研究紹介

研究紹介

片親疎外症候群・片親疎外(PAS・PA)は似非科学です(1)

片親疎外は、DSMにもICDにも採択されていません

 

共同養育や共同親権を推進する人たちは、ネット上で、離婚という状況下で子どもが一方の親に敵意を抱く病理現象(片親疎外PA)は、アメリカのDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)に掲載されている、もしくはWHO(世界保健機構)のICD-11で認められていると主張しています。驚くべきことに、国会でも何度もそう主張されています。しかし、これは事実と異なります。

 

DSMに片親疎外が掲載されたことは1度もありませんし、ICD-11は2022年に発効しますが、それにも掲載されていません。審議の過程で一度、インデックスに置かれたことはありますが、科学的根拠を持たないこと、女性や子どもへの暴力を助長しかねないという専門家や実務家からの指摘によって、削除されています。片親疎外や片親疎外症候群は、そもそも似非科学であり、DSMやICDに掲載するようにという父親権利擁護団体の再三の要求や圧力にもかかわらず、実現していません。

 

片親引き離し症候群(PAS)とは?

片親疎外症候群は、1980年代初頭にリチャード・ガードナーが命名した概念です。ガードナーは、監護権裁判で子どもへの性的虐待の訴えが頻発してるけれども、こうした裁判では90パーセントの子どもが混乱していると断定しました。復讐を企てる母親が、元夫を罰し、自分の監護権を確保するために、子どもの虐待を主張する「症候群」であり、母親が子どもを「洗脳」「プログラミング」するというのです。

 

この結果、子どもや、子どもを守ろうとする親が、子どもに対する虐待を主張し続けると、それは別の親への「引き離し」だとみなされ、裁判所から罰せられ、虐待親に親権が行く自体すらを引き起こしました。虐待の証拠を集めることも、(主に)母親が父親から子どもを「引き離す」という病の証拠とみなされます。

 

ガードナーは、子どもに対する性的虐待の主張の裏には「軽蔑された女性の怒りほど、怖いものはない」、子どもが父親と性的関係を持ったと想像する母親が「自分も満足感を得る」からだといいます。

 

ガードナーの重度のPASの「治療法」は極端で、推奨する「威嚇療法」のひとつとして、裁判所が(親に会いたくないと虐待を主張する)子どもを、拘置所や少年院に送ることすらされました。


ところが、アメリカの監護権裁判で、子どもの性的虐待の主張は極めてまれであり(2%未満)、保守的な裁判所や政府機関のアセスメントでもこうした主張の50%(Thoennes&Tjaden 1990)、多い場合は70%(Faller 1998)が正当と判断されたという研究もあります。実際に、子どもへの不適切な養育の主張をでっち上げる可能性が高いのは、監護権のない父親のほうです。子どもの面会交流を争う裁判で主張された子どもの虐待やネグレクトのうち、意図的な虚偽の主張は12%にすぎませんでしたが、意図的に虚偽の主張をしあ最大のグループは、監護権を持たない親(主に父親)であることが多く43%を占め、監護権を持つ親は14%、子どもは2%にすぎません(Trocme&Bala 2005)。

 

元アメリカ精神医学会会長であるポール・フィンク博士は、PASを「似非科学」と評しており、アメリカ検察官研究所や全米地方弁護士協会もPASを否定しています。PASはアメリカ精神医学会によって、科学的根拠を欠くものとして何度も否定され、DSMに含めるに値しないとされています。

PAS擁護者たちは、PASを「片親引き話失調(Parental Alienation Disorder PAD)」と改名し、DSMにいれようと総力を挙げてキャンペーンをしましたが、2012年のDSM-5編集委員会は一蹴しています。

 

(この部分はジョアン・S・マイヤー(高橋睦子訳・監修)「片親引き離し症候群PASと片親疎外PA-研究レビュー」(2015,梶村太市・長谷川京子編『子ども中心の面会交流―心の発達臨床・裁判実務・法学研究・面会交流支援の領域から考える』)をまとめさせていただきました。PAもほぼPASと変わりませんが、さらに(2)に続きます)。

 

Faller,K.D, 1998,The parental Alienation Syndrome and the Differentiation Between Fabricated and Genuine Child Sex Abuse.Cresskill,NJ:Creative Therapeutics.

Thoennes,N,&Tjaden,P.,1990,The Extend, Nature, and Validiy of Sexual Abuse Allegations in Custody /Visitation Disputes.Child Abuse and Neglect,14,151-163.

Trocme,N.&Bala,N.,2005,False Allegation of Abuse and Neglect When Parents Separete, Child Abuse and Neglect 29(12),1333-1345.

 

 

 

 

 

 

 

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