UK司法省報告

第5章 DAの主張と立証

 

 

 

 

5.1 はじめに

被害者の回答は、彼らの多くがDAの主張をする気がしないと感じていることを示していた。その主張をすることでの第一の重要な障壁は、虐待それ自体の影響に、家庭裁判所システムで働く専門家の間の無理解の影響が結びついたものである。最近まで、DAの構成要素である威圧的支配(coercive control)について司法システムにおいては殆ど理解されていなかった。特に、刑事裁判システムでは、過度に単発の身体暴力に焦点を絞り、それ以外の形態の虐待に対応しなかった。しかし、多くの被害者にとって、DAの現実というのは、彼らを絶え間ない怖れと焦燥に置くために数多くの方法を用いて、彼らの生活を細かく管理することである。被害者でも、彼らがDAを受けていて助けを求めているということを気づくのに長い時間がかかる可能性がある。司法システムが身体暴力に焦点を当てるのに対し、DA被害者は、通常、これは彼らが受けてきた虐待のうち最悪のタイプではないという。;最も大きな影響があるのは、継続して起こる心理的・情緒的虐待、威圧と支配である。この章では、DAを主張し立証することへの障壁を取り上げ吟味する。これらの障壁は、下図のようにまとめられる。

 

5.2 DAへの理解の欠如

「DA」の理論的枠組みに挑み、全範囲の虐待と継続する影響を専門家に認識させるようなことは、私法上の子の手続にある虐待された女性と男性には通常、障壁にあたる。回答の中には、専門家がDAの複雑さと離別後虐待が双方の親、典型的には母親、とその子どもに及ぼす影響を理解しないことを示すものが数多くあった。委員会には、このようなDAと継続するトラウマの理解の欠如が、こうした主張をコンタクトにつき不適切なものという受け止めを生んでいることが語られた。

 

文献は、ある専門家の間に、子の処遇の事件を抱えた母親は手続遅延のためもしくはコンタクトを挫折させるために「game playing」の一部として虚偽のDAの主張をするという、受け止め方があることを示唆している。しかし、調査は、DAで「虚偽」主張の割合は非常に小さいことを示している(注72)。虚偽の主張を数えることは難しいのに、女性はコンタクトを挫折させるために事実を捏造するという観念は、女性が専門家に虐待を打ち明けようとする時に遭遇する否定的な経験という文脈で理解されなければならない。この章で示すように、本照会に対し母親から提出されたエビデンスでは、彼らが主張する気を殺がれたとか、彼らが「ステレオタイプ」な被害者ならこうだろうという風に行動していないという理由で信用されなかったことが、繰り返し語られた。母親たちと専門家と彼らを支援する組織は、子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズ、子の処遇手続の裁判所を含め、多くの専門家の基本姿勢が、主張を高度の疑いを持ってみていると認識していた。子どもの性的虐待の主張は疑念と不信に関連して特別な問題を生じた。

 

「ステレオタイプ」はDAに対抗して作用するが、これには次のものが含まれる;警察や子どもソーシャルケアに通報されていない虐待や第三者への報告が遅くなったもの、助けを求めたり虐待者から離れようとするより虐待者との関係に留まること;裁判所での証言時に「感情過多」か「冷静」に見えること。加えて、精神を病んでいる親―しばしば虐待のトラウマとしてそうなるが―は、これで彼らの行ったあらゆる訴えを封じられたと感じている。これらのステレオタイプは、DAとトラウマ、とりわけ継続する威圧的支配の影響の理解に欠ける。最後に、少数の男性被害者とその支援組織からの回答は、彼らには特に、信じてもらえないという障壁があることを述べた。

 

5.2.1第三者への通報の欠如もしくは遅れ

「親たちはDAやその他の害を関連する事項として認識しないかもしれない、あるいは彼ら自身が虐待の被害者とかサバイバーだとは認識しないかもしれない。手続のなかでこれが存在するかもしれない難しさは、一方の親が福祉に関連するすべての事実に証拠をあげることができないために、裁判所が関連するすべての事実を認識して福祉をはかる裁判をすることができないことにある」                    子どものための法律家協会

 

DA被害者がなぜ裁判所やCafcass/Cafcassウエールズやその他の機関に、被害経験を報告しないのかについての説明はたくさんある。一部の母親たちは委員会に、専門家からこのシステムで明らかに悪い経験があるので、DAについて話さないように、と言われた、と述べた。これは、ウィメンズエイド・イングランド連盟(Women’s Aid Federation of England)、ウェルシュ・ウィメンズエイド、その他被害者支援団体によって、確認されている。ある女性たちは委員会に、(被害の)報告が遅れると、後程彼らが嘘をついたと追及されると述べ、これもやはり被害者支援団体がその回答で反映している。The Transparency Projectは、被害者は早期に主張をあげる重要性、「遅く」なるとその信用性に対する攻撃にあうことを正しく理解していると回答している。エビデンスの照会に対して女性たちからは、最初のうちある言動が虐待であると十分認識していなかった、特に性的虐待と威圧的支配的言動に関してはそうだったという回答をうけた。子どものための法律家協会は、彼らの視点で、スキルのある専門家(DA の専門家,セラピスト、ソリシター)に、こうした被害者が虐待的な関係に気づき主張と証拠を裁判所に提出するよう援助するよう求めた。

 

委員会に提出されたエビデンスは、それゆえ、報告されず報告が遅れることはあるから、私法上の子の手続では広い範囲の専門家が十分に理解する必要があることを示している。

 

5.2.2 虐待者からなかなか離れない

本当の虐待被害者なら虐待者と一緒にいないだろう、子どもを連れてすぐさま逃げるだろうという「ステレオタイプ」は、特に女性のDA被害者には問題である。第4章でみたように、公法や子ども保護手続では、その子の母親が虐待者との関係を続けたことを、子どもを保護しなかった証拠と見られて非難されるかもしれない。母親たちは委員会に、彼らが離れようとすれば虐待がエスカレートするから怖くて虐待者のもとにとどまった、と語った。

調査は、これが現実的な恐怖であり、虐待はしばしば離別を起点にエスカレートすることを示している。さらに、ある母親たちの回答は、彼らが虐待者と一緒にいれば、子どもをある程度虐待から守ることができるけれど、彼らが家を出てコンタクトを命じられたら、それができなくなることを恐れたと述べた。専門家 の回答も、虐待された女性たちが虐待者のもとに留まることは虐待が起こらなかった証拠と捉えられてはならないと強調したが、実際に、何人かの専門家はこういうとらえ方が裁判で起こると認識していた。ここでも、委員会に寄せられた回答は、DAの力学をよりよく理解し、被害者がその子どもを守れるような裁判が必要なことを示した。

 

5.2.3 「感情過多」または「冷静」な態度

回答で指摘された、もう一つの信用性にかかわる障壁は、裁判所での被害者の見え方であった。双方の人々と幾人かの専門家は、被害者が証言時「感情過多」か「冷静」に見えることにより判断されていると述べた。これらの回答によれば、冷静で落ち着き払ったように見える被害者は信用性がないとされ、そのほかは「取り乱した態度」ゆえに信頼性で劣ると判断される。一般に、DAの女性被害者を支援するため専門家を送り出す専門機関は、トラウマの影響の理解が欠け、それが被害者の信用性の判断に影響していると述べた。Refugeは大きなDAサービス団体であるが、委員会への回答に向け2019年8月にスタッフとサバイバーに調査を行ない、被害者の見え方に関する多数の事項がその信用性の判断に影響しているようだと強調した。

 

何人かのスタッフは、サバイバーが「典型的な」DAサバイバーに関するステレオタイプのどれかを満たさなければ、裁判官がその被害開示の真実性を疑問視する事例をあげた。例えば、ある裁判官は、そのサバイバーが法廷に化粧をしてきたから「被害者のようには見えない」と言った。スタッフは、彼らの経験では、サバイバーは虐待のことをうまく話せない、泣き崩れることもある、裁判所によって否定的にみなされていると言った。また何人かのスタッフは、一部の裁判官のサバイバーに向ける態度は、「虐待されトラウマを受けた女性」ではなく「情緒的に興奮しやすく起伏の激しい女性」というもので、訴えやその関連事項を斥けてしまうと受け止めている。Refuge

 

この陳述は、刑事司法システムにおけるレイプ「神話」に関する文献と幾分共鳴する。もし女性が過剰に感情的と見られたら、「影響を誇張している」と否定的に判断され、反対に、感情を全くかほとんど示さなかったら、その信用性を傷つけるものと解釈される(注73)。委員会に提出されたエビデンスはDA「神話」を一掃し感情表出の高揚も平たんもトラウマの症状でありうるという理解を促進するために有効な施策が講じられるべきことを明らかにした。

 

回答で信用性についてもう一つ強調されたのは、虐待加害者とされる者の外見や物腰と対照的な場合の、被害者の見かけに関してであった。虐待的な関係での不均衡な力のダイナミクスは、文献でよく伝えられていることである。母親たちの回答で、繰り返し訴えられていたのは虐待加害者がいかに敬意に満ちたイメージを伝えることができるか、それにより信用を得て、それで専門家をして虐待など起こらなかったと確信させることができるかということであった。被害者たちは、彼らのすべての種類の専門家-子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズ、裁判官たち―が虐待加害者に「魅了され」、彼らが虐待者でないと専門家に確信させてきた数多くの例を提供した。

例えば、ある母親は、元パートナーが警察などに働きかけ、彼女の見方では「裁判所で上手に述べ」手続がどう進むか知って、これを彼の有利になるよう用いたと語った。別の母親は、「裁判官の決定は時に、すっかり虐待者へ共感して行われる、それらの決定は虐待者の話し方や服装がどうだったかとか、彼らが裁判所で着けていた仮面を単純に信じ込んだことに基づいている。」と語った。

 

虐待者が落ち着いて、上手に陳述し「合理的」に見えるときに、どのようにして裁判所と他の専門家が一人の虐待者をより信頼性が高いと考えるかをみることは、たぶん容易であろう。母親たちからの回答には、虐待者の、制御され秩序だったプレゼンテーションと対照的に、母親たちの感情的で不調で乱れた訴えは甚だしく不利だと感じたと語るものもあった。しかし、専門家から出た回答には、母親の「不調で乱れた」様子は、虐待を受けた影響が継続しているせいかもしれないし、その虐待者の至近距離にいて、特にそこに適切な保護措置がないということによるものかもしれないと強調するものがあった。

 

これらの専門家からの回答はまた、虐待された女性たちが勝ち目のない状況に直面するだろうことを明らかにした。ウェルシュ・ウィメンズエイドほかは、裁判所で母親が落ち着き、明晰ではっきり発言しても、彼らは裁判官たちから信じられないという回答を寄せた。ウェルシュ・ウィメンズエイドは、これは、彼らの見方によるところの、女性は苦境にあったときどうふるまうかにかかわるジェンダー化されたステレオタイプに基づいて起こっていると述べた。この評価は、母親とその他の専門家からの、虐待被害者と加害者の型にはまった評価には、性差別と階層による偏見(class prejudice)の要素があると繰り返された。これは、例えば、中流階層の職業のある父親であればその証言が不釣り合いに重視される事例に見ることができる。

 

虐待者はしばしば専門家に落ち着いた、確信を得られる態度で対するかもしれないが、これは一般普遍的ではない。回答には、裁判所の建物内で、法廷ででも、言葉でも身体的にも攻撃的になった虐待者の例が数例含まれていた。いくつかの例では、裁判官と裁判所職員がこうした言動の「弁解」をしたと言われた。委員会には、いくつかの裁判で、虐待的な言動が、裁判でコンタクトができないとかコンタクトへの母親の敵意を感じたという欲求不満に出た理解可能な結果として「正当化」されていることが語られた。

 

5.2.4 メンタルヘルス維持の困難

多くのDAの被害者は、女性も男性も、その回答のなかで、彼ら自身と彼らの子どもたちのメンタルヘルにDAが与えた影響について述べている。彼らはPTSDとうつ病の経験に言及した。しかし、幾人かの被害者は、彼らのメンタルヘルスの障壁が、裁判所が彼らを信用しない重要な要因であると思うと述べた。例えば、ある母親は、虐待による彼女のメンタルヘルスへの影響のために、彼女がその経験を他の経験のように理路整然と述べられなくなったと語った。彼女は、信じてもらえないという恐れは虐待を告げるうえで「最大のハードル」であると言った。「女性たちは虐待的な関係から離れた影響のために不安定なんだと思われる。」ほかの母親は、DAを受けて彼女の子どもが経験したPTSDは、代わりに彼女の貧弱な養育のせいにされたと述べた。彼女は、裁判所がDAの主張を吟味しようとはせず、代わりに彼女は、「裁判官が娘のメンタルヘルスのことで私を非難した」と感じたと言った。これらのコメントは、被害者支援組織から提出されたいくつかの専門的回答で繰り返されている。

 

大切なことは、男性のDA被害者からの回答はかなり少なかったが、心理的な不調は、彼らもまた固定観念が信用性の障壁になる領域だと感じていたことである。

 

5.2.5 男性の被害者

DAの男性被害者を支援する組織は、付加的に、男性がDAの被害者になるわけがないという文化的基準や固定観念に関連する障壁をあげた。Mankind-男性被害者を代表する組織である―は、男性被害者が(虐待被害を)主張することの難しさは、:「男性被害者の周りにある社会的な規準と固定的なジェンダー観念が絡み合っていることにあり…このことは、男性が信じてもらえないのではないかという恐れ、どんな主張をしようと家庭裁判所/治安判事に悪意に出たものと見られたり、自分がDA被害者だと述べたときに女性被害者より高度の「証拠/信用可能性」を閾値として求められるのではないかという恐れがあるということだ」としている。男性被害者を支援するもう一つの組織-Family Need Fathers :Both Parents Matter-は、自分が受けている虐待を認識し、虐待の主張をすることに向けた、男性支援と女性支援の格差は、男性が聞いてもらい信じてもらううえで一層の障壁であると述べた。

 

5.3 直近の身体虐待に焦点をあてること

DA、特に威圧的支配を理解していないと、単独の近時の身体暴力に焦点を当てることになる。多数の虐待された母親及び虐待された数人の父親からの回答は、非身体的な虐待をあげることは難しいと伝えていた。被害者が、彼らが経験した非身体的虐待を認識し、それについて語れるようになるには長い時間がかかるかも知れない。被害者に関わり深い暴力を挙げるように言われても、最悪でかつ直近に起きた身体的暴力のことを話すことに集中していることから、非身体的虐待のことを認識し、話すには時間がかかるだろう。ある母親は、「専門家はみんな、事件に深くかかわらないうちに、実際に起こった身体的虐待を探す。情緒的・心理的な影響は完全に無視される」と見ていた。この陳述は母親たちからの回答でいつも裏付けられた。ある母親は「私が会った5人の裁判官は、DAについて殆ど理解しておらず、心理的な影響や継続している支配行動よりも、身体的ダメージ(彼がとびかかってきて殴って来るのが怖かったのか)に焦点があった」と見ていた。またある回答はこの問題をさらにこうまとめている。

 

回答まとめ

加害者はDAを自白し、これらはCafcassの報告書に記録された。しかし、治安判事がその事件で聴き取りをしたとき、その母親は、裁判所がその虐待に関心がなく「私に彼らに見せるような骨折や身体的な傷害がなかったから、虐待という問題を打ち飛ばして片付けようとしていると感じた」言った。彼女の見方では、裁判所はDAの深刻な懸念を衝撃的で危険なまでに見ようとしなかった。彼女は聴取の時、一人の裁判官が加害者とともに「忍び笑い」し彼と結託しているように見えたと言った。結局、彼女は、その裁判官が、「私の元夫の証拠の紛れもない矛盾を見過ごして彼の虐待的な言動を正当化し正常化した」と述べた。こうした結果として、裁判所は「我々の虐待者に、裁判所によって支持されそれ以上の結果から守られていると『効果的に』感じとらせていると感じた」。

 

非身体的虐待の証明も、いくつかの専門家の回答で問題が多いとみられている。

 

「特に身体的暴力がないとか少ない場合は、言動のパターンを描いて示すことが重要かもしれない。」しかし「私たちのメンバーはDAの事件で、子どもたちしか目撃者がいないところで起こることが多いのに、その定義に従ってしっかりした証拠を出すことがいかに難しいことかを強調した。」   裁判官協会

 

身体的虐待へ焦点を当てることは、一部には、心理的虐待の立証を認定することを難しくしているシステムの結果であり、一部には当事者主義的手続の結果であると思われる。虐待の証明は、経済的虐待があるところでは特に難しいかもしれない。

 

回答まとめ

ある母親は委員会に対し、情緒的、経済的虐待の証拠をあげたが、裁判官たちに無視されたと語った。彼女は、身体的虐待はないから事実認定のための聴取をしない決定には同意するが、心理的虐待を止めるため裁判所に力を貸して欲しかったと述べた。しかし代理人を付けた元パートナーを相手に代理人なしで裁判する当事者として、彼女は「注意を向けられず無視されている」と感じた。彼女の事件は3人の裁判官の前で進んだが、そのたびに彼女は裁判官たちが「心理的虐待は無視する」ようだと感じた。彼女は一人の裁判官が「無礼」で、もう一人が「恩着せがましかった」と述べた。

 

以上の回答まとめのように被害者と元パートナーの間で利用できるリソースに差があれば、皮肉なことに経済的虐待に続いて、彼が代理人を立てられるのに彼女は経済的な理由からそれができないために、家事手続になった時により弱い立場に置かれてしまう。このリソースの不均等はDA被害者であった父親たちからの数件の回答でも、元パートナーの代理人と対決するときに法的代理人を立てられないと述べられていた。これらの事案で、形式的にはリソースや法廷代理といった「同じ機会を」与えられたとしても、それで心理的/経済的虐待がきちんと聞き取られるかは確実ではない。委員会への回答は、法的助言と代理、そして裁判所が聴取する証言のタイプについて、多数の、質に関わる事項を示唆している。

 

母親たちの回答から伝えられる共通のテーマは、すべての関係機関、特にCafcass/Cafcassウエールズと裁判所がDAで最近数か月ないし数週間内に起こった出来事にだけ関心をもつということだった。「経緯を連ねた」主張は関連性が薄いものと扱われ、被害者は時に、何年にもわたり続いてきた虐待の累積する影響について語る気力をくじかれ、断念させられてしまう。

 

回答まとめ

ある母親は、委員会に、「私は同じ裁判官に2度あたった。彼は、私を死ぬほど震え上がらせた。彼は、わたしたちの経緯や事件を読むことに関心がなかった。その代わり、彼は法廷の私たちの前で、私たちの事件の書類を振り回して、こんなものは読んでいないが私(母親―訳者注)が悪いと言った。」その裁判官は父親とのコンタクトを命じたが、そのとき父親は、他に用事があるからそんなことはできない、と言った。この母親は、もし裁判官が、父親が過去のことを「見せかけ」ることができるという経緯を読めば、彼女の虐待者が本当はコンタクトなど興味がない、その手続を虐待と支配を継続する手段として使っているだけだということが分かったはずだと考えている。彼女の意見ではその裁判官は、「威圧的虐待、経済的心理的虐待を全くわかって」いなかった。

 

最近の「出来事」に焦点を当てることは、DAを理解していないという懸念につながる。裁判に近い時期の単発の出来事に焦点をあてるのではなく、長期にわたる一連の言動パターンを知ることである。数か月前のことでさえ「単なる経緯」として主張を軽視することは、この問題の本質を深いところから理解し損ねている。特に威圧的支配は被害者の人格と自律性を破壊し、何か月・何年にもわたり持続的に損ねる。ある母親はこれを次のようにみている。

 

「私は自分のソリスターから、裁判官は『父親が家を出たのだから、DAは過去のこと』と考えるだろうと言われた。DAは決して過去のことではない。それは、加害者が家を出ても、今も、これから何年も続くのだ」     母親

 

そして実際、DAが治まっても、その心理的な影響は、むしろ長く続くものである。

5.4 証拠として求められる類型その他の問題

調査は、DAの被害者のうち実に少数の者(20%未満)しかその虐待を警察に通報しないということを明らかにしている(注74)。これには様々な理由があるが、回答は専門家が、警察に通報しないということを本当は虐待が起こらなかったことを意味していると思い込むことに問題があると、明確に指摘した。母親たちからの回答は、彼女たちが、なぜ警察に通報しなかったのかについて問われたり、警察に通報しなかったのだから信用に足りないという印象を強く持たれてしまったと述べている。

 

DA被害者で、健康分野の専門家からの支援を得ようとする者の割合も、身体に怪我をした時でさえ、実に小さい(注75)。大部分の被害者は、非身体的な影響―最もよくあるのは「精神的情緒的問題」であるが―を健康分野の専門家に言わない。それでも、傷害を負ったりそのほかの影響を受けた者のわずかに1/3の者は、主にGPから、医学的関心を向けられ、いくつかの例では精神保健の専門家や精神科治療、時にはA&E局のサービスを受ける(注76)。この調査は、GPsや他の健康分野の専門家から証明の支援を受けられていないことが、信用性の障壁にされてはならないことを示唆している。しかし、警察からの証明支援が得られていないように、被害者は彼らの話が、「独立の」第三者からの補強証拠によって裏付けられないために信ずるに足りないという印象をもたれた。これには問題がある、特にGPが証拠を提供できるところでは。彼らがこれらの怪我や影響がどのように起きたかに関しては証明できなくても、証拠とは通常彼らが処置したり診た怪我に関することだからである。フォーカスグループに所属するある男性被害者は次のように言った。

 

「裁判所の手続はまるで、誰でも何でも好きなことを言える場所のようだった、私は自分の事件を―それはちゃんとした捜査が行われなかったから―証明するというより、自分に対する主張を反証しようとして、苦労して証拠を集めようと歯医者から返信を得たが、そこに書かれていたのは、彼らが争いに巻き込まれたくないということ、彼らが言えるのは私が1本抜歯したがなぜそうなったかは不明というものだった」    男性被害者フォーカスグループ 

 

フォーカスグループの一つに所属する母親たちは、裁判所の関心にむけて警察の報告書以上の他の証拠を提出しようとしたが、その証拠、例えば支援員からの報告書のような証拠は、関連性がないとして退けられたと報告した。しかし、警察からの証拠がある事案でも、関連性があると常には考えられていない。委員会に、幾人かの母親たちは、警察に起こったことを報告したけれども、いざ彼らがこれを家事裁判で証拠にしようとすると、それは退けられたり無視されたりしたと語った。

 

回答まとめ

別居親である父親がレイプと他の性的加害で捜査を受け、警察は警報装置を含む保護措置をとった。しかし、母親は裁判所が「この件をいかなる証拠評価もなく斥けた」と回答した。この母親には、3つ裁判がかかり、最後の1つは元パートナーが、彼女の新しいパートナーが彼女に暴力をふるう(これは彼女が元パートナーについて警察に通報した内容)という虚偽の報告をして起こしたものだった。これは不実である;その母親は、新しいパートナーから虐待を受けたことはなく、こんな訴えをしたことはない(それは警察で証明できることだ)と言った。その母親は、元パートナーによる反論(counter allegations)は実体のないものだったが、裁判所はこれを考慮しなかったと語った。彼女は警察がさらなる虐待から彼女を守る措置をとったら、ちょうどその時に、コンタクトを実施するよう強制されたと述べた。

 

この回答まとめは、サイロワーキング(訳者注:孤立した業務遂行、縦割りにつながる)の危険性を浮かび上がらせている。これはまた、虐待被害者が「勝訴できない」状況も明らかにしている。委員会が述べてきたように、一方で、警察からの証拠は家事裁判で高い価値を認められ、それがなければ否定的に解釈される。他方で、警察の証拠は、今はまだ、それが使える場合に常に共有され、考慮されるわけでない。

ある虐待された母親の父親(訳者注:子の母方祖父)は、家庭裁判所でDAを提起するのに多年にわたり家族で大変な経済的負担を負ったことを語った。この事案で虐待の加害者は警察で働いていたが、このことは、調査が示したように、被害者が支援を受け信用性を得るうえでさらなる障壁になり得る(注77)。この父親は、彼の失望を委員会にこのように語った。:「現在のシステムには、家庭裁判所から刑事裁判へとその逆方向で情報を共有する場がないのです。」

 

機関の間で情報交換が欠如していることは長年問題とされてきた。それに基づき、過去においては、統合的なDVコート導入が試みられたが、今なお、統合がうまくいくには障壁がある(注78)。

 

異なる機関の専門家 は、情報共有への抵抗に関して異なった見方がある。裁判官からの回答は、警察の開示情報を得るための時間が審理の遅れにつながること、裁判所には記録を定期的に再調査するリソースがないこと、そして未解決事件の開示情報に審理の間に触れることに言及していた。これは、プロコンタクトカルチャーや孤立した業務遂行と同様、刑事司法と家事司法双方のリソースの問題である。

 

DAを主張するうえで存在する、多数の他の「手続」障壁が、提供された回答のなかで指摘された。母親たちの回答は、子の処遇命令申立書の作成や答弁時に補足的情報を提出するために、C1A様式(訳者注―DA危害主張用の書式)を見つけ完成する難しさが強調された。適切な支援がないと、記入欄が埋まっているか気づかない母親もいた(注79)。気づいていても、いくつかのフォーカスグループの女性たちからのエビデンスは、その記載が事態を悪化させないか心配して、書類の記載に戸惑ったことを示していた。母親たちと何人かの専門家からの回答は、これらを支持し、そのフォームは虐待の話をきちんと書き込めるように作られていないと注記した。書類の様式は、何が起こったのか短文の説明文を入れる5つの箱を含み、いつその言動が始まり、どのくらい続いたかを示すようになっていて、そのスペースは限られていた。これが虐待被害者のなまの経験を公平にとらえているか否かは、今回の回答で一つの論点として取り上げられた。これは第7章でScott Schedulesに関して記述した懸念と重なるが、長く複雑に絡み合った虐待の経緯を、きちんとした個別の記述に圧縮することは難しく、それ自体がその虐待の過小評価を生じうる。

 

回答で一貫して提起されたもう一つのことは、Cafcass/ウエールズによる安全保護措置の聴取において、虐待の報告のために与えられる時間が全体として足りないということであった。母親たちの回答は、まったく未知の人に話すのにたった30分しかないこと、そして適切なサポートを何も受けずに虐待の話をするよう期待されていることを報告した。聴取は時に、顔を合わせてではなく電話で行われ、虐待被害者たちはこれでは彼らと子どもたちが経験したすべてを語ることはできないと思った。そのフォーカスグループの一つでは、母親たちは「空気中から例を引いてきて」質問され、彼らの恐怖や感情を親しくもなく信頼もしていない人に開示する事態に直面した困難を語った。彼らは、無神経で不適切で反倫理的な聴取のアプローチについて話した。この見方は、家庭裁判所システムで働く数人の専門家から支持された。例えば、司法円卓会議の裁判官の一人は、虐待について語ることはしばしば深刻でストレスのかかる経験だから、当事者は虐待をCafcassに電話で話そうと思う必要はないと言った。その結果、それは書類によってではなく裁判所で行われる。

 

Cafcassの安全保護措置のための聴取の不十分さはリソースの重大な不足を示している。英国の実務家円卓会議で、参加者は、Cafcassが限られたリソースしか有しておらず、その上公法事件を優先するプレッシャーを受けていると話した。その結果、ある範囲の専門家によれば、Cafcassは「しばしば辛抱できず早々と」、理由をあげずしっかりした判断もしないまま、DAはコンタクトに関連性がないと言うとのことであった。Cafcassウエールズはその活動について、一般の実務家からはもう少し好意的なフィードバックを受けたが、そこではリソースの問題は述べられていない。安全保護措置での不適切な聴取の実態は、ウエールズ サバイバーのフォーカスグループからも批判を受けた。

 

5.5 虐待を高葛藤としてでっちあげる

「高葛藤」の関係は、DAのある関係からは徹底して区別されるべきである。多くの例で、威圧的支配の影響について、虐待被害者は虐待者が何年にもわたってしていたことをすべて問題にすることはできない。虐待について被害者が話せるようになるには何年もかかるし、上記の通り、そうなるまでに遅れがあれば専門家には信用性を欠く指標と受け取られる。被害者が、虐待者のコントロールを破ろうとするとき、彼らの抵抗は平等な関係に出たものではない。しかし、「高葛藤」な関係とDAには明らかな違いがあるにもかかわらず、被害者たちと専門家は、彼らが、DAを「高葛藤」とか相互に虐待的な関係であるとでっち上げられ、その結果、解決策は、他方の親の虐待から子どもと成人の被害者を保護することより、相互の紛争減少と親同士協同することの推奨であると考えられた。幾人かの被害者が恐怖したように、そして法的に助言されたように、虐待的な親とのコンタクトで生じるあらゆる懸念を主張することは、共同養育に対する敵意の現れと受け取られた。

 

ある母親は語った。「私は片親引離しと洗脳という虚偽の主張を向けられている一人だが、専門家は本当の被害者を見分けられず、加害者に簡単に操作されてしまう。」

もう一人は言った。「女性たちはしばしば虐待を主張し、それで自分の子どもたちへの監護権を失った。」

 

委員会は、被害者と専門家から、DAの虐待者であることがしばしば「十分良い」親であるか否かと関係しないと思われ、その結果、被害者が虐待を主張する動機が疑惑の目で見られるというエビデンスを受けた。専門家と被害者たちは、被害者は虐待の結果から子どもを守るためというより、他方親に子どもを敵対させたいという熱情に出ていると受け取られると語った。

 

もし、子どもがその虐待者とのコンタクトを望まないと、加害者とその専門家はそれが虐待の結果というより片親引離しのせいだと思うようだ。第6章でみるように、子どもに対する効果的な聴取が行われない結果として、子どもがその虐待者とのコンタクトを望まない理由が正当に理解されず、考慮されない。もっと注意深く子どもを聴取すれば、片親引離しの主張にメリットがあるのか否か、もっとよく理解されるであろう。

 

5.6 虐待主張をすれば虚偽主張と反撃され否定的な結果を被ることへの怖れ

 

DA被害者の回答は、一部の者が、従前の経験に照らして、虐待者が、逆に虚偽主張――虐待、片親引離し、不安定や不適切養育を含む虚偽の主張――を挙げることを含め、ネガティブな結果を被ることへの怖れから虐待の事実を明かさなかったことを示した。

 

何人かの母親たちは、委員会に、虐待者たちが、彼らの信用を損ね虚偽の証拠を作り出すためにしぶとく力を注ぐことについて述べた。

 

回答の要約

ある母親は、元パートナーに対する虐待禁止・占有命令を得たとき、彼が子どもをコンタクト中に、でっち上げの感染症を口実に病院に連れていき、そこで専門家に彼女が情緒的に子どもを虐待していると告げ、その結果、医療報告を得、ソーシャルサービスへリファーさせたと述べた。この母親は、その夫が高等教育を受けた専門家で専門家を容易に操作することができたと述べた。彼女の弁護士はコンタクトの手続で虐待について話さないようにと助言した:「私の事務弁護士solicitorは、このシステムは父親を支援しており、私が彼に関する全部の問題をあげたりすれば、彼の仕掛けた罠にはまり、私が彼に対して引離し敵意を持っているように見られてしまうだろう」と言った。当初虐待を主張しようとした経験に続いて、彼女は「冷静、親切で従順に」と助言されたと言った。彼女は、「あなたが何を主張しても嘲笑される、心から子どものことを懸念しているというより、攻撃的で腹を立てているという風にみられる」と言われ、主張する気力をくじかれたと述べた。

 

上記の要約は、被害者たちが、自身の側の弁護士を含む専門家から、DAの主張をするな、DAの主張をすれば裁判所は否定的な見方をする、片親引離しや共同養育を嫌悪する証拠として使われてしまうと助言されたという報告の一つのイラストである。

 

「ほとんどすべてのサバイバーは、Refugeの調査において、虚偽の反論への怖れが、DA開示の抑止装置として働いていると答えた。あるサバイバーは、加害者が、もし裁判でDAを開示したりすれば、お前をアルコールと物質乱用だと裁判で虚偽の主張をするぞと脅したと述べた。サバイバーたちは、一般に、(加害者からの)反論により、子どもたちとのコンタクトを失うことにつながるのではないかと恐れていた。殆どすべてのsingle staff memberもまた、あるサバイバーたちがDAを裁判で開示することに抵抗する理由として、相手方からの反論をあげた。 Refuge

 

この点、いくつかの専門家報告は、母親たちの経験を裏付けるものであった。DAを受けた女性の支援団体の多くは、彼らの支援する女性たちが、ネガティブな結果を恐れて、虐待の話をしたがらないことを確認した。

 

良質な法的代理とは、被害者が虐待の主張を提起し、虐待的な言動を特定するのを助ける。本照会に先立って行われた調査では、しかしながら、LASPOによる法律扶助の削減は、多数の法律事務所による法的支援の終了を招き、それは被害者たちに家事事件で必要な法的支援には、知識と経験が十分でない弁護士しかいないということを意味している(注80)。これらのある研究では、ある弁護士が、子の処遇の手続でDAの被害者から法的助言を求められたのに、専門家として利用できる対策が少なく、被害者を狼狽させてしまった例がある。これは、個人たちと専門家の一部から寄せられた回答で確認されたことであるが、;法的代理のための公的資金がないと、DAをわかった家族法弁護士からの専門的法的助言にアクセスすることが制限される結果になる。

 

法的代理人になる弁護士のグループのいくつかは、利用可能な法的支援のレベルに何の問題もないとみていた。例えば、子どものための法律家協会は、DA事案で提供される専門知識のレベルについて、概して肯定的であった:「家事訴訟に経験がある弁護士であれば、訴訟の当事者となり得るものに対し、争点や裁判所が関心を持つ問題を理解させることができる」。しかし、多数の虐待被害者には、弁護士費用を負担することができず、ほかに法的代理の経験へのアクセスもない。そして、委員会に提出された回答が示した重要なことは、多くの弁護士がDAと、その親と子どもたちに及ぶトラウマの影響をもっとよく理解する必要があるということであった。

 

委員会は、個人の弁護士から、彼らが経験した子どものコンタクト事件について、多数の回答を受けた。これら回答のいくつかは、弁護士たちがその依頼人にDAの主張をするな、そんなことをすれば裁判所を「怒らせ」、「逆効果」になるからと助言したと告げている。このエビデンスは、一部の弁護士たちが、依頼人にこんな風にDAを過小評価し、あるいは脇に片づけて和解をまとめるよう誘導していることを示している。例えば、委員会に報告を寄せたある弁護士は、次のように述べた。:「被害者はしばしば彼らの弁護士から、虐待のことを話すな、裁判所はそういうことが語られるのを好まず、事案の解決に害になるから、と説得される」と。それが主張されたら、被害者はしばしば裁判所で、それは「みんな過去のこと」と言われたり、「あまりに対決的」とか、あるいは関連性がないなどと裁判所に言われる。母親たちは、虐待について話すと、頻繁に虐待について嘘をついているといわれたり、虚偽の主張をすることでその子ども達を片親引離しにしようとしている、と裁判所に言われる。

多くの母親たちが虐待的な父に敗れて住まいを失っていることから、これは彼らの虐待という主張をすることに大きな抑止装置になっている。

 

片親引離しであるという虚偽主張がなされることへの恐れは、明らかに、被害者が裁判所にその被害経験を告げることを障害する。父親からのいくつかの回答には、DAの主張が、子どもたちから片親を引離そうとして、コンタクトにフラストレーションをためた母親によるでっち上げで誇張されたものだというものがあった。彼らは裁判所が、DAが嘘で誇張されたという主張を十分しっかり審理していないと感じていた。

 

委員会は、加害者が時々片親引離しであるという反論を許され、それを裏付ける証拠がないか殆どない時でさえ、まじめに受け止められていると聴取した。DAや子ども性的虐待より片親引離しの主張の閾値は低いと見られる。法の問題として、証明責任は主張を提出した人が負担することになっており、その証明責任の基準は主張の性質や誰による主張かにかかわらないが、回答によれは被害者が実際の事案でそうは行われていないとみていることを示した。あるフォーカスグループは女性被害者とともに、参加者が片親引離しの例を出したところ、DAの主張で却下され虐待者と呼ばれた者のところへ居住を移す結果になった。フォーカスグループの母親たちは、母親たちの回答はより一般的に、父親の反論が母親たちを嘘つきとして扱い、居住を失うぞと脅す意味を持つと感じたと語った。

 

家族法弁護士協会(The Family Law Bar Association)、英国専門家円卓会議は、裁判所が、他方の親に対し虚偽の虐待の主張をした親が子どもを情緒的に虐待していたことを認め得た少数の事案から引き出した困難点をあげた。しかし、文献レビューが示すように、これらの事案は母親たちが片親引離しという虚偽の主張を恐れる大多数の事案に比較して、とても少数である。母親と何人かの専門家は片親引離しに関する「専門家」証言の問題も提起している。彼らは、このような「専門家」の信用性は、子どものための法律家協会が強く反対しているにもかかわらず、裁判所で毎回は審査されないと感じていた。ウィメンズエイド英国連盟は、彼らの視点から、裁判所が専門家証言を受け入れるのに、片親引離しとDAで違いがあり、前者では証言を許容するが、後者では許容しないと回答した。何人かの母親たちと支援組織は、裁判所のDAの主張と片親引離しの主張へのアプローチは女性蔑視で差別的であると主張した。

 

男性加害者のフォーカスグループはこの照会に応えるために実施された。これらグループに参加した男性の加害者は、虐待が母親と子どもに与える影響が限定的であるかのように見せてはいたものの、彼らが虐待的にふるまったことを時に認識していた。文献レビューが示すように、加害者たちはしばしば、被害者を責め、子どもがコンタクトを嫌がることを彼ら自身の言動を見た結果と見るより母親の影響だと非難することで、虐待を過小評価し正当化する(注81)。しかし、委員会は、加害者プログラムを終了した後その虐待の影響を正しく認識した男性と認識しえた男性から、彼らの言動から女性たちと子どもたちを保護する必要があったと聞いた。これらの男性たちのある者は、子どものころDAを経験したサバイバーであるが、裁判手続や国のカリキュラムで初期の教育に協力的で、そこで彼らは、被害者を責めるより彼らの虐待的な言動をより早くに正しく理解することで救われると話した。

 

5.7 子どもの性的虐待の主張

多数の母親たちは、委員会に監護の取決めの手続で子どもの性的虐待を主張しようとする際の困難について語り、これは、性暴力を受けた女性と子どもの支援団体の回答で裏付けられた。子ども支援団体であるBarnardosは、進行しているトラウマが子どもへの性加害で引き起こされたこと、そしてそれが否定的な評価をもたらしていることがほとんど理解されていないことが、子の処遇手続での被害者とその供述の信用性を決定づけていると述べた。

 

これらの回答は、一部の専門家の間で虐待への子どもの反応に関する理解が欠けていることを指摘した。専門家が応対するときには、子どもたちが実にしばしば、独立の第三者には性的虐待を開示したがらないことが留意されている。しかし、もし開示の相手が非加害の同居親だけであると、これは信用されないと、個人と団体からの回答がともに懸念している。彼らは、独立の第三者への開示がないことが子どもの性的虐待を裁判所で認定してもらう障害になる、と示唆する。虐待された女性たちは、子どもの性的虐待を「妄想した」と責められたと述べた。

 

いくつかの回答の視点からは、子どものソーシャルケアは子どもに対するDAの直接の影響を過度に重視し、大人に対するDAの影響、これが子どもに及ぼす間接の影響と、子の処遇事案における重要性について正しく理解していないように思われるとされた。加えて、委員会への回答は、子ども期の性的虐待とその後の累積する虐待が、成人後DA被害を開示できる力や、司法システムが彼らを信じると思えるかに影響を及ぼすことを挙げた。例えば、ウェルシュ・ウィメンズエイドは、子ども期性的虐待のサバイバーであるDAの成人被害者がDAを開示しないのは、以前無視された経験によるものだとしている。

 

5.8 複合的な構造的困難

5.8.1 黒人、アジア系および少数民族(BAME)の被害者

DAを受けた黒人、アジア系および少数民族の女性の困難は、文化的ステレオタイプにより複合的になる、この点は文献レビューで裏付けられる(注82)。South BLACK SISTERSは彼らの見方として、「虐待被害者に向けられる、継続して普及している文化としての不信、冷淡と敵意」があると述べた。黒人、アジア系および少数民族の女性は、その経験を特別なものにするいくつもの要因―DAを辛抱するよう、そして外でそれを話さないように社会適応させられ、家族(多様な家族メンバーが虐待を共謀し参加する)の中で孤立させられ、追放されることを恐れることを含めて―を強調した。その障壁は、黒人、アジア系および少数民族の女性が白人の加害者から虐待を受ける関係に置かれたとき拡大される。

 

回答要旨

ある母親は、そのパートナーからのDAの長い経緯を語った。彼女は、黒人、アジア系および少数民族の背景を持っていて、英語は彼女の第一言語ではなかった。これに対し、パートナーは白人で、高等教育を受け、裕福であった。彼女は何度も警察を呼んだが、彼女のパートナーはいつも反撃の主張をした。彼女の法的システムの経験は、彼女を守ってくれないというものだった。刑事司法手続と子の処遇手続の両方に助けを求めた後、彼女は家族の家に帰るよう強制された。彼女は言う、「システムはあなたを信じない」、彼女は「あなたを保護することが何も行われず、加害者があなたをこの上もっと罰するかもしれない恐怖」であきらめさせられた。彼女は、裁判所は彼女の文化や子どもたちが両方の文化的伝統を身に着ける必要性について、ほとんど理解していなかった、と述べた。

 

この回答要旨は、この章であげたテーマがいくつも交差すること――一つのシステムで提出された証拠がほかで共有されないとか、この被害者が感じたステレオタイプが人種差別、女性差別、階層偏見を混合したものであることを含めて――を示している。一人の教育を受けず、少数民族の女性として、彼女は深刻な失望を味わった。これは一例だけのことではない;その他個人と、黒人、アジア系および少数民族の女性のフォーカスグループからの回答は、多数の類似の話を提供している。

 

5.8.2 田舎に暮らす被害者

委員会は、被害者が孤立した場所に住んでいると、支援にアクセスしにくかったり、虐待的な関係から逃れるキャパシティが少なかったりするというエビデンスを得た。これは、彼らが子どものコンタクト手続で直面する困難を増す。例えば、なぜ彼らが虐待的な関係にとどまるのか、なぜ通報が遅れたのかに関する思い込みは、彼らに不利に用いられる。すべての被害者に影響する同じ思い込みのいくつかは、この田舎に住んでいる被害者というグループの間でもはっきりあったが、他方で、こうした思い込みの影響は、一部専門家の間にある、孤立した場所の虐待被害者が直面する特殊な障壁への無理解により、さらに増幅され悪化する。

 

5.9 結論

DAの訴えをする最初の障壁の一つは、虐待被害者が虐待を受けたと正しく理解しなければならないということである。しばしば、非身体的虐待の被害者がそれを認識するのに長い時間がかかる。

 

ひとたび虐待が被害者に認識されたら、それは彼らが子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズや裁判所に虐待を訴えるとき、孤立を感じずに済むことにとても役立つ。信じてもらえないのではないかという不安は、被害者にDAの訴えを止めさせる重要な要因になっている。しかし、そういう不安は、適切な支援と法的助言によって和らげることができる。

 

DAを証明することは多くの被害者にとって難問である。最近の身体的虐待の出来事に焦点を当てることは、「経緯historical」の主張を過小評価することであり、虐待の完全な姿を提供することの深刻な妨げになる。異なるシステムの間で情報共有しないことは、さらなる障壁を作り出す、委員会は、刑事裁判からの証拠が利用可能な場合でさえ、それが必ずしも考慮にいれられなかったと聞いている。

 

母親たちと彼らを支援する組織は、DAの主張を出すことを、相手方の片親引離しとか共同養育への敵意であるという反論への恐れから、思いとどまされたことが述べられた。委員会は、それが、時には、母親自身の弁護士からのこういう理由による助言で断念したことを聞いている。DAが「高葛藤」と呼び変えられたというエビデンスもあった。

 

この章で提起された数多くの問題は、様々な専門家がDAとその影響について不適切な理解をしていることが実証されている(注83)。特定の言動に関する思い込みや、DAの「現実の」被害者に対する「神話」の問題は、虐待の主張を提起し証明することの双方に立ちはだかる障壁であると考えられる。いくつかの回答には、こうした思い込みが、性差別、人種差別、階層への偏見に基づくとみているものがあった。男性被害者が思い込みにより不利を感じるという例があったが、この照会では、女性たちからの回答が支配的であった。

 

何人かの被害者たちは、裁判官たちが彼らに時間を与え、よく支援されたという積極的な経験をしていた。しかし、女性と男性の被害者の経験を全体としてみると否定的で、積極的な経験といえば、たまたまよくわかったCafcass/Cafcassウエールズの担当者や裁判官に出会うという運によるものであった。第11章では、委員会は、この章で上げたDAの主張を思いとどまらせる障壁、信用性判断への障壁への対応に向けて、一連の勧告を行う。その勧告には、DAへの感度をあげること、支援サービスの利用可能性を高めること、専門家の研修、刑事裁判と家庭裁判所の私法上の子の処遇手続のアプローチをコーディネートすることに関する勧告も含めることとする。

 

 【注】

(72)literature review, section7.2.

(73)L Ellison and V Munro82009) ’Reacting to rape: Exploring mock jurors’ assessments of complainant credibility’, British Journal of criminology49(2):202-19.

(74)Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(75)Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(76) Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(77)HMIC, Everyone's Business: Improving the Police Response to Domestic Abuse(2014).

(78)M Hester, J Pearce and N Westmarland, Early Evaluation of Integrated Domestic Violence Court, Croydon(2008)

(79)C1Aの方式がthe onlineC100 serviceに統合されていることに留意。

 

(80)アムネスティ・インターナショナル、Cuts that Hurt: The Impact of Legal Aid Cuts in England and Wales on Access to justice(2016)、 p22.Rights of Womenにより行われた調査は、調査された女性のおよそ3人に1人が法的支援をする弁護士を見つけることに困難があり、法律扶助の削減は専門家であるソリシターをもはや利用したりアクセスすることができなくなる結果をもたらしたことを明らかにした。:Contemporary Challenges in Securing Human Rights(2015)の99-104にあるS Shah、 ‘The impact of legal aid cuts on access to justice in the UK’。委員会は、この調査に続きthe Legal Aid Agency(LAA)が新しい民事法律扶助の提供を行い、新しい契約のもとで助言を提供する事務所の数が11%増えたことに注目している。DAと子ども虐待事案で助言を受ける人々の数は同期―2015-16の会計年度においてLAAはこれらの事案で5935件の民事代理の証明を行ったが、2018-19の会計年度においてはこれは10400件に増加したーを大きく上回っている。しかし、提供者の間の経験、知識と専門性のレベルが回復したかどうかは不明である。

(81)Literature review section 6.3; L Harne、 Violent Fathering and the Risk to Children(2011).

(82)Literature review section 5.2.1; R Thiara and A Gill、 domestic Violence、 Child Contact、 Post-separation Violence: Experiences of South Asian and African-Caribbean Women and Children(2012).

(83)こうした理解の欠如には深刻な影響があり得る;例えば、専門家がDAを見つけ理解することができないことは家庭内殺人の根強く突出した要素と考えられている。: Home Office、 Domestic Homicide Reviews: Key Findings from Analysis of Domestic Homicide Reviews(2016).

【長谷川京子】