えないことは理解する必要がある。

私法上の子の手続で、DAが含まれる事例の多さを考えると、DAの影響を受ける当事者や子どもたちが、様々な異なる経験をしていることが想定できる。このような中で、私法上の子の手続に関して、多くの専門家や体験者等から提示されたエビデンスを基に委員会で検討し、制度に内在する問題についての適切な(十分説得力のある)見解を得ることができたと確信している。

家事司法制度において、裁判官、ソーシャルワーカー、法律家、裁判所の職員その他の専門家の人たちは、子の最善の利益を目指して、難しい問題を解決するため、日々懸命に努めており、これを実現するには、専門家の人たちに適切な情報提供を行い、これに基づいて対応してもらう以外には方法がない。私たちとしては、これら関係者の皆さんの不断の献身的な貢献に感謝するとともに、本報告書とそれを受けての政府の問題解決に向けた実施計画の策定が、関係者の皆さんが重要な役割を果たすうえで、大いに役立つことを願っている。

 

本件の調査および本報告書の完成に向けての、委員会の皆さん方による多大の労力と貢献に対して感謝の意を表したい。とりわけ、Rosemary Hunter、Liz TrinderおよびMandy Burtonさんについては、エビデンスを提出した人々や委員会を構成する皆さんの意見を集約し、本報告書の原稿作成をするうえで中心的な役割を献身的に果たされたことを記して、感謝の意を表したい。

エビデンスの提出の呼びかけに対して、応えてくれた団体や皆さん一人一人に心よりお礼を申し上げる。特に、DAの被害者である、千人を超える皆さんの体験を委員会に提供してくださった一人一人の方に対し感謝している。本報告書が公表されることにより、これらの人々の声が広く届けられ、必ずやこの声に答えた行動が起こされると私たちは確信している。

 

Melissa Case & Nicola Hewer,

家事および刑事司法政策局長,司法省

委員会共同委員長

 

【注】

(1)本報告書の参考文献一覧の「表4.1」を参照。

                                                                                                                                   【小川富之】

 

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第2章 委員会における作業の進め方について

 本報告書の作成に際して、「私法上の子の手続」とされる、離別後に生じる子の問題に関する父母間の争いにおける、DAを含めた深刻な犯罪の主張に対して、家庭裁判所がいかにして適切に問題を特定し、それに対応するかについて、必要とされるエビデンスの提示を求めることから開始した。委員会としては、そのような手続に巻き込まれている当事者や子どもたちにとって、訴訟手続および判断のいずれにとっても、より確固とした根拠となる証拠を構築

することを目指して取り組んだ。

 

この事業の重要性と緊急性から、委員会としては3か月以内にエビデンスの収集を終えたいと考えていた。しかしながら、実際には、非常に多くの回答が寄せられたことから、これらを徹底的に分析し検討するために、委員会ではさらに6か月の期間を要することとなった。

 

 

 

 

 

 

2.1 事業の目的

エビデンス収集のための質問事項:

・私法上の子の手続で、子どもや親がDAその他の被害を受ける危険性があるという主張に対して、家庭裁判所は適切に対応しているか?

 

エビデンス収集の具体的な目的は次のとおりである:

・親の関わり推定を排除する危害リスクがある場合に、実務指針の解釈を含めて、Practice Direction 12J,(注2)Part 3A FPR 2010,(注3)Practice Direction 3AAおよびsection 91(14) orders(注4)が、実際にどのように適用されているかまたその影響について理解する必要性。

・実務指針およびsection 91(14)の命令の適用に関する課題について理解する必要性。

・関連する規定の適用に一貫性があるかどうかについて。

・子どもや親に対して、強制力の行使や行動抑制、その他の危害を生じさせる危険性のある行為を含めて、何らかのDAの証拠が存在する場合に、加害行為をしている親との関係の継続、または、このような関係を継続するというコンタクト命令から、その被害を被っている子どもや親に生じる危害の危険性を理解する必要性。

・収集したエビデンスを分析し、取るべき対応について勧告を行う必要性。

 

2.2 エビデンス

委員会では、エビデンスの収集に関して、関連する事件に当事者として、また専門家としてかかわった経験を有する者からの意見聴取をするという点に重点を置いていた。個人や団体から幅広くエビデンスの収集を行うために、委員会は次のことを実行した。

・実務指針第12条J項(PD12J)および児童法第91条第14項に関連する判例の調査検討の実施。

・エビデンスとなる書面の提出の呼びかけ。および

・検討を行う円卓会議とフォーカスグループ(訳者注:フォーカス・グループとはグループ・インタビューを行うために集められた一定の条件を満たす人たちのことをいう)の設定。

 

委員会では、問題の背景や対応策に関する議論を踏まえて、エビデンス提出の呼びかけに対する回答について、広範な見地から分析を行った。

 

2.2.1 調査レビュー

委員会では、ブルネル大学のエイドリアン・バーネット博士に今回の調査レビューの責任者をお願いした。調査レビューでは、DAその他の重大な犯罪の私法上の子の事件に巻き込まれている子どもと親がどのようなリスクにさらされているかを調べ、家庭裁判所がそのリスクに対してどのように対応しているかを明らかにすること目指した。調査レビューでは、次の3つのテーマを扱っている。

・親の別居する前と後でのDAの経験。

・DAに関連して、家庭裁判所の審理過程と判断で当事者である子や親が経験したこと。

・私法上の子の事件におけるDAに関して、PD12Jをどのように適用し、コンタクト命令の履行を求め、虐待に関する事件(注5)を扱っているかといったことを含めてDAへの家庭裁判所の対応。

 

調査レビューでは、イギリスだけでなく他の地域も含めて、そこで公表されている報告書、モノグラフ、学術雑誌に掲載された論文等についても広範かつ詳細に検討した。PD12Jの2017年改正(注6)の施行に関しては詳しい検討は省略しているが、それ以外の点では、前述の3点について委員会で詳細に検討を進めた。その成果がこの報告書の内容である。

報告書では、特にPD12Jおよび児童法第91条第14項に関する判例に関して、詳細な分析を行っている。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)がPD12Jに関する判例を検討し、マンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)が第91条(14)に関する判例を検討し、これらについてロレーヌ・キャバナQC(Lorraine Cavanagh QC)による補足意見が述べられている。これらの判例レビューは、本報告書のAppendixに掲載した。

 

2.2.2 書面によるエビデンスの収集

書面によるエビデンスについて、関連する私法事件の経験を有する個人及び団体に対して、広範囲に呼びかけ、提供を求めた。エビデンス提供の案内は、期間6週間で、オンラインを通じて実施した(注7)。このアンケートは、専門家だけでなく一般の人にも答えてもらえるよう準備した。

 

アンケートは次の8項目で構成されている。

・私法上の子の手続一般

・私法上の子の手続においてDAを含む重大犯罪の主張を提起すること

・これらの手続における子どもの声

・DAの主張があがった事例の手続

・DAその他の重大な犯罪被害者の裁判所における安全と保護

・DAその他の深刻な犯罪に関連する家庭裁判所への反復申立て

・それらの手続に巻き込まれた子どもと被害親のその後の状況

・情報、経験、対応策等、エビデンスを提示してくれた皆さんが、伝えたい問題点

 

 アンケートでは、回答者の家庭裁判所での経験の期間について、2014年までの期間、2014年から2017年までの期間、または、2018年から2019年の期間の区分に分けて回答を求めた。このように区分した理由は、実務指針PD12Jの適用に合わせたもので、これが初めて導入されたのが2008年、2014年に改訂され、次の改定が2017年10月、FPRPart3AおよびPD3AAが導入されたのが、2017年の後半で、これに沿った期間区分を設けたわけである。

 

委員会に対して、イングランドおよびウェールズの全域から1226件のエビデンスが寄せられた。この内の、111件は無効なものであった(注8)。残りの、1115件の内、私法上の子の手続に関わった当事者の経験について個人から寄せられたものが最も多く(87%)で、主として母親やその家族からのものであった。10%が家庭裁判所にかかわる専門家・実務家の経験に関するものが個人から寄せられた(注9)。残りの3%(32件)が団体からのものであった(注10)。寄せられたエビデンスを分析した結果、団体から寄せられた回答は、その団体の会員や団体の提供するサービスの利用者から集められたものであるという事実がわかり、委員会ではこの点に注目をした。

 


 

寄せられた回答の大多数は、質問項目中の、DAの申立てに対して、家庭裁判所がどのような効果的な対応をしたかという問いに対するものであった。父親から寄せられた回答は、DAの申立てを受けた側の立場からのものであった。父親がDA被害者の場合はほんの僅かであった。寄せられた回答の多くは、DAの被害者である母親からのもので、親密な関係にある男性が加害者で、多くの女性が深刻な被害を長期にわたり受けているという実態に関してこれまでの調査結果や統計的資料と一致するものであった(注11)。法律実務家からは、DAの程度や期間の異なる様々な事例についての経験が寄せられたが、これらの多くは母親がかなり激しいDAを長期にわたり受けているというもので、ほぼ全ての事例に威圧的支配が含まれていた。

 

一部の母親や少数の父親が加害親による性的虐待を確認した際に、その子どもの保護を図る家庭裁判所の手続は、子どもや被害親が受けている他の危害に関連しているという経験についてエビデンスが提示された。委員会では、MosacやCARA等の、児童の性的虐待の問題を抱えている家族を支援する団体の専門家からもそのようなエビデンスの提出を得ている。これらに加えて、父親による子どもや母親に対する虐待行動の中の一つとして子どもに対する性的虐待の問題が生じているということが、多くの母親から提起されている。これらのことから、DA、児童虐待および児童の性的虐待といったものが、個別に独立した現象ではなくて、一連のものとして関連して生じていることが明らかとなった。

 

DAの形態には含まれないような、成人を被害者とする重大な犯罪に関してのエビデンスの提示はなかった。

 

エビデンスの提示を求める呼びかけは、私法上の子の手続一般を対象とするものであったが、寄せられた回答のほとんどが、子の処遇に関するもので、私法上の子の手続のそれ以外のものは皆無であった。

 

提出された回答は、すべての期間区分にわたっており、かなりの割合でそれぞれの期間についての回答を寄せていた。回答者は、自分たちの事例がどの期間に該当するかについて選択可能であったと思われ、提出された回答は複数の期間を跨いでいる可能性があった。しかしながら、多くの回答は家庭裁判所における最近の経験に関するもので、2018年~2019年または2014年~2019年がほとんどであった。

 

2.2.3 円卓会議(検討会)

 委員会では、家事事件、特にDAの問題に関する専門的知識や実戦的経験を持つ人々を対象として、次のとおり3度の円卓会議を開催した。

・円卓会議1:ロンドン:司法関係者

・円卓会議2:ロンドン:ソーシャル・ケア、DA支援機関、第三セクター、カフカス、リーガルセクター、その他の関連機関に従事する実務家をイングランドから幅広く参加を募った。

・円卓会議3:カーディフ(Cardiff,):ウエールズ(Wales)から、法律専門家、児童家庭裁判所諮問支援サービス(Cafcass, Cafcassウェールズ)、DAの支援機関および男性支援機関を含む、家事事件にかかわる実務家および専門家に幅広く参加を募った。

 

この円卓会議では、私法上の子の手続を改善する上で、問題の本質を把握し、解決すべき課題を抽出し、対応策を検討するために、様々な領域の人を集めて議論を進めた。この円卓会議は録画され、テーマごとに分析がなされた。

 

2.2.4 フォーカスグループ

委員会では、イングランドおよびウェールズの全土から、異なる集団から参加者を募り、10回のフォーカスグループでの議論を行った。

開催されたセッションは、次のとおりである。

 

・DAその他の深刻な犯罪の被害者として、私法上の子の事件に巻き込まれている母親グループ。このグループのセッションには特にBAME(Black, Asian and minority ethnic・黒人、アジア系および少数民族)の女性を含めている。

・DAの被害者またはその訴えの加害者とされている父親グループ。および

・それらの手続に関連する子どもたちのグループ。

 

対象とする問題の性質上、セッションの前後に、参加者に対して必要なサポートを提供できる家事司法に関係している第三セクターの支援を得ながら、この企画が進められた。支援団体には、ウィメンズエイド英国連盟、ウェールズウィメンズエイド、リスペクトRespect、the Family Justice Young Peoples’ Board(注12)および Southall Black Sistersが含まれていた。セッションには、委員会のメンバーが参加し、進行や必要な指示を行い、記録され録画も残された。これらの記録や録画はテーマごとに分析され検討が加えられた。

 

2.3 分析

全ての異なるグループから寄せられたエビデンスの約半数については、ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)によりテーマごとに分類された(注13)。残りのものは、委員会の他の委員に配分され分類が行われた。全体的な検討に際しては、委員会の委員が全ての提出されたエビデンスの確認を行った。

 

ハンター教授によるテーマ毎の分類や問題点のサマリーに関しては委員会で説明され、全員で検討を行った。そのあとで、それぞれの委員が一人一人提出されたエビデンスを比較検討し、円卓会議やフォーカスグループでの指摘等を踏まえて、必要に応じてテーマの追加を行った。提出されたエビデンスに記載されたものの内、問題の改善に向けた指摘や提言については、注意を引くようマーカを付けた。委員会では、主要なテーマや問題点の共通理解を図るよう、自由な討議を行った。

 

この分析で明らかになった重要なポイントは、提出されたエビデンスで示された経験が、母親と父親とで大きく異なっていたということである。母親から提出されたエビデンスでは、自分たちが受けている虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしいというものであった。回答を寄せた母親によると、裁判所の手続では前述の要求(虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしい)のいずれも実現できておらず、状況を悪化させていることが多いというものであった。これに対して、父親から提出されたエビデンスでは、コンタクト制限(禁止)命令および間接的コンタクト命令に関する経験の比率が高く、特に、第91条第14項(section 91(14))に関するものが非常に多かった。結論として、母親と父親とで、寄せられた回答に違いがあるということは、それぞれ家庭裁判所における経験が異なっておりそれが表れていることを示していると解される。

 

母親と父親で回答に違いがあるとはいえ、回答に大きな偏りがあるということや円卓会議やフォーカスグループに一定の傾向があることがあることが示されたわけである。

 

更に、寄せられた回答は、期間ごとに違いがあるというよりも、むしろ期間に関係なく一貫性のあるものであるといえる。また、イングランドとウェールズの間で問題点には特に大きな違いがないことも分析結果として明らかとなった。エビデンス提出の呼びかけに際し、回答者に対して地理的にどこで経験したかについて答えるよう求めていたわけではなかったが、回答の中には、自分たちの経験した場所に言及したものや場所が明らかに要因であることに触れたものもいくつか含まれていた。前述のとおり、イングランドとウエールズでそれぞれ、実務家やサバイバーによる円卓会議を開催した。イングランドやウェールズに関連していくつかの具体的な問題(例えば、DA加害者プログラムの提供の有無)を取り上げ、地域差があるものについては報告書でその旨指摘した。

 

2.4 報告書の作成及び改善策の提示

報告書の作成と改善策の提示は並行して進められた。

 

寄せられた回答と明らかとなった共通のテーマとの間に強い関連性があることを踏まえて、報告書では、それぞれのグループ毎でエビデンスを纏めるというよりもむしろ、章毎でエビデンスを整理するという方法を採用した。したがって、収集したエビデンスの全データから主要テーマを抽出し、この最終報告書の章立てとそこで扱う内容を決定した。

 

研究レビュー、エビデンス提出の呼びかけ、フォーカスグループおよび円卓会議でのテーマについては、そのテーマが全てカバーされるように振り分け、必要に応じて相互参照することで重複を避けるよう工夫した。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)、リズ・トリンダー教授(Professor Liz Trinder)、およびマンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)によって、まず各章の第1草稿が作成され、委員会で検討したうえで各委員からの意見聴取を経て原案が作られ、執筆担当者および委員会事務局により形式および用語統一の点から編集が行われた。各章につき草案の段階で、集積されたデータや、委員会の委員の高度の専門性に基づいた指摘や承認を基に委員会として必要な修正を行った。

 

2.5 エビデンスの信憑性とその限界

個人から提供された回答、円卓会議およびフォーカスグループでの議論ならびに国内外の調査結果を含めた、広範囲にわたるエビデンスに基づいて、結論をまとめることができた。委員会における分析、それに基づく本報告書の提言は、DAの事例および私法上の子の手続において生じるその他の危害リスクの事例に対して、家庭裁判所がどのように対処して問題解決を試みるべきかについて明確な指針を提供するものであると確信している。

 

 委員会で検討されたエビデンスが問題の全てを表しているわけではないということは認識しなければならない。個々人から回答を求めるという手法ではなく、裁判所の記録の公正、広範かつ詳細な分析を行う必要性があるという指摘もあり、今回委員会がエビデンスの提出を求めた手法に関して批判的な声がないわけではない。今回の委員会における検討については、時間的制約や、回答を寄せてくれた個々人の匿名性といったことから、提出された回答に関して、裁判所の記録、謄本、判決または命令といったものを確認することはできなかった。

 

委員会に寄せられたエビデンスは、実に内容豊富なものであった。これらの重要な内包を含んだエビデンスは、それぞれ個々人および団体の経験に基づくものであり、家事司法制度のあるべき姿を示す価値のデータであった。しかしながら、エビデンスで示された内容自体からは、回答提供者が経験したような問題が一般的なものなのか、また頻繁に生じるものなのかについては、必ずしも明らかとなるわけではない。

 

裁判所を利用する人々および専門家により提供されたエビデンスが、どの程度の一般性を示しているかについても、必ずしも明らかとは言えない。委員会の設定した質問内容に対しての回答は、個々人および団体から任意に寄せられたものである。したがって、そこには何らかのバイアスがかかっている可能性があることは排除できない。家庭裁判所の手続や結論におおむね満足している人々は、エビデンスを提供しようとするインセンティブがそれほど高くないと解される。その制度の中で働いている専門家からすると、制度の運営を守りたいというインセンティブが相対的に高いということも言える。

 

寄せられた回答の中の説明が正確で完全なものであるかどうかについての確認はできない。それぞれの事例でどのようなことが発生したかについての「客観的な」説明も難しい。エビデンスの内容は、あくまでも回答を寄せた個々人や団体の認識や見解を示したものである。委員会に寄せられた見解は、エビデンスを提出する人たちの問題に対する姿勢、文化的コンテキスト、帰属している集団の文化、法律手続におけるその人の役割および個々人のバイアスにより影響を受けるものである。リコール・バイアスの影響を受けることもあると思われる。委員会としては、提出された回答には希望的観測が含まれていることは当然のこととして、理解不足、勘違いおよび曲解といったものが含まれているであろうことについては、当然に認識をしたうえで検討が進められた。

 

これらの問題はあるにしても、委員会に寄せられたエビデンスから、DA事件および私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所がどのように対処すべきかについての問題点を体系的に明らかにすることができると考えられる。委員会としては、個別で特殊な問題としては片づけることができないものであると考えている。寄せられたエビデンスから、これらの問題が制度全体を通じた多くの事例にかかわるものであり、深刻な事態を生じさせる危険性を孕むものであるということがわかるが、このことから適切な対応をするにはどうすればいいかという点についても示唆を受けることができる。このような結論に達したことについては、多くの理由がある。

 

委員会では、まず専門家から大量の回答を得て、虐待の被害者である男性も女性も、みんな同様の問題点を指摘していることを確認した。提示された問題がどの程度の生じているかについての定量化は難しいが、少なくとも、問題が一回限りのものではないし、局所的なものではないということがわかる。

 

次に、委員会へのエビデンスの提供源が複数であるという点から、それぞれの提供源からの問題点やテーマについてクロス集計をすることが可能となった。個人から提出された回答の真偽や正確さについての評価は困難であるが、DAの被害者からの回答にはテーマや懸念という点において類似性が存在した。更に、被害者から寄せられた回答で示されたテーマや懸念は、専門家や団体から寄せられたものと比較して、完全ではないがほぼ一致をしていた。重要な点として、これらの問題点や懸念は、委員会で調査した数多くの学術研究団体の知見とも高い割合で一致する内容となっていた。

 

第3に、委員会では、個々人からの報告の信憑性について慎重に評価を進めた。提出された回答を検討したところ、一般的なテンプレートに従ったと思われる(型にはまった)ものは少数派で、個々人の実体験に基づいた信頼できる詳細な情報が提供されている思われるものが多数派だということが判明した。また、提出されたエビデンスの全てが信頼できるものであるとまでは言えないが、自分たちの経験について肯定的なものも否定的なものも、いずれにもかなり微妙なものが含まれていた。多くの異なる裁判所での経験についての報告から、裁判所の違い、また期間の違いによって、法律実務にも違いがあるということが感じ取られた。PD12Jが改正され、それが施行されたことによる変化はほとんど無く、問題は一貫して継続しているが、注目すべき点として、時間の経過とともに改善されたものもあれば、悪化したものもあることが明らかとなった。PD12Jが施行される前の時期に、自分が子どもとして経験したコンタクトについて回答したものもあったが、報告書の内容は、期間の違いの影響はほとんどなく一貫しており、子どもの経験には大きな変化が生じていないということには特に注目を要する。

 

更なる定量的分析の必要性は認識しないといけないが(詳しくは第11章を参照)、判例の分析、エビデンス提供の働きかけ、フォーカス・グループや円卓会議から得られたデータなどを含めた研究成果から、DAおよび私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所が現在どのような対応をしているか、その対応の長所や短所について理解を深めることができると確信している。

2.6 用語と表現についての注意事項

「母(mothers)」および「父(fathers)」という文言については、その集団から特に報告書の提出や懸念の提示があった場合を反映する際に使用している。母親および父親の双方から提示されたものについては、性的中立性を考慮して「親(parents)」という用語を使用した。なお、「母」という用語が用いられた場合には、例えば、母型の祖母といったような母型の家族も含まれている。「父」という用語についても同様である。

 

DAの「被害者(victims)」や「加害者(perpetrators)」または「虐待者(abuser)」という用語については、それが使われている文脈の中で理解する必要がある。これらの用語は、ジェンダーに関連性を持っていることもあれば、そうでない場合もある。これらの用語は、裁判所における手続のなかでは、それぞれ「被害者」「加害者」または「虐待者」であると主張されている人々を指して使われることもある。

 

「専門家(professionals)」からの回答といった場合には、広い意味で専門家から寄せられた多くのものといった意味で使っており、全てが特定の専門家や特定の専門家集団からのものというわけではない。特定の専門家から寄せられた回答を指す場合には、それぞれの専門家集団、例えば、「心理学者」「法律家」「DA関連で働いている人」といったような用語を用いている。「個人(Individual)」という用語は、匿名の人による回答の場合に使用している。「団体(Organisations)」という用語については、その団体に属するものが全員同意のうえで報告書に団体名を明記することを認めた場合に使用している。

 

「家庭裁判所(family court・family courts)」または「裁判所(the court)」という用語については、現在の家庭裁判所、控訴審の家事部、かつて私法上の子の事件を管轄していた家事事件裁判所(Family Proceedings Courts)および郡裁判所(County Courts)を含めて使用している。「Cafcass/ウェールズ」という用語はそれらの団体を意味している。このうちの一つを特定する必要がある場合には「Cafcass」と「Cafcassウェールズ」で使い分けている。

 

現行の私法上の子の事件という用語は、裁判所が子どもに親と「一緒に住む」ことまたは「一緒に過ごすこと」を命じる紛争のことを指している。提出された報告書に関して、委員会では、「居住」および「コンタクト」といった古くから使われている用語をそのまま使用している。というのは、これらの用語は法律家でない人たちにも馴染みのあるものであったからである。

 

寄せられた回答に関しては、内容に変更が生じないように注意して、誤記等がある場合には必要な範囲で修正を行った。寄せられた回答で長文に及ぶものについては、注記をしたうえで要約をして提供した。

 

本報告書で使用される略語については、末尾に略語一覧を提供している。

 

【注】

(2) These provisions are discussed in more detail in chapter 3. Practice Direction 12J sets out the procedure for courts dealing with child arrangements cases where domestic abuse is alleged. It also provides for special arrangements in such cases.

(3)Part 3A and Practice Direction 3AA set out procedure and directions for courts to identify vulnerable witnesses (including protected parties) and to consider special measures to assist them to participate effectively in family proceedings.

(4)Orders pursuant to section 91(14) Children Act 1989: ‘barring orders’ prevent a party from making further court applications without prior permission of the court.

(5)In relation to other serious offences, a search was conducted for literature on children conceived from

stranger or acquaintance rape, but the lack of any relevant literature relating to England and Wales meant

that this aspect was not pursued further.

(6)Since the completion of the literature review there have been two studies published: M Lefevre and J Damman, Practice Direction 12J: What is the Experience of Lawyers Working in Private Law Children Cases? (2020); IDAS, Domestic Abuse and the Family Courts: A Review of the Experience and Safeguarding of Survivors of Domestic Abuse and their Children in Respect of Family Court Proceedings(2020).

(7)The call for evidence was available online from 19th of July to the 26th of August 2019. Copies were also made available in English and Welsh and responses were also accepted via email or hard copy in the post.

(8)Unusable or not in scope being not private law children, not England or Wales, or no response to the

questions.

(9)For example, Magistrates and Legal Advisers, solicitors and barristers, Cafcass officers and social workers, domestic abuse and family support workers, health professionals (psychologists, therapists, health visitors, GPs) and others practising in the field (McKenzie Friends, academics, campaigners, mediators, MPs/Welsh AMs).

(10)For example, legal and domestic abuse sectors, fathers’ groups and children’s charities.

(11)See literature review section 4.2.

(12)The FJYPB is sponsored and its work is facilitated by Cafcass, but the Board itself is independent. Its remit covers both England and Wales.

(13)The sample consisted of 200 mothers’ submissions, all fathers’ submissions, all individual submissions from professionals/service providers and all organisational submissions. Thematic analysis involves closely examining qualitative data to identify common themes – topics, ideas and issues – that come up repeatedly. Each idea is given a shorthand label (aka codes) to describe its content. These codes are applied across all submissions consistently to identify similar content across multiple submissions. Similar codes are grouped together as themes. The process becomes iterative until all the common key topics, ideas and issues across all the data are coded and all the resulting themes identified. The analysis writeup will generally be structured by the final themes identified.)

 

                                                                                                                                    【小川富之】

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第3章 法的枠組

 

 

この章では、DAその他の重大な犯罪の申立てやその他の証拠がある場合の私法上の子の手続に関する法律について扱う。最も重要な国内法は、1989年児童法(以下「児童法」という。)である。私法上の子の手続に関する児童法の規定は、イングランドおよびウェールズのいずれにおいても適用される(注14)。家事事件手続規則(FPR)は、家庭裁判所および控訴審家事部における児童法その他の家事事件手続に関する一連の裁判所手続規則を提供している。家事事件手続規則は、裁判所において事件を扱う際に、必要に応じて審理の進行に関する実務指針(Practice Directions)によって補完されている。裁判所は先例拘束の原則に従い、また、その内容が国内法によって効力を付与されるのが一般であるが、国際法で定められた原則を遵守しなければならない。

 

3.1 キーポイント

3.1.1 私法上の子の手続

私法上の子の手続とは、ケアに関する手続のように地方自治体が関与する手続(公法手続)とは異なり、両親の間の争いといったような、対立する個人の間の問題を扱うものである。この手続は子の処遇に関する命令の申請に関するものがその大部分を占めている。命令としては、子どもの同居親、子どもと共に過ごすべき者その他の子どもとのコンタクト(訳者注:面会交流のほか、一方の親と一緒に時間を過ごすことを含む)といった問題に関して児童法第8条に基づく裁判所による命令等である(注15)。これらの命令は、以前は「コンタクト命令(contact orders)」および「レジデンス命令(residence orders)」と呼ばれていたものである。この子の処遇に関する命令という用語は2014年児童と家族に関する法(the Children and Families Act 2014)により導入されたものである。

 

3.1.2 福祉原則と福祉チェックリスト

子どもの福祉(child’s welfare)は、裁判所が子どもの成育(upbringing)について判断する際の最も重要な考慮事項とされている。これは「福祉原則」と呼ばれ、児童法第1条第1項に規定されている。児童法第8条に基づく9命令の決定、変更および廃止をする際に子の福祉について判断する場合、裁判所は関連するすべての状況、特に、児童法第12条第3項で制限列挙されている福祉チェックリストについて考慮することが求められている。福祉チェックリストに含まれているものは次のとおりである。

・確かめうる限りの子どもの意思と心情(年齢および発達の状況に応じて考慮)

・子の身体的、感情的および教育的ニーズ

・状況の変化が子に及ぼす影響

・子の年齢、性別、成育背景その他裁判所が関連すると考える特性

・子がこれまでに受けた危害またはこれから受ける恐れのある危害

・両親(その他裁判所が適切だと考える者)のいずれが、子のニーズに適しているか

・この手続における裁判所の裁量の範囲

 

危害に関しては、児童法第31条第9項で「自分以外の者が酷い扱いをされること(ill-treatment)を見たりまたは聞いたりすることで生じる気持ちの落ち込み(impairment)といったようなものも含めて、酷い扱いをされたり健康または発達に関する障害を生じさせたりすること。」と定義されている。この規定から、(身体的虐待に対して)非身体的な考慮事項に関しては「発達(development)」、「健康(health)」および「酷い扱い(ill-treatment)」という文言を当てているということが明らかである(注16)。児童法第1条第2項では、対応の遅れが子どもの福祉を損なう危険性を高めることになると規定されており、裁判所としてはこの点を考慮しなければならない。これに関連して、児童法第1条第5項にある「ノー・オーダー原則(命令しない原則)」についても注意が必要で、命令を出さないよりも命令を出すほうが子どもの利益となる場合に限って裁判所は命令を出さなければならないと規定されている。

 

3.1.3 親の関わりへの法律上の推定

子と親との間のコンタクトについては、常にこれを認めなければならないといった権利義務が存在するわけではない。(親の離別後に、親子間のコンタクトについて、これを常に認めなければならないというわけではないと解される。)しかしながら、児童法第1条第2項A号では、(親の離別後に)(別居)親が子の生活に関わることで子が危害を受けるまたは受ける危険性があることを示す証拠がない限り、親子のかかわりを継続することが子の福祉を促進するという推定規定があり、裁判所はこの推定に従うこととされる(注17)。「関わり」に関しては、児童法第1条第2項B号で「直接または間接の何らかの種類の関わりで、子と過ごす時間配分のことを指すわけではない。」と定義されている。この推定(親の関わりが子の福祉を促進する)については、児童法第8条の命令を出し、変更し、廃止することを検討する場合を含めて、所定の私法上の子の手続において適用される(注18)。この推定については、2014年に法律で明記される以前から、すでに判例法で確立されており、親と子とのコンタクトを禁止する説得力のある理由を裁判所に提示しない限り、原則として双方の親が子どもの生活に関わることが子の福祉を促進するものであると解されていた(注19)。

 

3.1.4 基本的人権と国際法

裁判所を含めて、全ての公的機関は、欧州人権条約(ECHR)で定められた権利を遵守する必要がある。また、1998年人権法(The Human Rights Act 1998)は、裁判所その他の公的機関に対してさらに具体的な義務を課し、人権侵害を受けた個々人に対する救済を明記することで、国内法において、条約上の権利をさらに強化した。私法上の子の手続に関しては、欧州人権条約の第8条で規定する家庭生活を尊重する権利が重要なかかわりを持っていた。「家庭生活」には、親子の関係が含まれており、DAの被害者である子どもや成人を深刻な危害から守る必要があり、そのために必要かつ適切である場合以外では親子のコンタクトを制限してはならないと解されていた。「市民的権利(civil rights)」について判断する場合には公正な審理を受ける権利が保護されなければならないと条約の第6条では規定されていた。この規定には、子の処遇その他の私法上の子の手続に関する紛争が含まれていた。更に、条約の第2条および第3条は、DAその他の重大な犯罪の申立てをする場合にも関連するものであった。条約の第2条は生きる権利(right to life)、第3条は拷問その他の非人道的または人の人格を傷つけるような扱いから解放される権利に関するものであった。個人がこれらの非常に深刻な危害を現に受けている、またはその危険にされされていることを認識した場合には、国家(裁判所を含めた)は、効果的な保護を提供する強い義務を負っているということが、欧州人権裁判所によって強調されていた(注20)。

 

英国は、国連の児童の権利に関する条約の締約国でもあり、裁判所および各政府は条約の規定を尊重しなければならない。児童の権利に関する条約は子どもの生活の全ての領域をカバーする54条の規定で構成されている。条約の第9条(親からの分離の禁止)では、子の最善の利益に反しない限り、親の離別後も、両親が子とのコンタクトを維持する権利が規定されている。第12条(意見表明の権利)では、児童の意見や希望は、児童に影響を及ぼすすべての事項について考慮される権利が規定されている。第19条(虐待・搾取からの保護)では、親の監護を受けている間、あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力、障害もしくは虐待、放置もしくは怠慢な取り扱い、不当な取り扱いまたは搾取(性的虐待を含む)から保護される権利が規定されている。これらの権利は、前述の福祉チェッリスト1989年児童法の親の関わりの推定規定といった形で、国内法に反映されている。ウェールズでは、2011年児童および青年の権利に関する措置(the Rights of Children and Young Persons (Wales) Measure 2011)という形で(教会)法により反映されている(注21)。

 

 2012年に、英国政府は、「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止に関する欧州評議会条約」(the Council of Europe Convention on preventing and combating violence against women and domestic violence (Istanbul Convention (IC)):以下「イスタンブール条約」という。)に署名し、このことから、特に、子どもとのコンタクトが「被害者または子どもの権利と安全」を損なうことの無いよう、適切な措置を講ずるということが求められることとなった(注22)。

 

3.1.5 実務指針(PD)12B-子の処遇に関するプログラム(CAP)

「子の処遇に関するプログラム(Child Arrangements Programme’ (CAP))」として知られている、実務指針12B(以下「PD12B」という。)は、家事事件手続規則第12章で主として扱う、子の処遇に関する事件に関して裁判所が従うべき手続規則を提供している。現行のCAPは2014年に改訂されたもので、当事者が子どもの問題を解決する際に、できれば裁判外で、子ども中心でその安全に配慮した合意形成を支援することを目指すものとなっている。CAPは子の処遇に関して、次の4段階で考えている。すなわち、「受付と事件の割り振り(家庭裁判所で事件をどの段階に配置するか)」「第1回紛争解決審理指定(First Hearing Dispute Resolution Appointment (FHDRA),)」「紛争解決指定(Dispute Resolution Appointment (DRA))」および「最終審理(Final Hearing)」の4段階である。これらの各段階において、裁判所は、その取り決めが安全かつ適切であると解される場合には、可能な限り当事者間の合意により紛争を解決することを推奨している。CAPは、子の処遇に関する命令の履行を求める申し立てについても、裁判所による対応の指針を提供している。すべての事例というわけではないが、第1回紛争解決指定(FHDRA)または紛争解決指定(DRA)の段階で問題は解決されており、最終審理(FH)まで行く事例はあまり多くはない。

3.1.6 DAと実務指針(PD)12J

実務指針12J(PD12J)(注23)は、2008年の導入で、DAが問題となっている場合の子の処遇に関する事件を、家庭裁判所や高等法院(High Court)がどのように扱うかを定めている。虐待が認められるもしくはその疑いがある場合、子どもまたは当事者の一方が他方のDAを受けたことがあると信ずべき理由がある場合、またはそのような虐待の恐れがある場合にPD12Jが適用される。

 

PD12Jの導入前は、「Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001]」事件の控訴院(Court of Appeal)判決で画期的な判断が示され、これがDAの問題を扱う際の指針となっていた(注24)。この判決により、「家庭内暴力(domestic violence)にさらされることでどんな問題が生じるかということに対する意識」を高め、それまで「裁判所がこのような申立てに対して積極的に対応しない傾向があったこと」を認識させ、父母間の虐待行為自体が「子の養育にとって重大な誤りであり、それは、子の世話をすべき者を守るという意味でも誤りで、そのことで子がどのような感情を抱くかという意味でも誤りである」ということの理解につながった(注25)。PD12Jは導入以来、DAが子どもや親に及ぼす影響についての新たな知見を反映するため2回改訂され、必要な規定が盛り込まれた。2014年に、それまで使われていた「家庭内暴力」の定義に修正を加えるために改訂され、PDの適用に関してより明確な指針を裁判所に示し、事実認定の審理をより明確にし、子の処遇に関する仮処分(暫定命令)に際してのより厳格な判断基準が示された。その後2017年にさらに改訂され、PD12Jが必須であることをより明確にした。具体的には、家庭内「暴力(violence)」という用語を(ドメスティック)「虐待(abuse)」に変更し、DAの範囲を広げ、文化的なものも含まれることになり、虐待されていない子や親の安全も重視し、親子のかかわりの継続が子の利益であるとする推定(日本における「原則面会交流論」)について、裁判所が個別の事件で慎重に検討する必要があることが求められた。

 

子の処遇に関するオーダーに関して、PD12Jは第3項(paragraph 3)で、DAを次のように定義している。

 

「性別やセクシュアリティに関係なく、16歳以上の家族もしくは親密な者の間で生じる、支配(controlling)、強制的(coercive)もしくは脅迫的(threatening)な態度、暴力または虐待の事実(インシデント)またはそのような傾向(patterns of incidents)の全てが含まれる。これには、心理的、身体的、性的、金銭的または感情的虐待が含まれるが、これらの事柄のみに限定されるわけではない。DAには、「婚姻を強制すること」「尊厳を損なうような暴力」「持参金に関連する暴力」「国際結婚の否定」といったような文化的な特定の形態の虐待も含まれるが、それらに限定されるわけではない。」

 

「威圧的態度(coercive behaviour)」に関しては、PD12Jで、「攻撃(assault)、脅威(threats)、屈辱(humiliation)および威嚇(intimidation)その他の虐待(abuse)行為またはその傾向(pattern of acts)で、その他の虐待としては、被害者に対する危害、処罰または恐怖させるようなことが含まれる。」と定義されている。「支配的態度(Controlling behaviour)」に関しては、「人を従属(subordinate)させるように仕向けたり、人を支援源(sources of support)から隔離することで依存するように仕向けたり、自分の利益のために人の資源と能力を利用したり、人が独立し、抵抗し、避難するうえで必要とされる手段を奪い、人の日常の行動を規制すること。」と定義されている。PD12Jが適用されると、子の処遇プログラム(CAP)で設定された手続が必要に応じて拡張されることになる。裁判所が、DAで係争中の申立てについて判断するために事実認定のための聴取(fact-finding hearing)が必要だと判断した場合には、これを、「第1回紛争解決審理指定(First Hearing Dispute Resolution Appointment (FHDRA),)」の後で、「紛争解決指定(Dispute Resolution Appointment (DRA))」の前に実施することになる。DAの事実があることが判明した場合には、裁判所は、虐待をしている加害親に対して、DA加害者プログラム(domestic abuse perpetrator programme (DAPP))に参加することを指示したり、専門家によるリスク・アセスメントを受けるよう指示をすることができる。PD12Jでは、暫定命令(interim orders)および終局命令(final orders)の判断をする場合の追加的考慮事項を明示している。これらについては、次で詳しく説明する。

 

3.1.7 その他の重大な犯罪

今回の委員会によるエビデンス提供の呼びかけは、(DAだけでなく)「その他の重大な犯罪」に関するものも対象としていた。「その他の重大な犯罪」は法律で定義されているわけではないが、委員会からの依頼文書の文言としては、子どもまたは/および親に危害を及ぼす可能性があるとする申立てまたはその他の証拠のある場合が対象とされていた。したがって、これに含まれるものとしては、親の一方によるDA、殺害行為もしくはその未遂、強姦もしくは性的暴行、または子どもや他方の親に危害を生じさせる可能性のあるその他の行為を、現に実行した場合または実行したと申し立てられている場合が挙げられる。このような行為の内で、DAではない形態のものはPD12Jの範囲外とされるが、児童法(the Children Act)、PD12B、人権法(the Human Rights Act)および児童の権利に関する条約で定める原則の対象範囲であると解される。私法上の子の手続の目的として、このような犯罪について重大な問題として考慮しなければならないとされる根拠は、児童法第1条で規定する子の福祉に対する考慮という点にある。特に、子どもがそのような犯罪で被害を受けていたり、または被害を受ける危険性がある場合には、児童法第1条第2項A号で規定する、親の関わりへの法律上の推定の適用を除外する必要性との関連で問題となる。

 

3.1.8 優先的事項

家事事件手続規則は、当事者の公平な立場を確保し、当事者の要求、性質および困難さという点で、裁判所の資源を適切に配分することも含めて、福祉の問題に関係する事件を公正に対処する上での優先的事項を提示している。裁判所は、家事事件手続規則により付与された権限の行使または規定の解釈に際して、優先的事項の実効性を高めるように努めなければならず、また、当事者としては裁判所がそれを実現できるよう支援することが求められている(注26)。

 

3.1.9 子の処遇に関する命令の申立て

児童法第10条は、子どもの母、父、後見人、親責任を有する者、その他必要な状況にある者は、裁判所による許可を要することなく、子の処遇に関する命令の申立てをすることができると規定している。これら以外の者、例えば、祖父母なども、この申立てをすることが認められるが、原則として裁判所の許可が必要とされる。この許可申請と子の処遇に関する命令の申立ては、実際には、同時に行われるのが通例である。

2014年児童および家族法(Children and Families Act 2014)第10条は、「関連する家事事件の申立て」を行う前に、メディエーションまたはその他の紛争解決方法の利用を検討するために、家族に関する「メディエーションに関する情報および評価会議(MIAM)(family Mediation Information and Assessment Meeting (MIAM))」に出席する必要があることを義務付けている。「関連する家事事件の申立て」に関しては、家事事件手続規則3.6および実務指針(PD)3Aで定義されており、それには、子の処遇に関する命令および私法上の子の手続に関する申立てが含まれている。この会議では、認定メディエーターによるメディエーションに関する情報提供が行われ、事件の解決にメディエーションが適しているかどうかが検討される。家事事件手続規則3.8では、家庭内暴力の証拠がある場合、または子どもが社会サービスケア保護計画(social services care protection plan)の対象またはその必要性のある場合には、事前の「メディエーションに関する情報および評価会議(MIAM)」の要件について除外されることが規定されている(注27)。

DAの証拠がある場合には、その被害者が家庭裁判所にアクセスする前にMIAMに出席することを強制されるべきではなく、MIAMへの出席を免除するとともに、裁判所の法律扶助を提供する必要があるということを、司法省としては確認している。DAが申し立てられたが、申請者がMIAMの免除を受けるために必要とされる十分な証拠を提示できないときには、DAの申し立てのある事例でメディエーションを開始または継続することが適切かどうかを特定するために、認定メディエーターが遵守しなければならない専門的な基準が定められている。このような状況において、MIAMを実施するメディエーターは、「メディエーションを進めることが必ずしも当該紛争解決の手段として適していない」という前提で、申立人をメディエーションの対象から除外することが認められている(FPR 3.8(2)(c))。メディエーションに臨む当事者たちの多くは、それまで自分がDAの被害者だということを公表していない場合が多く、更に、自分たちがその被害者だということすら認識していない場合もある。したがって、この問題に関する現代の政策と実践ガイドラインでは、専門家がDAの兆候を見逃すことの無いよう適切な教育と訓練を受け、DAに適切に対処し、DAを親の紛争と誤って判断することなく、弱い立場にある被害者の保護に最大限の努力をすることを明示している。子の処遇に関する命令の申立てをする際には、申請者がC100裁判所のフォーム(C100 court form)に必要事項を記入し、これを裁判所に提出しなければならない。オンラインによる申立ての場合には、C100およびMIAMの認定または免除フォーム一式にされている。追加情報を記載するものとして、フォームC1A(form C1A)があり、これには、申立人が、DAに関して簡単な説明を記載するようになっている。子の処遇に関する命令申立が受理されると、裁判所は、C100およびC1Aの写しを相手方である親に対して送付する。相手方である親が希望する場合には、自分のC1Aフォームの記載をして、裁判所に提出することができる。

 

3.1.10 法律扶助

紛争当事者は、必要に応じて、ソリシターやバリスターからの法律的なアドバイスまたは法廷への出頭といった費用その他の支出を賄うために、法律扶助を求めることができる。法律扶助に関しては、2013年から、「2012年法律扶助および犯罪者に関する判決ならびに処罰に関する法律(the Legal Aid, Sentencing and Punishment of Offenders Act 2012 (LASPO))」の管轄に服している。法律扶助の決定は、法律扶助機関(the Legal Aid Agency)によって行われている。LASPOの規定では、当事者がDAの被害者である場合もしくは子どもを児童虐待から保護することを求めている場合、または子どもが手続上当事者とされた場合を除き(この場合、子ども自身は援助対象とされるが、それ以外の者については、その者自信が対象となる資格を有しない限り援助を受けることはできない。)、私法上の子の手続では、利用ができないとされている。DAまたは児童虐待に関する私法上の子の手続において、法律扶助を受けるためには、申請者としては、まず、「2012年民事法律扶助(法律扶助)(手続)規則(the Civil Legal Aid (Procedure) Regulations 2012)」の規定に従って、虐待の事実またはその危険性があることを示す証拠の提示が求められる。この2012年規則の証拠要件はこれまでに何度も改訂され、直近のものとしては2018年1月に、DAの範囲が広げられ、証拠提示の時間的制約も緩和されたことにより、DAの被害者やその危険性のある者が法律扶助の要件を満たすことが容易になった。この改定がどの程度影響したかについては明らかではないが、改定が行われてから、法律扶助の申請および承認の数は増加してきている(注28)。証拠として提出され受理されたものとしては、DAまたは児童虐待といった犯罪での有罪判決、警告の発令もしくは審理の継続、保護のための差し止め命令、または法律扶助の申請者の求めに応じて作成されたDAを扱う適切な専門家により作成された文書といったものが含まれている。法律扶助の申請に必要とされるすべての要件とともに、申請者は資力要件および必要性要件(ミーンズ・テスト:means and merits tests)を満たす必要がある。申請者は、「2019年民事法律扶助(サービス財源および支出)規則(the Civil Legal Aid (Financial Resources and Payment for Services) Regulations 2013)」で定める、所定の財政的基準に適合することが求められる。2019年2月に公表されたリーガル・サポートに関する行動計画によると、司法省はこの資力要件について見直しをするとされている。この見直しに関連して、DAの被害者に対して資力要件がどのように適用されるかについての、具体的検討が行われる予定である。また、申請者に対して提供される法律扶助の形態(例えば、代理人)が、法律扶助として保証すべきものとして適切なものであることを示さなければならない。提供される法律扶助の形態に応じて、必要性要件も異なり、これらについては、「2013年民事法律扶助(必要性基準)に関する規則(the Civil Legal Aid (Merits Criteria) Regulations 2013)」で規定されている。もし法律扶助を受ける資格が認められなければ、当事者は法的代理人を付けることができず、自分自身が裁判所に出頭することになり、「本人訴訟(LIP)」として対応することになる。

 

3.1.11 裁判所における支援

裁判所は、家事事件の手続において、弱い立場に置かれている者(当事者および証人)を支援するために「関与指令」として知られている所定の調整権限を行使することができる。例えば、証拠を提示する際に、衝立を立てて本人が見えないようにしたり、ビデオカメラを使って遠隔による方法をとることもあり、控室が別々になるように手配したり、裁判所の建物への出入りに配慮して、当事者が顔を合わさなくても済むような調整が行われる。弱い立場に置かれている者に対してこのような支援を行う規定およびガイドラインが導入されたのは、2017年後半のことで、家事事件手続規則の第3条A項(Part 3A of the FPR)に規定され、それを受けてプラクティス・ディレクション3AA(Practice Direction 3AA (PD3AA))で細則を定めている。当事者の裁判手続への参加や提示された証拠の信ぴょう性が、立場が弱いことにより損なわれ、抑制的になることの無いよう、裁判所は慎重に対応し、その恐れがある場合には、必要とされる支援や配慮をすることが求められている(注29)。裁判所は、例えば2005年精神保健法(Mental Health Act 2005)で規定する能力を欠く個人といったような「保護の必要な者(protected parties)」に対して、必要な支援や配慮を提供することが求められている。更に、PD3AAでは、可能な限り早期に立場の弱さを裁定し、当事者や証人が、弱い立場にあることから受ける恐怖感や苦痛を感じることなく訴訟手続に参加できるように、当事者と協力して裁判所が対応しなければならないことが明記されている(注30)。家事時事件手続規則第3条A項3号(Rule 3A.3)では、弱い立場に置かれているかどうかについての判断について、「脅迫の事実またはその認識(actual or perceived intimidation)から生じる影響についての考慮といったことを含めた、裁判所が確認すべきリストが明記されている(注31)。虐待の意味についてはPD3AAに詳細に記載されており、DA(PD12Jで定義されている。)その他の形態の虐待、例えば性的虐待、人身売買および何らかの差別に基づく虐待とったような者が含まれる(注32)。しかしながら、このような特別措置を講ずる上で必要とされる公的資金の利用について、裁判所に権限を付与することについては、何ら規定されていない(注33)。訴訟を提起しようとする者に対しては、「マッケンジー・フレンド(McKenzie Friend)」と呼ばれる、一般人からの必要な援助を受ける権利が認められている。2010年に、高等法院の家事部長と記録長官(the Master of the Rolls)は、マッケンジー・フレンドに関して、提供できる支援の範囲といったことも含めて、裁判所および訴訟を提起しようとする者に対しての注意事項として、プラクティス・ガイダンス(Practice Guidance)を発出した(注34)。

 

 

3.1.12 反対尋問(Cross-examination)

当事者の内のいずれか一方が、裁判に際して代理人の弁護士選任をしていない場合には、私法上の子の手続において相手方に対する反対尋問をすることが求められている。PD3AAでは、弱い立場にある当事者または証人の反対尋問に関して関与指令を考慮することを裁判所に義務付けており、これには、加害者または加害者である疑いのある者によるものではなく、裁判官による尋問も含まれている。PD12Jでは、必要かつ適切であると判断される場合には、裁判官が当事者に代わって証人尋問をする準備をするよう規定しており、裁判所は強制的事実調査(inquisitorial approach)を行うことになる(注35)。現在、DA法案が議会に提出されており、これによると、当事者の一方が、他方当事者または証人に対して、所定の犯罪により有罪判決を受けていたり、起訴されていたりする場合(またはその逆の場合)、当事者間に保護命令の仮処分が出されている場合、または規定で認められたDAの証拠が提示されている場合には、当事者間での反対尋問を禁止する規定が含まれている。規定では、証人による証言の信憑性が損なわれ、証人に深刻な苦痛を生じさせる恐れがある場合には、裁判の公正に反しない限りにおいて、当事者間での直接の反対尋問を禁じる指示をする裁量権を裁判所に付与している。更に、当事者の利益を守る観点から、必要な場合に、証人に対する反対尋問を担当する、公費負担での公認の代理人の選任権を裁判所に付与することも規定されている。

 

3.2 DAその他の重大な犯罪が主張されている場合の子の処遇に関する

命令の申立ての審理

3.2.1 紛争中の申立て(disputed allegations)

DAその他の犯罪により、子や親に危害が生じる恐れがあるということが係争中の事件で主張されている場合、裁判所は、主張されているような行動を確認する事実調査の審理が必要であるかについて判断することが求められている。PD121Jでは、子の処遇に関する命令またはコンタクトから生じる危害の評価について判断する場合、裁判所は係争中に主張されたDAに関して、事実調査の審理に必要性をできるだけ早期に判断すべきであると規定している。

実務指針PDでは、裁判所がこの問題について判断する際の考慮事項を明記している(注36)。裁判所が手続を進めるべき事実が証拠として(例えば、法律扶助を受けるための資格やそのために必要とされる証拠)、提示されているかといったことが考慮事項として挙げられている。すなわち、その主張の根拠となる証拠で、その主張の証明が、裁判所の事件解決に関連するもので、当事者やCafcass/ Cafcassウェールズの見解を含めて、当該事件の全体から考えて、(事実調査の)審理が必要かつ適切であるかといったことを考慮することになる。

他の重大な犯罪に関しては特に明文の規定はないが、子の処遇に関するプログラム(CAP)では、審理の必要性があると認められる場合には、裁判所は、PD12Jの規定に準じて事実認定のための聴取の実施を命じることができるとされている(注37)。

 

3.2.2 暫定的コンタクトの命令

裁判所は、重要な事実が立証される前の段階においても、子の処遇に関する命令についての判断をする場合がある。これは「暫定的命令(interim order)」と呼ばれるものである。PD12Jでは、暫定的命令に関しても規定されており、それが子の利益であることが明らかであり、その命令により子または親が「取り返しのつかないような危害にさらされる恐れ」(DAが子の精神上の健全な発達、他方の親の安全および支配的または威圧的態度も含めてDAから保護する必要性等に重要なかかわりがある場合)がない場合に限り、裁判所が子の処遇に関する命令について判断することができると明記されている(注38)。裁判所は、この評価に関して、感情的な危害からの保護を含めて、子や親の安全に関するあらゆる側面についての検討、および求められているコンタクトの実施方法、例えば、付き添い型または監視付きといった支援付きのコンタクトの必要性および間接的なコンタクトの必要性といったことについて考慮することが求められている。「コンタクト実施の原則(原則面会交流実施論)」といった考え方は採用されておらず、手続を通じて、(子の)福祉(優先)(が確保されなければ)と「ノー・オーダー原則」がとられている。

 

3.2.3 Cafcass および Cafcassウェールズ

児童家庭裁判所諮問支援サービス(Cafcass)は、2000年刑事司法裁判所法(the Criminal Justice and Court Services Act 2000)の成立を受けて、2001年に創設された公的機関である。ウェールズにおいては、2005年にこの役割を担う機関が、Cafcass ウェールズとして創設されている(注39)。Cafcassの機能及び権限については、家庭裁判所の手続に関して、子の福祉を守りその促進を図ることを含めて、刑事司法裁判所法で定められており、事件の申立てに関して裁判所に助言を行い、子どもの(手続上の)代理人選任についての対応を行い、事件にかかわる子ども、およびその家族に対して情報、助言その他の支援を行うことが規定されている。CafcassおよびCafcassウェールズの重要な役割として、手続を進める中で、必要に応じて子の意見や希望について聴取するということが挙げられる。刑事司法裁判所法の規定に加えて、児童法、家事事件手続法および実務指針により、Cafcassおよびand Cafcassウェールズには、いくつか特別な役割が定められている。子の処遇に関する命令の申立てがなされた場合に、Cafcassおよび Cafcassウェールズは、子に生じる危害を特定する上で必要な安全の確認または確認事項について、裁判所に勧告を行う役割を担っている(注40)。これら全ての事件手続に関して、子の親のいずれかが、関連する刑事事件での犯罪歴があるかどうか、また、子および家族が地方自治体の児童サービスまたは児童福祉との関連で注意すべき問題を有しているかどう等の問題が対象に含まれている。CafcassおよびCafcassウェールズは、また、父母(その他の当事者)に対して、個別に電話で連絡を取り、申立てまたは警察もしくは地方自治体の確認だけでは必ずしも明らかにならないような点についても、安全の観点から聴取し確認する。CafcassおよびCafcassウェールズにより実施された、これらの調査結果は、安全保護報告書または書証という形で、第1回紛争解決審理指定(FHDRA)前に、裁判所に対して提出される。この報告書および書証の写しは、当事者に事前に送付すると子や当事者を危険にさらす恐れがあるとCafcassおよびCafcassウェールズが裁判所に助言した場合には、第1回紛争解決審理指定において審理されることになるが、危険性がないと判断された場合には、事前に当事者に送付されることになる(注41)。PD12Jでは、これら安全保護に関する情報がない限り原則としてコンタクト命令を下すことができないと規定されている(注42)。安全保護に関する報告書または書証には、事件手続の進め方および事実調査についての審理の必要性といったことについて、裁判所に対する勧告が記載されることが通例である。更に、CafcassおよびCafcassウェールズの担当者が、第1回紛争解決審理指定(日)に、出廷し、紛争となっている問題点を明らかにするために、審理前または審理中に、個別または同席で当事者と面談することが行われることも多い。

 

3.2.4 (子の)福祉に関する報告書(Welfare reports)

児童法第7条では、私法上の子の手続に関する子の福祉に関して、CafcassまたはCafcassウェールズの担当者に報告書を作成して裁判所に提示するよう命じる権限が裁判所に付与されていると規定されている。家事事件手続規則および実務指針PDでは、この問題に関する裁判所ならびにCafcassおよびCafcassウェールズの役割、例えば、裁判所が子の福祉に関する報告書の必要について考慮すること、安全保護の問題が指摘された場合にCafcassおよびCafcassウェールズが行うべき手順といったような、さらに詳しい内容が規定されている(注43)。PD12Jでは、DAに起因して子に対して何らかの危害が生じる恐れがあるという問題が提示されている場合には、子の利益の観点から調査報告の必要性が全くないということが明らかな場合を除いて、裁判所としては全ての事件において、この報告書作成を命じることを検討しなければならないと規定している。原則として事実調査についての審理が行われた後で、この第7条報告書の作成が求められることになっており、報告には、子や被害親に対する将来的な危害の評価を含めて、裁判所が対処すべき必要があると思われる全ての事項を明確に提示することが求められている(注44)。当該事件の家族が既に子の問題に関する社会福祉(児童相談所等)の介入を得ている場合には、Cafcassに代わって、第7条報告書の作成が地方自治体のソーシャルワーカーによって行われる場合もある。事件の手続を進めている際に、子の福祉にかかわる懸念が生じた場合には、裁判所は児童法第37条の規定に基づいて、地方自治体に対してさらなる措置を講じる必要があるかどうかについて検討するよう命じることができる。

 

3.2.5 子の代理人(Separate representation of the child)

当事者の主張する内容の深刻さや、事件の複雑さといったことを考慮して、裁判所は申立ての対象となる子が手続の当事者となり、親とは別の代理人を選任する必要があるかについて検討することが求められている(注45)。子が当事者として裁判に参加する場合には、メリット・ミーンズテスト(merits and means test)の基準に照らして、法律扶助を受けることが認められる。裁判所は、家事事件手続規則第16条第4項(Rule 16.4 of the FPR)の規定に従い、子の後見人の任命の必要性について、慎重に検討することが求められている。子の後見人の権限および義務については、実務指針PD第16条A項(子の代理人)で規定されている。

 

3.2.6 終局命令(Final orders)

DAが生じていることが明らかとなった場合、子に生じる危害の可能性を払拭し、子の最善の利益を実現できる、子の処遇に関する命令の終局的判断を行うことが求められている(注46)。この場合、裁判所としては、特に、DAの事実と専門家から寄せられたリスク評価報告とを参照して、(子の)福祉チェックリストの各要件について検討をしなければならない(注47)。更に、重要な点として、子および子の同居親が受けてきた危害、子の処遇に関する命令が出された場合に危害が生じる可能性につき検討することが求められている。裁判所は、父母間の行為および子に対する行為、ならびにその影響についても考慮する必要がある(注48)。PD12Jでは、子に対する危害だけでなく、子の同居親に対する危害についても考慮しなければならないことが明記されており、更に子の処遇に関する命令が出された場合に、これらの者が受ける可能性のある危害の可能性についても、その対象とされている。裁判所としては、「子および子の同居親の身体的および精神的安全について、コンタクトの前、途中および後の全てを通じた安全ならびに子の同居親が将来的にDAを受けることがないことを可能な限り確保できる」ことを確信出来る場合に限り、コンタクトの命令を出すことができる(注49)。PD12Jでは、DAの問題に関して明らかとなった事実がどの程度、裁判所の子の処遇に関する判断に影響を与えたかについて、明示することを求めている。特に、DAの加害者と子とのコンタクトについて判断する場合には、その判断が子にとって有益であり、子を危険にさらすことを避けるためであるということの説明を裁判所に義務付けている(注50)。

 

3.2.7虐待的な申立て(Abusive applications)

DAの事実が主張されている事件で、裁判所が子の処遇に関する命令について審理する場合、PD12Jでは、申立てをしている一方の親が、子の最善の利益の観点に立っているのか、または、他方の親に対してDAの存在を利用しているのかという点について、裁判所が検討しなければならないと明記している(注51)。裁判所は、児童法第91条第14項(section 91(14) of the Children Act)に基づき、裁判所が必要と判断する場合には、裁判所の許可なく、重ねての申立てを妨げる権限について規定している。これは「申立て禁止命令(barring orders)」と呼ばれ、裁判所が児童法に基づく命令の申立てに対する処分を行う際に利用できる。子どもの成育に関するすべての申立てと同様に、本条に関する命令について判断する際には、裁判所は子の福祉について最善の考慮を払うことが求められている。この問題に関して先例となる、Court of Appeal case of Re P (A Child) [1999]事件の控訴審判決(注52)では、児童法第91条第14項に関するガイドラインとして、このような命令を下すことは「裁判を受ける権利の侵害(intrusion into the unrestricted right of the party to bring proceedings)」に該当し、不合理な申立てが繰り返された場合にそれを防ぐための最後の手段であり、その権限を行使するのはあくまでも例外的な場合に限られることを判示している。児童法第91条第14項の命令が出されている場合に、申立ての許可申請がなされた場合、裁判所としてはそれが「議論の余地のあるケース(arguable case)」かどうかが問題となる。命令が出された状況に実質的に大きな変化がない場合には、申立て許可の申請が認められる可能性は少ないと解される(注53)。

 

【注】

(14)Since 2014, Part III of the Children Act 1989 does not apply in Wales and has been replaced by the Social Services and Well-being (Wales) Act 2014. However, these provisions relate to Local Authorities’duties towards children in need and children at risk of harm rather than to private law children’s cases.

(15)Note other private law children proceedings (FPR 12.2), include other section 8 orders (prohibited steps and specific issue orders).

(16)Private law children proceedings may concern harm and risks of harm to children arising from various forms of parental behaviour. The call for evidence and this report focus on harm and risks of harm arising from domestic abuse and other serious offences by a parent against a child or the other parent, although these may appear alongside and be compounded by other risks and allegations of harm.

(17)Children Act 1989, s1(2A); s1(6).

(18)Children Act 1989, s1(4)(a); s1(7).

(19)See, for example Re C (A Child) [2011] EWCA Civ 521; and Re W (Children) [2012] EWCA Civ 999.

(20)See Opuz v Turkey (app no 3340/02, 9/6/09) – a case concerning the failure of criminal courts to protect victims of domestic abuse from breach of their Article 2 and Article 3 rights. See also Bevacqua and S v Bulgaria (app no 71127/01, 12/6/08), which found that a family court had breached the Article 8 rights of a child and mother who had been victims of the father’s domestic abuse.

(21)1 See https://gov.wales/childrens-rights-in-wales)

(22)Istanbul Convention, Article 31(2).

(23)The revised Practice Direction 12J – Child Arrangements and Contact Orders: Domestic Abuse and Harm is available here: 

https://www.justice.gov.uk/courts/procedurerules/family/practice_directions/pd_part_12j

(24)Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001] Fam 260.

(25)Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001] Fam 260.

(26)FPR 1.1; 1.2; 1.3.

(27)FPR 3.8 refers the court to PD3A which details the evidence required to demonstrate an exemption. FPR 3.8 and PD3A refer to ‘domestic violence’ rather than ‘domestic abuse’.

(28)8 https://www.gov.uk/government/statistics/legal-aid-statistics-quarterly-october-to-december-2019

(29)FPR 3A.4 and 3A.5.

(30)PD3AA, paragraphs 1.3 and 1.4.

(31)The list of matters is set out at FPR 3A.7, paragraphs (a) to (j) and (m).

(32)PD3AA, paragraph 2.1.

(33)FPR3A.8(4).

(34)Practice Guidance: McKenzie Friends (Civil and Family Courts) is available here: https://www.judiciary.uk/wp-content/uploads/JCO/Documents/Guidance/mckenzie-friends-practiceguidance-july 2010.pdf

(35)This provision has been elaborated in case law – see the review of case law on PD12J, section 5.3.

(36)PD12J, paras 17 and 18.

(37)PD12B, para 20.1.

(38)PD12J, paras 25, 26, 27.

(39)See the Children Act 2004, Part 4 and para 13 of Schedule 3 to that Act.

(40)PD12B para 13.1-13.7.

(41)PD12B, para 14.13(a)

(42)PD12J, para 12.

(43)FPR 12.6; PD12B, paras 13.1 and 14.13.

(44)PD12J, para 21, 22, 23.

(45)PD12J, para 24.

(46)PD12J, para 35.

(47)The Children Act, s16A sets out that a risk assessment must be carried out and provided to the court where an officer has cause to suspect that the child concerned is at risk of harm.

(48)PD12J, para 36.

(49)PD12J, para 36.

(50)PD12J, para 40.

(51)PD12J, para 37(c).

(52)Re P (A Child) [1999] EWCA Civ 1323.

(53)See further the case law review on section 91(14) ‘barring orders’.)

 

                                                                                                                                【小川富之】

 

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