UK司法省報告

第6章 子どもの声

 

6.1 はじめに

 

調査と回答の両方から得られたエビデンスが示す重要な点は、あまりにも多くの場合、裁判手続(court process)において子どもの声が聞かれなかったり、様々な方法でミュートされたりしていることである。委員会はDAを経験したかなりの数の子どもが、裁判手続中に彼らの意見や経験について相談されていないことを発見した。多くの回答は、相談が行われたとしても、相談は短く、子どもたちがコンタクトしたいという時にだけ「聞かれる」という。また、命令が下された後、その監護の取決めが子どもたちにどう作用しているかについて、子どもたちが聞かれることはほとんどないことも明らかになった。

 

ほとんどのグループ、特に法律とソーシャルワーク/DAの専門家たち、子ども/若者と母親たちは、子どもの声が聞かれ、裁判の決定に組み込まれるかについて懸念を挙げた。これらの懸念は、先行研究から得られた知見と一致している(注84)。

これとは対照的に、父親のグループやセラピストから提出された意見の中には、子どもの声があまりにも注目されすぎていることを示唆するものもあり、子どもは暗示にかかりやすく、子どもの意思や心情を引き出すプロセスでは、子どもが直接家族の対立の中心に置かれることになると主張している。Families Need Fathersは、例えば次のような見解を示した。

 

「家族分離の専門家は、家族の対立の中に子どもを置かないように親に促していますが、同じ専門家が、子どもに誰と一緒に暮らしたいかを尋ねたり、子どもに過度に力を与えることで、まさにそのようなことをしていることがあまりにも多いのは皮肉なことです。」   Families Need Fathers

 

6.2 なぜ子どもの声が重要か?

国連児童の権利条約(UNCRC)1989年第12条は、子どもに影響を与える法的手続において、子どもの意見を述べ、それを考慮に入れてもらう権利を明記している。1989年児童法第1条(3)は、子どもの事件において裁判所が、「関連する子どもの確認可能な希望や心情を(年齢と理解度に考慮しつつ)」考慮することを求めている。イングランドおよびウェールズの判例法では、若者や子どもが訴訟に直接参加することが長らく強調されてきた(注85) 。さらに、PD12Bの第18項、PD12Jの第24項および第10項は、裁判所が子どもが独立に代理されるべきか、ヒアリングに参加する子どもを保護する必要がある場合には、特別な措置を講じるべきであることを繰り返し述べている。ウェールズ政府は、子どもたちに影響を与えるプロセスにおいて、子どもたちの声が確実に聞かれるようにするために、7つの「子どもと若者の参加全国基準(Children and Young People’s National Participation Standards)」を支持している。

 

委員会への回答は、なぜ子どもの直接参加が、正しい決定が下され、子どもの福祉が増進されるために不可欠であるかについて、強力な議論を展開している。これらの回答はまた、親やケアラー(世話する人)が必ずしも子どもの利益を適切に代表するとは限らないという見方も表明している。例えば、NagalroとNSPCCは、子どもの経験、ニーズ、関心は必ずしも親のものと一致しないため、個別に意見を聞く必要があると指摘している。

 

子どもの頃に訴訟を経験した成人や家事司法青少年委員会(Family Justice  Young People’s Board; FJYPB)(訳者注:イングランドに住む8~25歳の40人以上の青少年で、家事司法制度の直接の経験があるか、子どもの権利と家事裁判に関心がある者で構成され、国の家事司法委員会の一部門をなす)のフォーカスグループからの個々の回答には、たとえ訴訟の結果がその通りならなくても子どもが自分たちの意思を聞いてほしいと思っていることが示されている。このことは子どもや若者が、最終的な決定権者になる必要はないが、プロセスの一部となり自分たちの意見を真剣に受け止めてもらいたいと思っているという研究結果と一致している(注86) 。このことはDAの事件ではとりわけ重要であろう(注87)。

 

重要なことは、子どもたちと直接関わることで、個々の子どもたちが何を望んでいるかをより正確に知ることができるということである。研究によると、子どもはDAの事件で、父親への見かたや父親と時間を過ごすことについて様々な心情や考えを持っていることがわかっている(注88)。文献によれば、父親との関係を望んでいる子どもであっても、ほぼすべての子どもにとって優先されるのは、自分自身、母親、そして家族の安全である(注89)。2012年の研究で、彼らの父親の態度が真に変化したと報告しインタビューを受けたことどもたちは、父親と会うことについてとても肯定的に感じていた(注90)。DAの加害者であった父親と過ごす時間の質はまたとても重要であった。父親が一貫性なく頼りにならない、父親とのセッション中に一緒にいる時間が少ない、子どもと積極的に関わらないなど、父親の子どもに対するコミットメントや真の関心の欠如を子どもが感じた場合、子どもは父親と過ごす時間が報われない経験であると感じている(注91)。

 

 子どもたちの間にはさまざまな意見や経験があることを考えると、委員会は、裁判所が個々の子どもたちの意見を理解し、個々の子どもたちに合わせた取り決めをすることが不可欠であると考えている。これは、他の文化的な思い込みを修正するのにも役立つ。FJYPBフォーカスグループに参加したある投稿者は、文化や民族性に関連した無意識のバイアス(彼らの場合は黒人男性に対する思い込み)を修正するためには、彼らの経験について子どもたちと直接話すことが重要であると指摘した。

 

より適切な決定をするのに役立つのに加え、子どもを巻き込むことのもう一つの利点は、子どものエンパワーメントと自己効力感を高めることができるということである。研究によると、DAのケースでは、子どもの暴力体験に耳を傾け、それに対応することで、子どもの安全と福祉が促進されることがわかっている(注92)。

 

6.3 子どもの意見聴取の範囲が限られていること

子どもの意見は、私法上の子の手続における決定プロセスを形作るために、いくつかの方法で求められ得る。

・Cafcass、Cafcassウェールズ、または地方自治体のソーシャルワーカーが作成したセクション7の報告書

・規則16.4の下で個別に代理されること

・手続の中で直接に証言すること

・司法官judicial officerに書いたり会ったりすること

 

子どもたちが関与する最も一般的な方法は、セクション7の福祉報告が裁判所から命じられる場合である。これらのケースで、CafcassまたはCafcassウェールズの職員が報告書を作成する場合、彼らは通常、その子どもと会うことになるが、セクション7の報告は、すべての私法上の事件の3分の1でしか命じられない(注93)。 Magistrates AssociationとALCの回答は、セクション7の報告は、DA事件ではより多く命令されることを示唆した。しかし、これまでの調査研究では、少なくとも半数の事件でDAが主張されているが、DA事件に関わる多くの子どもたちが裁判の過程でその声を聴かれる機会がないことが明らかになっている。

 

少数の子どもたちは私法上の子の手続で個別に代理されている。実務指針PD16Aは、個別の代理人は、「重大な困難を伴う問題であり、結果的に少数のケースでしか発生しない」ケースに限定されることを明確にしており、これには「その子どもに関連した身体的、性的、またはその他の虐待の重大な主張」が含まれる可能性がある。Cafcassのデータによると、2018-19年には、イングランドで2,595件の事件で規則16.4条が適用された。これは、その年に開始された事件のわずか7%であり、最初の審問hearing後にCafcassが着手するよう求められた事件の17%に相当する。

 

子どもたちが主張したり主張に対する目撃者となっている非常に少ないケースにおいて、警察や仲介者による ABE インタビューで集められた子どもたちの証言が裁判所に提出されるであろう。子どもたちが証言したり、子どもが証拠を提示したり、司法官に手紙を書いたり、面会したりする数についてのデータはないが、その数は非常に少なく(注94)、親がコンセント命令に同意するケースが多いのとは対照的に、裁決される事件は少数派に限られると思われる(第9章参照)。2015年には、家庭部門の長によって任命された「脆弱な証人・子ども」ワーキンググループは、家庭裁判所が子どもたちの証拠へのアプローチで刑事裁判所に遅れをとっていると主張し、「子どもたちや若者たちの意思や心情の表現を含む、子どもや若者の証拠への新たなアプローチをとる期限は......とっくに過ぎている」と述べた(注95)。同ワーキンググループは、子どもに関する手続で子どもたちの参加を強化する一連の勧告をおこなったが、委員会は、それらが、より大きな制度改革にかけられて、まだ実施されていないと言及する。

 

裁判官との面会は、子どもたちが裁判のプロセスを理解するのを助けることも目的としていることを明確にしておくことが重要である。それは裁判官が子どもの意思や心情の証拠を集めるためには使えない。ある回答者の子どもたちは、裁判官に会って裁判所を見学したが、それは子どもたちにとって有益だったと考えており、「質問をして適切に答えてもらうことは、子どもにとって非常に有益なようである」と述べる。しかし、「脆弱な証人・子ども」ワーキンググループが指摘しているように、「裁判官に会うだけでは、家庭裁判所が 21 世紀に入った今、若者や子どもたちが果たすべき役割を増やすことはできない」。(注96)

 

6.4 手続で子どもの声を聴取することの障壁

直接相談を受ける虐待事件の子どもたちについては、その相談がどのように行われたかについて、複数の個人や組織の回答で批判があった。Nagalroは、なかでも、DAを経験した子どもたちと関係を築くことの難しさと、そのための十分な時間が必要であることを指摘した。

 

「DAを経験した子どもたちは、忠誠心が分かれていたり、片方の親に同調していたり、どちらかの親、特に同居している親を動揺させることを恐れていたりするため、心を開くことが難しいと感じています。彼らは虐待を目撃したことがあるかもしれないし、怯えているかもしれないし、両方の親にアンビバレントな感情を持っているかもしれない...子どもたちは、自分自身の安全や一方の親、またはその両方の安全について本当に心配していることを表明したり、あるいは別居中の親に会うのに必要な許可を、同居親から得ているとは感じていないかもしれません。同様に、その供述が虚偽である場合には、供述を繰り返したり、別居親に会うことを拒否するように影響されているのかもしれません。

Nagalro

 

しかし、Nagalroや他の複数の報告書によると、Cafcassの職員が一人の子どもと接する時間は限られており、1回の面談で30分程度に制限されていることが多いとのことである。Harrogate Family Law、CARA、Southall Black Sistersは、他の専門家の回答者や多くの後見人と共に、その割当て時間が不十分であると報告している。Nagalroはまた、セクション7報告は時間がないために「表面的なもの」であると述べた。母親たちは、子どもの将来が見知らぬ人との1時間の面談にかかっていることや、子どもの意見の説明が長い手続で更新されないことへの懸念を表明した。

 

Cafcassは、子どもや家族と一緒に仕事をするためのデジタルアプリ「Voice of the Child」を開発している。「これだけ!(原文:This much!)」と「バックドロップ(Backdrop)」は、子どもたちとの直接の仕事のために、Cafcassの職員が利用できる他の2つのアプリである。これらのアプリはOfstedによって「優秀」と評価されているが、どのアプリも委員会への報告書には言及されなかった。

 

また、子どものインタビューの行われ方についても懸念があがった。Cafcassのポリシーでは、子どもたちのインタビューは例外的な状況下でのみ親の立会いのもとで行われる、その理由は事件記録に記録されるべきであるとされている。しかし、Barnardos と Rights of Women は、親の立会いのもとでのみ子どものインタビューが行われていること、それにより子どもたちが自身の意見を述べることが阻まれることに懸念を示した。あるDAのワーカーは、加害が疑われている親と一緒に子どもの評価をすると、子どもは虐待者をなだめ罰を受けないようにするため、従順で、時には相手に過剰に反応することを対話的であるとの間違った印象を与える可能性があると指摘する。親たちからも、子どもたちが、特に虐待する親が近くにいる場合は、怖くて話すことができない、彼らの子どもたちはインタビューのプロセスがトラウマティックであったと報告された。PSUは、Cafcassのインタビューが、子どもたちをさらなる虐待のリスクにさらし、専門家のサポートなしに過去のトラウマを追体験させるものであると報告した。さらに、一部の母親は、Cafcassが一般的なやり方として、子どもたちが直接質問を受けて答えることができる年齢に達していても、遊びを通して間接的に子どもの気持ちを探ることを批判した。

 

より一般的には、虐待があった子どもたちの経験への共感が欠如しているという批判があった。FJYPBフォーカスグループの参加者は、FCAが若者と肯定的で信頼関係を築くことができるようにFCAの配置についてもっと考えるべきだとコメントしている。その若者のケースでは、父親によるDAの経験がある子どもたちを怯えさせるかどうかを考慮せずに、非常に背の高い「ごっつい男」が担当に当てられた。

 

母親と父親の両方から、子どもがどのようにプロセスに関与しているかについて肯定的なコメントがあった。加害者プログラムに参加した男性のフォーカスグループでは、子どもの意見が聞かれたと考えた者もいた。

 

また、専門家の中には、より多くの子どもたちが個別に代表してもらうよう奨励したいと考える人もいた。ある裁判官は、可能であればすべての事件で後見人を任命すると述べた。子どものための法律家協会もまた、個別の代理人がいれば、特に両親が本人訴訟をしている場合には、より多くの子どもたちが自分たちの声を聴いてもらえるだろうと主張した。しかし、他の専門家や母親たちの中には、後見人も時間的な制約の影響を受け、子どもたちとの関わりが限られていると指摘する人もいた。

 

6.5 子どもの意見が重視されないこと

回答でコメントや批判が最も多かったのは、子どもの意見が重視されていないことであった。複数の回答から浮かび上がった強いテーマは、主に、子どもが虐待する親と一緒に過ごしたくないと言っている場合に、子どもたちの意見が頻繁に無視されるというものである。これまでの研究では、Cafcassや裁判所は、子どもたちが親と一緒に過ごしたいと表明した場合、肯定的に反応するが、そうでない子どもたちは、暴力や虐待の経験から親への恐怖を表明した場合でも、問題児や妨害者として扱うという「選択的聴取」のパターンが発見されている(注97)。

 

Barnardos、Refuge、PSU、CARA、Mosac、英国女性援助連盟、ウェルシュ・ウィメンズエイド、SafeLivesからの回答や、個人からの何百もの回答は、すべて、虐待する親と一緒に過ごすことを拒絶する子どもの意思が上書きされたり、無視されたりしているという懸念を提起する。また、幾人かの専門家は、虐待する父親と一緒に暮らす子どもたちが、母親にもっと頻繁に会いたい、一緒に暮らしたいと言っても無視されていることも観察した。

 

委員会は、Cafcassウェールズが子どもの意見を無視したり、却下したり、時には偽りを伝えたり、操作したりすることがあるというエビデンスを得た。

 

「私は、私たちが行なったあるコンタクトのことを覚えています。彼ら(家庭裁判所アドバイザー;FCA)はある時点で私を片側に連れて行き、たくさんの質問をしてきました。本当に何度も聞かれたんです。それで彼女は「お父さんとどのくらい一緒にいたいか?」と聞きました。それで、私は「パパには会いたくない」と言ったんですが、「本当にいいの?せっかく来てくれたんだから」と言われて。 .... それで私は「はい」と言わなきゃいけない気がして、「それじゃ30分後に」と言ったんです。すると彼らは「ああ、わかった、じゃあ会いたいんだね」と言って......それでそれが報告書に入ったんです、私は一度そう言ったことがある、彼に会いたいとね。私はそんなことが起こったのは私だけじゃないことを知っています。  若者、フォーカスグループ

 

この説明は、DAの子どもの被害者からの回答を含め、回答の中で孤立した例とは程遠いもので、Cafcassの担当者が、親と過ごすように子どもたちを説得したり、すでに親と一緒に過ごしている時間を増やすために相当な努力をしているようだという研究結果と一致する(注98)。

 

しかし、その結果、子どもの虐待経験は無視されたり、却下されたり、矮小化されたりすることになる。Barnardosは、彼らの調査によると、Cafcassの勧告は、被害者と直接仕事をしてきたBarnardo'sのサービスからの助言と「しばしば矛盾している」ことが示されていると指摘する。Refuge が指摘したように、Cafcassの勧告が大多数の事件で守られるだろうことに照らせば、これは特に懸念されることである。

 

特に、幼い子どもたちは、虐待する親と一緒に過ごしたくない場合に、彼らの意思や心情が上書きされてしまいやすい。Refugeは、加害者に怯えていて、一緒に過ごしたくないとCafcassに伝えた幼い子どもの事件では、「特別の困難」があると指摘している。

 

「親たちは、幼い子どもほど声が聴かれないと報告している」。Mosacがサポートしている後見人からの報告によると、子どもの声や意思が考慮されることは、ほとんどない。子どもが成長してもう物理的に虐待する親のところに連れて行かれたり、強制的にコンタクトさせられたりすることがない年齢に達していない限りは。  Mosac

 

さらに、回答は、非常に幼い子どもの場合、子どもの声は主たる養育者を介してしか聞けないが、親の子どもに関する知識は無視されたり、利己的なものとして自動的に却下されたりする傾向があることを指摘している。幼い子どもの困難と同様、英国の自閉症支援団体は、学習困難な子どもがその声を裁判手続で聴取してもらうことの困難にも言及している。

 

最後に、虐待する親と一緒に過ごしたくないという子どもの意思が、Cafcassウェールズや地方自治体の報告に正確に反映されていたにもかかわらず、裁判所がその意思や関連する勧告に従わなかったというシナリオを扱ったものが多数提出されている。Cafcassのある担当者からの報告書には、以下のように書かれている。

 

「時には、裁判所はDAがその子どもに与える影響を考慮に入れます。別の時には、その裁判所は、私の懸念を無視して、別居親とその子どものコンタクト問題をできるだけ手早く片付けようとしているように見える....」

FCA professional

 

 

6.6 見直しとフォローアップを限定していること

子どもたちの声が適切に聴取されていないことを示唆する回答の第四の領域は、命令後のサポートに関連する。PD12Jのパラグラフ38は、裁判所が親と過ごすことがその子どもにとって安全で有益であると判断する場合、裁判所は「子どもの最善の利益において、その命令の運用を見直すことが必要になる」かどうかも考慮しなければならないとしている。

 

実務では、子の処遇の見直しは、DA事件でさえ、通常行われないようだ。これは、虐待する親と一緒に過ごすことが、子どもや非虐待親への継続的な虐待を生じうることを示すすべての研究に背いている(注99)。ウェルシュ・ウィメンズエイドは、ある子どもの、虐待する親と一緒に過ごしたいという望みは、もしかしたら非虐待親による保護が持続的に効果を上げてきた結果によるかもしれないが、その保護なしに監視なしで虐待親と過ごす経験は彼らが期待したものとは異なるかもしれないと述べた。

 

処遇命令のレビュー審理がなく、さらなる申立てがなければ、その子どもは自分のために機能しない取り決めの中に放置されてしまう可能性がある。FJYPBのフォーカスグループに参加したある人は、裁判所が最終的な命令を下した後、状況がどうなっているかを聞かれない子どもや若者にとっての無力感について、説得力のある洞察を示す。

 

私が18歳になるまで、私は7歳のとき受けた裁判所命令に従わなければなりませんでした... ...誰かが私に尋ねたら、私は "ええ、彼は[父]私の腕をピンで固定し、私に向かって叫んでいる "と答えたでしょうが、誰も聞きませんでした.... 裁判所を出て、基本的に10年間はそれが私の人生だった。文字通りそれだけだった 二度と再び誰からも聞かれなかった。一度もないし、チェックもしていないし、特に虐待があったかなんてね。たとえ年に一度だけでも、戻って「これでいいですか?これを変える必要はありませんか?そして、何か他のことで必要なことがありますか?」と聞けたのに。  若者、フォーカスグループ

 

フォーカスグループに参加した別の参加者は、この事件の判事に手紙を書いたことを思い出したが、全く返事がなかった。

 

6.7 子どもたちが(主に)聞かれないことによる影響

回答は、子どもたちの声が消されたり、聴かれないことから生じる様々な問題を浮かび上がらせた。

 

第一は、子どもたちが傷つき、失望させられたという感覚である。子どものための法律家協会は、子どもたちが耳を傾けてもらえないと感じるリスクが、裁判所の事実認定の誤りにつながることについて言及した。ウィメンズエイド英国連盟が実施したフォーカスグループの参加者たちは、手続の中で虐待の開示や自分たちの意見の明確な表現に耳を傾けてもらえず、彼らの安全を守るための行動を取ってもらえなかったという経験が、子どもたちに当局に対する深刻な不信を残していると指摘した。同様に、SafeLives は、自分やもう片方の親を虐待した誰かとなぜ一緒に過ごさなければならないとされたのか理解できないままにされたことが、子どもたちへ悪影響を及ぼしたことに言及した。また、FCAも、裁判所が自分の話を聞いてくれなかったと感じた場合、子どもの裁判手続に対する信頼が損なわれるリスクについて同様に述べる。FJYPBフォーカスグループに参加したある投稿者は、次のようにコメントする。

 

「私はCafcassに耳を傾けてもらったと感じたことがない...彼らのうちの誰も私を尊重しているとは感じなかった...私は単にもう一つの事件番号、単に彼らが制御できるもう一つのロボットなんだと感じてた、コンタクトの推定に関する彼らの期待していたものの範囲で操作していたと思う。私の話を本当に聞いてくれたのは、小学校の校長先生だけだった。彼女は、私が彼女に話したことのうち彼らに伝えるポイントを示したけれど、それは裁判所への報告には書かれていなかった...」  若者、フォーカスグループ

 

子どもの意見や経験に耳を傾けないことは、もう一つの結果として、裁判所の判断の質を低下させ、子どもの福祉を促進しない、あるいは傷つけるような命令を出すことになることが、複数の回答で上げられている。

 

6.8子どもの声の聴取を妨げるもの―リソースの不足

他の分野と同様に、リソースの制約が、子どもの声を聞く上でいくつか特定された上記の問題の重要な理由となっていた。複数の回答が、プロセスへの子どもの関与の範囲を制限し、家族司法の専門家が子どもの声を聞き出し、解釈するという非常に熟練した作業を行う能力を妨げるとして、リソースの不足に言及していた。

 

複数の報告書は、どれだけの子どもが見られるか、命令後のレビューがどれだけ空いたり行われないかという観点から、リソースの不足がCafcassやCafcassウェールズの関与を制限することに言及する。彼らは、CafcassやCafcassウェールズが関与するのは、通常、最初の保護措置の段階でのみであり、そこで子どもたちと会ったり話したりすることはないと指摘した。また、弁護士は、個別に代表されている子どもが非常に少ないことに懸念を示した。ある本人訴訟(LIP)支援サービスによると、裁判所は特に求められない限り後見人を選任しないし、LIPはそのような求めができることを知らなかったとのことである。

 

また、リソースの制約から、子どもとの相談が非常に短くなっているという懸念もあった。ある IDVA は、「子どもたちは、問題がセンシティブであるにもかかわらず、多忙のため信頼関係を築くのに十分な時間を割くことができないCafcassやソーシャルワーカーに心を開くことを期待されている」と指摘する。またあるFCAは、仕事量の多さから、私法事件では通常一度しか子どもに会う時間がなく、多くても二度しか会えないと述べ、これでは「信頼感や関係性」を築くことができないと指摘している。

 

リソースの制約はまた、理解や訓練が不足しているという批判の背景でもある。情報公開プロジェクトは、報告書作成者がDAについて十分な情報を得ていることの重要性を強調しているが、他方で、報告書作成者と後見人の両方に批判的な意見もある。

 

「(Cafcassとソーシャルワーカーは)適切なトレーニングをうけDAに関する知識を持っていないため、親たちが一緒になってコンタクトのアレンジや子どもの受け渡しをするなどの不適切な勧告や期待をしてしまっている。DAに関してまったく不適切です。」 IDVA

 

ウィメンズエイド英国連盟、ウーマンズ・ライト、そして個人を含むその他多くの人々は、Cafcassウェールズと家庭裁判所の専門家の両方が、DAが子どもに及ぼす影響を理解し、言語的に表現されたか他の言動によるかを問わず、正当な恐怖や懸念を見出せるようになるために、より多くのことを行う必要があると主張した。ウェールズのフォーカスグループの一つに参加した参加者は、Cafcassウェールズの職員が、虐待を目撃したり、虐待を受けた場合、子どもがどう反応するかについて固定観念を持っており、子どもがそのとおりに行動しなかった場合には虐待の主張は信じてもらえないと考えていた。

 

また、団体や母親たちは、低年齢の子どもに十分な相談がなされなかったことについても懸念を示している。研究文献によると、子どもの年齢が高いほど、子どもの意見の決定への影響力が高まるとされる(注100)。しかしながら、非常に幼い子どもでも、年齢に応じた環境やコミュニケーションのニーズを満たすツールが提供されれば、理解し、参加し、意見を表明することができるという研究もある(注101) 。

 

6.9 子どもの声の聴取を妨げるもの―-プロコンタクトカルチャー

DA事件で子どもの声が聞かれない理由として最もよく挙げられるのは、プロコンタクトカルチャーである。2つの具体的な要因が、回答の中で繰り返し挙げられた。どちらも、子どもの意思や心情が聴かれなかったり、会いたいという声だけが聴き届けられるというものだった。

 

6.9.1 子どもが何を望んでいるか、何を必要としているかについての一般的な観念への依存

広範囲の専門家グループが、母親、子ども、そして一部の父親と同様、プロコンタクトカルチャーが強いために、個々の子どもの意見が、もしあるとしても限られた重みしか与えられないと指摘した。Barnardosは、子の処遇の手続に関わるすべての専門家グループが、コンタクトが好ましいとする立場からスタートし、「これを実現するためにかなりの努力をしている」と指摘している。

 

FJYPBのフォーカスグループの参加者は、子どもたちが何を必要としているかについてのこれらの一般化された観念は、子どもたちの意思や福祉を犠牲にして作用するのではないかと懸念した。

 

「コンタクトに関する推定、それは全く役に立たない。それは、子どもたちに親たちの権利を押しつけるということです。子どもたちが自分自身の世話をし、自分自身を守ることができない限り、その日の終わりに、彼らは、害のある、情緒的、物理的リスクにさらされる状況に置かれる。」 FJYPB

 

こうした見解はいくつかの専門家も繰り返し述べ、そのうちのあるセラピストは次のように述べた。

「いくつかの事件では、父親の権利が子どもの意思や心情に優先すると推定されているように見える。いくつかの事件では、Cafcassのワーカーやソーシャルワーカーは、父親の行動(これには父親がDAに関連する犯罪で有罪判決を受けている場合も含まれる)やその子の当初の意思にかかわらず、父親とのコンタクトに同意するようにその子を説得することが彼らの役割であると考えているように思われる。」 セラピスト

 

同様に、Rights of Women は次のように述べる。

 

「私たちは、Cafcassの利用者から、Cafcassの担当者が自分自身は危ないので同席したくないという虐待加害者と、監視なしのコンタクトをするよう勧めてきたと聞いた。」 Rights of Women

 

父親のグループはこの問題について多少の意見の相違があった。例えば、Mankindは、そこのIDVA が、ソーシャルワーカーやCafcassの担当者が子どもたちの意思に耳を傾けたり考慮したりしていないと考えていると報告している。しかし、他の父親グループは、子どもが何を望んでいるか、何を必要としているかについて同じような一般化をする傾向が強く、子どもたちが直接聴かれないことを好ましく受け止めていた。

 

「別居前に両方の両親と良好な関係を築いていたほとんどの子どもたちは、できるだけ早く元の状態に戻したい、あるいは両親が別々の家に住んでいる場合は、少なくとも元の状態に近い状態に戻したいと考えている。彼らの証言が重要であると証明されない限り、子どもたちは関与させられるべきではありません。おそらく大人たちの最初の事実審理の後....」 Families Need Fathers

 

6.9.2 プロコンタクトカルチャーと片親引離し

「片親引離し」(注102) は、子どもたちの意思や心情が「引離し」をする親の影響を受けているので、それを無視すべきだという考えに基づいている(注103)。複数の回答が、この「片親引離し」(注104)という用語が用いられることが増えていることで、子どもの声が消されていると述べた。子どもたちが引離されていれば、子どもたちの意思や心情は汚染されたものとみなされる。回答はまた、「片親引離し」の申立ては、申立ての対象となった親が、拉致や暴力に関して十分な根拠のある不安を抱く保護親としてではなく、「引離した親」として扱われることを意味するとも指摘している。これは、虐待の「客観的な証拠」があるか影響力のある独立機関の介入がない限り、DAを体験した子どもたちを非常に脆弱な立場に取り残すことになる。例えば、ウェルシュ・ウィメンズエイドは、その経験をした利用者の一人を引用する。

 

「彼らは私が父親を望んでいないように子どもたちを操作したと思い込んでいたので、誰も私の子どもたちの声を直接聞きたいと思いませんでした。子どもたちがその害を学校で打ち明けるまで、父親はそれを続け、私は子どもたちを送り出すか、さもなくば投獄されるかまたは子どもたちを失うリスクのある命令の下にありました。」ウェルシュ・ウィメンズエイド

 

多くの報告書が、専門家が、虐待親と時間を過ごすことをある子どもが拒否すると直ちにその子が片親引離しにあっていたと結論づけること、その拒否が虐待親の言動の結果であると考えないことについて懸念を述べた。Refugeは、Cafcassの担当者が、DAのサバイバーとその子どもたちの精神的な健康にとって、DAの影響より、父親が片親引離しにあうリスクの方を優先させていると主張した(注105)。

他にも、専門家は片親引離しの兆候を見つける用意はできているため、その子どもが目撃したことや経験したことをさらに評価するよりも、その子を黙らせると指摘する者もいた。これは、性的虐待が主張された場合に特に顕著であった。

 

「子どもが性的虐待を開示したり、父親による性的虐待を示す可能性のある行動を示した場合、家庭裁判所の手続で子どもの声を捕らえることにはほとんど焦点が当てられていない。主に親に焦点が当てられ、しばしば母親が性的虐待の主張をした動機を熱心に精査するということになります。私たちが知っているケースでは: 子どもたちは、専門家や両親やケアしてくれる人に性的虐待の開示を明確に、時には生々しく行っていますが、それにもかかわらず、裁判官は性的虐待は起こらなかったと判決を下しています。」 CARA

 

対照的に、父親からのいくつかの回答は、子どもの表明と本当の意思や心情を識別し、コンタクトを拒絶する意思が表示されても文字通りに受け取るべきではないとした。DVIPフォーカスグループに参加した父親の中には、子どもが報告した意見が、自分の頭の中にある物語(例:子どもはベッドで寝ていた、何も聞いていない、幼かった、覚えていないなど)と一致しないため、母親の影響を受けているに違いないと考えたことがあると述べる者もいる。彼らは、それまで自分たちの虐待が子どもたちに与える影響について理解していなかったことを認めていたが、このコースを受講したことで、虐待を受けて生活している幼い子どもたちにもトラウマを与えていることを理解することができた。

 

このように、「片親引離し」は一般的な反論になってきたが、回答は、子どもたちがコンタクトを望まないことへのデフォルトの説明としてこれを受け入れることが現実的に大変危険であることを強調した。

 

6.9.3 意思と心情を確かめる難しさ

回答は、子どもたちの意思や心情を確かめることが、幼い場合はとりわけ、難しいことを認めた。セラピストからの回答のいくつかは、「『忠誠葛藤』やその他の複雑な要因のため」子どもたちが直面した困難(例えば、情緒的、心理的)について述べた。

 

「私の評価や子どもたちとの治療的な作業を見ても明らかなように,子どもたちは、しばしば反響への恐れから、自分の意思や心情を表現することが困難であることがわかります。子どもたちは,片方の親やもう片方の親を動揺させることを恐れています。状況に応じて、彼らの意見が求められる文脈や環境によっては、矛盾した反応を示すことがあります。状況によっては、子どもは、― 彼らが表明する考えが、観察されるボディランゲージや行動と一致しないということがあります。そのような不一致は、さらなる調査が必要です。」

カウンセリング心理学者、エビデンスの照会

 

同様に、ウェルシュ・ウィメンズエイドが指摘しているように、ある子どもが虐待親から威圧的支配を経験した場合、「専門家が最初に聴く声は、子どもの本当の意思や心情の表現ではなく、加害者によって大きく影響されている可能性がある」。

いくつかの父親のグループは、これらの困難を考慮して、子どもは聴かれるべきでないと示唆した。

 

「大多数の子どもたちは、裁判の手続に参加することを望んでいません。彼らが参加する場合でも、彼らの声は通常、彼らが一緒に暮らす親と同じです。一般的に、子どもたちは、自分たちの将来に関わることは、自分たちに何が起こるかを気にかけてくれる大人に決定して欲しいと思っています。ふつう彼らは、証拠を見てどちらかの側につくことというようなことはできないし、望んでもいません。  全国引離された親の会

 

これにもかかわらず、調査とCafcass FJYPBフォーカスグループの証拠は、子どもたちが声を聴いてもらいたいと思っていること、そして子どもたちの声が単に同居親の意見を反映しているだけであるとして却下されるべきでないことを示唆する。今回のエビデンスの呼びかけに対する共通の反応は、およそ不適切な結論につながってしまう固定的な仮説ではなく、オープンマインドで始まる熟練したアセスメントが必要性であると強調したことである。その熟練した評価は、裁判所がその子の最善の福祉・利益になるかを決定するのを助けるために、個々のケースのすべての状況を評価するべきであるが、これは明らかにリソースを利用することになる。

 

6.10 子どもの声の聴取を妨げるもの―連携の欠如とサイロワーキング

DAとソーシャルワークの組織や若者たちの間で一貫したテーマは、裁判所が他の機関や管轄区域の活動を参照せずに運営されており、そのため、子どもや家族と一緒に仕事をした直接の経験を持つ人々から重要な証拠を収集したり、評価したりすることができなかったということであった。Barnardos、Safelives、ウィメンズエイド英国連盟、ウェルシュ・ウィメンズエイドなどの組織は、裁判所のプロセス、特にセクション7の報告を作成する際に、家族を知っている専門の児童サービススタッフの専門知識を活用することができなかったと指摘している。Cafcassウェールズ FCAと後見人が、他の専門家との関わりが限られているだけでなく、裁判官は、その子どもたちと一緒に仕事をしてきた専門家の意見よりも、子どもと過ごす時間が非常に限られているCafcassウェールズの担当者の意見を重視していることが観察された。Barnardos は、家庭裁判所は、その決定を改善するために、子どもや成人の被害者に直接仕事をしてきた組織ともっと密接に連携する必要があると強く主張し、Cafcassと裁判所は、DAや子どもの支援をしてきた機関や慈善団体を認識させるべきだと提案した。

 

母親たちはまた、セクション7の報告が他のサービスに言及せずに作成されていることに懸念を示している。

 

私の医者は私が経験したことを信じてくれており、彼[元パートナー]は私の職場に来ることで私を脅迫し、彼らはこの事実を認識しています。雇い主と主治医、警察も支援してくれています。私の子については(虐待が原因で)学校に福祉司がいましたが、このことについて誰も何も聞かれませんでした。

母親、 エビデンスの照会

 

しかし、ポジティブな例もある。ある母親は以下のように述べる。

「娘はもうすぐ10歳になるので、裁判所の命令は娘の希望や気持ちに基づいています。Cafcassも学校もGPも、娘と私の両方をサポートしてくれました。」

サバイバー・フォーカスグループ参加者

 

FJYPBのフォーカスグループは、より広範な情報収集と他のサービスとのより大きな調整の必要性を支持する。

 

「彼らは、子どもに近い人や、家族のことを知り、子どものことを知っているようなところにいる専門家からの証言に対しもっとオープンになる必要があると思います。学校はよく知っている.... ほとんどの学校は何が起こっているかを知っていると思います。ほとんどの教師は、子どもが何に悩んでいるのか、家庭の状況を把握している。」  若者のフォーカスグループ

 

しかし、このグループはまた、子どもの希望や心情についての幅広い調査は、子どもが主導する形で行なう必要があることも強調する。参加者の一人は、子どもが打ち明けた教師がすぐに虐待親に電話をして、何を言われたかを報告したと述べた。グループ内では、Cafcassの担当者が誰と話をするべきかをその子どもに尋ねることが、全体像を把握するための最善の方法であるという点で、一般的な意見が一致していた。

 

6.11 子どもの声の聴取を妨げるもの―当事者主義的プロセス

最後のポイントは、当事者主義的プロセスで、当事者とされる稀なケース以外では、定義上、子どもを積極的な役割から排除しているということである。子どもが直接手続に関与するというさらに稀なケースでは、大人中心の性質はさらに顕著になる。その希少性ゆえに、委員会には、そのようなケースのエビデンスはほとんど集まらなかった。しかし、あるDAワーカーは、子どもが証言するプロセスがいかに不適切であるかを浮き彫りにした。彼らは、不正確な証言や矛盾する証言を理由に虐待の主張が棄却された事例を報告し、「裁判のプロセスはその子どもが起こったことを横断的に説明するのを、困難でストレスフルにしている」と述べた。そのワーカーは、その子に「裁判で『うまくやれずに』、父親が彼の母親やきょうだいを身体的にも情緒的にも虐待しながら、逃げて行ってしまったという多大な罪悪感」が残ったと報告した。

 

6.12 結論

1989年児童法とUNCRCは、非常にはっきりと、子どもや若者に関わる裁判手続で、子どもや若者の意思と心情が考慮に入れられるべきであると規定している。調査や委員会への回答では、特に若者からのそれが注目されるが、少なくとも正しい決定が行われるために、子どもの声を聴くことがいかに重要であるかを強調した。しかし、委員会が検討した証拠によると、DAや児童虐待を含む私法上の事件では、かなりの割合の子どもたちが直接声を聴かれておらず、聴かれてもそれら子どもたちの声はしばしば無視されることがわかる。

 

子どもや若者の声が排除されたり、ミュートされたりする理由として、さまざまな理由が挙げられた。そこにはプロコンタクトカルチャー虐待親とのコンタクトを避けたいという明確で正当な理由が一人ひとりの子どもにあったとしても、コンタクトにより子どもは利益を得ると想定されている――が含まれていた。回答はまた、直接聴取される子どもの数が限られていることや、Cafcassウェールズが子どもとの関係を築くために十分な時間を割くことができないことなど、リソースの制約の重要性も指摘している。また、他の機関との協議不足についても言及されている。特に、DAや子どもの慈善団体は、Cafcassウェールズ と裁判所が、すでに家族と一緒に活動している専門の児童ワーカーの知識や専門知識を活用できていないことを指摘している。

 

子どもや若者の意見を聞かなかったことによる多数の結果が示された。その中には、子どもたちが失望したと感じていることや、おそらく最も懸念されることとして、虐待親からの恐怖や被害についての子どもたちの説明に耳を傾けないことで、裁判所は将来の被害から子どもたちを守ることができなくなったという認識が含まれていた。

第11章に上げた監護の取決めに関する委員会の勧告は、DAやその他の重大な犯罪を経験している子どものニーズや意思を促進することを主要な目的の一つとしている。これらのケースにおける子どもの声を強化するための具体的な提言は、第11.6節に記載されている。

 

【注】

(84)literature review sections 7.3 and 7.5. 参照。

(85)Mabon v Mabon [2005] EWCA Civ 634. 参照。

(86) literature review section 7.5. 参照。

(87) literature review section 7.5. 参照。

(88)literature review section 6.4. 参照。

(89) literature review section 6.4. 参照。

(90)J Fortin, J Hunt and L Scanlan, Taking a Longer View of Contact:The Perspectives of Young Adults Who Experience Parental Separation in their         Youth(2012)

(91)See literature review section 6.4.

(92)M Eriksson and E Nasman (2008) 'Participation in family law proceedings for children whose father is violent to their mother', Childhood 15(2): 259-75; S Holt (2018) 'A voice or a choice? Children’s views on participating in decisions about post-separation contact with domestically abusive fathers’, Journal of Social Welfare and Family Law 40(4): 459-76; G Macdonald (2017) 'Hearing children's voices? Including children’s perspectives on their experiences of domestic violence in welfare reports prepared for the English courts in private family law proceedings’, Child Abuse and Neglect 65: 1-13

(93)イングランドでは、2018-2019 年に 65,378 人の子どもや若者が申請の対象となったが、報告が命じられたのは、約 2 万人の子どもを含む 35%の事件にとどまった(Cafcass Annual Report 2018-2019, p.10)。

(94)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 5.参照。

(95)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 25.参照。

(96)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 21.参照。

(97)literature review section 7.3. 参照。

(98)literature review section 7.3. 参照。

(99)literature review section 6.3. 参照。

(100)literature review section 7.3. 参照。

(101)literature review section 7.3. 参照。

(102)片親引離しのこの定義は、家庭裁判所でも、委員会の全員も、特に子どものための法律家協会と司法委員会のメンバーにも、利用され適用される定義とは認識されていない。

(103)例えば、K Weir (2011)の広く引用された論文’High conflict contact disputes.

(104)A Barnett (2020) 'A genealogy of hostility: parentental alienation in England and Wales', Journal of Social Welfare and Family Law 42(1): 18-29; literature review section 7.2 を参照。

(105) 委員会は、Cafcass と Cafcassウェールズ が片親引離しについて異なる実践ガイダンスを採用していることに留意する。

Cafcass, Child Impact Assessment Framework:

     https://www.cafcass.gov.uk/grown-ups/professionals/ciaf/;

 Cafcassウェールズ, Children's resistance or refusal to spend a parent: practice guidance: https://gov.wales/childrens-resistance-or-refusal-spend-time-parent-Cafcass を参照のこと。またcafcassウェールズは、片親引離しに関する研究と判例法のレビューを委託している。J Doughty, N Maxwell and T Slater, Review of research and case law on parental alienation (2018)

 

                                                            【藤村賢訓】