UK司法省報告

UK司法省報告

面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書 目次

                                  英国司法省 / 2020年6月

 

面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書

~子どもと親の安全・安心の観点から~

最終報告書

訳:離婚後の養育法制研究会

 

Assessing Risk of Harm to Children and Parents in

Private Law Children Cases

Final Report

 

Assessing risk of harm to children and parents in private law children cases - GOV.UK (www.gov.uk)

 

 

 

 

 

 

目次 (Contents)

要旨 (Executive Summary:3)

第1章 共同代表によるイントロダクション(Introduction from the joint chairs:13)

第2章 委員会における作業の進め方について(2. How the panel went about its work:15)

第3章 法的枠組(3. The Legal Framework:25)

第4章 ドメスティック・アビューズ(DA)その他の危害リスクを扱う難しさ

   (4. Challenges in addressing domesticabuse and other risks of harm:39)

第5章 DAの主張と立証(5. Raising and evidencing domestic abuse:48)

第6章 子どもの声(Children’s voices)(6. Children’s voices:67)

第7章 申立への対応方法(7. How allegations are dealt with:84)

第8章 法廷での安全と経験(8. Safety and experiences at court:108)

第9章 裁判所の命令(9. Orders made:131)

第10章 裁判所の命令により生じる危害(10. Harm arising from family court orders:148)

第11章 勧告(11. Recommendations:171)

 

Annex A: List of Acronyms:188

Annex B: Review of Case Law:190

 

 

Authors

• Professor Rosemary Hunter FAcSS, University of Kent

• Professor Mandy Burton, University of Leicester

• Professor Liz Trinder, University of Exeter Panel Members

• Melissa Case & Nicola Hewer, Director of Family and Criminal Justice Policy, MoJ (Joint Chairs)

• Neil Blacklock, Development Director, Respect

• Eleri Butler, Chief Executive, Welsh Women’s Aid

• Lorraine Cavanagh QC & Deirdre Fottrell QC (joint representatives), Association of Lawyers for Children

• Mr Justice Stephen Cobb, Judiciary

• Nicki Norman, Acting Chief Executive, Women’s Aid Federation of England

• District Judge Katherine Suh, Judiciary

• Isabelle Trowler, Chief Social Worker for England (Children & Families)

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要旨

1.      本報告書は専門家委員会の最終報告であり、エビデンスの照会(call for evidence)から得られた結果を反映している。これは、専門家、親、家庭裁判所の経験を有する子らとともに開催された円卓会議やフォーカスグループの他、イングランドとウェールズの個人と団体からの1200を超える回答を踏まえて行われた。エビデンスの大部分は、ドメスティック・アビューズ(domestic abuse・以下「DA」という。)に意を用いて得られたものである。

 

2.      本最終報告は、子の処遇(arrangements)に関する父母間の紛争を伴うケース、すなわち「私法上の子の手続」(private law children proceedings)として知られるケースにおいて、家庭裁判所がどの程度効果的にDAその他重大犯罪に関する主張を識別し、これに対応しているかの理解を提供するものである。

 

3.      本報告書は、こうした手続に関与した当事者及び子にとっての過程及び結果に関して認定するものであり、DAの被害者を含め、私法上の子の手続における個人的経験を有する者からの個別の回答から結論を導き出している。委員会は、個々のケースの記録を検証することはできなかったが、エビデンスの照会、円卓会議及びフォーカスグループから得られたエビデンスは、文献のレビュー及び関連する裁判例のレビューで補われている。

 

4.      委員会は、家庭裁判所の司法制度(第11章)により今後採られるべき方策について幾つかの勧告を行っており、それは以下のとおり要約される。

 

なぜ変化が必要なのか

5.      日々、社会で最も脆弱な人の一部は家庭裁判所に救済を求めており、そこでは多くの場合非常に感情的なケースにおいて困難な判断が下されている。したがって、システムが彼らをさらなる危害やリスクから保護することができることが不可欠である。

 

6.      1989年児童法(the Children Act 1989)に規定された法的枠組においては、裁判所は、子の福祉に優先的考慮(paramount consideration)を払うことを求められる。それにもかかわらず、委員会に提出されたエビデンスは、私法上の子の手続における子及び被害者の親の主張と証明された危害に対し、家庭裁判所の制度がいかにそれらを認識し、対応しているかについて、継続的な課題があることを示している。

 

7.      委員会は、家庭裁判所の制度において一層増加するプレッシャーの下に働く人達から、優れた実践例や意志を認識する一方で、子どもや成人の双方に対する危害がいかに識別され、管理されるかに影響を及ぼすと認められた、根深い体系的な問題を明らかにした。

 

虐待その他重大な犯罪への対応における課題

8.      エビデンスの照会に対する回答者は、家庭裁判所が、私法上の子の手続においていかにDA及び児童の性的虐待に対応しているかについての懸念を提起した。

回答は、虐待が体系的に過小評価されているという感覚を強調し、それは、子どもの声に耳が傾けられていないこと、主張が無視され、却下され又は信用されないことから、リスクの評価が不十分であること、トラウマティックな裁判所のプロセス、安全でないと認識されている子の処遇、そして虐待者が訴訟を繰り返すことや訴訟を繰り返すという脅迫を通じ継続的な支配権を行使していることにまで及ぶ。委員会は、それらの問題は、検証の対象となった証拠をめぐる、次のような重要な課題に支えられたものと認定した。

·      リソースの制約: 資源の利用可能性が私法上の子の手続の需要の増大に対応するには十分でなく、より多くの当事者が代理人をつけずに裁判所に申立てを行っていること。

·      プロコンタクトカルチャー(pro-contact culture): 回答者は、裁判所が別居親とのコンタクト(contact)を実施させることを不当に優先したと感じており、その結果、DAの主張が体系的に過小評価された。

·      サイロワーキング(Working in silos 訳者注:孤立した業務遂行、縦割りにつながる): 回答は、刑事司法、子の保護(公法)と私法上の子の手続との間のアプローチと文化の違いと、家庭裁判所と他の裁判所及び家庭と協力する機関との間のコミュニケーションと調整不足を強調し、これが矛盾する決定と混乱を招いた。

当事者主義的構造(adversarial system):DA、児童の性的虐待及び自己代理に係る事件において、親たちはしばしば対等な立場にないまま、対立的構造に立たされ、子の関与もほとんど又は全くない。

DAの提起及び立証

9.      回答から得られたエビデンスは、一般に、被害者がDAの問題を提起するのに多くの障壁に直面し、その多くは、上記の問題と重複し、かつ、次に掲げる事項も含むものであることを示した。

·         子の処遇のケースにおける裁判所と専門家のプロコンタクトカルチャー: 回答は、DAがとる様々な形態についての理解不足、子と被害者の親への虐待の継続的な影響の理解不足、システマティックな虐待の過小評価又は否定、そして強力な吟味なしでの反論の受入れを強調した。

·         虐待の証拠: 被害者は虐待を証明する困難さを報告し、それは特に、単一事件や直近の身体的虐待に焦点が当てられ、「理想的な被害者」がどのようにふるまうべきかというステレオタイプな見方に直面する場合である。

·         サイロワーキング: あるシステム、例えば刑事裁判所において虐待が認定された証拠があるが、それが家庭裁判所では認識されないか、又は実質的に考慮されないことに帰結しうる。

 

10.  DAを提起するにあたっては、特に黒人、アジア系および少数民族(BAME)のバックグランドを持つ被害者にとって障壁がある。被害者や彼らを支援する専門家は、これらの障壁を、性差別や階級偏見に加えて、人種差別が関わっていると認識した。また、男性の被害者は特定の障壁に直面しており、一部の回答者は、「リアルな」被害者に関する固定観念が、信じてもらうための障害となっていることを強調している。

 

子どもの声

11.  調査及び回答から得られたエビデンスからは、DAの主張が提起された場合に、子どもの声に耳が傾けられず、又は様々な方法で沈黙させられていることがあまりに多いことが示されている。子どもの大部分は、家庭裁判所の手続に直接関与せず、父母又はケアラー(carere(s))に彼らの意見を代弁することを委ねられる。子どもの見解を有効に伝達することができるためには障壁が多く、委員会には以下のとおり強調された。

·         制限された時間: 回答は、子どもと過ごす時間を最大限にすることは信頼関係を築く上で重要であると指摘しているが、専門家の時間は限られており、相談が行われる場合には、通常、短時間であると報告されている。

·         フォローアップの欠如: 回答は、ひとたび裁判所の命令がなされた場合には、子どもはほとんど相談されることがないと述べており、多くの場合、彼らは有効かつ安全に機能しないであろう取決めとともに捨て置かれることになる。

·         リソースの欠如: 不適当なリソースは、子どもの手続への関与を妨げることになる。

·         プロコンタクトカルチャー: 回答は、選定的聴取(selective listening)を行う過程を明らかにしており、それにより非同居親と交流することを希望する子どもの声に耳は傾けられても、交流を希望しない子どもの意見は聞かれないか、又はその意見を変更するよう圧力をかけられる。裁判所の命令については、特定の状況にかかわらず、多くの場合子どもが虐待を受けるおそれのある親と共に過ごすことを優先させると報告された。

·         サイロワーキング: 回答は、裁判所は多くの場合、子どもとの密接な関係を確立し、個々の事情をより深く知り得る機関と実効的に関わっていないことを強調した。

·         複雑性: エビデンスは、子どもの見解を適切に理解し、代弁することは、子どもは様々な影響に晒されることが多く、そのうちには矛盾するものがあり得、難しいものとなり得るとしている。これには、時間とスキルの双方が必要となる。

 

12.  エビデンスにより、手続において意見を聞かれない子どもに著しい支障を及ぼすことも示された。子どもは、心情を傷つけられ、権威を疑うような心情を残し、子どもの否定的な経験によって裁判制度への信頼が損なわれ得るものである。

 

主張の対応のされ方

13.  2010年家事事件手続規則(Family Procedure Rules 2010)の実務指針(Practice Direction 12J) (PD12J)は、子の処遇のケースにおいてDAの主張がされた場合に裁判所が取るべき措置に関する詳細な指針を規定している。エビデンスは、PD12Jが意図された通りに機能しておらず、一貫性なく実施されているという懸念を提起した。

 

14.  これには以下の懸念が含まれる。

·         プロコンタクトカルチャー: 親の関与の推定、及びDAの主張がどのようなときに関連すると考えられるかに関する決定。

·         当事者主義的構造: 事実認定(Fact-finding)の期日の実施、及び公平性の認識。

·         リソースの欠如: 事実認定の手続及びリスク評価の質、裁判の継続性の欠如、法的アドバイスを得ずにPD12Jの複雑性に直接対処しようとする紛争当事者にとって重大な困難をもたらすことに影響する。

·         サイロワーキング: 事実認定と他の手続との連携の欠如に帰結する。

 

裁判所における安全と経験

15.  DAを受けた被害者にとって裁判手続の経験は、DAを受けた結果として経験したトラウマのほか、身体的安全に対する懸念により影響を受ける。この場合の結果にかかわらず、通常被害者は裁判所で安全とは感じないと報告し、提出されたエビデンスでは、被害者は裁判手続を再びトラウマをもたらすものであることが多いと考えていたことが示された。

 

16.  私法上の子の手続における各段階(裁判所に行くこと、裁判所建物自体の中、法廷内、繰り返される申立に応じるために裁判所に出頭すること)により、以下を含め、それ自体に特定の安全に関する問題を提起したことが報告された。

·         身体的安全: 多くの回答者は、家庭裁判所における手続は、適切な特別措置が講じられなかったことが多く、脅迫や身体に対する攻撃を受けやすい被害者が放置されることになると述べた。

·         精神的健康(well-being): 被害者は、手続に関与し、経験を証するエビデンスを提出することにより、再びトラウマを感じるおそれがある旨報告したが、これは現在、適切に対処されていない。

·         自ら出頭する紛争当事者: 自ら出頭する当事者に関する影響は、安全に関して特に大変な状況にあると認識されており、それは彼らが利用可能な手段及びこれを規定する準則に関する知識を持たず、かつ、それらの者に対し特別措置を求めることのできる法律上の助言が得られないためである。

·         直接反対尋問: 被害者は、虐待者が代理人を付けていない場合に虐待者による反対尋問の可能性、又は、彼ら自身が訴訟当事者である場合に虐待者に対し反対尋問しなければならないことに直面する可能性がある。

 

17.  1989年児童法第91条(14)の規定(申立禁止命令)の下になされる命令は、子の処遇命令を求める反復申立による被害者に対する一層の虐待から被害者を保護するためには、効果がないことが示されている。長年のケースローではこれらの命令は例外的であることが確立しており、命令を得る基準はあまりに過度であると認められ、他方、命令が発せられた場合の取下の基準があまりに低いという結果をもたらしている。

 

命令

18.  DAその他重大犯罪に係る事件について裁判所がする命令は、既に述べた体系的問題のもとで発せられる。これらの問題は、今後は、家庭裁判所による子の処遇命令の発し方において4つの主要な問題を生じさせるものと考えられる。

·         子はコンタクトをすべきこと: 手続の一部として虐待を主張した親及び彼らの支援に従事する専門家からの回答は、ほとんどのケースにおいて、何らかの直接交流がなお命じられるおそれがあると報告した。

·         コンタクトを進めるべきこと: 委員会が受け取ったエビデンスは、裁判所が直接交流に制限を命じた場合、その目的は、通常、無制限に交流するための「進歩」(progress)であると思われることを示した。回答は、DA加害者プログラム(DAPPs)のような介入や監視付きコンタクトサービス(supervised contact services)は、直接交流するための足掛かりと見なされ得ることを示した。

·         共同養育(co-parenting)を推進すること: 個々の事情にかかわらず、DAについて最も重大な主張が提起された場合においても、裁判所は父母が共にコンタクト処遇(contact arrangements)を促進できるように期待していたと、多くの回答者は報告した。

·         裁判所へ依存しないよう推奨されること: 回答及び従前の調査からは、コンセント命令(consent order)が日常的に出されることが示されている。虐待を受けた被害者は、安全でないと考える場合であっても、その命令に同意するようプレッシャーをかけられていると感じている。レビュー・ヒアリング(review hearing)は、その命令の機能及び安全に関する確認をするかもしれないが、あまり推奨されず、ほとんど実施されない。

19.  PD12Jにもかかわらず、回答者は、DAの特徴のあるケースとそうでないケースとの間で、命令においてほとんど差がないと感じていた。裁判所は、ほとんど常に何らかのコンタクトを命じ、多くの場合無制限に、そして虐待したとする者にその行動に対処することを要求しないのが通常であった。

 

家庭裁判所の命令による被害

20.  回答者は、裁判所の命令により、虐待したとされる者によるDAの子ども及び成人被害者に対する継続的なコントロール、及び被害者と子どもの継続的な虐待が可能になったと感じた。多数の資料は、この虐待が子どもの現在及び将来の関係に悪影響を及ぼし、身体的、感情的、心理的、経済的及び教育的な害悪を表すという長期的な影響を明らかにした。

 

21.  多数の回答者は、家庭裁判所における手続を経て、回答者及び子どもが経験した虐待の程度が悪化したと感じた。家庭裁判所の命令により、継続的な虐待を報告しようとする努力が刑事司法及び児童福祉機関(child welfare agencies)に拒絶的に扱われたという懸念がある。さらに、回答者は、虐待を受けた子が虐待をした親と交流をすることを余儀なくされたと感じたというネガティブな影響と、加害者がその行動を変えることにほとんど期待できない一方で母子がコンタクト命令に従うよう負担を強いられたことも強調した。

 

22.  多くの回答者は、虐待をした親と交流することによる長期にわたる子どもに対するネガティブな影響が、その親との継続的な関係の価値を著しく上回っていると感じていた。

 

進むべき道

23.  委員会が提出した勧告の全リストは報告書第11章において見ることができるが、次のとおり要約する。

 

24.  委員会は、この勧告により、裁判官、弁護士、Cafcass、Cafcassウエールズ、その他家庭裁判所の司法に関わる専門家が、私法上の子の手続において最善の可能性に取り組むことを可能にし、とりわけ、DAを経験した子どもと親に利益をもたらすことを望む。

 

25.  勧告は、法改正から研修の改善にまでに及ぶ。司法省は、家庭裁判所の司法システム全体にわたるパートナーとともに、その勧告を推進するとともに、これに併せて実施計画に定められた事項に取り組むものとする。これには、子の処遇のケースにおいて調査的アプローチを試験的に行い、地域と機関との連携の改善を図るとともに、子どもの声の傾聴を増進し、研修の充実を図るとともに、より一般的に、私法上の子の手続について新たに設計される原則の導入を含めることができる。

 

勧  告

1.   概要

·         委員会で得られたエビデンスは、文献的レビューを踏まえ、家庭裁判所が虐待その他重大な犯罪に対する一貫して実効的な対応を可能にする能力に関し、四つの障壁があることを示すものである。

·         裁判所のプロコンタクトカルチャー

·         当事者主義的構造

·         私法上の子の手続のあらゆる側面に影響を及ぼすリソースの制約

·         家庭裁判所がサイロで機能し、DAに対処する他の裁判所や団体との連携を欠くこと

 

2.   家事裁判制度の設計原則

·         私法上の子の手続についての基本的な制度設計の原則は、次のとおりであるべきである。

·         危害からの安全と保護のカルチャー

·         調査と問題解決のアプローチ

·         十分かつ生産的に利用されるリソース

·        異なるシステムの部分間でより有機的なアプローチを取ること。

·         手続は、子ども、訴訟当事者、DAその他の重大な安全上の懸念を中心的な考慮事項として、設計される必要がある。

 

3.   実務指示書(statement of practice)

·         実務指示書は、DAその他重大な犯罪に係る事件について、統一的かつ倫理的な方法を確保するために提案される。

·         委員会は、家事部長官(President of the Family Division)を招待し、実務指示書を促進し、それを子の処遇のプログラムに組み込ませる。

 

4.   親の関与の推定に関する検証

·         1989年児童法のセクション1(2A)における親の関与の推定の検証は、その有害な影響に対処するために緊急に行われる必要がある。

 

5.   子の処遇プログラムの改革

·         家庭裁判所は、私法上の子のケースにおいて、すなわち安全に焦点を当て、障害を認識し、問題解決のアプローチをとる、改革された子の処遇プログラムを試験的に実施し、実行すべきである。

·         子の処遇プログラムには、濫用的申立を識別し、サマリー・コンクルージョン(summary conclusion)に至るまで迅速に管理するための手続を組み込むべきである。

6.   子どもの声の強化

·         委員会は、子どもの意見聴取のための選択肢の範囲を、子の代理、代表、支援とともに、改革された子の処遇プログラムを策定し、試験的に実施する作業の一環として、より完全に探求することを勧告する。

 

7.   裁判所の安全及び保安

·         DAの被害者に対する刑事裁判における特別措置に関すDA法案(Domestic Abuse Bill)の規定は、家庭裁判所にまで拡張されるべきである。この法律は、DAに係るエビデンスがある事件又はDAを手続の対象とする家庭裁判所の手続において、直接的な反対尋問を禁止するように改正されるべきである。

·         家庭裁判所の手続に関与する成年者及び子を保護するための主要な権利体制は、事前訪問(familiarization visits)及び安全・保安の侵害に対する確実な対応を含むように、司法省 Code of Practice for Victims of Crimeをもとに、整備されるべきである。

·         申立禁止命令: DA法案には、第91条(14)の規定による命令にとって「例外的であること」の要件を取り消す措置が含まれるべきである。この措置は、1989年児童法第91条(14)の規定を修正し、改正し、又は補充するものとする。

·         委員会は、特別措置の規定及びDAの被害者に対する専門家の支援の確保について更に勧告する。

8.   連絡調整

·         全国及び地方のレベルにおいて、それぞれの地域にわたる連絡調整、継続性及び整合性のとれた機能を担う体制が整備されなければならない。委員会は、家事部長官の管理の下に、国の水準の機構が置かれるべきものと思料する。国家的メカニズムとプロセスを実行する地方レベルの処遇は、指定家庭裁判所裁判官(Designated Family JudgesDesignated Family Judges)に監督されるものとする。

·         当事者が法律上の援助を受けず、かつ、自らこれに充てることができない場合における警察開示の実施については、家庭裁判所及び政策担当者(policy representatives)とともに、緊急の配慮をなされなければならない。

 

9.   リソーシング(Resourcing)

·         委員会は、子の処遇プログラムの改定案と併せて、多くの分野への追加投資を勧告する。

·         私法上の子のケースに関して利用できる裁判所及び司法資源(これらのケースの審問をしその職務を効果的に行う人たちに対する行政上及び福祉上の支援を含む。)

·         CafcassとCafcassウエールズ

·         家庭裁判所の資源

·         法律扶助

·         専門的審査等に係る資金

·         イングランド及びウェールズのDA法加害者プログラム

·         監視付きコンタクトセンター

·         私法上の子の手続における親に対するDAに関する教育上及び治療上の規定

·         専門家によるDA及び児童虐待の支援事業

 

10.  DA加害者プログラムの見直し

·         DAPPsがDAの影響を受ける子どもと家族の被害軽減に効果的に重点を置いていることを確かなものとし、DAPPsが委員会により勧告された基本的な設計原則で支えられることを確実にするため、DAPPsの現行規定の検証を行う。

·         DAPPsは、イギリスとウェールズでより広く利用可能であるべきであり、私法上の子の手続において親に自己照会(self-referral)することを可能にすべきである。

 

11.  トレーニング

·         委員会は、家庭裁判所の司法制度のすべての参加者に対し、以下を含む幅広いトレーニングを勧告する。それには、私法上の子の手続に改革を導入し及び組み込み、一貫した実施を確保するのに役立つカルチャー変革プログラム、及び改革された子の処遇プログラムの効果的かつ一貫した実施に必要な知識の重要な分野のリストが含まれる。

·         委員会は、一貫したアプローチを確保するため、家庭裁判所の司法制度における全ての専門職と機関において多分野で実施されているトレーニングを考慮すべきことを勧告する。

 

12.  ソーシャルワーカーの認証評価

·         委員会は、ウェールズにおける私法上の子の手続でアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、Group 3 Violence Against Women, Domestic Abuse and Sexual Violence National Training Framework standardでDAについて研修を受けるべきであることを勧告する。

·         委員会は、イングランドにおける私法上の子の手続でアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、国家の正式認可を受けた子どもと家族に関わる実務家であるべきであることを勧告する。

·         委員会は、ウェールズにおける認可トレーニングの内容及びイングランドにおける認証評価は、必要な知識とスキルが十分評価されることを確保することを支援するため、DAの専門家によって検証されるべきことを勧告する。

 

13.  監視・監督

委員会は、以下のとおり勧告する。

 

·         DA、児童の性的虐待及びその他の保護措置に係る事件に関する行政情報の一貫した総合的な収集方法の整備及び実施私法上の子の手続において、DA及びその他重大な害悪を受けている子どもと被害者を保護するに際し、家庭裁判所の状況の監視を維持し、定期的に報告するため、Domestic Abuse Commissionerのオフィス内に、国家的な監視チームを設置する。

·         地方のラーニング・レビュー(learning reviews、イングランド)、子のプラクティス・レビュー(ウェールズ)及び家庭内での殺人に関するレビューにおいて、家庭裁判所が関与し、当該家族が私法上の子の手続において関与すること。

 

14.  更なる研究

法務省は、DA、児童の性的虐待又はその他の重大な犯罪の主張が提起された場合に、現行のCAP、PD12J及び第91条(14)の実施に関する独立した、体系的で遡及的な調査研究を委託すべきである。

「Child Safeguarding Practice Review」委員会は、ベースラインを提供するため今後12か月の間に、また、改革後2~3年のフォローアップを実施し実務状況を検討するため、私法上の子の手続におけるDAのケースの法定の国内慣行に基づく見直しを行うべきであり、また、「National Independent Safeguarding Board Wales」委員会は、ウェールズにおいて、同様の検証を行うべきである。

改革後の子の処遇プログラムの委員会の勧告を検証するために設立されたパイロット(pilot)は、裁判所記録の検討、命令、判断その他の定量的、定性的な調査方法の双方を用いて、確実に評価されなければならない。

上記で設立されるべきと勧告された国家的監視機関の付託権限は、改正後の私法上の子の問題の実施に関する将来のかつ継続的な研究の委託及び実施を含むべきである。

 

                                                                                                                                 【矢野謙次】

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第1章「共同代表によるイントロダクション」

 

2019年に、家庭裁判において、私法上の子の事件の新受件数が54,920件あった。これらの内で、子の処遇やコンタクト(面会交流)事件では、ドメスティック・アビューズ(domestic abuse、以下「DA」という。)の主張やその事実が認定されるものが、49%~62%の割合を占めており(注1)、総人口に占める割合と比較して、顕著に高率となっている。2019年の5月に、司法省は、家事司法制度(family justice system)全体から専門家を集めて委員会を組織し、DAその他の重大な犯罪を含む私法上の子の事件で、家庭裁判所がどのようにして子どもやその親の保護を行ったかについてのエビデンス収集を行うことを公表した。この事業の目的は、子どもをめぐる事件にかかわる者の経験を集積し、問題の全体像を把握し、状況を改善する上で有用な基礎資料をまとめる事にあった。

 

委員会を組織するにあたっては、家事事件に関して豊富な経験を有し、家事司法制度を支え、そこで働いている専門家から幅広く人材を集めた。法律実務家やソーシャルワーカー、裁判官、第三セクター、更に、子どもをめぐる裁判の当事者としての経験を有する人たちから情報提供を受け、より広範な人々の見解を集積することに努めた。この事業の開始時点では、短期集中で、家事司法制度に内在する重要課題の抽出を行う予定であった。しかしながら、非常に広範かつ深刻な問題ある情報が寄せられたことから、委員会がこの最終報告書を完成させるのに、予想以上に時間を要することとなってしまった。

委員会の構成員が幅広い領域の専門家であったことから、見解の対立が生じることも多くあり、これは、司法省の考え方と委員会の見解の間でも同様であった。この報告書やその提言には大方の賛同を得られたが、必ずしも司法省や政府の政策の指針が明示されているわけではない。この報告書では、政府がどのような改善策を構築すべきか、また危害を受ける恐れがある子どもやその親を守るために、家庭裁判所としてはどのような対応をすべきかが示されている。

 

私たちは、家事司法制度にかかわる人々が、子どもの性的搾取と虐待、強姦、殺人その他の暴力犯罪を含めて、これまでにどのような危害を経験してきたか、また、現に経験しているかについての広範なエビデンスを収集してきた。しかしながら、集まったエビデンスは、圧倒的にDAに関するものであり、したがって、本報告書の対象もこの点に焦点を当てるものとなっている。DAの被害者がどのようなことを経験しているかについて、私たちは本報告書により実質的な理解を深めることができる。貴重なエビデンスの提示をしてくれた皆さんと、その分析を担当してくれた委員会の皆さんに、この場を借りて感謝の意を表したい。

本報告書では、対象とする問題について詳細に分析を行っているが、提供されたエビデンスで全ての問題がカバーされているとまでは言えず、また、家事司法制度に関する問題を完全に代表しているとまでも言えないことは理解する必要がある。

私法上の子の手続で、DAが含まれる事例の多さを考えると、DAの影響を受ける当事者や子どもたちが、様々な異なる経験をしていることが想定できる。このような中で、私法上の子の手続に関して、多くの専門家や体験者等から提示されたエビデンスを基に委員会で検討し、制度に内在する問題についての適切な(十分説得力のある)見解を得ることができたと確信している。

家事司法制度において、裁判官、ソーシャルワーカー、法律家、裁判所の職員その他の専門家の人たちは、子の最善の利益を目指して、難しい問題を解決するため、日々懸命に努めており、これを実現するには、専門家の人たちに適切な情報提供を行い、これに基づいて対応してもらう以外には方法がない。私たちとしては、これら関係者の皆さんの不断の献身的な貢献に感謝するとともに、本報告書とそれを受けての政府の問題解決に向けた実施計画の策定が、関係者の皆さんが重要な役割を果たすうえで、大いに役立つことを願っている。

 

本件の調査および本報告書の完成に向けての、委員会の皆さん方による多大の労力と貢献に対して感謝の意を表したい。とりわけ、Rosemary Hunter、Liz TrinderおよびMandy Burtonさんについては、エビデンスを提出した人々や委員会を構成する皆さんの意見を集約し、本報告書の原稿作成をするうえで中心的な役割を献身的に果たされたことを記して、感謝の意を表したい。

エビデンスの提出の呼びかけに対して、応えてくれた団体や皆さん一人一人に心よりお礼を申し上げる。特に、DAの被害者である、千人を超える皆さんの体験を委員会に提供してくださった一人一人の方に対し感謝している。本報告書が公表されることにより、これらの人々の声が広く届けられ、必ずやこの声に答えた行動が起こされると私たちは確信している。

 

Melissa Case & Nicola Hewer,

家事および刑事司法政策局長,司法省

委員会共同委員長

 

【注】

(1)本報告書の参考文献一覧の「表4.1」を参照。

                                                                                                                                   【小川富之】

 

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第2章 委員会における作業の進め方について

 本報告書の作成に際して、「私法上の子の手続」とされる、離別後に生じる子の問題に関する父母間の争いにおける、DAを含めた深刻な犯罪の主張に対して、家庭裁判所がいかにして適切に問題を特定し、それに対応するかについて、必要とされるエビデンスの提示を求めることから開始した。委員会としては、そのような手続に巻き込まれている当事者や子どもたちにとって、訴訟手続および判断のいずれにとっても、より確固とした根拠となる証拠を構築

することを目指して取り組んだ。

 

この事業の重要性と緊急性から、委員会としては3か月以内にエビデンスの収集を終えたいと考えていた。しかしながら、実際には、非常に多くの回答が寄せられたことから、これらを徹底的に分析し検討するために、委員会ではさらに6か月の期間を要することとなった。

 

 

 

 

 

 

2.1 事業の目的

エビデンス収集のための質問事項:

・私法上の子の手続で、子どもや親がDAその他の被害を受ける危険性があるという主張に対して、家庭裁判所は適切に対応しているか?

 

エビデンス収集の具体的な目的は次のとおりである:

・親の関わり推定を排除する危害リスクがある場合に、実務指針の解釈を含めて、Practice Direction 12J,(注2)Part 3A FPR 2010,(注3)Practice Direction 3AAおよびsection 91(14) orders(注4)が、実際にどのように適用されているかまたその影響について理解する必要性。

・実務指針およびsection 91(14)の命令の適用に関する課題について理解する必要性。

・関連する規定の適用に一貫性があるかどうかについて。

・子どもや親に対して、強制力の行使や行動抑制、その他の危害を生じさせる危険性のある行為を含めて、何らかのDAの証拠が存在する場合に、加害行為をしている親との関係の継続、または、このような関係を継続するというコンタクト命令から、その被害を被っている子どもや親に生じる危害の危険性を理解する必要性。

・収集したエビデンスを分析し、取るべき対応について勧告を行う必要性。

 

2.2 エビデンス

委員会では、エビデンスの収集に関して、関連する事件に当事者として、また専門家としてかかわった経験を有する者からの意見聴取をするという点に重点を置いていた。個人や団体から幅広くエビデンスの収集を行うために、委員会は次のことを実行した。

・実務指針第12条J項(PD12J)および児童法第91条第14項に関連する判例の調査検討の実施。

・エビデンスとなる書面の提出の呼びかけ。および

・検討を行う円卓会議とフォーカスグループ(訳者注:フォーカス・グループとはグループ・インタビューを行うために集められた一定の条件を満たす人たちのことをいう)の設定。

 

委員会では、問題の背景や対応策に関する議論を踏まえて、エビデンス提出の呼びかけに対する回答について、広範な見地から分析を行った。

 

2.2.1 調査レビュー

委員会では、ブルネル大学のエイドリアン・バーネット博士に今回の調査レビューの責任者をお願いした。調査レビューでは、DAその他の重大な犯罪の私法上の子の事件に巻き込まれている子どもと親がどのようなリスクにさらされているかを調べ、家庭裁判所がそのリスクに対してどのように対応しているかを明らかにすること目指した。調査レビューでは、次の3つのテーマを扱っている。

・親の別居する前と後でのDAの経験。

・DAに関連して、家庭裁判所の審理過程と判断で当事者である子や親が経験したこと。

・私法上の子の事件におけるDAに関して、PD12Jをどのように適用し、コンタクト命令の履行を求め、虐待に関する事件(注5)を扱っているかといったことを含めてDAへの家庭裁判所の対応。

 

調査レビューでは、イギリスだけでなく他の地域も含めて、そこで公表されている報告書、モノグラフ、学術雑誌に掲載された論文等についても広範かつ詳細に検討した。PD12Jの2017年改正(注6)の施行に関しては詳しい検討は省略しているが、それ以外の点では、前述の3点について委員会で詳細に検討を進めた。その成果がこの報告書の内容である。

報告書では、特にPD12Jおよび児童法第91条第14項に関する判例に関して、詳細な分析を行っている。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)がPD12Jに関する判例を検討し、マンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)が第91条(14)に関する判例を検討し、これらについてロレーヌ・キャバナQC(Lorraine Cavanagh QC)による補足意見が述べられている。これらの判例レビューは、本報告書のAppendixに掲載した。

 

2.2.2 書面によるエビデンスの収集

書面によるエビデンスについて、関連する私法事件の経験を有する個人及び団体に対して、広範囲に呼びかけ、提供を求めた。エビデンス提供の案内は、期間6週間で、オンラインを通じて実施した(注7)。このアンケートは、専門家だけでなく一般の人にも答えてもらえるよう準備した。

 

アンケートは次の8項目で構成されている。

・私法上の子の手続一般

・私法上の子の手続においてDAを含む重大犯罪の主張を提起すること

・これらの手続における子どもの声

・DAの主張があがった事例の手続

・DAその他の重大な犯罪被害者の裁判所における安全と保護

・DAその他の深刻な犯罪に関連する家庭裁判所への反復申立て

・それらの手続に巻き込まれた子どもと被害親のその後の状況

・情報、経験、対応策等、エビデンスを提示してくれた皆さんが、伝えたい問題点

 

 アンケートでは、回答者の家庭裁判所での経験の期間について、2014年までの期間、2014年から2017年までの期間、または、2018年から2019年の期間の区分に分けて回答を求めた。このように区分した理由は、実務指針PD12Jの適用に合わせたもので、これが初めて導入されたのが2008年、2014年に改訂され、次の改定が2017年10月、FPRPart3AおよびPD3AAが導入されたのが、2017年の後半で、これに沿った期間区分を設けたわけである。

 

委員会に対して、イングランドおよびウェールズの全域から1226件のエビデンスが寄せられた。この内の、111件は無効なものであった(注8)。残りの、1115件の内、私法上の子の手続に関わった当事者の経験について個人から寄せられたものが最も多く(87%)で、主として母親やその家族からのものであった。10%が家庭裁判所にかかわる専門家・実務家の経験に関するものが個人から寄せられた(注9)。残りの3%(32件)が団体からのものであった(注10)。寄せられたエビデンスを分析した結果、団体から寄せられた回答は、その団体の会員や団体の提供するサービスの利用者から集められたものであるという事実がわかり、委員会ではこの点に注目をした。

 


 

寄せられた回答の大多数は、質問項目中の、DAの申立てに対して、家庭裁判所がどのような効果的な対応をしたかという問いに対するものであった。父親から寄せられた回答は、DAの申立てを受けた側の立場からのものであった。父親がDA被害者の場合はほんの僅かであった。寄せられた回答の多くは、DAの被害者である母親からのもので、親密な関係にある男性が加害者で、多くの女性が深刻な被害を長期にわたり受けているという実態に関してこれまでの調査結果や統計的資料と一致するものであった(注11)。法律実務家からは、DAの程度や期間の異なる様々な事例についての経験が寄せられたが、これらの多くは母親がかなり激しいDAを長期にわたり受けているというもので、ほぼ全ての事例に威圧的支配が含まれていた。

 

一部の母親や少数の父親が加害親による性的虐待を確認した際に、その子どもの保護を図る家庭裁判所の手続は、子どもや被害親が受けている他の危害に関連しているという経験についてエビデンスが提示された。委員会では、MosacやCARA等の、児童の性的虐待の問題を抱えている家族を支援する団体の専門家からもそのようなエビデンスの提出を得ている。これらに加えて、父親による子どもや母親に対する虐待行動の中の一つとして子どもに対する性的虐待の問題が生じているということが、多くの母親から提起されている。これらのことから、DA、児童虐待および児童の性的虐待といったものが、個別に独立した現象ではなくて、一連のものとして関連して生じていることが明らかとなった。

 

DAの形態には含まれないような、成人を被害者とする重大な犯罪に関してのエビデンスの提示はなかった。

 

エビデンスの提示を求める呼びかけは、私法上の子の手続一般を対象とするものであったが、寄せられた回答のほとんどが、子の処遇に関するもので、私法上の子の手続のそれ以外のものは皆無であった。

 

提出された回答は、すべての期間区分にわたっており、かなりの割合でそれぞれの期間についての回答を寄せていた。回答者は、自分たちの事例がどの期間に該当するかについて選択可能であったと思われ、提出された回答は複数の期間を跨いでいる可能性があった。しかしながら、多くの回答は家庭裁判所における最近の経験に関するもので、2018年~2019年または2014年~2019年がほとんどであった。

 

2.2.3 円卓会議(検討会)

 委員会では、家事事件、特にDAの問題に関する専門的知識や実戦的経験を持つ人々を対象として、次のとおり3度の円卓会議を開催した。

・円卓会議1:ロンドン:司法関係者

・円卓会議2:ロンドン:ソーシャル・ケア、DA支援機関、第三セクター、カフカス、リーガルセクター、その他の関連機関に従事する実務家をイングランドから幅広く参加を募った。

・円卓会議3:カーディフ(Cardiff,):ウエールズ(Wales)から、法律専門家、児童家庭裁判所諮問支援サービス(Cafcass, Cafcassウェールズ)、DAの支援機関および男性支援機関を含む、家事事件にかかわる実務家および専門家に幅広く参加を募った。

 

この円卓会議では、私法上の子の手続を改善する上で、問題の本質を把握し、解決すべき課題を抽出し、対応策を検討するために、様々な領域の人を集めて議論を進めた。この円卓会議は録画され、テーマごとに分析がなされた。

 

2.2.4 フォーカスグループ

委員会では、イングランドおよびウェールズの全土から、異なる集団から参加者を募り、10回のフォーカスグループでの議論を行った。

開催されたセッションは、次のとおりである。

 

・DAその他の深刻な犯罪の被害者として、私法上の子の事件に巻き込まれている母親グループ。このグループのセッションには特にBAME(Black, Asian and minority ethnic・黒人、アジア系および少数民族)の女性を含めている。

・DAの被害者またはその訴えの加害者とされている父親グループ。および

・それらの手続に関連する子どもたちのグループ。

 

対象とする問題の性質上、セッションの前後に、参加者に対して必要なサポートを提供できる家事司法に関係している第三セクターの支援を得ながら、この企画が進められた。支援団体には、ウィメンズエイド英国連盟、ウェールズウィメンズエイド、リスペクトRespect、the Family Justice Young Peoples’ Board(注12)および Southall Black Sistersが含まれていた。セッションには、委員会のメンバーが参加し、進行や必要な指示を行い、記録され録画も残された。これらの記録や録画はテーマごとに分析され検討が加えられた。

 

2.3 分析

全ての異なるグループから寄せられたエビデンスの約半数については、ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)によりテーマごとに分類された(注13)。残りのものは、委員会の他の委員に配分され分類が行われた。全体的な検討に際しては、委員会の委員が全ての提出されたエビデンスの確認を行った。

 

ハンター教授によるテーマ毎の分類や問題点のサマリーに関しては委員会で説明され、全員で検討を行った。そのあとで、それぞれの委員が一人一人提出されたエビデンスを比較検討し、円卓会議やフォーカスグループでの指摘等を踏まえて、必要に応じてテーマの追加を行った。提出されたエビデンスに記載されたものの内、問題の改善に向けた指摘や提言については、注意を引くようマーカを付けた。委員会では、主要なテーマや問題点の共通理解を図るよう、自由な討議を行った。

 

この分析で明らかになった重要なポイントは、提出されたエビデンスで示された経験が、母親と父親とで大きく異なっていたということである。母親から提出されたエビデンスでは、自分たちが受けている虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしいというものであった。回答を寄せた母親によると、裁判所の手続では前述の要求(虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしい)のいずれも実現できておらず、状況を悪化させていることが多いというものであった。これに対して、父親から提出されたエビデンスでは、コンタクト制限(禁止)命令および間接的コンタクト命令に関する経験の比率が高く、特に、第91条第14項(section 91(14))に関するものが非常に多かった。結論として、母親と父親とで、寄せられた回答に違いがあるということは、それぞれ家庭裁判所における経験が異なっておりそれが表れていることを示していると解される。

 

母親と父親で回答に違いがあるとはいえ、回答に大きな偏りがあるということや円卓会議やフォーカスグループに一定の傾向があることがあることが示されたわけである。

 

更に、寄せられた回答は、期間ごとに違いがあるというよりも、むしろ期間に関係なく一貫性のあるものであるといえる。また、イングランドとウェールズの間で問題点には特に大きな違いがないことも分析結果として明らかとなった。エビデンス提出の呼びかけに際し、回答者に対して地理的にどこで経験したかについて答えるよう求めていたわけではなかったが、回答の中には、自分たちの経験した場所に言及したものや場所が明らかに要因であることに触れたものもいくつか含まれていた。前述のとおり、イングランドとウエールズでそれぞれ、実務家やサバイバーによる円卓会議を開催した。イングランドやウェールズに関連していくつかの具体的な問題(例えば、DA加害者プログラムの提供の有無)を取り上げ、地域差があるものについては報告書でその旨指摘した。

 

2.4 報告書の作成及び改善策の提示

報告書の作成と改善策の提示は並行して進められた。

 

寄せられた回答と明らかとなった共通のテーマとの間に強い関連性があることを踏まえて、報告書では、それぞれのグループ毎でエビデンスを纏めるというよりもむしろ、章毎でエビデンスを整理するという方法を採用した。したがって、収集したエビデンスの全データから主要テーマを抽出し、この最終報告書の章立てとそこで扱う内容を決定した。

 

研究レビュー、エビデンス提出の呼びかけ、フォーカスグループおよび円卓会議でのテーマについては、そのテーマが全てカバーされるように振り分け、必要に応じて相互参照することで重複を避けるよう工夫した。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)、リズ・トリンダー教授(Professor Liz Trinder)、およびマンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)によって、まず各章の第1草稿が作成され、委員会で検討したうえで各委員からの意見聴取を経て原案が作られ、執筆担当者および委員会事務局により形式および用語統一の点から編集が行われた。各章につき草案の段階で、集積されたデータや、委員会の委員の高度の専門性に基づいた指摘や承認を基に委員会として必要な修正を行った。

 

2.5 エビデンスの信憑性とその限界

個人から提供された回答、円卓会議およびフォーカスグループでの議論ならびに国内外の調査結果を含めた、広範囲にわたるエビデンスに基づいて、結論をまとめることができた。委員会における分析、それに基づく本報告書の提言は、DAの事例および私法上の子の手続において生じるその他の危害リスクの事例に対して、家庭裁判所がどのように対処して問題解決を試みるべきかについて明確な指針を提供するものであると確信している。

 

 委員会で検討されたエビデンスが問題の全てを表しているわけではないということは認識しなければならない。個々人から回答を求めるという手法ではなく、裁判所の記録の公正、広範かつ詳細な分析を行う必要性があるという指摘もあり、今回委員会がエビデンスの提出を求めた手法に関して批判的な声がないわけではない。今回の委員会における検討については、時間的制約や、回答を寄せてくれた個々人の匿名性といったことから、提出された回答に関して、裁判所の記録、謄本、判決または命令といったものを確認することはできなかった。

 

委員会に寄せられたエビデンスは、実に内容豊富なものであった。これらの重要な内包を含んだエビデンスは、それぞれ個々人および団体の経験に基づくものであり、家事司法制度のあるべき姿を示す価値のデータであった。しかしながら、エビデンスで示された内容自体からは、回答提供者が経験したような問題が一般的なものなのか、また頻繁に生じるものなのかについては、必ずしも明らかとなるわけではない。

 

裁判所を利用する人々および専門家により提供されたエビデンスが、どの程度の一般性を示しているかについても、必ずしも明らかとは言えない。委員会の設定した質問内容に対しての回答は、個々人および団体から任意に寄せられたものである。したがって、そこには何らかのバイアスがかかっている可能性があることは排除できない。家庭裁判所の手続や結論におおむね満足している人々は、エビデンスを提供しようとするインセンティブがそれほど高くないと解される。その制度の中で働いている専門家からすると、制度の運営を守りたいというインセンティブが相対的に高いということも言える。

 

寄せられた回答の中の説明が正確で完全なものであるかどうかについての確認はできない。それぞれの事例でどのようなことが発生したかについての「客観的な」説明も難しい。エビデンスの内容は、あくまでも回答を寄せた個々人や団体の認識や見解を示したものである。委員会に寄せられた見解は、エビデンスを提出する人たちの問題に対する姿勢、文化的コンテキスト、帰属している集団の文化、法律手続におけるその人の役割および個々人のバイアスにより影響を受けるものである。リコール・バイアスの影響を受けることもあると思われる。委員会としては、提出された回答には希望的観測が含まれていることは当然のこととして、理解不足、勘違いおよび曲解といったものが含まれているであろうことについては、当然に認識をしたうえで検討が進められた。

 

これらの問題はあるにしても、委員会に寄せられたエビデンスから、DA事件および私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所がどのように対処すべきかについての問題点を体系的に明らかにすることができると考えられる。委員会としては、個別で特殊な問題としては片づけることができないものであると考えている。寄せられたエビデンスから、これらの問題が制度全体を通じた多くの事例にかかわるものであり、深刻な事態を生じさせる危険性を孕むものであるということがわかるが、このことから適切な対応をするにはどうすればいいかという点についても示唆を受けることができる。このような結論に達したことについては、多くの理由がある。

 

委員会では、まず専門家から大量の回答を得て、虐待の被害者である男性も女性も、みんな同様の問題点を指摘していることを確認した。提示された問題がどの程度の生じているかについての定量化は難しいが、少なくとも、問題が一回限りのものではないし、局所的なものではないということがわかる。

 

次に、委員会へのエビデンスの提供源が複数であるという点から、それぞれの提供源からの問題点やテーマについてクロス集計をすることが可能となった。個人から提出された回答の真偽や正確さについての評価は困難であるが、DAの被害者からの回答にはテーマや懸念という点において類似性が存在した。更に、被害者から寄せられた回答で示されたテーマや懸念は、専門家や団体から寄せられたものと比較して、完全ではないがほぼ一致をしていた。重要な点として、これらの問題点や懸念は、委員会で調査した数多くの学術研究団体の知見とも高い割合で一致する内容となっていた。

 

第3に、委員会では、個々人からの報告の信憑性について慎重に評価を進めた。提出された回答を検討したところ、一般的なテンプレートに従ったと思われる(型にはまった)ものは少数派で、個々人の実体験に基づいた信頼できる詳細な情報が提供されている思われるものが多数派だということが判明した。また、提出されたエビデンスの全てが信頼できるものであるとまでは言えないが、自分たちの経験について肯定的なものも否定的なものも、いずれにもかなり微妙なものが含まれていた。多くの異なる裁判所での経験についての報告から、裁判所の違い、また期間の違いによって、法律実務にも違いがあるということが感じ取られた。PD12Jが改正され、それが施行されたことによる変化はほとんど無く、問題は一貫して継続しているが、注目すべき点として、時間の経過とともに改善されたものもあれば、悪化したものもあることが明らかとなった。PD12Jが施行される前の時期に、自分が子どもとして経験したコンタクトについて回答したものもあったが、報告書の内容は、期間の違いの影響はほとんどなく一貫しており、子どもの経験には大きな変化が生じていないということには特に注目を要する。

 

更なる定量的分析の必要性は認識しないといけないが(詳しくは第11章を参照)、判例の分析、エビデンス提供の働きかけ、フォーカス・グループや円卓会議から得られたデータなどを含めた研究成果から、DAおよび私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所が現在どのような対応をしているか、その対応の長所や短所について理解を深めることができると確信している。

2.6 用語と表現についての注意事項

「母(mothers)」および「父(fathers)」という文言については、その集団から特に報告書の提出や懸念の提示があった場合を反映する際に使用している。母親および父親の双方から提示されたものについては、性的中立性を考慮して「親(parents)」という用語を使用した。なお、「母」という用語が用いられた場合には、例えば、母型の祖母といったような母型の家族も含まれている。「父」という用語についても同様である。

 

DAの「被害者(victims)」や「加害者(perpetrators)」または「虐待者(abuser)」という用語については、それが使われている文脈の中で理解する必要がある。これらの用語は、ジェンダーに関連性を持っていることもあれば、そうでない場合もある。これらの用語は、裁判所における手続のなかでは、それぞれ「被害者」「加害者」または「虐待者」であると主張されている人々を指して使われることもある。

 

「専門家(professionals)」からの回答といった場合には、広い意味で専門家から寄せられた多くのものといった意味で使っており、全てが特定の専門家や特定の専門家集団からのものというわけではない。特定の専門家から寄せられた回答を指す場合には、それぞれの専門家集団、例えば、「心理学者」「法律家」「DA関連で働いている人」といったような用語を用いている。「個人(Individual)」という用語は、匿名の人による回答の場合に使用している。「団体(Organisations)」という用語については、その団体に属するものが全員同意のうえで報告書に団体名を明記することを認めた場合に使用している。

 

「家庭裁判所(family court・family courts)」または「裁判所(the court)」という用語については、現在の家庭裁判所、控訴審の家事部、かつて私法上の子の事件を管轄していた家事事件裁判所(Family Proceedings Courts)および郡裁判所(County Courts)を含めて使用している。「Cafcass/ウェールズ」という用語はそれらの団体を意味している。このうちの一つを特定する必要がある場合には「Cafcass」と「Cafcassウェールズ」で使い分けている。

 

現行の私法上の子の事件という用語は、裁判所が子どもに親と「一緒に住む」ことまたは「一緒に過ごすこと」を命じる紛争のことを指している。提出された報告書に関して、委員会では、「居住」および「コンタクト」といった古くから使われている用語をそのまま使用している。というのは、これらの用語は法律家でない人たちにも馴染みのあるものであったからである。

 

寄せられた回答に関しては、内容に変更が生じないように注意して、誤記等がある場合には必要な範囲で修正を行った。寄せられた回答で長文に及ぶものについては、注記をしたうえで要約をして提供した。

 

本報告書で使用される略語については、末尾に略語一覧を提供している。

 

【注】

(2) These provisions are discussed in more detail in chapter 3. Practice Direction 12J sets out the procedure for courts dealing with child arrangements cases where domestic abuse is alleged. It also provides for special arrangements in such cases.

(3)Part 3A and Practice Direction 3AA set out procedure and directions for courts to identify vulnerable witnesses (including protected parties) and to consider special measures to assist them to participate effectively in family proceedings.

(4)Orders pursuant to section 91(14) Children Act 1989: ‘barring orders’ prevent a party from making further court applications without prior permission of the court.

(5)In relation to other serious offences, a search was conducted for literature on children conceived from

stranger or acquaintance rape, but the lack of any relevant literature relating to England and Wales meant

that this aspect was not pursued further.

(6)Since the completion of the literature review there have been two studies published: M Lefevre and J Damman, Practice Direction 12J: What is the Experience of Lawyers Working in Private Law Children Cases? (2020); IDAS, Domestic Abuse and the Family Courts: A Review of the Experience and Safeguarding of Survivors of Domestic Abuse and their Children in Respect of Family Court Proceedings(2020).

(7)The call for evidence was available online from 19th of July to the 26th of August 2019. Copies were also made available in English and Welsh and responses were also accepted via email or hard copy in the post.

(8)Unusable or not in scope being not private law children, not England or Wales, or no response to the

questions.

(9)For example, Magistrates and Legal Advisers, solicitors and barristers, Cafcass officers and social workers, domestic abuse and family support workers, health professionals (psychologists, therapists, health visitors, GPs) and others practising in the field (McKenzie Friends, academics, campaigners, mediators, MPs/Welsh AMs).

(10)For example, legal and domestic abuse sectors, fathers’ groups and children’s charities.

(11)See literature review section 4.2.

(12)The FJYPB is sponsored and its work is facilitated by Cafcass, but the Board itself is independent. Its remit covers both England and Wales.

(13)The sample consisted of 200 mothers’ submissions, all fathers’ submissions, all individual submissions from professionals/service providers and all organisational submissions. Thematic analysis involves closely examining qualitative data to identify common themes – topics, ideas and issues – that come up repeatedly. Each idea is given a shorthand label (aka codes) to describe its content. These codes are applied across all submissions consistently to identify similar content across multiple submissions. Similar codes are grouped together as themes. The process becomes iterative until all the common key topics, ideas and issues across all the data are coded and all the resulting themes identified. The analysis writeup will generally be structured by the final themes identified.)

 

                                                                                                                                    【小川富之】

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第3章 法的枠組

 

 

この章では、DAその他の重大な犯罪の申立てやその他の証拠がある場合の私法上の子の手続に関する法律について扱う。最も重要な国内法は、1989年児童法(以下「児童法」という。)である。私法上の子の手続に関する児童法の規定は、イングランドおよびウェールズのいずれにおいても適用される(注14)。家事事件手続規則(FPR)は、家庭裁判所および控訴審家事部における児童法その他の家事事件手続に関する一連の裁判所手続規則を提供している。家事事件手続規則は、裁判所において事件を扱う際に、必要に応じて審理の進行に関する実務指針(Practice Directions)によって補完されている。裁判所は先例拘束の原則に従い、また、その内容が国内法によって効力を付与されるのが一般であるが、国際法で定められた原則を遵守しなければならない。

 

3.1 キーポイント

3.1.1 私法上の子の手続

私法上の子の手続とは、ケアに関する手続のように地方自治体が関与する手続(公法手続)とは異なり、両親の間の争いといったような、対立する個人の間の問題を扱うものである。この手続は子の処遇に関する命令の申請に関するものがその大部分を占めている。命令としては、子どもの同居親、子どもと共に過ごすべき者その他の子どもとのコンタクト(訳者注:面会交流のほか、一方の親と一緒に時間を過ごすことを含む)といった問題に関して児童法第8条に基づく裁判所による命令等である(注15)。これらの命令は、以前は「コンタクト命令(contact orders)」および「レジデンス命令(residence orders)」と呼ばれていたものである。この子の処遇に関する命令という用語は2014年児童と家族に関する法(the Children and Families Act 2014)により導入されたものである。

 

3.1.2 福祉原則と福祉チェックリスト

子どもの福祉(child’s welfare)は、裁判所が子どもの成育(upbringing)について判断する際の最も重要な考慮事項とされている。これは「福祉原則」と呼ばれ、児童法第1条第1項に規定されている。児童法第8条に基づく9命令の決定、変更および廃止をする際に子の福祉について判断する場合、裁判所は関連するすべての状況、特に、児童法第12条第3項で制限列挙されている福祉チェックリストについて考慮することが求められている。福祉チェックリストに含まれているものは次のとおりである。

・確かめうる限りの子どもの意思と心情(年齢および発達の状況に応じて考慮)

・子の身体的、感情的および教育的ニーズ

・状況の変化が子に及ぼす影響

・子の年齢、性別、成育背景その他裁判所が関連すると考える特性

・子がこれまでに受けた危害またはこれから受ける恐れのある危害

・両親(その他裁判所が適切だと考える者)のいずれが、子のニーズに適しているか

・この手続における裁判所の裁量の範囲

 

危害に関しては、児童法第31条第9項で「自分以外の者が酷い扱いをされること(ill-treatment)を見たりまたは聞いたりすることで生じる気持ちの落ち込み(impairment)といったようなものも含めて、酷い扱いをされたり健康または発達に関する障害を生じさせたりすること。」と定義されている。この規定から、(身体的虐待に対して)非身体的な考慮事項に関しては「発達(development)」、「健康(health)」および「酷い扱い(ill-treatment)」という文言を当てているということが明らかである(注16)。児童法第1条第2項では、対応の遅れが子どもの福祉を損なう危険性を高めることになると規定されており、裁判所としてはこの点を考慮しなければならない。これに関連して、児童法第1条第5項にある「ノー・オーダー原則(命令しない原則)」についても注意が必要で、命令を出さないよりも命令を出すほうが子どもの利益となる場合に限って裁判所は命令を出さなければならないと規定されている。

 

3.1.3 親の関わりへの法律上の推定

子と親との間のコンタクトについては、常にこれを認めなければならないといった権利義務が存在するわけではない。(親の離別後に、親子間のコンタクトについて、これを常に認めなければならないというわけではないと解される。)しかしながら、児童法第1条第2項A号では、(親の離別後に)(別居)親が子の生活に関わることで子が危害を受けるまたは受ける危険性があることを示す証拠がない限り、親子のかかわりを継続することが子の福祉を促進するという推定規定があり、裁判所はこの推定に従うこととされる(注17)。「関わり」に関しては、児童法第1条第2項B号で「直接または間接の何らかの種類の関わりで、子と過ごす時間配分のことを指すわけではない。」と定義されている。この推定(親の関わりが子の福祉を促進する)については、児童法第8条の命令を出し、変更し、廃止することを検討する場合を含めて、所定の私法上の子の手続において適用される(注18)。この推定については、2014年に法律で明記される以前から、すでに判例法で確立されており、親と子とのコンタクトを禁止する説得力のある理由を裁判所に提示しない限り、原則として双方の親が子どもの生活に関わることが子の福祉を促進するものであると解されていた(注19)。

 

3.1.4 基本的人権と国際法

裁判所を含めて、全ての公的機関は、欧州人権条約(ECHR)で定められた権利を遵守する必要がある。また、1998年人権法(The Human Rights Act 1998)は、裁判所その他の公的機関に対してさらに具体的な義務を課し、人権侵害を受けた個々人に対する救済を明記することで、国内法において、条約上の権利をさらに強化した。私法上の子の手続に関しては、欧州人権条約の第8条で規定する家庭生活を尊重する権利が重要なかかわりを持っていた。「家庭生活」には、親子の関係が含まれており、DAの被害者である子どもや成人を深刻な危害から守る必要があり、そのために必要かつ適切である場合以外では親子のコンタクトを制限してはならないと解されていた。「市民的権利(civil rights)」について判断する場合には公正な審理を受ける権利が保護されなければならないと条約の第6条では規定されていた。この規定には、子の処遇その他の私法上の子の手続に関する紛争が含まれていた。更に、条約の第2条および第3条は、DAその他の重大な犯罪の申立てをする場合にも関連するものであった。条約の第2条は生きる権利(right to life)、第3条は拷問その他の非人道的または人の人格を傷つけるような扱いから解放される権利に関するものであった。個人がこれらの非常に深刻な危害を現に受けている、またはその危険にされされていることを認識した場合には、国家(裁判所を含めた)は、効果的な保護を提供する強い義務を負っているということが、欧州人権裁判所によって強調されていた(注20)。

 

英国は、国連の児童の権利に関する条約の締約国でもあり、裁判所および各政府は条約の規定を尊重しなければならない。児童の権利に関する条約は子どもの生活の全ての領域をカバーする54条の規定で構成されている。条約の第9条(親からの分離の禁止)では、子の最善の利益に反しない限り、親の離別後も、両親が子とのコンタクトを維持する権利が規定されている。第12条(意見表明の権利)では、児童の意見や希望は、児童に影響を及ぼすすべての事項について考慮される権利が規定されている。第19条(虐待・搾取からの保護)では、親の監護を受けている間、あらゆる形態の身体的もしくは精神的な暴力、障害もしくは虐待、放置もしくは怠慢な取り扱い、不当な取り扱いまたは搾取(性的虐待を含む)から保護される権利が規定されている。これらの権利は、前述の福祉チェッリスト1989年児童法の親の関わりの推定規定といった形で、国内法に反映されている。ウェールズでは、2011年児童および青年の権利に関する措置(the Rights of Children and Young Persons (Wales) Measure 2011)という形で(教会)法により反映されている(注21)。

 

 2012年に、英国政府は、「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止に関する欧州評議会条約」(the Council of Europe Convention on preventing and combating violence against women and domestic violence (Istanbul Convention (IC)):以下「イスタンブール条約」という。)に署名し、このことから、特に、子どもとのコンタクトが「被害者または子どもの権利と安全」を損なうことの無いよう、適切な措置を講ずるということが求められることとなった(注22)。

 

3.1.5 実務指針(PD)12B-子の処遇に関するプログラム(CAP)

「子の処遇に関するプログラム(Child Arrangements Programme’ (CAP))」として知られている、実務指針12B(以下「PD12B」という。)は、家事事件手続規則第12章で主として扱う、子の処遇に関する事件に関して裁判所が従うべき手続規則を提供している。現行のCAPは2014年に改訂されたもので、当事者が子どもの問題を解決する際に、できれば裁判外で、子ども中心でその安全に配慮した合意形成を支援することを目指すものとなっている。CAPは子の処遇に関して、次の4段階で考えている。すなわち、「受付と事件の割り振り(家庭裁判所で事件をどの段階に配置するか)」「第1回紛争解決審理指定(First Hearing Dispute Resolution Appointment (FHDRA),)」「紛争解決指定(Dispute Resolution Appointment (DRA))」および「最終審理(Final Hearing)」の4段階である。これらの各段階において、裁判所は、その取り決めが安全かつ適切であると解される場合には、可能な限り当事者間の合意により紛争を解決することを推奨している。CAPは、子の処遇に関する命令の履行を求める申し立てについても、裁判所による対応の指針を提供している。すべての事例というわけではないが、第1回紛争解決指定(FHDRA)または紛争解決指定(DRA)の段階で問題は解決されており、最終審理(FH)まで行く事例はあまり多くはない。

3.1.6 DAと実務指針(PD)12J

実務指針12J(PD12J)(注23)は、2008年の導入で、DAが問題となっている場合の子の処遇に関する事件を、家庭裁判所や高等法院(High Court)がどのように扱うかを定めている。虐待が認められるもしくはその疑いがある場合、子どもまたは当事者の一方が他方のDAを受けたことがあると信ずべき理由がある場合、またはそのような虐待の恐れがある場合にPD12Jが適用される。

 

PD12Jの導入前は、「Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001]」事件の控訴院(Court of Appeal)判決で画期的な判断が示され、これがDAの問題を扱う際の指針となっていた(注24)。この判決により、「家庭内暴力(domestic violence)にさらされることでどんな問題が生じるかということに対する意識」を高め、それまで「裁判所がこのような申立てに対して積極的に対応しない傾向があったこと」を認識させ、父母間の虐待行為自体が「子の養育にとって重大な誤りであり、それは、子の世話をすべき者を守るという意味でも誤りで、そのことで子がどのような感情を抱くかという意味でも誤りである」ということの理解につながった(注25)。PD12Jは導入以来、DAが子どもや親に及ぼす影響についての新たな知見を反映するため2回改訂され、必要な規定が盛り込まれた。2014年に、それまで使われていた「家庭内暴力」の定義に修正を加えるために改訂され、PDの適用に関してより明確な指針を裁判所に示し、事実認定の審理をより明確にし、子の処遇に関する仮処分(暫定命令)に際してのより厳格な判断基準が示された。その後2017年にさらに改訂され、PD12Jが必須であることをより明確にした。具体的には、家庭内「暴力(violence)」という用語を(ドメスティック)「虐待(abuse)」に変更し、DAの範囲を広げ、文化的なものも含まれることになり、虐待されていない子や親の安全も重視し、親子のかかわりの継続が子の利益であるとする推定(日本における「原則面会交流論」)について、裁判所が個別の事件で慎重に検討する必要があることが求められた。

 

子の処遇に関するオーダーに関して、PD12Jは第3項(paragraph 3)で、DAを次のように定義している。

 

「性別やセクシュアリティに関係なく、16歳以上の家族もしくは親密な者の間で生じる、支配(controlling)、強制的(coercive)もしくは脅迫的(threatening)な態度、暴力または虐待の事実(インシデント)またはそのような傾向(patterns of incidents)の全てが含まれる。これには、心理的、身体的、性的、金銭的または感情的虐待が含まれるが、これらの事柄のみに限定されるわけではない。DAには、「婚姻を強制すること」「尊厳を損なうような暴力」「持参金に関連する暴力」「国際結婚の否定」といったような文化的な特定の形態の虐待も含まれるが、それらに限定されるわけではない。」

 

「威圧的態度(coercive behaviour)」に関しては、PD12Jで、「攻撃(assault)、脅威(threats)、屈辱(humiliation)および威嚇(intimidation)その他の虐待(abuse)行為またはその傾向(pattern of acts)で、その他の虐待としては、被害者に対する危害、処罰または恐怖させるようなことが含まれる。」と定義されている。「支配的態度(Controlling behaviour)」に関しては、「人を従属(subordinate)させるように仕向けたり、人を支援源(sources of support)から隔離することで依存するように仕向けたり、自分の利益のために人の資源と能力を利用したり、人が独立し、抵抗し、避難するうえで必要とされる手段を奪い、人の日常の行動を規制すること。」と定義されている。PD12Jが適用されると、子の処遇プログラム(CAP)で設定された手続が必要に応じて拡張されることになる。裁判所が、DAで係争中の申立てについて判断するために事実認定のための聴取(fact-finding hearing)が必要だと判断した場合には、これを、「第1回紛争解決審理指定(First Hearing Dispute Resolution Appointment (FHDRA),)」の後で、「紛争解決指定(Dispute Resolution Appointment (DRA))」の前に実施することになる。DAの事実があることが判明した場合には、裁判所は、虐待をしている加害親に対して、DA加害者プログラム(domestic abuse perpetrator programme (DAPP))に参加することを指示したり、専門家によるリスク・アセスメントを受けるよう指示をすることができる。PD12Jでは、暫定命令(interim orders)および終局命令(final orders)の判断をする場合の追加的考慮事項を明示している。これらについては、次で詳しく説明する。

 

3.1.7 その他の重大な犯罪

今回の委員会によるエビデンス提供の呼びかけは、(DAだけでなく)「その他の重大な犯罪」に関するものも対象としていた。「その他の重大な犯罪」は法律で定義されているわけではないが、委員会からの依頼文書の文言としては、子どもまたは/および親に危害を及ぼす可能性があるとする申立てまたはその他の証拠のある場合が対象とされていた。したがって、これに含まれるものとしては、親の一方によるDA、殺害行為もしくはその未遂、強姦もしくは性的暴行、または子どもや他方の親に危害を生じさせる可能性のあるその他の行為を、現に実行した場合または実行したと申し立てられている場合が挙げられる。このような行為の内で、DAではない形態のものはPD12Jの範囲外とされるが、児童法(the Children Act)、PD12B、人権法(the Human Rights Act)および児童の権利に関する条約で定める原則の対象範囲であると解される。私法上の子の手続の目的として、このような犯罪について重大な問題として考慮しなければならないとされる根拠は、児童法第1条で規定する子の福祉に対する考慮という点にある。特に、子どもがそのような犯罪で被害を受けていたり、または被害を受ける危険性がある場合には、児童法第1条第2項A号で規定する、親の関わりへの法律上の推定の適用を除外する必要性との関連で問題となる。

 

3.1.8 優先的事項

家事事件手続規則は、当事者の公平な立場を確保し、当事者の要求、性質および困難さという点で、裁判所の資源を適切に配分することも含めて、福祉の問題に関係する事件を公正に対処する上での優先的事項を提示している。裁判所は、家事事件手続規則により付与された権限の行使または規定の解釈に際して、優先的事項の実効性を高めるように努めなければならず、また、当事者としては裁判所がそれを実現できるよう支援することが求められている(注26)。

 

3.1.9 子の処遇に関する命令の申立て

児童法第10条は、子どもの母、父、後見人、親責任を有する者、その他必要な状況にある者は、裁判所による許可を要することなく、子の処遇に関する命令の申立てをすることができると規定している。これら以外の者、例えば、祖父母なども、この申立てをすることが認められるが、原則として裁判所の許可が必要とされる。この許可申請と子の処遇に関する命令の申立ては、実際には、同時に行われるのが通例である。

2014年児童および家族法(Children and Families Act 2014)第10条は、「関連する家事事件の申立て」を行う前に、メディエーションまたはその他の紛争解決方法の利用を検討するために、家族に関する「メディエーションに関する情報および評価会議(MIAM)(family Mediation Information and Assessment Meeting (MIAM))」に出席する必要があることを義務付けている。「関連する家事事件の申立て」に関しては、家事事件手続規則3.6および実務指針(PD)3Aで定義されており、それには、子の処遇に関する命令および私法上の子の手続に関する申立てが含まれている。この会議では、認定メディエーターによるメディエーションに関する情報提供が行われ、事件の解決にメディエーションが適しているかどうかが検討される。家事事件手続規則3.8では、家庭内暴力の証拠がある場合、または子どもが社会サービスケア保護計画(social services care protection plan)の対象またはその必要性のある場合には、事前の「メディエーションに関する情報および評価会議(MIAM)」の要件について除外されることが規定されている(注27)。

DAの証拠がある場合には、その被害者が家庭裁判所にアクセスする前にMIAMに出席することを強制されるべきではなく、MIAMへの出席を免除するとともに、裁判所の法律扶助を提供する必要があるということを、司法省としては確認している。DAが申し立てられたが、申請者がMIAMの免除を受けるために必要とされる十分な証拠を提示できないときには、DAの申し立てのある事例でメディエーションを開始または継続することが適切かどうかを特定するために、認定メディエーターが遵守しなければならない専門的な基準が定められている。このような状況において、MIAMを実施するメディエーターは、「メディエーションを進めることが必ずしも当該紛争解決の手段として適していない」という前提で、申立人をメディエーションの対象から除外することが認められている(FPR 3.8(2)(c))。メディエーションに臨む当事者たちの多くは、それまで自分がDAの被害者だということを公表していない場合が多く、更に、自分たちがその被害者だということすら認識していない場合もある。したがって、この問題に関する現代の政策と実践ガイドラインでは、専門家がDAの兆候を見逃すことの無いよう適切な教育と訓練を受け、DAに適切に対処し、DAを親の紛争と誤って判断することなく、弱い立場にある被害者の保護に最大限の努力をすることを明示している。子の処遇に関する命令の申立てをする際には、申請者がC100裁判所のフォーム(C100 court form)に必要事項を記入し、これを裁判所に提出しなければならない。オンラインによる申立ての場合には、C100およびMIAMの認定または免除フォーム一式にされている。追加情報を記載するものとして、フォームC1A(form C1A)があり、これには、申立人が、DAに関して簡単な説明を記載するようになっている。子の処遇に関する命令申立が受理されると、裁判所は、C100およびC1Aの写しを相手方である親に対して送付する。相手方である親が希望する場合には、自分のC1Aフォームの記載をして、裁判所に提出することができる。

 

3.1.10 法律扶助

紛争当事者は、必要に応じて、ソリシターやバリスターからの法律的なアドバイスまたは法廷への出頭といった費用その他の支出を賄うために、法律扶助を求めることができる。法律扶助に関しては、2013年から、「2012年法律扶助および犯罪者に関する判決ならびに処罰に関する法律(the Legal Aid, Sentencing and Punishment of Offenders Act 2012 (LASPO))」の管轄に服している。法律扶助の決定は、法律扶助機関(the Legal Aid Agency)によって行われている。LASPOの規定では、当事者がDAの被害者である場合もしくは子どもを児童虐待から保護することを求めている場合、または子どもが手続上当事者とされた場合を除き(この場合、子ども自身は援助対象とされるが、それ以外の者については、その者自信が対象となる資格を有しない限り援助を受けることはできない。)、私法上の子の手続では、利用ができないとされている。DAまたは児童虐待に関する私法上の子の手続において、法律扶助を受けるためには、申請者としては、まず、「2012年民事法律扶助(法律扶助)(手続)規則(the Civil Legal Aid (Procedure) Regulations 2012)」の規定に従って、虐待の事実またはその危険性があることを示す証拠の提示が求められる。この2012年規則の証拠要件はこれまでに何度も改訂され、直近のものとしては2018年1月に、DAの範囲が広げられ、証拠提示の時間的制約も緩和されたことにより、DAの被害者やその危険性のある者が法律扶助の要件を満たすことが容易になった。この改定がどの程度影響したかについては明らかではないが、改定が行われてから、法律扶助の申請および承認の数は増加してきている(注28)。証拠として提出され受理されたものとしては、DAまたは児童虐待といった犯罪での有罪判決、警告の発令もしくは審理の継続、保護のための差し止め命令、または法律扶助の申請者の求めに応じて作成されたDAを扱う適切な専門家により作成された文書といったものが含まれている。法律扶助の申請に必要とされるすべての要件とともに、申請者は資力要件および必要性要件(ミーンズ・テスト:means and merits tests)を満たす必要がある。申請者は、「2019年民事法律扶助(サービス財源および支出)規則(the Civil Legal Aid (Financial Resources and Payment for Services) Regulations 2013)」で定める、所定の財政的基準に適合することが求められる。2019年2月に公表されたリーガル・サポートに関する行動計画によると、司法省はこの資力要件について見直しをするとされている。この見直しに関連して、DAの被害者に対して資力要件がどのように適用されるかについての、具体的検討が行われる予定である。また、申請者に対して提供される法律扶助の形態(例えば、代理人)が、法律扶助として保証すべきものとして適切なものであることを示さなければならない。提供される法律扶助の形態に応じて、必要性要件も異なり、これらについては、「2013年民事法律扶助(必要性基準)に関する規則(the Civil Legal Aid (Merits Criteria) Regulations 2013)」で規定されている。もし法律扶助を受ける資格が認められなければ、当事者は法的代理人を付けることができず、自分自身が裁判所に出頭することになり、「本人訴訟(LIP)」として対応することになる。

 

3.1.11 裁判所における支援

裁判所は、家事事件の手続において、弱い立場に置かれている者(当事者および証人)を支援するために「関与指令」として知られている所定の調整権限を行使することができる。例えば、証拠を提示する際に、衝立を立てて本人が見えないようにしたり、ビデオカメラを使って遠隔による方法をとることもあり、控室が別々になるように手配したり、裁判所の建物への出入りに配慮して、当事者が顔を合わさなくても済むような調整が行われる。弱い立場に置かれている者に対してこのような支援を行う規定およびガイドラインが導入されたのは、2017年後半のことで、家事事件手続規則の第3条A項(Part 3A of the FPR)に規定され、それを受けてプラクティス・ディレクション3AA(Practice Direction 3AA (PD3AA))で細則を定めている。当事者の裁判手続への参加や提示された証拠の信ぴょう性が、立場が弱いことにより損なわれ、抑制的になることの無いよう、裁判所は慎重に対応し、その恐れがある場合には、必要とされる支援や配慮をすることが求められている(注29)。裁判所は、例えば2005年精神保健法(Mental Health Act 2005)で規定する能力を欠く個人といったような「保護の必要な者(protected parties)」に対して、必要な支援や配慮を提供することが求められている。更に、PD3AAでは、可能な限り早期に立場の弱さを裁定し、当事者や証人が、弱い立場にあることから受ける恐怖感や苦痛を感じることなく訴訟手続に参加できるように、当事者と協力して裁判所が対応しなければならないことが明記されている(注30)。家事時事件手続規則第3条A項3号(Rule 3A.3)では、弱い立場に置かれているかどうかについての判断について、「脅迫の事実またはその認識(actual or perceived intimidation)から生じる影響についての考慮といったことを含めた、裁判所が確認すべきリストが明記されている(注31)。虐待の意味についてはPD3AAに詳細に記載されており、DA(PD12Jで定義されている。)その他の形態の虐待、例えば性的虐待、人身売買および何らかの差別に基づく虐待とったような者が含まれる(注32)。しかしながら、このような特別措置を講ずる上で必要とされる公的資金の利用について、裁判所に権限を付与することについては、何ら規定されていない(注33)。訴訟を提起しようとする者に対しては、「マッケンジー・フレンド(McKenzie Friend)」と呼ばれる、一般人からの必要な援助を受ける権利が認められている。2010年に、高等法院の家事部長と記録長官(the Master of the Rolls)は、マッケンジー・フレンドに関して、提供できる支援の範囲といったことも含めて、裁判所および訴訟を提起しようとする者に対しての注意事項として、プラクティス・ガイダンス(Practice Guidance)を発出した(注34)。

 

 

3.1.12 反対尋問(Cross-examination)

当事者の内のいずれか一方が、裁判に際して代理人の弁護士選任をしていない場合には、私法上の子の手続において相手方に対する反対尋問をすることが求められている。PD3AAでは、弱い立場にある当事者または証人の反対尋問に関して関与指令を考慮することを裁判所に義務付けており、これには、加害者または加害者である疑いのある者によるものではなく、裁判官による尋問も含まれている。PD12Jでは、必要かつ適切であると判断される場合には、裁判官が当事者に代わって証人尋問をする準備をするよう規定しており、裁判所は強制的事実調査(inquisitorial approach)を行うことになる(注35)。現在、DA法案が議会に提出されており、これによると、当事者の一方が、他方当事者または証人に対して、所定の犯罪により有罪判決を受けていたり、起訴されていたりする場合(またはその逆の場合)、当事者間に保護命令の仮処分が出されている場合、または規定で認められたDAの証拠が提示されている場合には、当事者間での反対尋問を禁止する規定が含まれている。規定では、証人による証言の信憑性が損なわれ、証人に深刻な苦痛を生じさせる恐れがある場合には、裁判の公正に反しない限りにおいて、当事者間での直接の反対尋問を禁じる指示をする裁量権を裁判所に付与している。更に、当事者の利益を守る観点から、必要な場合に、証人に対する反対尋問を担当する、公費負担での公認の代理人の選任権を裁判所に付与することも規定されている。

 

3.2 DAその他の重大な犯罪が主張されている場合の子の処遇に関する

命令の申立ての審理

3.2.1 紛争中の申立て(disputed allegations)

DAその他の犯罪により、子や親に危害が生じる恐れがあるということが係争中の事件で主張されている場合、裁判所は、主張されているような行動を確認する事実調査の審理が必要であるかについて判断することが求められている。PD121Jでは、子の処遇に関する命令またはコンタクトから生じる危害の評価について判断する場合、裁判所は係争中に主張されたDAに関して、事実調査の審理に必要性をできるだけ早期に判断すべきであると規定している。

実務指針PDでは、裁判所がこの問題について判断する際の考慮事項を明記している(注36)。裁判所が手続を進めるべき事実が証拠として(例えば、法律扶助を受けるための資格やそのために必要とされる証拠)、提示されているかといったことが考慮事項として挙げられている。すなわち、その主張の根拠となる証拠で、その主張の証明が、裁判所の事件解決に関連するもので、当事者やCafcass/ Cafcassウェールズの見解を含めて、当該事件の全体から考えて、(事実調査の)審理が必要かつ適切であるかといったことを考慮することになる。

他の重大な犯罪に関しては特に明文の規定はないが、子の処遇に関するプログラム(CAP)では、審理の必要性があると認められる場合には、裁判所は、PD12Jの規定に準じて事実認定のための聴取の実施を命じることができるとされている(注37)。

 

3.2.2 暫定的コンタクトの命令

裁判所は、重要な事実が立証される前の段階においても、子の処遇に関する命令についての判断をする場合がある。これは「暫定的命令(interim order)」と呼ばれるものである。PD12Jでは、暫定的命令に関しても規定されており、それが子の利益であることが明らかであり、その命令により子または親が「取り返しのつかないような危害にさらされる恐れ」(DAが子の精神上の健全な発達、他方の親の安全および支配的または威圧的態度も含めてDAから保護する必要性等に重要なかかわりがある場合)がない場合に限り、裁判所が子の処遇に関する命令について判断することができると明記されている(注38)。裁判所は、この評価に関して、感情的な危害からの保護を含めて、子や親の安全に関するあらゆる側面についての検討、および求められているコンタクトの実施方法、例えば、付き添い型または監視付きといった支援付きのコンタクトの必要性および間接的なコンタクトの必要性といったことについて考慮することが求められている。「コンタクト実施の原則(原則面会交流実施論)」といった考え方は採用されておらず、手続を通じて、(子の)福祉(優先)(が確保されなければ)と「ノー・オーダー原則」がとられている。

 

3.2.3 Cafcass および Cafcassウェールズ

児童家庭裁判所諮問支援サービス(Cafcass)は、2000年刑事司法裁判所法(the Criminal Justice and Court Services Act 2000)の成立を受けて、2001年に創設された公的機関である。ウェールズにおいては、2005年にこの役割を担う機関が、Cafcass ウェールズとして創設されている(注39)。Cafcassの機能及び権限については、家庭裁判所の手続に関して、子の福祉を守りその促進を図ることを含めて、刑事司法裁判所法で定められており、事件の申立てに関して裁判所に助言を行い、子どもの(手続上の)代理人選任についての対応を行い、事件にかかわる子ども、およびその家族に対して情報、助言その他の支援を行うことが規定されている。CafcassおよびCafcassウェールズの重要な役割として、手続を進める中で、必要に応じて子の意見や希望について聴取するということが挙げられる。刑事司法裁判所法の規定に加えて、児童法、家事事件手続法および実務指針により、Cafcassおよびand Cafcassウェールズには、いくつか特別な役割が定められている。子の処遇に関する命令の申立てがなされた場合に、Cafcassおよび Cafcassウェールズは、子に生じる危害を特定する上で必要な安全の確認または確認事項について、裁判所に勧告を行う役割を担っている(注40)。これら全ての事件手続に関して、子の親のいずれかが、関連する刑事事件での犯罪歴があるかどうか、また、子および家族が地方自治体の児童サービスまたは児童福祉との関連で注意すべき問題を有しているかどう等の問題が対象に含まれている。CafcassおよびCafcassウェールズは、また、父母(その他の当事者)に対して、個別に電話で連絡を取り、申立てまたは警察もしくは地方自治体の確認だけでは必ずしも明らかにならないような点についても、安全の観点から聴取し確認する。CafcassおよびCafcassウェールズにより実施された、これらの調査結果は、安全保護報告書または書証という形で、第1回紛争解決審理指定(FHDRA)前に、裁判所に対して提出される。この報告書および書証の写しは、当事者に事前に送付すると子や当事者を危険にさらす恐れがあるとCafcassおよびCafcassウェールズが裁判所に助言した場合には、第1回紛争解決審理指定において審理されることになるが、危険性がないと判断された場合には、事前に当事者に送付されることになる(注41)。PD12Jでは、これら安全保護に関する情報がない限り原則としてコンタクト命令を下すことができないと規定されている(注42)。安全保護に関する報告書または書証には、事件手続の進め方および事実調査についての審理の必要性といったことについて、裁判所に対する勧告が記載されることが通例である。更に、CafcassおよびCafcassウェールズの担当者が、第1回紛争解決審理指定(日)に、出廷し、紛争となっている問題点を明らかにするために、審理前または審理中に、個別または同席で当事者と面談することが行われることも多い。

 

3.2.4 (子の)福祉に関する報告書(Welfare reports)

児童法第7条では、私法上の子の手続に関する子の福祉に関して、CafcassまたはCafcassウェールズの担当者に報告書を作成して裁判所に提示するよう命じる権限が裁判所に付与されていると規定されている。家事事件手続規則および実務指針PDでは、この問題に関する裁判所ならびにCafcassおよびCafcassウェールズの役割、例えば、裁判所が子の福祉に関する報告書の必要について考慮すること、安全保護の問題が指摘された場合にCafcassおよびCafcassウェールズが行うべき手順といったような、さらに詳しい内容が規定されている(注43)。PD12Jでは、DAに起因して子に対して何らかの危害が生じる恐れがあるという問題が提示されている場合には、子の利益の観点から調査報告の必要性が全くないということが明らかな場合を除いて、裁判所としては全ての事件において、この報告書作成を命じることを検討しなければならないと規定している。原則として事実調査についての審理が行われた後で、この第7条報告書の作成が求められることになっており、報告には、子や被害親に対する将来的な危害の評価を含めて、裁判所が対処すべき必要があると思われる全ての事項を明確に提示することが求められている(注44)。当該事件の家族が既に子の問題に関する社会福祉(児童相談所等)の介入を得ている場合には、Cafcassに代わって、第7条報告書の作成が地方自治体のソーシャルワーカーによって行われる場合もある。事件の手続を進めている際に、子の福祉にかかわる懸念が生じた場合には、裁判所は児童法第37条の規定に基づいて、地方自治体に対してさらなる措置を講じる必要があるかどうかについて検討するよう命じることができる。

 

3.2.5 子の代理人(Separate representation of the child)

当事者の主張する内容の深刻さや、事件の複雑さといったことを考慮して、裁判所は申立ての対象となる子が手続の当事者となり、親とは別の代理人を選任する必要があるかについて検討することが求められている(注45)。子が当事者として裁判に参加する場合には、メリット・ミーンズテスト(merits and means test)の基準に照らして、法律扶助を受けることが認められる。裁判所は、家事事件手続規則第16条第4項(Rule 16.4 of the FPR)の規定に従い、子の後見人の任命の必要性について、慎重に検討することが求められている。子の後見人の権限および義務については、実務指針PD第16条A項(子の代理人)で規定されている。

 

3.2.6 終局命令(Final orders)

DAが生じていることが明らかとなった場合、子に生じる危害の可能性を払拭し、子の最善の利益を実現できる、子の処遇に関する命令の終局的判断を行うことが求められている(注46)。この場合、裁判所としては、特に、DAの事実と専門家から寄せられたリスク評価報告とを参照して、(子の)福祉チェックリストの各要件について検討をしなければならない(注47)。更に、重要な点として、子および子の同居親が受けてきた危害、子の処遇に関する命令が出された場合に危害が生じる可能性につき検討することが求められている。裁判所は、父母間の行為および子に対する行為、ならびにその影響についても考慮する必要がある(注48)。PD12Jでは、子に対する危害だけでなく、子の同居親に対する危害についても考慮しなければならないことが明記されており、更に子の処遇に関する命令が出された場合に、これらの者が受ける可能性のある危害の可能性についても、その対象とされている。裁判所としては、「子および子の同居親の身体的および精神的安全について、コンタクトの前、途中および後の全てを通じた安全ならびに子の同居親が将来的にDAを受けることがないことを可能な限り確保できる」ことを確信出来る場合に限り、コンタクトの命令を出すことができる(注49)。PD12Jでは、DAの問題に関して明らかとなった事実がどの程度、裁判所の子の処遇に関する判断に影響を与えたかについて、明示することを求めている。特に、DAの加害者と子とのコンタクトについて判断する場合には、その判断が子にとって有益であり、子を危険にさらすことを避けるためであるということの説明を裁判所に義務付けている(注50)。

 

3.2.7虐待的な申立て(Abusive applications)

DAの事実が主張されている事件で、裁判所が子の処遇に関する命令について審理する場合、PD12Jでは、申立てをしている一方の親が、子の最善の利益の観点に立っているのか、または、他方の親に対してDAの存在を利用しているのかという点について、裁判所が検討しなければならないと明記している(注51)。裁判所は、児童法第91条第14項(section 91(14) of the Children Act)に基づき、裁判所が必要と判断する場合には、裁判所の許可なく、重ねての申立てを妨げる権限について規定している。これは「申立て禁止命令(barring orders)」と呼ばれ、裁判所が児童法に基づく命令の申立てに対する処分を行う際に利用できる。子どもの成育に関するすべての申立てと同様に、本条に関する命令について判断する際には、裁判所は子の福祉について最善の考慮を払うことが求められている。この問題に関して先例となる、Court of Appeal case of Re P (A Child) [1999]事件の控訴審判決(注52)では、児童法第91条第14項に関するガイドラインとして、このような命令を下すことは「裁判を受ける権利の侵害(intrusion into the unrestricted right of the party to bring proceedings)」に該当し、不合理な申立てが繰り返された場合にそれを防ぐための最後の手段であり、その権限を行使するのはあくまでも例外的な場合に限られることを判示している。児童法第91条第14項の命令が出されている場合に、申立ての許可申請がなされた場合、裁判所としてはそれが「議論の余地のあるケース(arguable case)」かどうかが問題となる。命令が出された状況に実質的に大きな変化がない場合には、申立て許可の申請が認められる可能性は少ないと解される(注53)。

 

【注】

(14)Since 2014, Part III of the Children Act 1989 does not apply in Wales and has been replaced by the Social Services and Well-being (Wales) Act 2014. However, these provisions relate to Local Authorities’duties towards children in need and children at risk of harm rather than to private law children’s cases.

(15)Note other private law children proceedings (FPR 12.2), include other section 8 orders (prohibited steps and specific issue orders).

(16)Private law children proceedings may concern harm and risks of harm to children arising from various forms of parental behaviour. The call for evidence and this report focus on harm and risks of harm arising from domestic abuse and other serious offences by a parent against a child or the other parent, although these may appear alongside and be compounded by other risks and allegations of harm.

(17)Children Act 1989, s1(2A); s1(6).

(18)Children Act 1989, s1(4)(a); s1(7).

(19)See, for example Re C (A Child) [2011] EWCA Civ 521; and Re W (Children) [2012] EWCA Civ 999.

(20)See Opuz v Turkey (app no 3340/02, 9/6/09) – a case concerning the failure of criminal courts to protect victims of domestic abuse from breach of their Article 2 and Article 3 rights. See also Bevacqua and S v Bulgaria (app no 71127/01, 12/6/08), which found that a family court had breached the Article 8 rights of a child and mother who had been victims of the father’s domestic abuse.

(21)1 See https://gov.wales/childrens-rights-in-wales)

(22)Istanbul Convention, Article 31(2).

(23)The revised Practice Direction 12J – Child Arrangements and Contact Orders: Domestic Abuse and Harm is available here: 

https://www.justice.gov.uk/courts/procedurerules/family/practice_directions/pd_part_12j

(24)Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001] Fam 260.

(25)Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001] Fam 260.

(26)FPR 1.1; 1.2; 1.3.

(27)FPR 3.8 refers the court to PD3A which details the evidence required to demonstrate an exemption. FPR 3.8 and PD3A refer to ‘domestic violence’ rather than ‘domestic abuse’.

(28)8 https://www.gov.uk/government/statistics/legal-aid-statistics-quarterly-october-to-december-2019

(29)FPR 3A.4 and 3A.5.

(30)PD3AA, paragraphs 1.3 and 1.4.

(31)The list of matters is set out at FPR 3A.7, paragraphs (a) to (j) and (m).

(32)PD3AA, paragraph 2.1.

(33)FPR3A.8(4).

(34)Practice Guidance: McKenzie Friends (Civil and Family Courts) is available here: https://www.judiciary.uk/wp-content/uploads/JCO/Documents/Guidance/mckenzie-friends-practiceguidance-july 2010.pdf

(35)This provision has been elaborated in case law – see the review of case law on PD12J, section 5.3.

(36)PD12J, paras 17 and 18.

(37)PD12B, para 20.1.

(38)PD12J, paras 25, 26, 27.

(39)See the Children Act 2004, Part 4 and para 13 of Schedule 3 to that Act.

(40)PD12B para 13.1-13.7.

(41)PD12B, para 14.13(a)

(42)PD12J, para 12.

(43)FPR 12.6; PD12B, paras 13.1 and 14.13.

(44)PD12J, para 21, 22, 23.

(45)PD12J, para 24.

(46)PD12J, para 35.

(47)The Children Act, s16A sets out that a risk assessment must be carried out and provided to the court where an officer has cause to suspect that the child concerned is at risk of harm.

(48)PD12J, para 36.

(49)PD12J, para 36.

(50)PD12J, para 40.

(51)PD12J, para 37(c).

(52)Re P (A Child) [1999] EWCA Civ 1323.

(53)See further the case law review on section 91(14) ‘barring orders’.)

 

                                                                                                                                【小川富之】

 

0

第4章 ドメスティック・アビューズ(DA)その他の害リスクを扱う難しさ

 

 

 

4.1裁判所はどの程度効果的に虐待に焦点を当てているか

  

エビデンスの照会は、判例と調査のレビューを引いたり、家庭裁判所の専門家と利用者の視点と経験を引いて、家庭裁判所がDAその他の害リスクをどう扱っているかに目を向ける機会を提供した。以前の調査と公的データでは、一方でDAの訴えが多いのに、他方でコンタクト禁止命令、監視付きコンタクトt)や加害者向け治療命令の件数が少ないことにミスマッチが見られた(注54)。委員会は、何らかのgood practiceや広くgood intentions が払われていうことを認めるけれど、子どもと大人へのリスクを家庭裁判所が見つけ、評価し、対応するには、根深くて構造的な問題がいまだ隠れており、それがこの不一致を説明するのに役立つ。

 エビデンスは、家庭裁判所がDAや子どもの性的虐待を私法上の子の手続の中で扱うやり方について広い範囲の懸念を引き起こした。

私たちのところには、DAが過小評価された、無視された、棚上げされた、信じてもらえなかったという多数の訴えが寄せられた。回答者は、DAを主張することの困難(第5章)や、こうした主張をすることが子の処遇に関する裁判所の考慮に関連付けられる(第7章)ことを報告した。回答の中で強く言われたのは、DAや性的虐待を経験した子どもたちの声が家庭裁判所で十分に聴かれていないということだった(第6章)。

裁判所の手続が子どもと虐待被害者をさらなる危害から保護するのに十分な対応をしていない、それどころか裁判所のコンタクト命令により虐待が続くことになり、事態を悪化させる(第9・10章)という回答が多数提出された。虐待の被害を受けた者の中には、彼らとその子どもたちが、長期にわたる身体的、心理的、情緒的、経済的な害を被ったと報告したものもあった(第10章)。

 たとえ回答者がpositiveな結果を報告したとしても、共通の主題は、DAの被害者が家庭裁判所の手続でトラウマの2次受傷を経験したことである(第8章)。ある者は、長期間、新しい申立を次々受けて何度も裁判所に引き出される経験をしたが、こういうことが虐待や拘束の形態であるとはめったに認識されなかった。

 

4.2効果的に虐待に取り組むうえでの障壁

虐待の事実認定の問題は新しいものではない。裁判所が、子どもがその生活で双方の親の関わりを受ける利益と、DAによる危害から保護される利益との間で適切なバランスをとることの難しさは、多年にわたり認識されてきたことである。上級裁判官は、20001年の主要な報告とガイドライン(注55)をはじめとして、画期的なRe L事件の控訴審決定(注56)、実務指針PD12J(Practice Direction) (注57)と2014年と2017年のPD改正と、多数の対応を主導し、DAは効果的に取り扱われていると保証する。この活動にもかかわらず、このレビューに寄せられたエビデンスは裁判所が今なお虐待と適切に認識しうまく取り扱えていないことを示している。この章では、これらの問題がなぜ続いているのかがわかるエビデンスを示す。我々は、DAを識別し取り扱うことを困難にしている要因として、4つの要因―リソースの制約、裁判所のプロコンタクトカルチャー(the pro-contact culture)、連携の欠如、当事者主義的手続―を提示する。

 

この4つの障壁は構造的な問題である。それらは、人的な落ち度というより、家庭裁判所システムがどう機能するかという問題である。回答がまた、4要因がすべて同じ方向に作用し、それぞれが虐待を適切に発見することをより困難にすると示したことも重要である。それゆえ、回答がこれらの要因が家庭裁判所システムで働く各人―裁判官や治安判事、Cafcassウエールズ、地方当局のソーシャルワーカー、この分野の弁護士や専門家―に影響すると示唆していることは驚くに当たらない。

すべての事案が同じ困難に会うわけでないことは留意すべきである。委員会は、good practiceや肯定的な結果に関する回答を受け取りもした。しかし、これら4要因は、家庭裁判所システムがDAを全体として取り扱う能力を削ぎ、限定する。さらに、特別な事案では―特に、人種的、文化的ステレオタイプ、地理的条件(特に田舎に住んでいるとき)、法的代理人がいない場合には―、もっと困難で骨の折れる経験を当事者に強いることになりうる。

 

4.2.1(要因1)リソースの制約

専門家 usersの間では、リソースの制限は全過程、つまり事実認定から判決と介入までを通じて、司法手続がDAを認定し対処する能力を阻害するという高度のコンセンサスが形成されている。

 

本照会への回答によれば、特にひどい圧迫を加えている要因には2つある。その一つは、家庭裁判所に求められる水準が高すぎること。過去10年以上にわたり訴訟件数は増加しており(注58)、私法上の子の事件のリターン件数は2013年の法律扶助制度改正前の件数に匹敵する。(注59) 2つ目の要因は、リソースの利用可能性。過去数年間、家事事件で使うリソースは増加しているにもかかわらず、家庭裁判所の全部門で利用できるリソースは、Cafcass/Cafcassウエールズやその他のサービスを含めて、その需要の増加に追い付くのが大変な状況にある。このことは、需要が最高になっているときに利用可能なリソースが不足しているということである。専門家の間では、いまあるリソースで、裁判制度を維持することは難しいというコンセンサスがある。これは、司法円卓会議での裁判官の発言において強い言葉で表明されている。「現在のシステムは壊れており、我々はそれでは処理できない。」

 

委員会は、リソースの不足はシステム全体に影響するが、それが最も懸念されるのはDA事案においてである、それは、虐待の絡まない事案よりも多くのリソースを集中的に投入する必要があると強く思う。安全保護の仕事は、詳細で注意深いリスクアセスメントをするために時間とリソースを要する;特別な対策を必要とするなら適切な裁判所の施設を要する;事実認定のための聴取(fact-finding hearing)には審理時間の追加が必要である;そしてさらなる介入がいかなる監護の取り決めも安全であるよう変えるために拡充されなければならない。これにはすべて資金が必要である。リソースが欠如したままで、DA事案に現れる追加的必要に司法が対処することはできないのである。

 

我々はよいサービスを提供していない。理事会を含めてそうだ。 我々は努力しているが、我々が持ち、提供を受けているリソースのせいでできていない。加害者や非難する人たちにはあるのに、それを必要とする人々によいサービスを十分提供できていない。           裁判官、司法円卓会議

 

法律扶助の削減は、特に、2013年の改正以降、本人訴訟件数の急激な増加をもたらした。これにより、加害者と虐待の被害者で弁護士費用を支払えない人が、法的な助言や代理なしで、自身で、子の処遇を巡る紛争を解決し、複雑な裁判手続をかじ取りしていくことになった。

 

4.2.2(要因2)プロコンタクトカルチャーと虐待の過小評価

裁判所がDAを効果的に扱ううえで第2の障壁になるのは、家庭裁判所システムが子どもと別居親間のコンタクトを確保することに高い優先順位を置いていることである。先行文献は、家庭裁判所のプロコンタクトカルチャーを見出し(注60)、私たちは、子どもと別居親間のコンタクトを保つため、裁判所が組織的にも、根深い本質としても関わることへの専門用語として、この言葉をあてることにした。ある「文化」は特殊な一連の信念と言動(時には無意識にであったり当然と思うようなそれ)を物語る。ほとんどの制度は、時間をかけて独特の文化を発達させるが、家庭裁判所も例外ではない。このことはある制度の構成員が全員その文化に賛成したり順応するということを言うものではない。しかし、そこには順応に向けた強い圧力があるし、文化面の変化は容易には起こらない。

 

家庭裁判所のプロコンタクトカルチャーの強烈な言明は、控訴審裁判に見いだされる。司法は子どもの福祉が至高であると重ねて断言しながら、子どもの福祉をほとんど例外なく別居親とのコンタクトを要求することであると決めつけている。RE Cにおいて、J. Munby爵は、判例を以下のように要約している。

・親子のコンタクトが家族生活の基本的要素でありほとんど常に子の利益に合致する

・親子のコンタクトは例外的な状況においてだけ終了させられる、つまりそう

することに強力な理由があり他に代替的処置がない場合である。コンタクトは唯一、それが子どもの福祉に有害となる場合にだけ終了するべきである

・…裁判官にはコンタクトを促進する積極的な義務がある。裁判官はコンタクトを成し遂げる希望を捨てる前にあらゆる可能な代替的方法に取り組まなければならない(注61)。

 

同様に、2012にA. MacFarlane卿―現在の家庭局長―は、コンタクトすることは「ほとんど常に子どもの利益に適う」と述べた。(注62)

 

コンタクトへの期待は、コンタクトを「間接的」より直接対面、できるだけ監視なしのコンタクトへと強化した。A. MacFarlane卿は、また、2012年にも、直接コンタクトができないときは間接コンタクトがぜひとも実現が望まれる、直接コンタクトが回復されることを当然予定して、と述べている。(注63) コンタクトにこだわる一般原則はこれら控訴審裁判所の影響のもと形成され、他のものと一緒に、2014年に成文法に明確に規定された。児童法1989は、裁判所は、反対の事実が示されない限り、双方の親が子どもの生活に関わることが子どもの福祉を高めると推定すると改められた。

 

寄せられたエビデンスには、私法上の子の事件の当事者が、彼らの事案で、強力に履行させられるコンタクトを義務と感じたという一貫する主題があった。子どものための法律家協会とTransparency Projectは、家庭裁判所はコンタクト願望とリスク管理の間で適切にバランスをとると考えている。しかし、他の専門家と個人の回答者は、コンタクト優先主義は、子どもの利益を広く全体的に評価して守ることから裁判所を遠ざけてしまうとの懸念を表明した。とくに、被害者と専門家―DAの専門家、子ども慈善団体、法律専門職を含む―は、コンタクトの優越が他の福祉―子どもの虐待から守られるニーズ、子どもの望みや心情―を考慮の対象から締め出していると受け止めていた。上述のような事案では、コンタクトを確保することが支配的な考慮事項であると見られている。

 

委員会に提出された回答は、プロコンタクトカルチャーが、DAと子どもの性的虐待を過小評価し、その訴えに不信をむけるパターンを生じていることを示している。例えば、のちの章で分析するが、DAは「過去のこと」でそれがあってもコンタクトを実現しうることとして扱われ、そこで虐待が子どもと非虐待親(監護親)の福祉に引き続き関連するとは考えられない。またDAの訴えをすることが、いかにして、時に、相互の「高葛藤」であるとされてしまうか、あるいはこれが増えているが、他方親によって「片親引離し」の証拠として使われてしまうという証言を調査することにする(注64)。DAを主張している親は、委員会に、彼らが(裁判の)妨害者とみなされたと感じ、加害親がなんの証拠も出さなくても当然のように(DA主張に対する)疑念という利益を受け、コンタクトを認められた、とも感じたという。第9章では、裁判所がしばしば言動改善のエビデンスが皆無ないしほとんどない虐待加害親との、監視なしのコンタクトを命じ、子どもをさらなる危害から守り非虐待親を支援することに失敗するエビデンスについて論じる。

 

4.2.3(要因3)連携協力の欠如

対応の難しいDAに焦点を当てるには、すべての機関と裁判システムの要素、法定サービスとDA部局が手を組んで取組むことが必要である。先行調査は、システムの異なる部分が孤立して動いているようだが、それでは協力はできないし、逆作用さえもたらしてしまうことを明らかにしている(注65)。

 

複数の回答は、システムの異なる部局が異なるアプローチを採用し、情報を常に共有することなく、相互に矛盾し衝突する決定に至ったことを伝えている。こうして、同一の親、典型的には一人の母親が、異なるシステムで全く違うように扱われ、彼女と子どもに対し、異なった結論がもたらされるということが起こりえた。刑事裁判では、彼女は、深刻な犯罪の被害者として、彼女と子どもの安全を最優先して共感をもって扱われると期待する。公法(public law case)事案では、焦点は子どもの保護に移り、その母は子どもの保護者であるばかりか、虐待者の潜在的共犯でもありうると扱われる。私法上の子の事件では、その同じ母親が、被害者とか保護者とかでなく、子どもと虐待者の関係を脅かす容疑者、片親引離しの疑いがかかる者として扱われる。

 

これらのかみ合わないアプローチは、異なる司法システムの間で矛盾した決定を生み出している。委員会は、システムの他の部局を擁護するスタンスが、私法上の子の手続によって蝕まれたという多くの例を受け取った。数ある例には、MARAC(リスク評価の多機関検討会議)によって虐待のハイリスク被害者とされたのに、家庭裁判所ではそのアセスメントを無視されたもの;子どものソーシャルケアが母親を虐待的なパートナーと別れなければ care proceedings(子どもを親から分離して保護する措置)に入ると脅したのに、そのあと父による 子の処遇の申立を支援したもの;虐待加害者の父親に虐待禁止命令を出した家庭裁判所が母親に父親への引き渡しを命じたものがあった。

 

反対に、警察が家庭裁判所の裁判が絡むことを嫌って、コンタクトに関連する虐待には動かないということも語られた。

 

さらにシステム各部での情報交換のための調整が行われないために、さらなる問題も生じた。ほかの機関で収集された情報やアセスメントが家庭裁判所の判断形成に用いられない例が詳細に多数報告された。それゆえ、委員会は、DAとそれの子どもへの影響についてすぐ利用できる証拠が家庭裁判所では無視され、リスクアセスメントのプロセスが、他で作成されたリスクの指標やアセスメントを考慮し損なうこと、特に家庭裁判所は個別のケースに専心できるリソースがないことから、他の機関からリスクについて示されたことや評価が考慮されないことを懸念する。

 

機関の間でコミュニケーションや情報共有の貧しさが生命を脅かすリスクであることは、子どもの安全保護レビューや家庭内殺人レビューで繰り返し強調されてきた(注66)。反対に、OfstedはDAを経験している子どもの生きた経験を改善するのは、常に多機関の効果的な連携によると指摘している。 (注67)

 

4.2.4(要因4)当事者主義的構造の問題

DA取り扱いの4つ目の障壁は、当事者主義的な裁判手続である。理論的には、家事裁判は、子の福祉をもっとも増進する処遇をするために、将来に向けて広範囲の調査を行い審理することができる(注68)。しかし、現実には、手続は一方の親の申立で始まり、特にDAや子ども虐待の主張が否定されると、裁判所は、対立し、互いに勝訴しようとする二当事者に判定を下す構造に導かれていく。おとな志向(adult—orientation)の手続は、多くの子どもたちが手続に全くもしくはほとんど関与できない、ほんの少数の子どもしか直接に手続で代理してもらえないという事実によって、さらに悪いものになる。これは、子どもの利益に焦点を当てることをとても難しくしている。

 

手続の当事者主義的なあり方は、DA事案においてさらなる問題を引き起こす。当事者主義的アプローチの基礎は、双方当事者に代理人がいようといまいと、裁判官の役割として、双方に同じレベルで争える場を確保することである。これが、加害者と被害者の間のように権力の力学が手続の構成に影響するようなときには、非常に困難になる。裁判所は、DAを受けたすべての被害者が脅迫やコントロールを受けることなく、完全に手続に参加できるよう保障する必要がある。しかし、第8章で述べるように、家庭裁判所はこれらの権力の力学を理解することもうまく取り扱うこともできていない。例えば、裁判における特別な方法として、被害者がDA支援者に付き添ってもらうことが、2当事者間の不公平を―正すのではなく―もたらすという理由で裁判所により否定されるという証言が寄せられた。

 

4.2.5 複合的な構造的困難

複合的な構造的困難は、個々の経験が異なる構造的要因とシステムによる要因が交差して作り出されるところで起こる。上記に上げた4つのシステム上の障壁が個々の事案でどう作用するかは事案によって違う。むしろ、当事者のこうした障壁の経験は、さまざまな形態の構造的な利点や不都合によって影響を受ける。構造的な不利が私法上の子の手続の経験と交差する形態は、最もよく回答されたところでは、法律扶助がないための経済的な不都合であり、黒人とか少数民族の出身であったり、田舎に住んでいたり、といったことである。障害のあることが裁判所での経験と交差するという回答はほとんどなかった。しかし、先行の調査は、これが裁判の当事者やDA被害者の困難を増すことにもなることを示唆している(注69)。

 

構造的困難の形態として、最も重要で頻繁に述べられたのは、法的代理人の不在であった。2013年の法律扶助改正のあと、今や大方の私法上の子の手続は少なくとも一方は本人訴訟(LIP)である(注70)。調査は、本人訴訟で家庭裁判所手続を進めていくことが、誰にとってもいかに難しいかを明らかにしている(注71)。特に、DAと子どもの性的虐待事案において、プロコンタクトカルチャーと当事者主義的システムと本人訴訟が交差するところで、大きな課題があるとされる。多数の親個人と専門家が、虐待の被害者と子どもを虐待から保護しようとする親が本人訴訟しなければならないときには、対等の参加を達成することは非常に困難であると報告している。虐待の被害者と子どもを保護しようとする親は、本人訴訟で、自分が無力であり、混乱し、見放され排斥されていると感じ、焦燥を募らせ、彼らがすでに経験していたストレス、恐怖、トラウマを味わったことを報告している。

 

代理人不在に起因する問題はさらに大きく広がっている。DAの被害者と子どもを保護しようとする親に代理人がつき、加害者が本人訴訟だった場合に、専門家のフォーカスグループの関係者は、裁判官たちが本人訴訟の加害者が公正な裁判が受けられるようにしたり、虐待的な言動は裁判プロセスをきちんと理解していないからだと解釈したり言い訳し、裁判官たちが(加害者をかばい)懸命になっているように見えたと報告している。反対に、個人からの回答では、父親たちが虐待を訴える元パートナーが法的扶助を受けられるのに自分たちは受けられない不公平が広がっている、それはシステムの対審主義と、双方当事者の交互尋問の結果を損ねると強調されていた。

 

法律扶助は今でも、DA被害者で、求められる虐待の証拠を自分で揃えられ、その資力要件を満たすなら利用することができる。これは、家や何かの持分を持つ、けれどもとてもわずかな現金しか弁護士費用に充てられない被害者を経済的に罰するものである。それは、加害者が、被害者に資産に手を付けられないようにブロックしてコントロールしている場合に、被害者が受けている経済的虐待を悪化させる。我々は、DAの訴えを証明するため法的扶助を受けようとして、その家を再抵当に入れ、破産宣告を受け、相当額の負債が確定したという被害者からの回答を受けた。 

 

委員会は、Southhall Black Sisters と黒人、アジア系および少数民族のフォーカスグループから、DA被害を受けた黒人、アジア系および少数民族の女性たちの脆弱性、無力感の経験について、充実したエビデンスを受けとった。これらは、家族内、コミュニティ内の期待、プレッシャーと脅し―家族やコミュニティの恥につながることを怖れてDAについて伝え語っていないがーを含んでいる。関係者はまた、被害者は途方もない社会的文化的圧力の下にあって、和解させられコンタクトに同意させられている。不安定な移民の立場にある女性は、このリスクが最も大きく、彼らは虐待的な状況に留まるか、国外追放になって子どもたちを永遠に失うリスクを冒すか、の選択を強いられる。他の関係者は、被害者はさらに言語的な困難を抱え、孤立し、養育に関わる社会的文化的な支援を得られず、裁判所から信用性の劣る証人とみられることを強調した。何人かの関係者は、白人の元パートナーは裁判所で人種的優越を享受する;彼らは鋭く裁判所に「よそ者」と見られ見くびられたと感じ、その経験を人種差別と受け止めていると感じた。

 

もう一つ、構造的な困難の形態として多く上がったのは、田舎に住むことによる、サービスの欠如や孤立という、地方に由来する特有の障壁であった。提出された回答が強調したのは、司法システムが一枚板ではないこと、裁判所により地域によってかなり違い、法律相談へのアクセス、特に法律扶助を介した相談、田舎で広範な支援サービスや介入を受けることの困難といった懸念が生じることである。加害者への介入は概して短期間で、田舎ではその提供やアクセスの可能性については問題が多い。委員会には、加害者がそのコントロールを強める手段として、田舎の孤立を利用しているような事案が寄せられた。これらの回答では、裁判所がその戦略を理解しているか、田舎で被害者の脆弱性が強められたことを考慮したかに疑問を呈していた。

 

次章以下では、プロコンタクトカルチャー、裁判での当事者主義的アプローチ、裁判手続でのリソースの制限、家庭裁判所の活動における孤立主義が、どのように裁判所の手続を不満足なものにし、子どもと大人を潜在的に危険にさらす結果を導いているかを調べる。

 【注】

(54)9章下を参照。

(55)Lord Chancellor’s Advisory Board on Family Law: Children Act Sub-Committee, Making Contact Work: A Report to the Lor chancellor on the Facilitation of Arrangements for Contact Between Children and their Non-Residential Parents and the Enforcement of Court Orders for Contact(2002)

(56)L, V, M, H(Contact: Domestic Violence)[2001] fam260.参照。

(57)PD12J 2008/9

(58)Care Crisis Review, Options for Change(2018)

(59)Family Court Statistics Quarterly 

http://www.gov.uk/government/collections/family-court-statistics-quarterly

(60)literature reviewのsection7.1,7.2,7.3を見よ。

(61)Re C(Direct Contact: Suspension)[2011]EWCA Civ521, per Munby P,47パラ.

(62)Re W(Children)[2012]EWCA Civ 999

(63)Re W(Children)[2012]EWCA Civ 999

(64)委員会は、「片親引離し」が疑義のある概念であることを知っている。しかし、提出された情報で広く言及されていたので、この概念をそこで提起された問題を反映させるために用いている。The literature reviewのsection7.2をみよ。

(65)特に、M.へスター(2011)’The three planet model: Towards an understanding of contradictions in approaches to women and children’s safety in contexts of domestic violence’によって明らかにされた「3つの惑星モデル」を見よ。

(66)Child Safeguarding Practice Review Panel, Annual Report 2018-2019(2020); Home Office, Domestic Homicide Reviews: Key Findings from Analysis of domestic Homicide Reviews(2016)

(67)Y Stanley(2020) ‘Domestic abuse: Keeping the conversation going’ at

https://socialcareinspection.blog.gov.uk/2020/01/07domestic-abuse-keeping-the-conversation-going/

(68)PD12Jの28パラを見よ。

(69)L Trinder et al, Litigants in Person in Private Family Law Cases(2014)

(70)Family Court Statistics Quarterly

https://www.gov.uk/government/collections/family-court-statistics-quarterly

(71)L Trinder et al, Litigants in Person in Private Family Law Cases(2014)

                                                                                                                                  【長谷川京子】

 

 

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第5章 DAの主張と立証

 

 

 

 

5.1 はじめに

被害者の回答は、彼らの多くがDAの主張をする気がしないと感じていることを示していた。その主張をすることでの第一の重要な障壁は、虐待それ自体の影響に、家庭裁判所システムで働く専門家の間の無理解の影響が結びついたものである。最近まで、DAの構成要素である威圧的支配(coercive control)について司法システムにおいては殆ど理解されていなかった。特に、刑事裁判システムでは、過度に単発の身体暴力に焦点を絞り、それ以外の形態の虐待に対応しなかった。しかし、多くの被害者にとって、DAの現実というのは、彼らを絶え間ない怖れと焦燥に置くために数多くの方法を用いて、彼らの生活を細かく管理することである。被害者でも、彼らがDAを受けていて助けを求めているということを気づくのに長い時間がかかる可能性がある。司法システムが身体暴力に焦点を当てるのに対し、DA被害者は、通常、これは彼らが受けてきた虐待のうち最悪のタイプではないという。;最も大きな影響があるのは、継続して起こる心理的・情緒的虐待、威圧と支配である。この章では、DAを主張し立証することへの障壁を取り上げ吟味する。これらの障壁は、下図のようにまとめられる。

 

5.2 DAへの理解の欠如

「DA」の理論的枠組みに挑み、全範囲の虐待と継続する影響を専門家に認識させるようなことは、私法上の子の手続にある虐待された女性と男性には通常、障壁にあたる。回答の中には、専門家がDAの複雑さと離別後虐待が双方の親、典型的には母親、とその子どもに及ぼす影響を理解しないことを示すものが数多くあった。委員会には、このようなDAと継続するトラウマの理解の欠如が、こうした主張をコンタクトにつき不適切なものという受け止めを生んでいることが語られた。

 

文献は、ある専門家の間に、子の処遇の事件を抱えた母親は手続遅延のためもしくはコンタクトを挫折させるために「game playing」の一部として虚偽のDAの主張をするという、受け止め方があることを示唆している。しかし、調査は、DAで「虚偽」主張の割合は非常に小さいことを示している(注72)。虚偽の主張を数えることは難しいのに、女性はコンタクトを挫折させるために事実を捏造するという観念は、女性が専門家に虐待を打ち明けようとする時に遭遇する否定的な経験という文脈で理解されなければならない。この章で示すように、本照会に対し母親から提出されたエビデンスでは、彼らが主張する気を殺がれたとか、彼らが「ステレオタイプ」な被害者ならこうだろうという風に行動していないという理由で信用されなかったことが、繰り返し語られた。母親たちと専門家と彼らを支援する組織は、子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズ、子の処遇手続の裁判所を含め、多くの専門家の基本姿勢が、主張を高度の疑いを持ってみていると認識していた。子どもの性的虐待の主張は疑念と不信に関連して特別な問題を生じた。

 

「ステレオタイプ」はDAに対抗して作用するが、これには次のものが含まれる;警察や子どもソーシャルケアに通報されていない虐待や第三者への報告が遅くなったもの、助けを求めたり虐待者から離れようとするより虐待者との関係に留まること;裁判所での証言時に「感情過多」か「冷静」に見えること。加えて、精神を病んでいる親―しばしば虐待のトラウマとしてそうなるが―は、これで彼らの行ったあらゆる訴えを封じられたと感じている。これらのステレオタイプは、DAとトラウマ、とりわけ継続する威圧的支配の影響の理解に欠ける。最後に、少数の男性被害者とその支援組織からの回答は、彼らには特に、信じてもらえないという障壁があることを述べた。

 

5.2.1第三者への通報の欠如もしくは遅れ

「親たちはDAやその他の害を関連する事項として認識しないかもしれない、あるいは彼ら自身が虐待の被害者とかサバイバーだとは認識しないかもしれない。手続のなかでこれが存在するかもしれない難しさは、一方の親が福祉に関連するすべての事実に証拠をあげることができないために、裁判所が関連するすべての事実を認識して福祉をはかる裁判をすることができないことにある」                    子どものための法律家協会

 

DA被害者がなぜ裁判所やCafcass/Cafcassウエールズやその他の機関に、被害経験を報告しないのかについての説明はたくさんある。一部の母親たちは委員会に、専門家からこのシステムで明らかに悪い経験があるので、DAについて話さないように、と言われた、と述べた。これは、ウィメンズエイド・イングランド連盟(Women’s Aid Federation of England)、ウェルシュ・ウィメンズエイド、その他被害者支援団体によって、確認されている。ある女性たちは委員会に、(被害の)報告が遅れると、後程彼らが嘘をついたと追及されると述べ、これもやはり被害者支援団体がその回答で反映している。The Transparency Projectは、被害者は早期に主張をあげる重要性、「遅く」なるとその信用性に対する攻撃にあうことを正しく理解していると回答している。エビデンスの照会に対して女性たちからは、最初のうちある言動が虐待であると十分認識していなかった、特に性的虐待と威圧的支配的言動に関してはそうだったという回答をうけた。子どものための法律家協会は、彼らの視点で、スキルのある専門家(DA の専門家,セラピスト、ソリシター)に、こうした被害者が虐待的な関係に気づき主張と証拠を裁判所に提出するよう援助するよう求めた。

 

委員会に提出されたエビデンスは、それゆえ、報告されず報告が遅れることはあるから、私法上の子の手続では広い範囲の専門家が十分に理解する必要があることを示している。

 

5.2.2 虐待者からなかなか離れない

本当の虐待被害者なら虐待者と一緒にいないだろう、子どもを連れてすぐさま逃げるだろうという「ステレオタイプ」は、特に女性のDA被害者には問題である。第4章でみたように、公法や子ども保護手続では、その子の母親が虐待者との関係を続けたことを、子どもを保護しなかった証拠と見られて非難されるかもしれない。母親たちは委員会に、彼らが離れようとすれば虐待がエスカレートするから怖くて虐待者のもとにとどまった、と語った。

調査は、これが現実的な恐怖であり、虐待はしばしば離別を起点にエスカレートすることを示している。さらに、ある母親たちの回答は、彼らが虐待者と一緒にいれば、子どもをある程度虐待から守ることができるけれど、彼らが家を出てコンタクトを命じられたら、それができなくなることを恐れたと述べた。専門家 の回答も、虐待された女性たちが虐待者のもとに留まることは虐待が起こらなかった証拠と捉えられてはならないと強調したが、実際に、何人かの専門家はこういうとらえ方が裁判で起こると認識していた。ここでも、委員会に寄せられた回答は、DAの力学をよりよく理解し、被害者がその子どもを守れるような裁判が必要なことを示した。

 

5.2.3 「感情過多」または「冷静」な態度

回答で指摘された、もう一つの信用性にかかわる障壁は、裁判所での被害者の見え方であった。双方の人々と幾人かの専門家は、被害者が証言時「感情過多」か「冷静」に見えることにより判断されていると述べた。これらの回答によれば、冷静で落ち着き払ったように見える被害者は信用性がないとされ、そのほかは「取り乱した態度」ゆえに信頼性で劣ると判断される。一般に、DAの女性被害者を支援するため専門家を送り出す専門機関は、トラウマの影響の理解が欠け、それが被害者の信用性の判断に影響していると述べた。Refugeは大きなDAサービス団体であるが、委員会への回答に向け2019年8月にスタッフとサバイバーに調査を行ない、被害者の見え方に関する多数の事項がその信用性の判断に影響しているようだと強調した。

 

何人かのスタッフは、サバイバーが「典型的な」DAサバイバーに関するステレオタイプのどれかを満たさなければ、裁判官がその被害開示の真実性を疑問視する事例をあげた。例えば、ある裁判官は、そのサバイバーが法廷に化粧をしてきたから「被害者のようには見えない」と言った。スタッフは、彼らの経験では、サバイバーは虐待のことをうまく話せない、泣き崩れることもある、裁判所によって否定的にみなされていると言った。また何人かのスタッフは、一部の裁判官のサバイバーに向ける態度は、「虐待されトラウマを受けた女性」ではなく「情緒的に興奮しやすく起伏の激しい女性」というもので、訴えやその関連事項を斥けてしまうと受け止めている。Refuge

 

この陳述は、刑事司法システムにおけるレイプ「神話」に関する文献と幾分共鳴する。もし女性が過剰に感情的と見られたら、「影響を誇張している」と否定的に判断され、反対に、感情を全くかほとんど示さなかったら、その信用性を傷つけるものと解釈される(注73)。委員会に提出されたエビデンスはDA「神話」を一掃し感情表出の高揚も平たんもトラウマの症状でありうるという理解を促進するために有効な施策が講じられるべきことを明らかにした。

 

回答で信用性についてもう一つ強調されたのは、虐待加害者とされる者の外見や物腰と対照的な場合の、被害者の見かけに関してであった。虐待的な関係での不均衡な力のダイナミクスは、文献でよく伝えられていることである。母親たちの回答で、繰り返し訴えられていたのは虐待加害者がいかに敬意に満ちたイメージを伝えることができるか、それにより信用を得て、それで専門家をして虐待など起こらなかったと確信させることができるかということであった。被害者たちは、彼らのすべての種類の専門家-子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズ、裁判官たち―が虐待加害者に「魅了され」、彼らが虐待者でないと専門家に確信させてきた数多くの例を提供した。

例えば、ある母親は、元パートナーが警察などに働きかけ、彼女の見方では「裁判所で上手に述べ」手続がどう進むか知って、これを彼の有利になるよう用いたと語った。別の母親は、「裁判官の決定は時に、すっかり虐待者へ共感して行われる、それらの決定は虐待者の話し方や服装がどうだったかとか、彼らが裁判所で着けていた仮面を単純に信じ込んだことに基づいている。」と語った。

 

虐待者が落ち着いて、上手に陳述し「合理的」に見えるときに、どのようにして裁判所と他の専門家が一人の虐待者をより信頼性が高いと考えるかをみることは、たぶん容易であろう。母親たちからの回答には、虐待者の、制御され秩序だったプレゼンテーションと対照的に、母親たちの感情的で不調で乱れた訴えは甚だしく不利だと感じたと語るものもあった。しかし、専門家から出た回答には、母親の「不調で乱れた」様子は、虐待を受けた影響が継続しているせいかもしれないし、その虐待者の至近距離にいて、特にそこに適切な保護措置がないということによるものかもしれないと強調するものがあった。

 

これらの専門家からの回答はまた、虐待された女性たちが勝ち目のない状況に直面するだろうことを明らかにした。ウェルシュ・ウィメンズエイドほかは、裁判所で母親が落ち着き、明晰ではっきり発言しても、彼らは裁判官たちから信じられないという回答を寄せた。ウェルシュ・ウィメンズエイドは、これは、彼らの見方によるところの、女性は苦境にあったときどうふるまうかにかかわるジェンダー化されたステレオタイプに基づいて起こっていると述べた。この評価は、母親とその他の専門家からの、虐待被害者と加害者の型にはまった評価には、性差別と階層による偏見(class prejudice)の要素があると繰り返された。これは、例えば、中流階層の職業のある父親であればその証言が不釣り合いに重視される事例に見ることができる。

 

虐待者はしばしば専門家に落ち着いた、確信を得られる態度で対するかもしれないが、これは一般普遍的ではない。回答には、裁判所の建物内で、法廷ででも、言葉でも身体的にも攻撃的になった虐待者の例が数例含まれていた。いくつかの例では、裁判官と裁判所職員がこうした言動の「弁解」をしたと言われた。委員会には、いくつかの裁判で、虐待的な言動が、裁判でコンタクトができないとかコンタクトへの母親の敵意を感じたという欲求不満に出た理解可能な結果として「正当化」されていることが語られた。

 

5.2.4 メンタルヘルス維持の困難

多くのDAの被害者は、女性も男性も、その回答のなかで、彼ら自身と彼らの子どもたちのメンタルヘルにDAが与えた影響について述べている。彼らはPTSDとうつ病の経験に言及した。しかし、幾人かの被害者は、彼らのメンタルヘルスの障壁が、裁判所が彼らを信用しない重要な要因であると思うと述べた。例えば、ある母親は、虐待による彼女のメンタルヘルスへの影響のために、彼女がその経験を他の経験のように理路整然と述べられなくなったと語った。彼女は、信じてもらえないという恐れは虐待を告げるうえで「最大のハードル」であると言った。「女性たちは虐待的な関係から離れた影響のために不安定なんだと思われる。」ほかの母親は、DAを受けて彼女の子どもが経験したPTSDは、代わりに彼女の貧弱な養育のせいにされたと述べた。彼女は、裁判所がDAの主張を吟味しようとはせず、代わりに彼女は、「裁判官が娘のメンタルヘルスのことで私を非難した」と感じたと言った。これらのコメントは、被害者支援組織から提出されたいくつかの専門的回答で繰り返されている。

 

大切なことは、男性のDA被害者からの回答はかなり少なかったが、心理的な不調は、彼らもまた固定観念が信用性の障壁になる領域だと感じていたことである。

 

5.2.5 男性の被害者

DAの男性被害者を支援する組織は、付加的に、男性がDAの被害者になるわけがないという文化的基準や固定観念に関連する障壁をあげた。Mankind-男性被害者を代表する組織である―は、男性被害者が(虐待被害を)主張することの難しさは、:「男性被害者の周りにある社会的な規準と固定的なジェンダー観念が絡み合っていることにあり…このことは、男性が信じてもらえないのではないかという恐れ、どんな主張をしようと家庭裁判所/治安判事に悪意に出たものと見られたり、自分がDA被害者だと述べたときに女性被害者より高度の「証拠/信用可能性」を閾値として求められるのではないかという恐れがあるということだ」としている。男性被害者を支援するもう一つの組織-Family Need Fathers :Both Parents Matter-は、自分が受けている虐待を認識し、虐待の主張をすることに向けた、男性支援と女性支援の格差は、男性が聞いてもらい信じてもらううえで一層の障壁であると述べた。

 

5.3 直近の身体虐待に焦点をあてること

DA、特に威圧的支配を理解していないと、単独の近時の身体暴力に焦点を当てることになる。多数の虐待された母親及び虐待された数人の父親からの回答は、非身体的な虐待をあげることは難しいと伝えていた。被害者が、彼らが経験した非身体的虐待を認識し、それについて語れるようになるには長い時間がかかるかも知れない。被害者に関わり深い暴力を挙げるように言われても、最悪でかつ直近に起きた身体的暴力のことを話すことに集中していることから、非身体的虐待のことを認識し、話すには時間がかかるだろう。ある母親は、「専門家はみんな、事件に深くかかわらないうちに、実際に起こった身体的虐待を探す。情緒的・心理的な影響は完全に無視される」と見ていた。この陳述は母親たちからの回答でいつも裏付けられた。ある母親は「私が会った5人の裁判官は、DAについて殆ど理解しておらず、心理的な影響や継続している支配行動よりも、身体的ダメージ(彼がとびかかってきて殴って来るのが怖かったのか)に焦点があった」と見ていた。またある回答はこの問題をさらにこうまとめている。

 

回答まとめ

加害者はDAを自白し、これらはCafcassの報告書に記録された。しかし、治安判事がその事件で聴き取りをしたとき、その母親は、裁判所がその虐待に関心がなく「私に彼らに見せるような骨折や身体的な傷害がなかったから、虐待という問題を打ち飛ばして片付けようとしていると感じた」言った。彼女の見方では、裁判所はDAの深刻な懸念を衝撃的で危険なまでに見ようとしなかった。彼女は聴取の時、一人の裁判官が加害者とともに「忍び笑い」し彼と結託しているように見えたと言った。結局、彼女は、その裁判官が、「私の元夫の証拠の紛れもない矛盾を見過ごして彼の虐待的な言動を正当化し正常化した」と述べた。こうした結果として、裁判所は「我々の虐待者に、裁判所によって支持されそれ以上の結果から守られていると『効果的に』感じとらせていると感じた」。

 

非身体的虐待の証明も、いくつかの専門家の回答で問題が多いとみられている。

 

「特に身体的暴力がないとか少ない場合は、言動のパターンを描いて示すことが重要かもしれない。」しかし「私たちのメンバーはDAの事件で、子どもたちしか目撃者がいないところで起こることが多いのに、その定義に従ってしっかりした証拠を出すことがいかに難しいことかを強調した。」   裁判官協会

 

身体的虐待へ焦点を当てることは、一部には、心理的虐待の立証を認定することを難しくしているシステムの結果であり、一部には当事者主義的手続の結果であると思われる。虐待の証明は、経済的虐待があるところでは特に難しいかもしれない。

 

回答まとめ

ある母親は委員会に対し、情緒的、経済的虐待の証拠をあげたが、裁判官たちに無視されたと語った。彼女は、身体的虐待はないから事実認定のための聴取をしない決定には同意するが、心理的虐待を止めるため裁判所に力を貸して欲しかったと述べた。しかし代理人を付けた元パートナーを相手に代理人なしで裁判する当事者として、彼女は「注意を向けられず無視されている」と感じた。彼女の事件は3人の裁判官の前で進んだが、そのたびに彼女は裁判官たちが「心理的虐待は無視する」ようだと感じた。彼女は一人の裁判官が「無礼」で、もう一人が「恩着せがましかった」と述べた。

 

以上の回答まとめのように被害者と元パートナーの間で利用できるリソースに差があれば、皮肉なことに経済的虐待に続いて、彼が代理人を立てられるのに彼女は経済的な理由からそれができないために、家事手続になった時により弱い立場に置かれてしまう。このリソースの不均等はDA被害者であった父親たちからの数件の回答でも、元パートナーの代理人と対決するときに法的代理人を立てられないと述べられていた。これらの事案で、形式的にはリソースや法廷代理といった「同じ機会を」与えられたとしても、それで心理的/経済的虐待がきちんと聞き取られるかは確実ではない。委員会への回答は、法的助言と代理、そして裁判所が聴取する証言のタイプについて、多数の、質に関わる事項を示唆している。

 

母親たちの回答から伝えられる共通のテーマは、すべての関係機関、特にCafcass/Cafcassウエールズと裁判所がDAで最近数か月ないし数週間内に起こった出来事にだけ関心をもつということだった。「経緯を連ねた」主張は関連性が薄いものと扱われ、被害者は時に、何年にもわたり続いてきた虐待の累積する影響について語る気力をくじかれ、断念させられてしまう。

 

回答まとめ

ある母親は、委員会に、「私は同じ裁判官に2度あたった。彼は、私を死ぬほど震え上がらせた。彼は、わたしたちの経緯や事件を読むことに関心がなかった。その代わり、彼は法廷の私たちの前で、私たちの事件の書類を振り回して、こんなものは読んでいないが私(母親―訳者注)が悪いと言った。」その裁判官は父親とのコンタクトを命じたが、そのとき父親は、他に用事があるからそんなことはできない、と言った。この母親は、もし裁判官が、父親が過去のことを「見せかけ」ることができるという経緯を読めば、彼女の虐待者が本当はコンタクトなど興味がない、その手続を虐待と支配を継続する手段として使っているだけだということが分かったはずだと考えている。彼女の意見ではその裁判官は、「威圧的虐待、経済的心理的虐待を全くわかって」いなかった。

 

最近の「出来事」に焦点を当てることは、DAを理解していないという懸念につながる。裁判に近い時期の単発の出来事に焦点をあてるのではなく、長期にわたる一連の言動パターンを知ることである。数か月前のことでさえ「単なる経緯」として主張を軽視することは、この問題の本質を深いところから理解し損ねている。特に威圧的支配は被害者の人格と自律性を破壊し、何か月・何年にもわたり持続的に損ねる。ある母親はこれを次のようにみている。

 

「私は自分のソリスターから、裁判官は『父親が家を出たのだから、DAは過去のこと』と考えるだろうと言われた。DAは決して過去のことではない。それは、加害者が家を出ても、今も、これから何年も続くのだ」     母親

 

そして実際、DAが治まっても、その心理的な影響は、むしろ長く続くものである。

5.4 証拠として求められる類型その他の問題

調査は、DAの被害者のうち実に少数の者(20%未満)しかその虐待を警察に通報しないということを明らかにしている(注74)。これには様々な理由があるが、回答は専門家が、警察に通報しないということを本当は虐待が起こらなかったことを意味していると思い込むことに問題があると、明確に指摘した。母親たちからの回答は、彼女たちが、なぜ警察に通報しなかったのかについて問われたり、警察に通報しなかったのだから信用に足りないという印象を強く持たれてしまったと述べている。

 

DA被害者で、健康分野の専門家からの支援を得ようとする者の割合も、身体に怪我をした時でさえ、実に小さい(注75)。大部分の被害者は、非身体的な影響―最もよくあるのは「精神的情緒的問題」であるが―を健康分野の専門家に言わない。それでも、傷害を負ったりそのほかの影響を受けた者のわずかに1/3の者は、主にGPから、医学的関心を向けられ、いくつかの例では精神保健の専門家や精神科治療、時にはA&E局のサービスを受ける(注76)。この調査は、GPsや他の健康分野の専門家から証明の支援を受けられていないことが、信用性の障壁にされてはならないことを示唆している。しかし、警察からの証明支援が得られていないように、被害者は彼らの話が、「独立の」第三者からの補強証拠によって裏付けられないために信ずるに足りないという印象をもたれた。これには問題がある、特にGPが証拠を提供できるところでは。彼らがこれらの怪我や影響がどのように起きたかに関しては証明できなくても、証拠とは通常彼らが処置したり診た怪我に関することだからである。フォーカスグループに所属するある男性被害者は次のように言った。

 

「裁判所の手続はまるで、誰でも何でも好きなことを言える場所のようだった、私は自分の事件を―それはちゃんとした捜査が行われなかったから―証明するというより、自分に対する主張を反証しようとして、苦労して証拠を集めようと歯医者から返信を得たが、そこに書かれていたのは、彼らが争いに巻き込まれたくないということ、彼らが言えるのは私が1本抜歯したがなぜそうなったかは不明というものだった」    男性被害者フォーカスグループ 

 

フォーカスグループの一つに所属する母親たちは、裁判所の関心にむけて警察の報告書以上の他の証拠を提出しようとしたが、その証拠、例えば支援員からの報告書のような証拠は、関連性がないとして退けられたと報告した。しかし、警察からの証拠がある事案でも、関連性があると常には考えられていない。委員会に、幾人かの母親たちは、警察に起こったことを報告したけれども、いざ彼らがこれを家事裁判で証拠にしようとすると、それは退けられたり無視されたりしたと語った。

 

回答まとめ

別居親である父親がレイプと他の性的加害で捜査を受け、警察は警報装置を含む保護措置をとった。しかし、母親は裁判所が「この件をいかなる証拠評価もなく斥けた」と回答した。この母親には、3つ裁判がかかり、最後の1つは元パートナーが、彼女の新しいパートナーが彼女に暴力をふるう(これは彼女が元パートナーについて警察に通報した内容)という虚偽の報告をして起こしたものだった。これは不実である;その母親は、新しいパートナーから虐待を受けたことはなく、こんな訴えをしたことはない(それは警察で証明できることだ)と言った。その母親は、元パートナーによる反論(counter allegations)は実体のないものだったが、裁判所はこれを考慮しなかったと語った。彼女は警察がさらなる虐待から彼女を守る措置をとったら、ちょうどその時に、コンタクトを実施するよう強制されたと述べた。

 

この回答まとめは、サイロワーキング(訳者注:孤立した業務遂行、縦割りにつながる)の危険性を浮かび上がらせている。これはまた、虐待被害者が「勝訴できない」状況も明らかにしている。委員会が述べてきたように、一方で、警察からの証拠は家事裁判で高い価値を認められ、それがなければ否定的に解釈される。他方で、警察の証拠は、今はまだ、それが使える場合に常に共有され、考慮されるわけでない。

ある虐待された母親の父親(訳者注:子の母方祖父)は、家庭裁判所でDAを提起するのに多年にわたり家族で大変な経済的負担を負ったことを語った。この事案で虐待の加害者は警察で働いていたが、このことは、調査が示したように、被害者が支援を受け信用性を得るうえでさらなる障壁になり得る(注77)。この父親は、彼の失望を委員会にこのように語った。:「現在のシステムには、家庭裁判所から刑事裁判へとその逆方向で情報を共有する場がないのです。」

 

機関の間で情報交換が欠如していることは長年問題とされてきた。それに基づき、過去においては、統合的なDVコート導入が試みられたが、今なお、統合がうまくいくには障壁がある(注78)。

 

異なる機関の専門家 は、情報共有への抵抗に関して異なった見方がある。裁判官からの回答は、警察の開示情報を得るための時間が審理の遅れにつながること、裁判所には記録を定期的に再調査するリソースがないこと、そして未解決事件の開示情報に審理の間に触れることに言及していた。これは、プロコンタクトカルチャーや孤立した業務遂行と同様、刑事司法と家事司法双方のリソースの問題である。

 

DAを主張するうえで存在する、多数の他の「手続」障壁が、提供された回答のなかで指摘された。母親たちの回答は、子の処遇命令申立書の作成や答弁時に補足的情報を提出するために、C1A様式(訳者注―DA危害主張用の書式)を見つけ完成する難しさが強調された。適切な支援がないと、記入欄が埋まっているか気づかない母親もいた(注79)。気づいていても、いくつかのフォーカスグループの女性たちからのエビデンスは、その記載が事態を悪化させないか心配して、書類の記載に戸惑ったことを示していた。母親たちと何人かの専門家からの回答は、これらを支持し、そのフォームは虐待の話をきちんと書き込めるように作られていないと注記した。書類の様式は、何が起こったのか短文の説明文を入れる5つの箱を含み、いつその言動が始まり、どのくらい続いたかを示すようになっていて、そのスペースは限られていた。これが虐待被害者のなまの経験を公平にとらえているか否かは、今回の回答で一つの論点として取り上げられた。これは第7章でScott Schedulesに関して記述した懸念と重なるが、長く複雑に絡み合った虐待の経緯を、きちんとした個別の記述に圧縮することは難しく、それ自体がその虐待の過小評価を生じうる。

 

回答で一貫して提起されたもう一つのことは、Cafcass/ウエールズによる安全保護措置の聴取において、虐待の報告のために与えられる時間が全体として足りないということであった。母親たちの回答は、まったく未知の人に話すのにたった30分しかないこと、そして適切なサポートを何も受けずに虐待の話をするよう期待されていることを報告した。聴取は時に、顔を合わせてではなく電話で行われ、虐待被害者たちはこれでは彼らと子どもたちが経験したすべてを語ることはできないと思った。そのフォーカスグループの一つでは、母親たちは「空気中から例を引いてきて」質問され、彼らの恐怖や感情を親しくもなく信頼もしていない人に開示する事態に直面した困難を語った。彼らは、無神経で不適切で反倫理的な聴取のアプローチについて話した。この見方は、家庭裁判所システムで働く数人の専門家から支持された。例えば、司法円卓会議の裁判官の一人は、虐待について語ることはしばしば深刻でストレスのかかる経験だから、当事者は虐待をCafcassに電話で話そうと思う必要はないと言った。その結果、それは書類によってではなく裁判所で行われる。

 

Cafcassの安全保護措置のための聴取の不十分さはリソースの重大な不足を示している。英国の実務家円卓会議で、参加者は、Cafcassが限られたリソースしか有しておらず、その上公法事件を優先するプレッシャーを受けていると話した。その結果、ある範囲の専門家によれば、Cafcassは「しばしば辛抱できず早々と」、理由をあげずしっかりした判断もしないまま、DAはコンタクトに関連性がないと言うとのことであった。Cafcassウエールズはその活動について、一般の実務家からはもう少し好意的なフィードバックを受けたが、そこではリソースの問題は述べられていない。安全保護措置での不適切な聴取の実態は、ウエールズ サバイバーのフォーカスグループからも批判を受けた。

 

5.5 虐待を高葛藤としてでっちあげる

「高葛藤」の関係は、DAのある関係からは徹底して区別されるべきである。多くの例で、威圧的支配の影響について、虐待被害者は虐待者が何年にもわたってしていたことをすべて問題にすることはできない。虐待について被害者が話せるようになるには何年もかかるし、上記の通り、そうなるまでに遅れがあれば専門家には信用性を欠く指標と受け取られる。被害者が、虐待者のコントロールを破ろうとするとき、彼らの抵抗は平等な関係に出たものではない。しかし、「高葛藤」な関係とDAには明らかな違いがあるにもかかわらず、被害者たちと専門家は、彼らが、DAを「高葛藤」とか相互に虐待的な関係であるとでっち上げられ、その結果、解決策は、他方の親の虐待から子どもと成人の被害者を保護することより、相互の紛争減少と親同士協同することの推奨であると考えられた。幾人かの被害者が恐怖したように、そして法的に助言されたように、虐待的な親とのコンタクトで生じるあらゆる懸念を主張することは、共同養育に対する敵意の現れと受け取られた。

 

ある母親は語った。「私は片親引離しと洗脳という虚偽の主張を向けられている一人だが、専門家は本当の被害者を見分けられず、加害者に簡単に操作されてしまう。」

もう一人は言った。「女性たちはしばしば虐待を主張し、それで自分の子どもたちへの監護権を失った。」

 

委員会は、被害者と専門家から、DAの虐待者であることがしばしば「十分良い」親であるか否かと関係しないと思われ、その結果、被害者が虐待を主張する動機が疑惑の目で見られるというエビデンスを受けた。専門家と被害者たちは、被害者は虐待の結果から子どもを守るためというより、他方親に子どもを敵対させたいという熱情に出ていると受け取られると語った。

 

もし、子どもがその虐待者とのコンタクトを望まないと、加害者とその専門家はそれが虐待の結果というより片親引離しのせいだと思うようだ。第6章でみるように、子どもに対する効果的な聴取が行われない結果として、子どもがその虐待者とのコンタクトを望まない理由が正当に理解されず、考慮されない。もっと注意深く子どもを聴取すれば、片親引離しの主張にメリットがあるのか否か、もっとよく理解されるであろう。

 

5.6 虐待主張をすれば虚偽主張と反撃され否定的な結果を被ることへの怖れ

 

DA被害者の回答は、一部の者が、従前の経験に照らして、虐待者が、逆に虚偽主張――虐待、片親引離し、不安定や不適切養育を含む虚偽の主張――を挙げることを含め、ネガティブな結果を被ることへの怖れから虐待の事実を明かさなかったことを示した。

 

何人かの母親たちは、委員会に、虐待者たちが、彼らの信用を損ね虚偽の証拠を作り出すためにしぶとく力を注ぐことについて述べた。

 

回答の要約

ある母親は、元パートナーに対する虐待禁止・占有命令を得たとき、彼が子どもをコンタクト中に、でっち上げの感染症を口実に病院に連れていき、そこで専門家に彼女が情緒的に子どもを虐待していると告げ、その結果、医療報告を得、ソーシャルサービスへリファーさせたと述べた。この母親は、その夫が高等教育を受けた専門家で専門家を容易に操作することができたと述べた。彼女の弁護士はコンタクトの手続で虐待について話さないようにと助言した:「私の事務弁護士solicitorは、このシステムは父親を支援しており、私が彼に関する全部の問題をあげたりすれば、彼の仕掛けた罠にはまり、私が彼に対して引離し敵意を持っているように見られてしまうだろう」と言った。当初虐待を主張しようとした経験に続いて、彼女は「冷静、親切で従順に」と助言されたと言った。彼女は、「あなたが何を主張しても嘲笑される、心から子どものことを懸念しているというより、攻撃的で腹を立てているという風にみられる」と言われ、主張する気力をくじかれたと述べた。

 

上記の要約は、被害者たちが、自身の側の弁護士を含む専門家から、DAの主張をするな、DAの主張をすれば裁判所は否定的な見方をする、片親引離しや共同養育を嫌悪する証拠として使われてしまうと助言されたという報告の一つのイラストである。

 

「ほとんどすべてのサバイバーは、Refugeの調査において、虚偽の反論への怖れが、DA開示の抑止装置として働いていると答えた。あるサバイバーは、加害者が、もし裁判でDAを開示したりすれば、お前をアルコールと物質乱用だと裁判で虚偽の主張をするぞと脅したと述べた。サバイバーたちは、一般に、(加害者からの)反論により、子どもたちとのコンタクトを失うことにつながるのではないかと恐れていた。殆どすべてのsingle staff memberもまた、あるサバイバーたちがDAを裁判で開示することに抵抗する理由として、相手方からの反論をあげた。 Refuge

 

この点、いくつかの専門家報告は、母親たちの経験を裏付けるものであった。DAを受けた女性の支援団体の多くは、彼らの支援する女性たちが、ネガティブな結果を恐れて、虐待の話をしたがらないことを確認した。

 

良質な法的代理とは、被害者が虐待の主張を提起し、虐待的な言動を特定するのを助ける。本照会に先立って行われた調査では、しかしながら、LASPOによる法律扶助の削減は、多数の法律事務所による法的支援の終了を招き、それは被害者たちに家事事件で必要な法的支援には、知識と経験が十分でない弁護士しかいないということを意味している(注80)。これらのある研究では、ある弁護士が、子の処遇の手続でDAの被害者から法的助言を求められたのに、専門家として利用できる対策が少なく、被害者を狼狽させてしまった例がある。これは、個人たちと専門家の一部から寄せられた回答で確認されたことであるが、;法的代理のための公的資金がないと、DAをわかった家族法弁護士からの専門的法的助言にアクセスすることが制限される結果になる。

 

法的代理人になる弁護士のグループのいくつかは、利用可能な法的支援のレベルに何の問題もないとみていた。例えば、子どものための法律家協会は、DA事案で提供される専門知識のレベルについて、概して肯定的であった:「家事訴訟に経験がある弁護士であれば、訴訟の当事者となり得るものに対し、争点や裁判所が関心を持つ問題を理解させることができる」。しかし、多数の虐待被害者には、弁護士費用を負担することができず、ほかに法的代理の経験へのアクセスもない。そして、委員会に提出された回答が示した重要なことは、多くの弁護士がDAと、その親と子どもたちに及ぶトラウマの影響をもっとよく理解する必要があるということであった。

 

委員会は、個人の弁護士から、彼らが経験した子どものコンタクト事件について、多数の回答を受けた。これら回答のいくつかは、弁護士たちがその依頼人にDAの主張をするな、そんなことをすれば裁判所を「怒らせ」、「逆効果」になるからと助言したと告げている。このエビデンスは、一部の弁護士たちが、依頼人にこんな風にDAを過小評価し、あるいは脇に片づけて和解をまとめるよう誘導していることを示している。例えば、委員会に報告を寄せたある弁護士は、次のように述べた。:「被害者はしばしば彼らの弁護士から、虐待のことを話すな、裁判所はそういうことが語られるのを好まず、事案の解決に害になるから、と説得される」と。それが主張されたら、被害者はしばしば裁判所で、それは「みんな過去のこと」と言われたり、「あまりに対決的」とか、あるいは関連性がないなどと裁判所に言われる。母親たちは、虐待について話すと、頻繁に虐待について嘘をついているといわれたり、虚偽の主張をすることでその子ども達を片親引離しにしようとしている、と裁判所に言われる。

多くの母親たちが虐待的な父に敗れて住まいを失っていることから、これは彼らの虐待という主張をすることに大きな抑止装置になっている。

 

片親引離しであるという虚偽主張がなされることへの恐れは、明らかに、被害者が裁判所にその被害経験を告げることを障害する。父親からのいくつかの回答には、DAの主張が、子どもたちから片親を引離そうとして、コンタクトにフラストレーションをためた母親によるでっち上げで誇張されたものだというものがあった。彼らは裁判所が、DAが嘘で誇張されたという主張を十分しっかり審理していないと感じていた。

 

委員会は、加害者が時々片親引離しであるという反論を許され、それを裏付ける証拠がないか殆どない時でさえ、まじめに受け止められていると聴取した。DAや子ども性的虐待より片親引離しの主張の閾値は低いと見られる。法の問題として、証明責任は主張を提出した人が負担することになっており、その証明責任の基準は主張の性質や誰による主張かにかかわらないが、回答によれは被害者が実際の事案でそうは行われていないとみていることを示した。あるフォーカスグループは女性被害者とともに、参加者が片親引離しの例を出したところ、DAの主張で却下され虐待者と呼ばれた者のところへ居住を移す結果になった。フォーカスグループの母親たちは、母親たちの回答はより一般的に、父親の反論が母親たちを嘘つきとして扱い、居住を失うぞと脅す意味を持つと感じたと語った。

 

家族法弁護士協会(The Family Law Bar Association)、英国専門家円卓会議は、裁判所が、他方の親に対し虚偽の虐待の主張をした親が子どもを情緒的に虐待していたことを認め得た少数の事案から引き出した困難点をあげた。しかし、文献レビューが示すように、これらの事案は母親たちが片親引離しという虚偽の主張を恐れる大多数の事案に比較して、とても少数である。母親と何人かの専門家は片親引離しに関する「専門家」証言の問題も提起している。彼らは、このような「専門家」の信用性は、子どものための法律家協会が強く反対しているにもかかわらず、裁判所で毎回は審査されないと感じていた。ウィメンズエイド英国連盟は、彼らの視点から、裁判所が専門家証言を受け入れるのに、片親引離しとDAで違いがあり、前者では証言を許容するが、後者では許容しないと回答した。何人かの母親たちと支援組織は、裁判所のDAの主張と片親引離しの主張へのアプローチは女性蔑視で差別的であると主張した。

 

男性加害者のフォーカスグループはこの照会に応えるために実施された。これらグループに参加した男性の加害者は、虐待が母親と子どもに与える影響が限定的であるかのように見せてはいたものの、彼らが虐待的にふるまったことを時に認識していた。文献レビューが示すように、加害者たちはしばしば、被害者を責め、子どもがコンタクトを嫌がることを彼ら自身の言動を見た結果と見るより母親の影響だと非難することで、虐待を過小評価し正当化する(注81)。しかし、委員会は、加害者プログラムを終了した後その虐待の影響を正しく認識した男性と認識しえた男性から、彼らの言動から女性たちと子どもたちを保護する必要があったと聞いた。これらの男性たちのある者は、子どものころDAを経験したサバイバーであるが、裁判手続や国のカリキュラムで初期の教育に協力的で、そこで彼らは、被害者を責めるより彼らの虐待的な言動をより早くに正しく理解することで救われると話した。

 

5.7 子どもの性的虐待の主張

多数の母親たちは、委員会に監護の取決めの手続で子どもの性的虐待を主張しようとする際の困難について語り、これは、性暴力を受けた女性と子どもの支援団体の回答で裏付けられた。子ども支援団体であるBarnardosは、進行しているトラウマが子どもへの性加害で引き起こされたこと、そしてそれが否定的な評価をもたらしていることがほとんど理解されていないことが、子の処遇手続での被害者とその供述の信用性を決定づけていると述べた。

 

これらの回答は、一部の専門家の間で虐待への子どもの反応に関する理解が欠けていることを指摘した。専門家が応対するときには、子どもたちが実にしばしば、独立の第三者には性的虐待を開示したがらないことが留意されている。しかし、もし開示の相手が非加害の同居親だけであると、これは信用されないと、個人と団体からの回答がともに懸念している。彼らは、独立の第三者への開示がないことが子どもの性的虐待を裁判所で認定してもらう障害になる、と示唆する。虐待された女性たちは、子どもの性的虐待を「妄想した」と責められたと述べた。

 

いくつかの回答の視点からは、子どものソーシャルケアは子どもに対するDAの直接の影響を過度に重視し、大人に対するDAの影響、これが子どもに及ぼす間接の影響と、子の処遇事案における重要性について正しく理解していないように思われるとされた。加えて、委員会への回答は、子ども期の性的虐待とその後の累積する虐待が、成人後DA被害を開示できる力や、司法システムが彼らを信じると思えるかに影響を及ぼすことを挙げた。例えば、ウェルシュ・ウィメンズエイドは、子ども期性的虐待のサバイバーであるDAの成人被害者がDAを開示しないのは、以前無視された経験によるものだとしている。

 

5.8 複合的な構造的困難

5.8.1 黒人、アジア系および少数民族(BAME)の被害者

DAを受けた黒人、アジア系および少数民族の女性の困難は、文化的ステレオタイプにより複合的になる、この点は文献レビューで裏付けられる(注82)。South BLACK SISTERSは彼らの見方として、「虐待被害者に向けられる、継続して普及している文化としての不信、冷淡と敵意」があると述べた。黒人、アジア系および少数民族の女性は、その経験を特別なものにするいくつもの要因―DAを辛抱するよう、そして外でそれを話さないように社会適応させられ、家族(多様な家族メンバーが虐待を共謀し参加する)の中で孤立させられ、追放されることを恐れることを含めて―を強調した。その障壁は、黒人、アジア系および少数民族の女性が白人の加害者から虐待を受ける関係に置かれたとき拡大される。

 

回答要旨

ある母親は、そのパートナーからのDAの長い経緯を語った。彼女は、黒人、アジア系および少数民族の背景を持っていて、英語は彼女の第一言語ではなかった。これに対し、パートナーは白人で、高等教育を受け、裕福であった。彼女は何度も警察を呼んだが、彼女のパートナーはいつも反撃の主張をした。彼女の法的システムの経験は、彼女を守ってくれないというものだった。刑事司法手続と子の処遇手続の両方に助けを求めた後、彼女は家族の家に帰るよう強制された。彼女は言う、「システムはあなたを信じない」、彼女は「あなたを保護することが何も行われず、加害者があなたをこの上もっと罰するかもしれない恐怖」であきらめさせられた。彼女は、裁判所は彼女の文化や子どもたちが両方の文化的伝統を身に着ける必要性について、ほとんど理解していなかった、と述べた。

 

この回答要旨は、この章であげたテーマがいくつも交差すること――一つのシステムで提出された証拠がほかで共有されないとか、この被害者が感じたステレオタイプが人種差別、女性差別、階層偏見を混合したものであることを含めて――を示している。一人の教育を受けず、少数民族の女性として、彼女は深刻な失望を味わった。これは一例だけのことではない;その他個人と、黒人、アジア系および少数民族の女性のフォーカスグループからの回答は、多数の類似の話を提供している。

 

5.8.2 田舎に暮らす被害者

委員会は、被害者が孤立した場所に住んでいると、支援にアクセスしにくかったり、虐待的な関係から逃れるキャパシティが少なかったりするというエビデンスを得た。これは、彼らが子どものコンタクト手続で直面する困難を増す。例えば、なぜ彼らが虐待的な関係にとどまるのか、なぜ通報が遅れたのかに関する思い込みは、彼らに不利に用いられる。すべての被害者に影響する同じ思い込みのいくつかは、この田舎に住んでいる被害者というグループの間でもはっきりあったが、他方で、こうした思い込みの影響は、一部専門家の間にある、孤立した場所の虐待被害者が直面する特殊な障壁への無理解により、さらに増幅され悪化する。

 

5.9 結論

DAの訴えをする最初の障壁の一つは、虐待被害者が虐待を受けたと正しく理解しなければならないということである。しばしば、非身体的虐待の被害者がそれを認識するのに長い時間がかかる。

 

ひとたび虐待が被害者に認識されたら、それは彼らが子どものソーシャルケア、Cafcass/Cafcassウエールズや裁判所に虐待を訴えるとき、孤立を感じずに済むことにとても役立つ。信じてもらえないのではないかという不安は、被害者にDAの訴えを止めさせる重要な要因になっている。しかし、そういう不安は、適切な支援と法的助言によって和らげることができる。

 

DAを証明することは多くの被害者にとって難問である。最近の身体的虐待の出来事に焦点を当てることは、「経緯historical」の主張を過小評価することであり、虐待の完全な姿を提供することの深刻な妨げになる。異なるシステムの間で情報共有しないことは、さらなる障壁を作り出す、委員会は、刑事裁判からの証拠が利用可能な場合でさえ、それが必ずしも考慮にいれられなかったと聞いている。

 

母親たちと彼らを支援する組織は、DAの主張を出すことを、相手方の片親引離しとか共同養育への敵意であるという反論への恐れから、思いとどまされたことが述べられた。委員会は、それが、時には、母親自身の弁護士からのこういう理由による助言で断念したことを聞いている。DAが「高葛藤」と呼び変えられたというエビデンスもあった。

 

この章で提起された数多くの問題は、様々な専門家がDAとその影響について不適切な理解をしていることが実証されている(注83)。特定の言動に関する思い込みや、DAの「現実の」被害者に対する「神話」の問題は、虐待の主張を提起し証明することの双方に立ちはだかる障壁であると考えられる。いくつかの回答には、こうした思い込みが、性差別、人種差別、階層への偏見に基づくとみているものがあった。男性被害者が思い込みにより不利を感じるという例があったが、この照会では、女性たちからの回答が支配的であった。

 

何人かの被害者たちは、裁判官たちが彼らに時間を与え、よく支援されたという積極的な経験をしていた。しかし、女性と男性の被害者の経験を全体としてみると否定的で、積極的な経験といえば、たまたまよくわかったCafcass/Cafcassウエールズの担当者や裁判官に出会うという運によるものであった。第11章では、委員会は、この章で上げたDAの主張を思いとどまらせる障壁、信用性判断への障壁への対応に向けて、一連の勧告を行う。その勧告には、DAへの感度をあげること、支援サービスの利用可能性を高めること、専門家の研修、刑事裁判と家庭裁判所の私法上の子の処遇手続のアプローチをコーディネートすることに関する勧告も含めることとする。

 

 【注】

(72)literature review, section7.2.

(73)L Ellison and V Munro82009) ’Reacting to rape: Exploring mock jurors’ assessments of complainant credibility’, British Journal of criminology49(2):202-19.

(74)Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(75)Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(76) Office of National Statistics, Domestic Abuse in England and Wales(2018)

(77)HMIC, Everyone's Business: Improving the Police Response to Domestic Abuse(2014).

(78)M Hester, J Pearce and N Westmarland, Early Evaluation of Integrated Domestic Violence Court, Croydon(2008)

(79)C1Aの方式がthe onlineC100 serviceに統合されていることに留意。

 

(80)アムネスティ・インターナショナル、Cuts that Hurt: The Impact of Legal Aid Cuts in England and Wales on Access to justice(2016)、 p22.Rights of Womenにより行われた調査は、調査された女性のおよそ3人に1人が法的支援をする弁護士を見つけることに困難があり、法律扶助の削減は専門家であるソリシターをもはや利用したりアクセスすることができなくなる結果をもたらしたことを明らかにした。:Contemporary Challenges in Securing Human Rights(2015)の99-104にあるS Shah、 ‘The impact of legal aid cuts on access to justice in the UK’。委員会は、この調査に続きthe Legal Aid Agency(LAA)が新しい民事法律扶助の提供を行い、新しい契約のもとで助言を提供する事務所の数が11%増えたことに注目している。DAと子ども虐待事案で助言を受ける人々の数は同期―2015-16の会計年度においてLAAはこれらの事案で5935件の民事代理の証明を行ったが、2018-19の会計年度においてはこれは10400件に増加したーを大きく上回っている。しかし、提供者の間の経験、知識と専門性のレベルが回復したかどうかは不明である。

(81)Literature review section 6.3; L Harne、 Violent Fathering and the Risk to Children(2011).

(82)Literature review section 5.2.1; R Thiara and A Gill、 domestic Violence、 Child Contact、 Post-separation Violence: Experiences of South Asian and African-Caribbean Women and Children(2012).

(83)こうした理解の欠如には深刻な影響があり得る;例えば、専門家がDAを見つけ理解することができないことは家庭内殺人の根強く突出した要素と考えられている。: Home Office、 Domestic Homicide Reviews: Key Findings from Analysis of Domestic Homicide Reviews(2016).

【長谷川京子】

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第6章 子どもの声

 

6.1 はじめに

 

調査と回答の両方から得られたエビデンスが示す重要な点は、あまりにも多くの場合、裁判手続(court process)において子どもの声が聞かれなかったり、様々な方法でミュートされたりしていることである。委員会はDAを経験したかなりの数の子どもが、裁判手続中に彼らの意見や経験について相談されていないことを発見した。多くの回答は、相談が行われたとしても、相談は短く、子どもたちがコンタクトしたいという時にだけ「聞かれる」という。また、命令が下された後、その監護の取決めが子どもたちにどう作用しているかについて、子どもたちが聞かれることはほとんどないことも明らかになった。

 

ほとんどのグループ、特に法律とソーシャルワーク/DAの専門家たち、子ども/若者と母親たちは、子どもの声が聞かれ、裁判の決定に組み込まれるかについて懸念を挙げた。これらの懸念は、先行研究から得られた知見と一致している(注84)。

これとは対照的に、父親のグループやセラピストから提出された意見の中には、子どもの声があまりにも注目されすぎていることを示唆するものもあり、子どもは暗示にかかりやすく、子どもの意思や心情を引き出すプロセスでは、子どもが直接家族の対立の中心に置かれることになると主張している。Families Need Fathersは、例えば次のような見解を示した。

 

「家族分離の専門家は、家族の対立の中に子どもを置かないように親に促していますが、同じ専門家が、子どもに誰と一緒に暮らしたいかを尋ねたり、子どもに過度に力を与えることで、まさにそのようなことをしていることがあまりにも多いのは皮肉なことです。」   Families Need Fathers

 

6.2 なぜ子どもの声が重要か?

国連児童の権利条約(UNCRC)1989年第12条は、子どもに影響を与える法的手続において、子どもの意見を述べ、それを考慮に入れてもらう権利を明記している。1989年児童法第1条(3)は、子どもの事件において裁判所が、「関連する子どもの確認可能な希望や心情を(年齢と理解度に考慮しつつ)」考慮することを求めている。イングランドおよびウェールズの判例法では、若者や子どもが訴訟に直接参加することが長らく強調されてきた(注85) 。さらに、PD12Bの第18項、PD12Jの第24項および第10項は、裁判所が子どもが独立に代理されるべきか、ヒアリングに参加する子どもを保護する必要がある場合には、特別な措置を講じるべきであることを繰り返し述べている。ウェールズ政府は、子どもたちに影響を与えるプロセスにおいて、子どもたちの声が確実に聞かれるようにするために、7つの「子どもと若者の参加全国基準(Children and Young People’s National Participation Standards)」を支持している。

 

委員会への回答は、なぜ子どもの直接参加が、正しい決定が下され、子どもの福祉が増進されるために不可欠であるかについて、強力な議論を展開している。これらの回答はまた、親やケアラー(世話する人)が必ずしも子どもの利益を適切に代表するとは限らないという見方も表明している。例えば、NagalroとNSPCCは、子どもの経験、ニーズ、関心は必ずしも親のものと一致しないため、個別に意見を聞く必要があると指摘している。

 

子どもの頃に訴訟を経験した成人や家事司法青少年委員会(Family Justice  Young People’s Board; FJYPB)(訳者注:イングランドに住む8~25歳の40人以上の青少年で、家事司法制度の直接の経験があるか、子どもの権利と家事裁判に関心がある者で構成され、国の家事司法委員会の一部門をなす)のフォーカスグループからの個々の回答には、たとえ訴訟の結果がその通りならなくても子どもが自分たちの意思を聞いてほしいと思っていることが示されている。このことは子どもや若者が、最終的な決定権者になる必要はないが、プロセスの一部となり自分たちの意見を真剣に受け止めてもらいたいと思っているという研究結果と一致している(注86) 。このことはDAの事件ではとりわけ重要であろう(注87)。

 

重要なことは、子どもたちと直接関わることで、個々の子どもたちが何を望んでいるかをより正確に知ることができるということである。研究によると、子どもはDAの事件で、父親への見かたや父親と時間を過ごすことについて様々な心情や考えを持っていることがわかっている(注88)。文献によれば、父親との関係を望んでいる子どもであっても、ほぼすべての子どもにとって優先されるのは、自分自身、母親、そして家族の安全である(注89)。2012年の研究で、彼らの父親の態度が真に変化したと報告しインタビューを受けたことどもたちは、父親と会うことについてとても肯定的に感じていた(注90)。DAの加害者であった父親と過ごす時間の質はまたとても重要であった。父親が一貫性なく頼りにならない、父親とのセッション中に一緒にいる時間が少ない、子どもと積極的に関わらないなど、父親の子どもに対するコミットメントや真の関心の欠如を子どもが感じた場合、子どもは父親と過ごす時間が報われない経験であると感じている(注91)。

 

 子どもたちの間にはさまざまな意見や経験があることを考えると、委員会は、裁判所が個々の子どもたちの意見を理解し、個々の子どもたちに合わせた取り決めをすることが不可欠であると考えている。これは、他の文化的な思い込みを修正するのにも役立つ。FJYPBフォーカスグループに参加したある投稿者は、文化や民族性に関連した無意識のバイアス(彼らの場合は黒人男性に対する思い込み)を修正するためには、彼らの経験について子どもたちと直接話すことが重要であると指摘した。

 

より適切な決定をするのに役立つのに加え、子どもを巻き込むことのもう一つの利点は、子どものエンパワーメントと自己効力感を高めることができるということである。研究によると、DAのケースでは、子どもの暴力体験に耳を傾け、それに対応することで、子どもの安全と福祉が促進されることがわかっている(注92)。

 

6.3 子どもの意見聴取の範囲が限られていること

子どもの意見は、私法上の子の手続における決定プロセスを形作るために、いくつかの方法で求められ得る。

・Cafcass、Cafcassウェールズ、または地方自治体のソーシャルワーカーが作成したセクション7の報告書

・規則16.4の下で個別に代理されること

・手続の中で直接に証言すること

・司法官judicial officerに書いたり会ったりすること

 

子どもたちが関与する最も一般的な方法は、セクション7の福祉報告が裁判所から命じられる場合である。これらのケースで、CafcassまたはCafcassウェールズの職員が報告書を作成する場合、彼らは通常、その子どもと会うことになるが、セクション7の報告は、すべての私法上の事件の3分の1でしか命じられない(注93)。 Magistrates AssociationとALCの回答は、セクション7の報告は、DA事件ではより多く命令されることを示唆した。しかし、これまでの調査研究では、少なくとも半数の事件でDAが主張されているが、DA事件に関わる多くの子どもたちが裁判の過程でその声を聴かれる機会がないことが明らかになっている。

 

少数の子どもたちは私法上の子の手続で個別に代理されている。実務指針PD16Aは、個別の代理人は、「重大な困難を伴う問題であり、結果的に少数のケースでしか発生しない」ケースに限定されることを明確にしており、これには「その子どもに関連した身体的、性的、またはその他の虐待の重大な主張」が含まれる可能性がある。Cafcassのデータによると、2018-19年には、イングランドで2,595件の事件で規則16.4条が適用された。これは、その年に開始された事件のわずか7%であり、最初の審問hearing後にCafcassが着手するよう求められた事件の17%に相当する。

 

子どもたちが主張したり主張に対する目撃者となっている非常に少ないケースにおいて、警察や仲介者による ABE インタビューで集められた子どもたちの証言が裁判所に提出されるであろう。子どもたちが証言したり、子どもが証拠を提示したり、司法官に手紙を書いたり、面会したりする数についてのデータはないが、その数は非常に少なく(注94)、親がコンセント命令に同意するケースが多いのとは対照的に、裁決される事件は少数派に限られると思われる(第9章参照)。2015年には、家庭部門の長によって任命された「脆弱な証人・子ども」ワーキンググループは、家庭裁判所が子どもたちの証拠へのアプローチで刑事裁判所に遅れをとっていると主張し、「子どもたちや若者たちの意思や心情の表現を含む、子どもや若者の証拠への新たなアプローチをとる期限は......とっくに過ぎている」と述べた(注95)。同ワーキンググループは、子どもに関する手続で子どもたちの参加を強化する一連の勧告をおこなったが、委員会は、それらが、より大きな制度改革にかけられて、まだ実施されていないと言及する。

 

裁判官との面会は、子どもたちが裁判のプロセスを理解するのを助けることも目的としていることを明確にしておくことが重要である。それは裁判官が子どもの意思や心情の証拠を集めるためには使えない。ある回答者の子どもたちは、裁判官に会って裁判所を見学したが、それは子どもたちにとって有益だったと考えており、「質問をして適切に答えてもらうことは、子どもにとって非常に有益なようである」と述べる。しかし、「脆弱な証人・子ども」ワーキンググループが指摘しているように、「裁判官に会うだけでは、家庭裁判所が 21 世紀に入った今、若者や子どもたちが果たすべき役割を増やすことはできない」。(注96)

 

6.4 手続で子どもの声を聴取することの障壁

直接相談を受ける虐待事件の子どもたちについては、その相談がどのように行われたかについて、複数の個人や組織の回答で批判があった。Nagalroは、なかでも、DAを経験した子どもたちと関係を築くことの難しさと、そのための十分な時間が必要であることを指摘した。

 

「DAを経験した子どもたちは、忠誠心が分かれていたり、片方の親に同調していたり、どちらかの親、特に同居している親を動揺させることを恐れていたりするため、心を開くことが難しいと感じています。彼らは虐待を目撃したことがあるかもしれないし、怯えているかもしれないし、両方の親にアンビバレントな感情を持っているかもしれない...子どもたちは、自分自身の安全や一方の親、またはその両方の安全について本当に心配していることを表明したり、あるいは別居中の親に会うのに必要な許可を、同居親から得ているとは感じていないかもしれません。同様に、その供述が虚偽である場合には、供述を繰り返したり、別居親に会うことを拒否するように影響されているのかもしれません。

Nagalro

 

しかし、Nagalroや他の複数の報告書によると、Cafcassの職員が一人の子どもと接する時間は限られており、1回の面談で30分程度に制限されていることが多いとのことである。Harrogate Family Law、CARA、Southall Black Sistersは、他の専門家の回答者や多くの後見人と共に、その割当て時間が不十分であると報告している。Nagalroはまた、セクション7報告は時間がないために「表面的なもの」であると述べた。母親たちは、子どもの将来が見知らぬ人との1時間の面談にかかっていることや、子どもの意見の説明が長い手続で更新されないことへの懸念を表明した。

 

Cafcassは、子どもや家族と一緒に仕事をするためのデジタルアプリ「Voice of the Child」を開発している。「これだけ!(原文:This much!)」と「バックドロップ(Backdrop)」は、子どもたちとの直接の仕事のために、Cafcassの職員が利用できる他の2つのアプリである。これらのアプリはOfstedによって「優秀」と評価されているが、どのアプリも委員会への報告書には言及されなかった。

 

また、子どものインタビューの行われ方についても懸念があがった。Cafcassのポリシーでは、子どもたちのインタビューは例外的な状況下でのみ親の立会いのもとで行われる、その理由は事件記録に記録されるべきであるとされている。しかし、Barnardos と Rights of Women は、親の立会いのもとでのみ子どものインタビューが行われていること、それにより子どもたちが自身の意見を述べることが阻まれることに懸念を示した。あるDAのワーカーは、加害が疑われている親と一緒に子どもの評価をすると、子どもは虐待者をなだめ罰を受けないようにするため、従順で、時には相手に過剰に反応することを対話的であるとの間違った印象を与える可能性があると指摘する。親たちからも、子どもたちが、特に虐待する親が近くにいる場合は、怖くて話すことができない、彼らの子どもたちはインタビューのプロセスがトラウマティックであったと報告された。PSUは、Cafcassのインタビューが、子どもたちをさらなる虐待のリスクにさらし、専門家のサポートなしに過去のトラウマを追体験させるものであると報告した。さらに、一部の母親は、Cafcassが一般的なやり方として、子どもたちが直接質問を受けて答えることができる年齢に達していても、遊びを通して間接的に子どもの気持ちを探ることを批判した。

 

より一般的には、虐待があった子どもたちの経験への共感が欠如しているという批判があった。FJYPBフォーカスグループの参加者は、FCAが若者と肯定的で信頼関係を築くことができるようにFCAの配置についてもっと考えるべきだとコメントしている。その若者のケースでは、父親によるDAの経験がある子どもたちを怯えさせるかどうかを考慮せずに、非常に背の高い「ごっつい男」が担当に当てられた。

 

母親と父親の両方から、子どもがどのようにプロセスに関与しているかについて肯定的なコメントがあった。加害者プログラムに参加した男性のフォーカスグループでは、子どもの意見が聞かれたと考えた者もいた。

 

また、専門家の中には、より多くの子どもたちが個別に代表してもらうよう奨励したいと考える人もいた。ある裁判官は、可能であればすべての事件で後見人を任命すると述べた。子どものための法律家協会もまた、個別の代理人がいれば、特に両親が本人訴訟をしている場合には、より多くの子どもたちが自分たちの声を聴いてもらえるだろうと主張した。しかし、他の専門家や母親たちの中には、後見人も時間的な制約の影響を受け、子どもたちとの関わりが限られていると指摘する人もいた。

 

6.5 子どもの意見が重視されないこと

回答でコメントや批判が最も多かったのは、子どもの意見が重視されていないことであった。複数の回答から浮かび上がった強いテーマは、主に、子どもが虐待する親と一緒に過ごしたくないと言っている場合に、子どもたちの意見が頻繁に無視されるというものである。これまでの研究では、Cafcassや裁判所は、子どもたちが親と一緒に過ごしたいと表明した場合、肯定的に反応するが、そうでない子どもたちは、暴力や虐待の経験から親への恐怖を表明した場合でも、問題児や妨害者として扱うという「選択的聴取」のパターンが発見されている(注97)。

 

Barnardos、Refuge、PSU、CARA、Mosac、英国女性援助連盟、ウェルシュ・ウィメンズエイド、SafeLivesからの回答や、個人からの何百もの回答は、すべて、虐待する親と一緒に過ごすことを拒絶する子どもの意思が上書きされたり、無視されたりしているという懸念を提起する。また、幾人かの専門家は、虐待する父親と一緒に暮らす子どもたちが、母親にもっと頻繁に会いたい、一緒に暮らしたいと言っても無視されていることも観察した。

 

委員会は、Cafcassウェールズが子どもの意見を無視したり、却下したり、時には偽りを伝えたり、操作したりすることがあるというエビデンスを得た。

 

「私は、私たちが行なったあるコンタクトのことを覚えています。彼ら(家庭裁判所アドバイザー;FCA)はある時点で私を片側に連れて行き、たくさんの質問をしてきました。本当に何度も聞かれたんです。それで彼女は「お父さんとどのくらい一緒にいたいか?」と聞きました。それで、私は「パパには会いたくない」と言ったんですが、「本当にいいの?せっかく来てくれたんだから」と言われて。 .... それで私は「はい」と言わなきゃいけない気がして、「それじゃ30分後に」と言ったんです。すると彼らは「ああ、わかった、じゃあ会いたいんだね」と言って......それでそれが報告書に入ったんです、私は一度そう言ったことがある、彼に会いたいとね。私はそんなことが起こったのは私だけじゃないことを知っています。  若者、フォーカスグループ

 

この説明は、DAの子どもの被害者からの回答を含め、回答の中で孤立した例とは程遠いもので、Cafcassの担当者が、親と過ごすように子どもたちを説得したり、すでに親と一緒に過ごしている時間を増やすために相当な努力をしているようだという研究結果と一致する(注98)。

 

しかし、その結果、子どもの虐待経験は無視されたり、却下されたり、矮小化されたりすることになる。Barnardosは、彼らの調査によると、Cafcassの勧告は、被害者と直接仕事をしてきたBarnardo'sのサービスからの助言と「しばしば矛盾している」ことが示されていると指摘する。Refuge が指摘したように、Cafcassの勧告が大多数の事件で守られるだろうことに照らせば、これは特に懸念されることである。

 

特に、幼い子どもたちは、虐待する親と一緒に過ごしたくない場合に、彼らの意思や心情が上書きされてしまいやすい。Refugeは、加害者に怯えていて、一緒に過ごしたくないとCafcassに伝えた幼い子どもの事件では、「特別の困難」があると指摘している。

 

「親たちは、幼い子どもほど声が聴かれないと報告している」。Mosacがサポートしている後見人からの報告によると、子どもの声や意思が考慮されることは、ほとんどない。子どもが成長してもう物理的に虐待する親のところに連れて行かれたり、強制的にコンタクトさせられたりすることがない年齢に達していない限りは。  Mosac

 

さらに、回答は、非常に幼い子どもの場合、子どもの声は主たる養育者を介してしか聞けないが、親の子どもに関する知識は無視されたり、利己的なものとして自動的に却下されたりする傾向があることを指摘している。幼い子どもの困難と同様、英国の自閉症支援団体は、学習困難な子どもがその声を裁判手続で聴取してもらうことの困難にも言及している。

 

最後に、虐待する親と一緒に過ごしたくないという子どもの意思が、Cafcassウェールズや地方自治体の報告に正確に反映されていたにもかかわらず、裁判所がその意思や関連する勧告に従わなかったというシナリオを扱ったものが多数提出されている。Cafcassのある担当者からの報告書には、以下のように書かれている。

 

「時には、裁判所はDAがその子どもに与える影響を考慮に入れます。別の時には、その裁判所は、私の懸念を無視して、別居親とその子どものコンタクト問題をできるだけ手早く片付けようとしているように見える....」

FCA professional

 

 

6.6 見直しとフォローアップを限定していること

子どもたちの声が適切に聴取されていないことを示唆する回答の第四の領域は、命令後のサポートに関連する。PD12Jのパラグラフ38は、裁判所が親と過ごすことがその子どもにとって安全で有益であると判断する場合、裁判所は「子どもの最善の利益において、その命令の運用を見直すことが必要になる」かどうかも考慮しなければならないとしている。

 

実務では、子の処遇の見直しは、DA事件でさえ、通常行われないようだ。これは、虐待する親と一緒に過ごすことが、子どもや非虐待親への継続的な虐待を生じうることを示すすべての研究に背いている(注99)。ウェルシュ・ウィメンズエイドは、ある子どもの、虐待する親と一緒に過ごしたいという望みは、もしかしたら非虐待親による保護が持続的に効果を上げてきた結果によるかもしれないが、その保護なしに監視なしで虐待親と過ごす経験は彼らが期待したものとは異なるかもしれないと述べた。

 

処遇命令のレビュー審理がなく、さらなる申立てがなければ、その子どもは自分のために機能しない取り決めの中に放置されてしまう可能性がある。FJYPBのフォーカスグループに参加したある人は、裁判所が最終的な命令を下した後、状況がどうなっているかを聞かれない子どもや若者にとっての無力感について、説得力のある洞察を示す。

 

私が18歳になるまで、私は7歳のとき受けた裁判所命令に従わなければなりませんでした... ...誰かが私に尋ねたら、私は "ええ、彼は[父]私の腕をピンで固定し、私に向かって叫んでいる "と答えたでしょうが、誰も聞きませんでした.... 裁判所を出て、基本的に10年間はそれが私の人生だった。文字通りそれだけだった 二度と再び誰からも聞かれなかった。一度もないし、チェックもしていないし、特に虐待があったかなんてね。たとえ年に一度だけでも、戻って「これでいいですか?これを変える必要はありませんか?そして、何か他のことで必要なことがありますか?」と聞けたのに。  若者、フォーカスグループ

 

フォーカスグループに参加した別の参加者は、この事件の判事に手紙を書いたことを思い出したが、全く返事がなかった。

 

6.7 子どもたちが(主に)聞かれないことによる影響

回答は、子どもたちの声が消されたり、聴かれないことから生じる様々な問題を浮かび上がらせた。

 

第一は、子どもたちが傷つき、失望させられたという感覚である。子どものための法律家協会は、子どもたちが耳を傾けてもらえないと感じるリスクが、裁判所の事実認定の誤りにつながることについて言及した。ウィメンズエイド英国連盟が実施したフォーカスグループの参加者たちは、手続の中で虐待の開示や自分たちの意見の明確な表現に耳を傾けてもらえず、彼らの安全を守るための行動を取ってもらえなかったという経験が、子どもたちに当局に対する深刻な不信を残していると指摘した。同様に、SafeLives は、自分やもう片方の親を虐待した誰かとなぜ一緒に過ごさなければならないとされたのか理解できないままにされたことが、子どもたちへ悪影響を及ぼしたことに言及した。また、FCAも、裁判所が自分の話を聞いてくれなかったと感じた場合、子どもの裁判手続に対する信頼が損なわれるリスクについて同様に述べる。FJYPBフォーカスグループに参加したある投稿者は、次のようにコメントする。

 

「私はCafcassに耳を傾けてもらったと感じたことがない...彼らのうちの誰も私を尊重しているとは感じなかった...私は単にもう一つの事件番号、単に彼らが制御できるもう一つのロボットなんだと感じてた、コンタクトの推定に関する彼らの期待していたものの範囲で操作していたと思う。私の話を本当に聞いてくれたのは、小学校の校長先生だけだった。彼女は、私が彼女に話したことのうち彼らに伝えるポイントを示したけれど、それは裁判所への報告には書かれていなかった...」  若者、フォーカスグループ

 

子どもの意見や経験に耳を傾けないことは、もう一つの結果として、裁判所の判断の質を低下させ、子どもの福祉を促進しない、あるいは傷つけるような命令を出すことになることが、複数の回答で上げられている。

 

6.8子どもの声の聴取を妨げるもの―リソースの不足

他の分野と同様に、リソースの制約が、子どもの声を聞く上でいくつか特定された上記の問題の重要な理由となっていた。複数の回答が、プロセスへの子どもの関与の範囲を制限し、家族司法の専門家が子どもの声を聞き出し、解釈するという非常に熟練した作業を行う能力を妨げるとして、リソースの不足に言及していた。

 

複数の報告書は、どれだけの子どもが見られるか、命令後のレビューがどれだけ空いたり行われないかという観点から、リソースの不足がCafcassやCafcassウェールズの関与を制限することに言及する。彼らは、CafcassやCafcassウェールズが関与するのは、通常、最初の保護措置の段階でのみであり、そこで子どもたちと会ったり話したりすることはないと指摘した。また、弁護士は、個別に代表されている子どもが非常に少ないことに懸念を示した。ある本人訴訟(LIP)支援サービスによると、裁判所は特に求められない限り後見人を選任しないし、LIPはそのような求めができることを知らなかったとのことである。

 

また、リソースの制約から、子どもとの相談が非常に短くなっているという懸念もあった。ある IDVA は、「子どもたちは、問題がセンシティブであるにもかかわらず、多忙のため信頼関係を築くのに十分な時間を割くことができないCafcassやソーシャルワーカーに心を開くことを期待されている」と指摘する。またあるFCAは、仕事量の多さから、私法事件では通常一度しか子どもに会う時間がなく、多くても二度しか会えないと述べ、これでは「信頼感や関係性」を築くことができないと指摘している。

 

リソースの制約はまた、理解や訓練が不足しているという批判の背景でもある。情報公開プロジェクトは、報告書作成者がDAについて十分な情報を得ていることの重要性を強調しているが、他方で、報告書作成者と後見人の両方に批判的な意見もある。

 

「(Cafcassとソーシャルワーカーは)適切なトレーニングをうけDAに関する知識を持っていないため、親たちが一緒になってコンタクトのアレンジや子どもの受け渡しをするなどの不適切な勧告や期待をしてしまっている。DAに関してまったく不適切です。」 IDVA

 

ウィメンズエイド英国連盟、ウーマンズ・ライト、そして個人を含むその他多くの人々は、Cafcassウェールズと家庭裁判所の専門家の両方が、DAが子どもに及ぼす影響を理解し、言語的に表現されたか他の言動によるかを問わず、正当な恐怖や懸念を見出せるようになるために、より多くのことを行う必要があると主張した。ウェールズのフォーカスグループの一つに参加した参加者は、Cafcassウェールズの職員が、虐待を目撃したり、虐待を受けた場合、子どもがどう反応するかについて固定観念を持っており、子どもがそのとおりに行動しなかった場合には虐待の主張は信じてもらえないと考えていた。

 

また、団体や母親たちは、低年齢の子どもに十分な相談がなされなかったことについても懸念を示している。研究文献によると、子どもの年齢が高いほど、子どもの意見の決定への影響力が高まるとされる(注100)。しかしながら、非常に幼い子どもでも、年齢に応じた環境やコミュニケーションのニーズを満たすツールが提供されれば、理解し、参加し、意見を表明することができるという研究もある(注101) 。

 

6.9 子どもの声の聴取を妨げるもの―-プロコンタクトカルチャー

DA事件で子どもの声が聞かれない理由として最もよく挙げられるのは、プロコンタクトカルチャーである。2つの具体的な要因が、回答の中で繰り返し挙げられた。どちらも、子どもの意思や心情が聴かれなかったり、会いたいという声だけが聴き届けられるというものだった。

 

6.9.1 子どもが何を望んでいるか、何を必要としているかについての一般的な観念への依存

広範囲の専門家グループが、母親、子ども、そして一部の父親と同様、プロコンタクトカルチャーが強いために、個々の子どもの意見が、もしあるとしても限られた重みしか与えられないと指摘した。Barnardosは、子の処遇の手続に関わるすべての専門家グループが、コンタクトが好ましいとする立場からスタートし、「これを実現するためにかなりの努力をしている」と指摘している。

 

FJYPBのフォーカスグループの参加者は、子どもたちが何を必要としているかについてのこれらの一般化された観念は、子どもたちの意思や福祉を犠牲にして作用するのではないかと懸念した。

 

「コンタクトに関する推定、それは全く役に立たない。それは、子どもたちに親たちの権利を押しつけるということです。子どもたちが自分自身の世話をし、自分自身を守ることができない限り、その日の終わりに、彼らは、害のある、情緒的、物理的リスクにさらされる状況に置かれる。」 FJYPB

 

こうした見解はいくつかの専門家も繰り返し述べ、そのうちのあるセラピストは次のように述べた。

「いくつかの事件では、父親の権利が子どもの意思や心情に優先すると推定されているように見える。いくつかの事件では、Cafcassのワーカーやソーシャルワーカーは、父親の行動(これには父親がDAに関連する犯罪で有罪判決を受けている場合も含まれる)やその子の当初の意思にかかわらず、父親とのコンタクトに同意するようにその子を説得することが彼らの役割であると考えているように思われる。」 セラピスト

 

同様に、Rights of Women は次のように述べる。

 

「私たちは、Cafcassの利用者から、Cafcassの担当者が自分自身は危ないので同席したくないという虐待加害者と、監視なしのコンタクトをするよう勧めてきたと聞いた。」 Rights of Women

 

父親のグループはこの問題について多少の意見の相違があった。例えば、Mankindは、そこのIDVA が、ソーシャルワーカーやCafcassの担当者が子どもたちの意思に耳を傾けたり考慮したりしていないと考えていると報告している。しかし、他の父親グループは、子どもが何を望んでいるか、何を必要としているかについて同じような一般化をする傾向が強く、子どもたちが直接聴かれないことを好ましく受け止めていた。

 

「別居前に両方の両親と良好な関係を築いていたほとんどの子どもたちは、できるだけ早く元の状態に戻したい、あるいは両親が別々の家に住んでいる場合は、少なくとも元の状態に近い状態に戻したいと考えている。彼らの証言が重要であると証明されない限り、子どもたちは関与させられるべきではありません。おそらく大人たちの最初の事実審理の後....」 Families Need Fathers

 

6.9.2 プロコンタクトカルチャーと片親引離し

「片親引離し」(注102) は、子どもたちの意思や心情が「引離し」をする親の影響を受けているので、それを無視すべきだという考えに基づいている(注103)。複数の回答が、この「片親引離し」(注104)という用語が用いられることが増えていることで、子どもの声が消されていると述べた。子どもたちが引離されていれば、子どもたちの意思や心情は汚染されたものとみなされる。回答はまた、「片親引離し」の申立ては、申立ての対象となった親が、拉致や暴力に関して十分な根拠のある不安を抱く保護親としてではなく、「引離した親」として扱われることを意味するとも指摘している。これは、虐待の「客観的な証拠」があるか影響力のある独立機関の介入がない限り、DAを体験した子どもたちを非常に脆弱な立場に取り残すことになる。例えば、ウェルシュ・ウィメンズエイドは、その経験をした利用者の一人を引用する。

 

「彼らは私が父親を望んでいないように子どもたちを操作したと思い込んでいたので、誰も私の子どもたちの声を直接聞きたいと思いませんでした。子どもたちがその害を学校で打ち明けるまで、父親はそれを続け、私は子どもたちを送り出すか、さもなくば投獄されるかまたは子どもたちを失うリスクのある命令の下にありました。」ウェルシュ・ウィメンズエイド

 

多くの報告書が、専門家が、虐待親と時間を過ごすことをある子どもが拒否すると直ちにその子が片親引離しにあっていたと結論づけること、その拒否が虐待親の言動の結果であると考えないことについて懸念を述べた。Refugeは、Cafcassの担当者が、DAのサバイバーとその子どもたちの精神的な健康にとって、DAの影響より、父親が片親引離しにあうリスクの方を優先させていると主張した(注105)。

他にも、専門家は片親引離しの兆候を見つける用意はできているため、その子どもが目撃したことや経験したことをさらに評価するよりも、その子を黙らせると指摘する者もいた。これは、性的虐待が主張された場合に特に顕著であった。

 

「子どもが性的虐待を開示したり、父親による性的虐待を示す可能性のある行動を示した場合、家庭裁判所の手続で子どもの声を捕らえることにはほとんど焦点が当てられていない。主に親に焦点が当てられ、しばしば母親が性的虐待の主張をした動機を熱心に精査するということになります。私たちが知っているケースでは: 子どもたちは、専門家や両親やケアしてくれる人に性的虐待の開示を明確に、時には生々しく行っていますが、それにもかかわらず、裁判官は性的虐待は起こらなかったと判決を下しています。」 CARA

 

対照的に、父親からのいくつかの回答は、子どもの表明と本当の意思や心情を識別し、コンタクトを拒絶する意思が表示されても文字通りに受け取るべきではないとした。DVIPフォーカスグループに参加した父親の中には、子どもが報告した意見が、自分の頭の中にある物語(例:子どもはベッドで寝ていた、何も聞いていない、幼かった、覚えていないなど)と一致しないため、母親の影響を受けているに違いないと考えたことがあると述べる者もいる。彼らは、それまで自分たちの虐待が子どもたちに与える影響について理解していなかったことを認めていたが、このコースを受講したことで、虐待を受けて生活している幼い子どもたちにもトラウマを与えていることを理解することができた。

 

このように、「片親引離し」は一般的な反論になってきたが、回答は、子どもたちがコンタクトを望まないことへのデフォルトの説明としてこれを受け入れることが現実的に大変危険であることを強調した。

 

6.9.3 意思と心情を確かめる難しさ

回答は、子どもたちの意思や心情を確かめることが、幼い場合はとりわけ、難しいことを認めた。セラピストからの回答のいくつかは、「『忠誠葛藤』やその他の複雑な要因のため」子どもたちが直面した困難(例えば、情緒的、心理的)について述べた。

 

「私の評価や子どもたちとの治療的な作業を見ても明らかなように,子どもたちは、しばしば反響への恐れから、自分の意思や心情を表現することが困難であることがわかります。子どもたちは,片方の親やもう片方の親を動揺させることを恐れています。状況に応じて、彼らの意見が求められる文脈や環境によっては、矛盾した反応を示すことがあります。状況によっては、子どもは、― 彼らが表明する考えが、観察されるボディランゲージや行動と一致しないということがあります。そのような不一致は、さらなる調査が必要です。」

カウンセリング心理学者、エビデンスの照会

 

同様に、ウェルシュ・ウィメンズエイドが指摘しているように、ある子どもが虐待親から威圧的支配を経験した場合、「専門家が最初に聴く声は、子どもの本当の意思や心情の表現ではなく、加害者によって大きく影響されている可能性がある」。

いくつかの父親のグループは、これらの困難を考慮して、子どもは聴かれるべきでないと示唆した。

 

「大多数の子どもたちは、裁判の手続に参加することを望んでいません。彼らが参加する場合でも、彼らの声は通常、彼らが一緒に暮らす親と同じです。一般的に、子どもたちは、自分たちの将来に関わることは、自分たちに何が起こるかを気にかけてくれる大人に決定して欲しいと思っています。ふつう彼らは、証拠を見てどちらかの側につくことというようなことはできないし、望んでもいません。  全国引離された親の会

 

これにもかかわらず、調査とCafcass FJYPBフォーカスグループの証拠は、子どもたちが声を聴いてもらいたいと思っていること、そして子どもたちの声が単に同居親の意見を反映しているだけであるとして却下されるべきでないことを示唆する。今回のエビデンスの呼びかけに対する共通の反応は、およそ不適切な結論につながってしまう固定的な仮説ではなく、オープンマインドで始まる熟練したアセスメントが必要性であると強調したことである。その熟練した評価は、裁判所がその子の最善の福祉・利益になるかを決定するのを助けるために、個々のケースのすべての状況を評価するべきであるが、これは明らかにリソースを利用することになる。

 

6.10 子どもの声の聴取を妨げるもの―連携の欠如とサイロワーキング

DAとソーシャルワークの組織や若者たちの間で一貫したテーマは、裁判所が他の機関や管轄区域の活動を参照せずに運営されており、そのため、子どもや家族と一緒に仕事をした直接の経験を持つ人々から重要な証拠を収集したり、評価したりすることができなかったということであった。Barnardos、Safelives、ウィメンズエイド英国連盟、ウェルシュ・ウィメンズエイドなどの組織は、裁判所のプロセス、特にセクション7の報告を作成する際に、家族を知っている専門の児童サービススタッフの専門知識を活用することができなかったと指摘している。Cafcassウェールズ FCAと後見人が、他の専門家との関わりが限られているだけでなく、裁判官は、その子どもたちと一緒に仕事をしてきた専門家の意見よりも、子どもと過ごす時間が非常に限られているCafcassウェールズの担当者の意見を重視していることが観察された。Barnardos は、家庭裁判所は、その決定を改善するために、子どもや成人の被害者に直接仕事をしてきた組織ともっと密接に連携する必要があると強く主張し、Cafcassと裁判所は、DAや子どもの支援をしてきた機関や慈善団体を認識させるべきだと提案した。

 

母親たちはまた、セクション7の報告が他のサービスに言及せずに作成されていることに懸念を示している。

 

私の医者は私が経験したことを信じてくれており、彼[元パートナー]は私の職場に来ることで私を脅迫し、彼らはこの事実を認識しています。雇い主と主治医、警察も支援してくれています。私の子については(虐待が原因で)学校に福祉司がいましたが、このことについて誰も何も聞かれませんでした。

母親、 エビデンスの照会

 

しかし、ポジティブな例もある。ある母親は以下のように述べる。

「娘はもうすぐ10歳になるので、裁判所の命令は娘の希望や気持ちに基づいています。Cafcassも学校もGPも、娘と私の両方をサポートしてくれました。」

サバイバー・フォーカスグループ参加者

 

FJYPBのフォーカスグループは、より広範な情報収集と他のサービスとのより大きな調整の必要性を支持する。

 

「彼らは、子どもに近い人や、家族のことを知り、子どものことを知っているようなところにいる専門家からの証言に対しもっとオープンになる必要があると思います。学校はよく知っている.... ほとんどの学校は何が起こっているかを知っていると思います。ほとんどの教師は、子どもが何に悩んでいるのか、家庭の状況を把握している。」  若者のフォーカスグループ

 

しかし、このグループはまた、子どもの希望や心情についての幅広い調査は、子どもが主導する形で行なう必要があることも強調する。参加者の一人は、子どもが打ち明けた教師がすぐに虐待親に電話をして、何を言われたかを報告したと述べた。グループ内では、Cafcassの担当者が誰と話をするべきかをその子どもに尋ねることが、全体像を把握するための最善の方法であるという点で、一般的な意見が一致していた。

 

6.11 子どもの声の聴取を妨げるもの―当事者主義的プロセス

最後のポイントは、当事者主義的プロセスで、当事者とされる稀なケース以外では、定義上、子どもを積極的な役割から排除しているということである。子どもが直接手続に関与するというさらに稀なケースでは、大人中心の性質はさらに顕著になる。その希少性ゆえに、委員会には、そのようなケースのエビデンスはほとんど集まらなかった。しかし、あるDAワーカーは、子どもが証言するプロセスがいかに不適切であるかを浮き彫りにした。彼らは、不正確な証言や矛盾する証言を理由に虐待の主張が棄却された事例を報告し、「裁判のプロセスはその子どもが起こったことを横断的に説明するのを、困難でストレスフルにしている」と述べた。そのワーカーは、その子に「裁判で『うまくやれずに』、父親が彼の母親やきょうだいを身体的にも情緒的にも虐待しながら、逃げて行ってしまったという多大な罪悪感」が残ったと報告した。

 

6.12 結論

1989年児童法とUNCRCは、非常にはっきりと、子どもや若者に関わる裁判手続で、子どもや若者の意思と心情が考慮に入れられるべきであると規定している。調査や委員会への回答では、特に若者からのそれが注目されるが、少なくとも正しい決定が行われるために、子どもの声を聴くことがいかに重要であるかを強調した。しかし、委員会が検討した証拠によると、DAや児童虐待を含む私法上の事件では、かなりの割合の子どもたちが直接声を聴かれておらず、聴かれてもそれら子どもたちの声はしばしば無視されることがわかる。

 

子どもや若者の声が排除されたり、ミュートされたりする理由として、さまざまな理由が挙げられた。そこにはプロコンタクトカルチャー虐待親とのコンタクトを避けたいという明確で正当な理由が一人ひとりの子どもにあったとしても、コンタクトにより子どもは利益を得ると想定されている――が含まれていた。回答はまた、直接聴取される子どもの数が限られていることや、Cafcassウェールズが子どもとの関係を築くために十分な時間を割くことができないことなど、リソースの制約の重要性も指摘している。また、他の機関との協議不足についても言及されている。特に、DAや子どもの慈善団体は、Cafcassウェールズ と裁判所が、すでに家族と一緒に活動している専門の児童ワーカーの知識や専門知識を活用できていないことを指摘している。

 

子どもや若者の意見を聞かなかったことによる多数の結果が示された。その中には、子どもたちが失望したと感じていることや、おそらく最も懸念されることとして、虐待親からの恐怖や被害についての子どもたちの説明に耳を傾けないことで、裁判所は将来の被害から子どもたちを守ることができなくなったという認識が含まれていた。

第11章に上げた監護の取決めに関する委員会の勧告は、DAやその他の重大な犯罪を経験している子どものニーズや意思を促進することを主要な目的の一つとしている。これらのケースにおける子どもの声を強化するための具体的な提言は、第11.6節に記載されている。

 

【注】

(84)literature review sections 7.3 and 7.5. 参照。

(85)Mabon v Mabon [2005] EWCA Civ 634. 参照。

(86) literature review section 7.5. 参照。

(87) literature review section 7.5. 参照。

(88)literature review section 6.4. 参照。

(89) literature review section 6.4. 参照。

(90)J Fortin, J Hunt and L Scanlan, Taking a Longer View of Contact:The Perspectives of Young Adults Who Experience Parental Separation in their         Youth(2012)

(91)See literature review section 6.4.

(92)M Eriksson and E Nasman (2008) 'Participation in family law proceedings for children whose father is violent to their mother', Childhood 15(2): 259-75; S Holt (2018) 'A voice or a choice? Children’s views on participating in decisions about post-separation contact with domestically abusive fathers’, Journal of Social Welfare and Family Law 40(4): 459-76; G Macdonald (2017) 'Hearing children's voices? Including children’s perspectives on their experiences of domestic violence in welfare reports prepared for the English courts in private family law proceedings’, Child Abuse and Neglect 65: 1-13

(93)イングランドでは、2018-2019 年に 65,378 人の子どもや若者が申請の対象となったが、報告が命じられたのは、約 2 万人の子どもを含む 35%の事件にとどまった(Cafcass Annual Report 2018-2019, p.10)。

(94)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 5.参照。

(95)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 25.参照。

(96)Vulnerable Witnesses and Children Working Group, Report of the Vulnerable Witnesses and Children Working Group, February 2015 (2015), para 21.参照。

(97)literature review section 7.3. 参照。

(98)literature review section 7.3. 参照。

(99)literature review section 6.3. 参照。

(100)literature review section 7.3. 参照。

(101)literature review section 7.3. 参照。

(102)片親引離しのこの定義は、家庭裁判所でも、委員会の全員も、特に子どものための法律家協会と司法委員会のメンバーにも、利用され適用される定義とは認識されていない。

(103)例えば、K Weir (2011)の広く引用された論文’High conflict contact disputes.

(104)A Barnett (2020) 'A genealogy of hostility: parentental alienation in England and Wales', Journal of Social Welfare and Family Law 42(1): 18-29; literature review section 7.2 を参照。

(105) 委員会は、Cafcass と Cafcassウェールズ が片親引離しについて異なる実践ガイダンスを採用していることに留意する。

Cafcass, Child Impact Assessment Framework:

     https://www.cafcass.gov.uk/grown-ups/professionals/ciaf/;

 Cafcassウェールズ, Children's resistance or refusal to spend a parent: practice guidance: https://gov.wales/childrens-resistance-or-refusal-spend-time-parent-Cafcass を参照のこと。またcafcassウェールズは、片親引離しに関する研究と判例法のレビューを委託している。J Doughty, N Maxwell and T Slater, Review of research and case law on parental alienation (2018)

 

                                                            【藤村賢訓】

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第7章 申立への対応方法

 

 

7.1はじめに

この章では子の処遇手続におけるDAの主張に対する家庭裁判所での手続について検討する。この章で委員会は実務指針12J(PD12J)が実務でどのように実施されているかについて得たエビデンスを見る。

 

エビデンスは、PD12Jが意図されたとおりに機能していないという懸念を生じさせた。それが一貫性なく実施され、そして子どもや大人の虐待被害者をさらなる危害から保護するのに効果的でない懸念があった。

 

このエビデンスは、2014年に改訂される前と後の、従前のPD12Jに関する調査で明らかになったことと一致している(注106)。PD12Jの2017年の改訂に関する体系的な実証研究はなかった(注107)。私たちは2017年改訂の影響についてさまざまなエビデンスを得た。たとえば、司法円卓会議の参加者とライツオブウーマン(Rights of Women)は2017年以降、より多くの事実認定の聴取が開催されていることを示唆した。一方で、ウェルシュ・ウーマンズエイドは、何人かのスペシャリストサポートワーカーが、2017年のレビュー以来、実務指針12Jが一貫して適用されているのを見たことがなく、そして変更以降、どのように結果が改善されたかについての例を示すことができないと話している旨報告した。全体として、家庭裁判所での経験が2018〜19年のみであった親から受け取ったエビデンスは、それ以前の時期に関するエビデンスと目立った違いはなかった。

 

第4章で特定された根本的な障壁は、なぜ継続的なPD12Jの改訂が実務であまり違いを生じなかったかの説明を助ける。委員会が受け取ったエビデンスはこれらの根底にある障壁がPD12Jの有効性を損なうためにどのように機能するかを特定した。

この点で、リソースの制約に関する懸念が特に顕著だった。司法と実務家の回答は、司法の継続性を提供できておらず、現在私法上の子の事件に多数の本人訴訟が登場していることを含む、リソースの制約が、PD12Jの効果的な実施に対する主な障壁であることについて一致していた。個人の回答者は、裁判所が個々の事件にかける時間が少なすぎること、当事者と関わりを持たずに事件を処理するだけであること、聴取に不十分な時間しか割り当てられていないこと、判事及び治安判事が聴取前に記録を読んでいないこと、および裁判所と訴訟当事者間のコミュニケーションの難しさについてもコメントした。また、裁判所のプロコンタクトカルチャー、事実認定の当事者主義的プロセス及び家庭裁判所のサイロワーキング(孤立した業務遂行)が、どのようにPD12Jの有効性を制限するように機能するかを、エビデンスは示した。不十分なリソースと他の根本的な障壁の問題に対処しなければ、それらは実務指針の実施に悪影響を及ぼし続けるだろう。

 

7.2 PD12Jに関する一般的な所見

PD12Jは、子の処遇事件でDAの主張があった場合に裁判所が何をすべきかを詳細に示している。ほとんどの回答は、全体としての実務指針ではなく、PD12Jプロセスの特定の側面についてのエビデンスを提供した。PD12Jについて総合評価を行った人々は、PD12Jの起草、適用されたときのPD12Jの有効性、そしてPD12Jの実施一般という3つの側面について言及した。

 

PD12Jの起草についてのコメントは比較的少なかった。一部の専門家回答者は、PD12Jはドラフトが不十分で、長く複雑すぎて、さまざまな解釈の可能性があり、そして法律家でない者にとってユーザーフレンドリーではないと主張した。一部の父親は、非同居親が虐待の被疑者で、同居親が被害者と想定されるという観点から組み立てられているという事実についての懸念を表明した。これは子どもたちが一緒に住んでいる親が虐待の被疑者という状況に対応し損ねている。しかし、PD12Jに関して提起されたほとんどの懸念は、起草とは関係なかった。

 

回答した専門家の大多数は、PD12Jは順守さえされていれば効果的であるという見解をもっていた。たとえば、Nagalroは次のように回答した。「実務指針12Jは実施されていれば、子どもや虐待の被害者を保護するのに非常に効果的だ。しかしながら、Nagalroは、裁判におけるリソースの不足及び両親が利用できる法的助言の欠如によってその実施が妨げられていることを理解している。」

 

この引用が示すように、回答の重要なテーマはPD12Jの実施に深刻な欠如があるということだった。回答者は、実務指針という「書かれた法」とそれが実際どのように機能するかという「訴訟における法」の間の実質的なギャップが存在することを感じている。

 

何人かの個人の当事者が、彼らの事件でのPD12Jの適用についてエビデンスを提出し、または、PD12Jが適用された手続を説明した。しかし、多くの個人の当事者は、PD12Jについて言及されず、注意喚起されたことはなく、または裁判官や弁護士によって無視されたと主張した。個人および一部専門家の回答者は、特に何人かの治安判事、Cafcass職員、地方自治体のソーシャルワーカーの一部がPD12Jについて認識せずあるいは精通していないと指摘した。しかし、PD12Jが適用されないことに関する懸念は、司法及び専門家の認識の欠如との関連よりも、裁判所が、彼らが提起したDAの主張を無視し、聞くことを拒否、または却下し、そして事実認定の聴取を命じることを拒否したという回答者の認識とより大きく関連していたようだ。たとえば、ある母親は次のように報告する。;「私は裁判官に12Jを思い出させた。そして彼に、なぜ事実認定を命じなかったのかと尋ねた、彼はこう言ったんです、お聞きなさい 若いレディー、法律についてあなたが私に言うなと。そして(彼は)質問を無視したのです。」次の事件はより拡張された例を提供する:

私は2019年3月にFHDRAの法廷聴取に出るよう言われた。…2016年からの自分の子の父によるDAの証拠を持つ低所得のひとり親[として] 、私は法律扶助を受ける資格があった。しかし、私は1カ月の予告を与えられただけなので資金調達を手配する時間が足りなかった、そして私は自分自身を被告および本人訴訟として直接代理することを強制された。…CAFCASSの職員といた[調停]中、私に対する[片親引離しと子ども誘拐の可能性の]主張、そしてセクション7に基づく私が行っているDAの主張について事実認定の審理(enquiry)を求め、そしてどのような決定が下されるのかについて私の息子も彼の意見を述べたがっていると言った。CAFCASS職員は私に向き直り、軽蔑的なトーンで言った、「うん、それは起こらないだろう」。支配的そして威圧的行為、精神的虐待、心理的に追い詰めるガスライティング、私の物の棄損、私の息子に対する感情的な脅しそして身体的虐待の歴史を含む、私がDAに関して裁判所に提供した情報と証拠は、CAFCASS職員と裁判所によって、完全に無視された。―まるでそれらが完全に取るに足らないものであり、問 題ではなかったかのように、単純に無視され、対処されず、カーペットの下に掃かれた。私は父親のアルコール依存症も強調したが、これも同様に無視された。しかし「お父さんのために何が得られるか見てみましょう」というようなコメントが裁判所アドバイザーと治安判事から述べられた。母親、エビデンスの照会

 

少数の個人の回答者が、PDに関する前向きな経験を報告した

 

「私は、12Jダイレクションを大いに理解し、私にとてもよくしてくれた判事を得られてラッキーだ。しかし彼女は、作成を命じた文書を作成しない私の虐待者にもあまりにも多くのチャンスを与えた。私はこのような理解のある(判事を得られた)のが、自分が数少ない幸運な人の一人だと100%知っているので、おそらく彼女は他の裁判官が12J理解するのを助ける良い裁判官になるでしょう。」母親、エビデンスの照会

 

しかし、そのような前向きな経験は、委員会にエビデンスを提出した人々の中で少数派だった。

 

7.3親の関与の推定

親の関与の推定は、2014年に1989年児童法に追加された。あるレベルでそれは、別離後の子どもの生活における両親の継続的な関与を促進する既存の判例法にほとんど追加しなかった(注108)。しかし、別のレベルでは、それはさらなる可能性、より微妙な判例法の展開を制限し、コンタクトの基準の全ての例外は狭く解釈すべきという観念を強化する法的根拠を与えた。PD12Jのパラグラフ7は、特にDAによる危害または危害のリスクの全ての主張または証拠を考慮して、すべての事件において推定が適用されるかどうかを裁判所が慎重に検討することを要求している。

 

専門家の回答者は、この推定の与える影響について、広く多様な観点をのべた。一部の人はそれに同意し、それが有益なリマインダーであると考え、他の人はそれが無意味だと言い、決して言及しなかった。英国自閉症支援会は、それが悲惨だと回答した:「それは、支配的虐待的な元パートナーに、元配偶者だけでなくその子どもたちを、保護なしに、虐待/支配する18年間の自由な統治を与えることになりうる」

 

母親もまた、それが虐待的な親に、非虐待的な親と子どもに対する力そして虐待者が自由に使うことができる合法的な武器を与えると感じた。彼女らは、推定は、子どもの福祉と、虐待とその影響からの安全の権利より上位にある権利として、両親との関係を保つ子どもの権利と父親の家族生活の権利を誤って強調したと考えた。

「これは非常に危険な法律です。私の子どもたちの父親は有害で攻撃的で支配的な男です。…これは注意深く見る必要があります。彼らが彼/彼女の遺伝子を共有しているというだけの理由で、調査の前に、その人物が子どもの福祉を促進すると推定することは正しくない。」母親、エビデンスの照会

 

母親は、推定は、個別にその子どもに基づくよりもむしろ一般的に判断される事件をもたらし、裁判所は事実を見ず、子どもの声が失われるといったことを生んでいると主張した。フォーカスグループの1つに所属する母親は、彼女らの弁護士から彼女らの虐待者はコンタクトを許され、彼女らがそれについてできることは何もないと言われたと述べた。

 

「私の弁護士は、自分は共感し、完全に理解しているが、システムのありようで、あなたの夫が彼の子どもたちとコンタクトを得ないためには彼が殺人者でなければならないでしょうと強調して言った…私は以前のABHのおかげで、彼らは私の子どもたちを引き渡さないだろうと自信を持っていた。そして彼女は『冗談ではなく、ABHの複数の記録を持っている父親が監視なしのコンタクトを持っている(許可された)のを見てきました。あなたが今日この訴訟に勝つことはない』と言った。」サバイバーフォーカスグループ参加者

 

父親は推定について異なる見解を表明し、彼らの事件で適用されるべきときに適用されず、適用されるべきでないときに母親の利益のために適用されたと不平を言った。ある男性のフォーカスグループ参加者の報告:

 

「私の弁護士は私に言った:私がそれを認めるにしても否定するにしてもいずれにせよ、私はまだ私の子どもに会えるだろう、とね。弁護士は、私が私の子どもに会わない大きなリスクではないので、どちらにしても彼らは私に私の子どもと会わせるだろうと言った。」

 

推定が適用されない状況の質問について、専門家の回答者はまた、適切な事件で適用されないから、一貫性なく適用されない、極端な場合にのみ適用されない、決して適用されないまで色々だった。複数の専門家は、推定は、差止命令、深刻な安全保護上の懸念、またはDAの決定的な認定がない限り適用されると報告した。Surviving Economic Abuseは、被害からのサバイバーが効果的に推定に反論するために法的助言と代理が必要だと主張した。

 

全体として、委員会が受け取ったエビデンスは、推定が一貫性がなく実施されていること、適用されないことはめったにないことを示唆した。裁判所のプロコンタクトカルチャーがDAに対処する障壁となっていることは、その文化を強化することにもつながる。

 

7.4事件の初期段階と事実認定についての決定

PD12Jで指定されている手順は、個別の部分に分類される。このセクションでは、メディエーションとコンシリエーションの検討、主張されたDAが「関連性がある」かどうか、そして事実認定聴取が必要かどうかの決定を含む事件の初期の段階について協議する。次のセクションでは、事実認定聴取と事実認定後の手続をそれぞれ別に扱う。

 

7.4.1メディエーションとコンシリエーション

PD12Jは、裁判所の決定に関連する可能性のあるDAの問題があることを示唆する情報が裁判所に提供された場合には、裁判所は、当事者がコンシリエーションまたは他の形態の不適切および/または安全ではない紛争解決に関与することを期待されていないと確認しなければならない(注109)。そのような事件のコンシリエーションやメディエーションは、不平等な力関係を維持促進し、被害者への心理的および感情的な危害とトラウマ的な記憶を引き起こしうるリスクがある。

 

エビデンスの照会に応じた多くの母親は、DAに関する情報を提供したにもかかわらず、法廷でCafcass / Cafcassウェールズによりコンシリエーションに参加するように、あるいはメディエーションに出席するように助言、要求または指示されたと感じ、メディエーションを試みなかったことで批判されたと報告した。これは、PDのパラ9に反しているようだ。たとえば、この章の冒頭で説明された事件の母親は、法廷で相手方およびCafcass職員と和解するよう求められた。

 

「[コンシリエーション セッション]の終わりにCAFCASSの職員に、虐待的な元パートナーと一緒に部屋で座るのは信じられないほど困難だったと言うと、彼女は虐待について何も知らないかのように驚いたように見えました–彼女は申立書を読んだことさえあったのか?」母親、エビデンスの照会

 

同性パートナーがいた別の母親は次のように報告した。:

 

「私は保護を提供されず、2つの選択肢が与えられた–虐待的な元パートナーとのメディエーションに行くか、または私の子どもを私の子どもとは血縁的つながりのない私の元パートナーと一緒に住まわせるか」母親、エビデンスの紹介

 

そしてある父親はこう述べた:

 

「私は虐待的な元妻とのメディエーションを余儀なくされました。これは決してうまくいくはずがないものでしたが、裁判官はこれを好意的に見ていると常に忠告された。すべての段階で、私が子どもを第一にしようとしていたという理由だけで、私の状況に配慮はなかった。父親、エビデンスの照会

 

委員会は、安全でないメディエーション、コミュニティ紛争解決実務、虐待の脆弱なサバイバーの人権を保護する正式な法制度の重要性について、DA慈善団体からエビデンスを受け取った。

 

DAの主張への判断がなされる前の最初の聴取において、コンシリエーションとメディエーションが通常考慮されることを考えれば―そしてPD12Jのパラ9は実施されない―、主張された虐待が認められ、対処され、当事者が自分自身で自由に話し、交渉することができることを示す肯定的な証拠がない限り、裁判所は予防的アプローチを取るべきだ。(訳者注:当事者が対等でない場合、調停という手法をとるには慎重になるべきだ)

 

7.4.2事実認定聴取をするかどうかの決定

PD12Jは、裁判所に、子どもの福祉と関連する全ての決定に関連しうる問題としてDAが主張されたかどうかを最も早い機会に確認することを要求している(注110)。主張された虐待が裁判所の発出するその種の命令に関連する可能性が高い場合のみ、裁判所が争われた主張に関して事実認定聴取をすることを検討しなければならない。

 

委員会への個人の回答は、一般的に深刻なDAの経験を説明していた。しかし、我々は裁判所が関連性と事実認定についての決定の際多面的な行動に直面していることを認識している。一部の法律専門家は、裁判所は正しい決定を下しており、事実認定の聴取は、なされるべきときに実施されると主張し、他の人は、事実認定の聴取が頻繁過ぎるほど行われていると考えていた。ほとんどの回答は関連性と事実認定の必要性に関する意思決定について、異なる裁判官と治安判事のベンチの間で一貫性がなく予測できないと説明し、または裁判所は、すべきときに事実認定の聴取を開催できてないと主張した。これは2017年のPD12Jの修正の前の事実認定聴取の頻度に関する限られた研究と一致している(注111)。この章の冒頭で述べたように、一部の回答者は、事実認定聴取の数がこれらの修正の後で増加していると考えた、しかし個人の専門家および組織からのほとんどの回答は、事実認定の聴取が増加したと感じていなかった。家庭裁判所での経験が2016〜19年に及ぶDA被害者の家族メンバーは、PD12Jの有効性に関するエビデンスの照会における質問に回答した:

 

「効果がない。3年間の訴訟の後、私たちはこの指針に気づいただけだった。私たちがそれを提起したとき、裁判官は証拠がどこにあるのか、なぜこれまで事実認定された事件がなかったのかと言った。DAはすべての母親の事件ヒストリーに引用されていたので、これは良い質問です。」家族メンバー、エビデンスの照会

 

PD12Jは、裁判所命令の場面で、事実認定の聴取は必要ないとした決定の理由を記録することを裁判所に求める。今日まで、裁判所によって与えられた理由があるかどうか、もしそうならどのような理由があるかを分析するための裁判所命令のレビューはなかった。しかしながら、回答者は、なぜ裁判所がDAの主張は関係がなく、それゆえ事実認定の聴取は必要ないと決定しえたのか、さまざまな説明を提供した。

 

一部の法律実務家は、裁判官は限られた証拠しか入手できない事件の最初にしばしば関連性を決定する必要があると指摘した。裁判官が主張は関連性がないとその段階で決定した場合、さらなる証拠を生み出す機会はまた制限される。より一般的には、回答者は、裁判所が提示した事実認定聴取を行わなかった様々な理由を詳述したが、回答者はこれらは申立の関連性を組織的に矮小化するものだと捉えている(注112)。これらには以下が含まれる:

•主張された虐待が子どもと非虐待親に与える実際の影響を評価するのではなく、主張の深刻さについて一般化された推定を適用する、例えば(身体的に比し)「感情的な」虐待、「歴史的」といわれる虐待、子どもたちの前で起こらなかった虐待、前回の「事件」以降にコンタクトがあった虐待、または間接的または非接触に帰着しうるそれほど深刻ではなかった虐待の主張を割り引く

•事実認定の機会なしに証拠が不十分であるために主張を割り引く-

•虐待を立証するために提供された証拠を却下または信じない

•関連性を決定する際に裁判所が検討する資料を制限する。例えば他の証拠を見ず、安全保護レターにあるCafcass / Cafcass ウェールズの推奨に単に従うだけ

•事実認定の聴取の必要性を回避するために、限られた自白(admission)を受け入れる

•関連性または虐待が発生したかどうかに関する決定をCafcass / Cafcass ウェールズまたは専門家に委ねる

•いずれにせよコンタクトは実施されるので違いはないという理由で、主張を無視あるいは主張に基づいて先験的に対処することを拒否する

 

回答者はさらに、非常に深刻なDAの認定だけが直接的なコンタクトの推定を覆すので、多くの事件で裁判所が事実認定の聴取を不必要だと考えていることを示唆した。

 

「裁判官と相手の法廷弁護士は、私の訴訟が成功する可能性はほとんどないと言った。私の証拠は「弱く」、単なる「一連の孤立した事件」であると言われた。子の処遇命令には、たとえ証明されたとしても、裏付証拠と警察の情報開示を添えて私が提起したDAについての主張はいずれも、監視なしのコンタクトと宿泊を含む、子どものコンタクトの制限につながるものではない、との一行が書かれていた。」母親、エビデンスの照会

 

事実認定の聴取を開催することを躊躇する2番目の説明は、リソースの障壁とつながることを委員会は特定した。司法と実務家の回答者は、全員、リスティングプレッシャーでの遅延や裁判所が個々の事件に適切な時間を割けないことを含む、リソースの制約がPD12Jの効果的な実施の主な障壁であることに同意した。事実認定の聴取は時間を消費しリソースを集中する。裁判所が現在のリソースでDAが主張されている全ての事件で事実認定聴取を行うことは単純に不可能だろう。多くの回答者は、事実認定の聴取が予定された場合に関連する、聴取の準備のための予備手続、聴取の日程確保、聴取後に関連する活動、および問題が解決しない場合はさらなる聴取のスケジュール調整を含む、長い遅延に言及した。

 

いくつかの回答は3番目の説明を提供した:裁判官は、当事者間の敵意を高めないため、事実認定聴取をしないこと決定することがある。これは委員会によって特定された当事者主義的構造の障壁につながる。事実認定聴取は非常に当事者主義的であり、当事者間で彼らの子どもを共同養育する協力関係の可能性を損なうか破壊しうる。この根拠は、これが事実であるかどうかを調査せず、DAの疑いがあるにもかかわらず、安全なコンタクトが可能であり、協力的な共同養育関係が可能であることを前提としている。しかしそれは、裁判所の決定に影響を及ぼしうる事実認定プロセスの別の欠点を指摘する。

 

「私の最初の聴取を対応した裁判官は素晴らしかった-彼らは事実認定、薬物とアルコールのテストを命じ、2回目の虐待禁止命令の申立を私にアドバイスした」。母親、エビデンスの照会

 

回答は、事実認定の聴取がすべての事件に義務付けられるべきであることや裁判所の裁量を削除すべきことを示唆しなかった。しかし、彼らは訴訟当事者にとっての手続的公正の重要性、特に彼らが聞いてもらったと感じることの必要性を強調した。良い実務のエビデンスの例があった。

 

対照的に、多くの母親は自分たちの懸念が真剣に受け止められていないと感じていたが、一方で父親はまた、自分に対する疑惑を検証する機会を与えられていなかったことに懸念を表明した。一部の弁護士や裁判官も、主張が早期の事実認定によって「寝かされ」ないなら、水面下で「煮る」ことを続け、後で問題を引き起こすことになるとの視点をもった。対照的に、DVIPフォーカスグループにいる父親は、彼らは事実認定プロセスを困難に感じたが、彼らに彼らの行動に向き合い、彼らが虐待的であることを否定するのをやめる手段として、それは前向きな影響があったと言った(注113)。

 

7.5事実認定聴取

すでに述べたように、事実認定の聴取は高度に構造化され、技術的で当事者主義的な手続である。DAを主張する当事者は、相手方がどのような事件に答えなければならないかを知るため、十分な主張の詳細を提供し、主張を裏付ける証拠の提供を求められる。相手方は主張に応答し、彼らの事実説明を裏付ける彼ら自身の証拠の提供を求められる。その後、両当事者の証拠は、反対尋問を通じて聴取で検証される。私たちが受け取ったエビデンスは、事実認定聴取の構造、および限られたリソースの範囲内で事実認定の聴取を管理するために裁判所が採用した戦略が、特に長期的な虐待、精神的虐待、威圧的支配、および子どもの性的虐待のDAの主張を決定するのにあまり適していないことを示していた。この母親によると、それらは主な加害者を特定したり、虚偽の主張を正確に特定するのにも適していない:

 

「事実認定は、信頼できる親に適用されなければ、ほとんど価値がありません。出てきたネガティブなことは親の適格性として提示され、片方の親が問題と強調されると、他のことは他方の親に対抗するための小さなことのように見なされる。あらゆる行為の重大性は抑えられ、些細なことが促進された。」母親、エビデンスの照会

 

7.5.1スコットスケジュール

スコットスケジュール(一覧表)は、事実認定手続を支援するために家庭裁判所によって使用される手法である。それは、虐待の主張をしている人がそれぞれの主張を分けて記載し、各主張の簡単な詳細を提供し、求められる認定を提示する。さらなる主張の詳細は、当事者の証人陳述書に記載される。その一覧表は相手に送信され、相手は各主張に対する回答を簡単に示し、そして再び彼らの証人陳述書でさらなる詳細を提供する。完成したスコットスケジュールにより、裁判所は主張の範囲、当事者間の論点、主張を行う当事者が証明する必要があることを特定することができる。

 

委員会への回答は、事実認定聴取のスコットスケジュールの使用についていくつかの深刻な懸念を引き起こした(注114)。

 

まず、スコットスケジュールは、法律家が使用するように設計されたツールである。専門家の回答者は、彼らは虐待の経験を完全に正確に表現することができないという意味で、訴訟当事者が理解し遵守するのが非常に難しいとみていた。PD12Jは、最初の聴取(FHDRA)で、裁判官の助けを得て、スケジュールを完了することが実行可能かどうかを検討する必要があると示すことにより、ある程度これに対応しようとしている(注115)。しかし、このオプションはほとんどなされず、ある地域の法律家グループは、FHDRAがリーガルアドバイザー(Legal Adviser)のみで行われている場合にはそれをすることは不可能であると述べた。

 

第二に、スコットスケジュールは、行動のパターンではなく、個別の事件に焦点を当てて設計されたものである。PD12JのDAの定義が2014年、威圧的支配的な行動を組み込むよう修正されたとき、裁判でその修正を充足するのにこれをどのように確立するかという点について注意が払われることはなかった。PD12Jは単に事実認定聴取の指示を与える際に、裁判所は“何の証拠が威圧、支配、脅迫行為またはその他の形態のDAの存在を決定するために必要なのか”を検討すべきと述べるのみである(注116)。実務では、スコットスケジュールは引き続き使用され、精神的虐待または威迫支配の証拠を容易にするための適応はほとんどまたはまったくない。たとえば、Rights of Womenはスコットスケジュールと附属ステートメントで主張されるうるものに関し、一部の裁判官が、一定期間にわたる行為の主張、加害者の威圧的支配についての話を許可しているなどのさまざまな司法慣行を指摘した。しかし、他の裁判官は、主張は個別の事件にのみ関連するものであるという厳格な意見を持っていた。

 

第三に、司法資源と聴取時間の限られた利用可能性のために、スコットスケジュールは事実認定聴取の範囲を制限するための主要な手法になっているようだ。主張を行う親は、スコットスケジュールで限られた数の主張をするよう(4〜6件の主張が一般的に指定されるようだ)指示される場合がある。あるいは、スコットスケジュールが提出された後、裁判所は少数の個別の主張に関する証拠のみを聞くと指示する。これにより、時間を節約できるが、事実認定を少数の主張に限定することは恣意的であり、事実認定の目的を弱体化させる。それは裁判所が事件を処理する基礎となる正確な事実を確立すること、または子どもと非虐待親が直面する将来の虐待のリスクを適切に特定することを困難にする。また、当事者に手続的公正を提供するものでもない。

 

多くの回答者は、そのような制限の悪影響を指摘した。彼らは事実認定が、通常は身体的暴力を伴う最も「深刻」と思われる、あるいは最も凶悪または悪質な個々の事件にのみ焦点を当てるようになると指摘した。これにより、被害者および/または子どもたちへの最大の心理的影響を与えていた可能性のある、日常的で継続的な形態の虐待が除外される。「本当にダメージを与えるものはスコットスケジュールに入れることができないもの」(サバイバーフォーカスグループの参加者)。またそれらの「深刻な」事件のより広い文脈を取り除くことで、これらが一つ一つの事象であり、したがって、現在進行形の重要性をもたない「異なる性質の」または「1回限りの」出来事としてより簡単に却下されるということにつながった。

 

サバイバーフォーカスグループの参加者は、彼女の虐待の経験全体が「多すぎる」として却下され、裁判所はそれをすべて考慮することができず、その結果として彼女の子どもの将来と安全はわずか4つの選択された主張によって決定されるものとなった。別の人は、治安判事は彼女のスコットスケジュールについて:「『これは少し長すぎます。15ポイントカウントしました!』と言い、「彼らは私を笑った。」と話した。サウスオールブラックシスターズは、以下の「サルマ」という仮名のサービスユーザーの1人の経験の説明回答概要を提供した

 

回答の概要

2018年の子どもに関する最初の法廷聴取で、サルマは裁判所から「スコットスケジュール」を6つの事件のみ維持するように言われ、あまり多くの詳細に入らないことを忠告された。サルマはまた、「感情的にしないでください」と言われた。…サルマは彼女の虐待の歴史をわずか6件に矮小化されて、彼女が、彼女と子ども達への夫の操作と支配の程度を示すことを許可されなかったことに、信じられないほど侮辱されたと感じた。彼女を絞め殺そうとする試みを含む深刻な経験は矮小化され無視された。…[事実認定の聴取に関しては]「治安判事は6つのうちどれを無視するかを決定し、1年以上前のものはすべて考慮せず無視した。子どもたちについてすることは完全に取り去られた。「ああ、あなたはここで虐待され、しかし子どもたちもまたそう。子ども達はここいいないので我々はそれを取り除かなければならない」

 

私たちはまた、申立数、陳述書の長さの制限を遵守したら、提出した詳細が不十分だと批判された被害者の説明を受け取った、そしてサバイバーフォーカスグループの参加者の1人は、彼女のスコットスケジュールが長すぎたため、1,000ポンドのコスト命令を課されたと言った。

 

実務家からみると、スコットスケジュールを使用し、主張数を制限することのさらなる効果は、裁判所が一般的に、威圧的支配、ハラスメント、ストーカー行為などが関わる微妙で継続的な行動パターンにさらされない、その結果として、家庭裁判所は目の前にある事件の虐待の程度と性質を十分に認識することがないということである。

 

7.5.2立証責任とバイナリ効果(binary outcomes)

主張を行う人は、それを立証する責任を負う。しかし、DAや子どもの性的虐待の主張を行う親は、この負担は難しすぎると認識した。前述された威圧的支配と精神的虐待の証拠にまつわる問題と同様に、裁判所がしばしば、主張を立証するために、補強証拠を求めることが多くの回答から明らかになった。これは密室で虐待が発生し、外の世界には見えないDAの多くの事件-特に成人と子どもの性的虐待と威圧的かつ支配的行動―で乗り越えられない障壁となりえる。補強証拠が得られない場合、裁判所は各当事者の信用性を評価し、いずれの当事者の説明が好ましいか決定することができる。子どもの性的虐待の主張の問題について、当事者や組織からの回答は、裁判所が子どもと活動する専門家の意見を受け入れず、さらに高い立証義務を課すこと、時には有罪判決を主張立証の認定として求めることを示唆した。

 

さらに、親や彼らを支援する組織は、彼らの活動が裁判所のプロコンタクトカルチャーにより妨げられていると感じた(注117)。以下の引用は、2018〜19年に実施された事実認定聴取に関するものだ。:

 

「私の事件で事実認定が行われたが、それは滑稽でした。家庭裁判所治安判事は母親に対して偏見を持っており、DAについて無知でした。すべての物理的証拠[写真、医療記録、社会福祉報告書、警察記録とログ、虐待禁止命令]にもかかわらず、彼らは虐待がなかったと信じることを好んだ。私は敬意を持って、または脆弱な証人として扱われなかった。私の夫は証拠を持ってなかったが、彼の言葉はすべての証拠とすべての専門家意見よりも重視された。…治安判事は事件を事前に判断しており、私は公正な聴取または司法を受けなかった。」母親、エビデンスの照会

 

主張を証明する能力は、特に重要である。なぜなら当事者主義的なプロセスは黒と白の結果に帰着するからだ。灰色の色合いの余地はなくなるのだ。判例法は家庭裁判所は、主張が証明されるか証明されないか認定しなければならないと指示する―もし証明されたら、事実はあったとみなされ、しかし、それらが証明されない場合、事実はなかったとみなされる(注118)。その後、事件は虐待(または何らかの虐待)が認定された、あるいは認定されなかったものとして進行する。虐待が認定されない場合、リスク評価は行われず、命令による将来の虐待への保護はなされない。多くの個人の回答がそのような結果に恐怖を表明した。

 

これは、事実認定の聴取が行われたときだけでなく、主張した親が、事実認定の聴取を行わないことを選択したときも起こった。いくつかの事件で、母親が弁護士から事実認定の聴取手続に進めないことを助言されたが、その結果、彼女らの事件があたかも主張された虐待は起こらなかったかのように扱われることになるとは助言されなかったと言った。他の回答は、さらなる虐待、トラウマと反論を伴うので、虐待の被害者が事実認定聴取の見通しに直面することできない場合、裁判所は虐待がなかったと結論し、それにそって命令を出すと述べた。

 

第5章で説明したように、DAまたは子どもの性的虐待を主張する母親の多くの回答は、彼女らに対する片親引離しの反論主張がなされたという事実に言及した。これらの反論主張も、事実認定聴取で決定される。したがって、母親が彼女の虐待の主張を証明できない場合、裁判所は虐待がなかったと認定するだけでなく、彼女が故意に他の親と子どもたちの関係を混乱させるために虐待について嘘をついたと認定するリスクがある。反論主張がない場合でも、彼女らが自身の申立を蓋然性の均衡(balance of probabilities)に基づいて立証できなければ、裁判所は、彼女らが不必要にコンタクトを妨害したと結論づけることがあり、母親が不利なリスクを負うことを回答は示した。これは第4章と第5章に記載されている母親が表明した被害者非難、ネガティブなステレオタイプと性差別についての懸念とリンクしている。

 

PD12Jは、虐待の主張が常に別の事実認定聴取で扱われるべきことを求めていない。それらは最終的な福祉の決定の一環として決定される可能性がある(それにも欠点があるが)。しかし、回答は、事実認定の聴取が、虐待を主張する親に歓迎されない選択をもたらす、オールオアナッシングのオプションとして扱われる広範な慣行があることを示した。彼らにできることは、事実と認められない、または反論主張を受けるリスクを伴って、事実認定の聴取のトラウマに耐えるか、あるいは虐待がない事件として進められる結果を受け入れ主張を取り下げるかのどちらかである。これに関連して、Nagalroは「事実認定」が特に法的代理人がいない両親によって、裁判所で合意されることがあるが、それは事実とはほとんど関係がなく、両親の間の状況をほとんど解決せず、虐待の子どもおよび/または成人の被害者への危害とリスクを評価するうえでの価値は限られたものであると述べている。しかし、それらは事実認定のリスクに対する現実的な対応であり、その明白な勝ち負けの影響を回避する。

 

委員会は、家庭裁判所または以前の調査からの体系的なデータがないため、事実認定聴取に関して提起された多くの懸念を聴取の結果に関するデータとつき合わせて評価することができなかった(注119)。我々は、事実認定の聴取で立証された、DAの主張の割合と反論の主張の割合がわからない。これは、さらなる研究が必要な分野である。

 

7.6事実認定後:サポートサービスとリスク評価

裁判所がDAまたは子ども虐待の認定を行ったとき、回答者はしばしばその後の出来事に失望したと表明した。PD12Jは、DAが発生した場合、裁判所は―それ自身またはCafcass / Cafcass ウェールズまたは当事者を通じて―当事者または子どもを支援するため地元で利用可能な施設について(地元のDA支援サービスを含む)情報を取得する必要があるとする(注120)。エビデンスは、この規定が適用されていないことを示す。回答は、虐待の被害者と認定された人へのフォローアップの欠如、DAや子ども虐待サービスへの照会がないことを記録した。サバイバーは、裁判所が現在、彼らと彼らの子どもたちが苦しんでいた危害と彼らの回復の必要性の認識よりも、「先に進むこと」と、多くの場合、(第9章で説明したように)コンタクトを回復することの方により興味を持っていると感じた。

 

PD12Jはさらに、すべてのDAの性質と範囲の決定に続いて、裁判所はそれが専門家による安全リスク評価によって支援されるかどうかを検討しなければならないし、もしそうなら、そのような評価が行われるように指示を出さなければならないと述べる(注121)。控訴裁判所は、DAが認定されたほとんどすべての場合に、専門家のリスク評価は、子どもへの継続的なリスクを理解するために不可欠である可能性が高いことを明らかにした(注122)。不十分なリスク評価に基づく決定は、子どもが死亡または重傷を負った事件および大人の家庭内殺人における突出した要因であると安全保護措置レビューおよび家庭内殺人レビューによって指摘されている(注123)。

 

事実認定の聴取が行われなかった、または主張が立証されなかった多くの事件で、回答者はリスク評価が行われなかったと報告した。これはもう一つの実務での当事者主義的障壁の例である。裁判所が、主張された虐待は関連性がないか、発生しなかったという認識に基づいて進行する間、認定がないからといってリスクがないわけではないからこれは問題と見なされた。回答者は、彼らとその子どもたちは、裁判所の認定・非認定に関係なく、リスクの中にいたことを実際に経験している。リスク評価がないことで、彼らの声が聞かれていない、信じられていないという感覚が増幅し、裁判所によってなされた命令がそのリスクに対処しないことを意味した(9〜10章に詳述のように)。Cafcassはまた、裁判所が限られた事実の認定のみを行った場合にこれが問題となると述べた。:

 

いくつかの事実は認められたが、他の事実は認められてない場合、Cafcassの事後調査では、認定が[難しい]場合がある。裁判所は女性の経験とは異なる事実を認定したわけなので、評価の観点から私たちの手は縛られているようなものだ。スコットスケジュールはこの難しさを増しうる。私はこれを回避する方法があると思うし、私たちはこのプロセスを通じて被害者を支援する方法を探すことで、裁判所が知りたいのはどのような種類の情報かを知る必要がある。Cafcass、実務家円卓会議

 

しかし、事実認定を通じて確立された虐待に関してさえ、複数の回答者は、リスク評価プロセスは不十分であると考えた(注124)。回答者は、裁判所がリスク評価を完全に無視し、単に監視付きコンタクトを命令した例を提供した。他の回答者は、彼らがコンタクトの可能性を最大化するために、リスクは矮小化する多くの方法を記述した。これらに含まれるものは:

•子どもに対する継続的なリスクを評価するが、非虐待親に対する継続的なリスクは評価しない;

•潜在的な将来の危害を考慮せずに現在のリスクのみ評価;

• 1人の子どもに関するリスクが他の子どもとの関係で考慮されない;。

•非虐待親へのリスクが考慮されていない。子どもへのリスクとしても考慮されない;

•リスク評価の過程で子どもとの協議はない。

 

したがって、プロコンタクトカルチャーはリスク評価のプロセスに影響を与えるように思われる。回答は、裁判所とCafcass / Cafcass ウェールズが、虐待的と認定された親を、彼らに子どもへのリスクはない、または少なくとも直接(理想的には監視されていない)コンタクトを避けるに十分なリスクを提示していないと評価しがちであるとの全体的な印象を与えた。いくつかの事件で、Cafcass / Cafcass ウェールズのリスクに関する評価と推奨した事項に、裁判官が従わず、虐待的な親のリスクが低いか全くないと独自の評価をし、コンタクトをするように命じた。

 

命令が安全で将来の危害から保護するものであることを確保するために、将来のリスクを効果的に評価するには、時間と専門知識の両方が必要である。しかし、この要素もリソースの制限の影響を受ける(注125)。リスク評価は通常、セクション7レポートの一部としてCafcass / Cafcass ウェールズ職員によって行われる。複数の組織(NagalroとPSUを含む)は、Cafcassがリスク評価を実施するための十分なリソースを持っていないことを回答した。

 

これらの回答者は、Cafcassの職員はリスク評価するための十分な訓練を受けておらず、家族の状況を調査するのに十分な時間がとれない、セクション7のレポートのリスク評価は簡潔すぎて表面的であり、DAが子どもと非虐待親に及ぼす影響を適切に特定または対応していないと考えた。

 

「私は、危害のリスクの微妙な評価を伴うDAの種類についての異なる見解を見ることはめったになかった。そのため、相互のDA、カップルの暴力、威圧的支配的暴力のいずれもがしばしば同じような子の処遇命令に帰着した―その命令のなかには、進行中の暴力行為のために子どもを危害の危険にさらす可能性があるものや、十分に良い親との関係の減少によって子どもを危害の危険にさらしうるものもあった。」      心理学者、エビデンスの照会

 

Cafcassおよび地方自治体のソーシャルワーカーによるリスク評価の作成の大幅な遅れについても懸念があった。

 

Cafcass / Cafcass ウェールズまたは地方自治体によるリスク評価の代替になるものの十分に活用されていないオプションは、裁判所がDAの専門家証人からの報告を求めることである。この業務を行っている一握りの評判の良い機関(たとえば、DVIP、PAI)がある。一部の回答者は、威圧的支配による危害のリスクを評価するには専門家の証拠が必要であると主張した―しかし、これは費用がかかり資金源が限られている。回答は、専門家によるDAのリスク評価は、法律扶助では無理であり、訴訟当事者はまた、そのような評価にお金を払う余裕がない可能性があると述べた。回答者は一般的に、当事者が薬物とアルコール検査や精神医学または心理的評価を行う余裕がないこと、および他の方法でこれらのコストをカバーするためのリソースの不足についてコメントした。

 

 

7.7 PD12Jプロセスに関する一般的な問題

回答は最終的に、PD12Jプロセス全体に一般的にあてはまるいくつかの問題を特定した。これらは、司法の継続性、本人訴訟と法律扶助、および私法上の子どもの事件と他の手続との不連続性に関連している。

 

7.7.1司法の継続性

私法上の事件のために司法のかける時間が制限されており、家庭裁判所のパートタイム司法(治安判事、DDJs、レコーダー(Recorders))への依存は、子の処遇の事件(注126)で司法の継続性の“目的”を達成するのが非常に難しい場合があることを意味する。特に<Tier1>では、治安判事の同じベンチまたは同じベンチチェア前にすべての聴取をスケジュールすることが不可能な場合があり、そして継続性の唯一の形態はリーガルアドバイザーに頼っているようだ。PD12Jは、事件における事実認定聴取とその後の聴取の間の司法の継続性の重要性を特に強調しているが、これにより遅延が発生し、(遅れによる)子どもの福祉への不利益が、公正な審理手続の不利益(司法の継続性の欠如から)を上回る場合に広範な例外が許容されている(注127)。裁判官が事実認定の聴取の後に身事件を留保しても、事実認定前の継続性に欠けていた場合もある。これは、DA事件のベストプラクティスとされる、エンド・ツー・エンドの司法監視、前後の手続の継続性、あるいは「一人の裁判官に一家族」というモデルからはほど遠い(注128)。

 

親たちからのエビデンスは一貫して司法の継続性の欠如を反映していた。これにより、法廷の誰も彼らの事件を深く理解していないという感覚に帰着した(注129)。これはまた、当事者は、次の聴取出席時に誰を、そして何が起こるのか予期するのかわからなかったということを意味する。ある母親は「子どもを引き離されるという絶え間ない脅迫以外、私の全ての法廷訪問について一貫性は何も見られなかった。」と言った。加えて、虐待の被害者は、彼らの話を繰り返すこと、何度も虐待のトラウマを追体験することを強いられたと感じ、そして裁判所の手続に関連して加害者による虐待的な行動は一貫して特定または対処されなかった。たとえば、この母親は2017年から2019年までの2年間私法上の子どもの手続にいた:

 

私の元パートナーは有罪判決を受けている…[私に対する]殴打による暴行の刑事裁判で。彼は接近禁止命令を持っていたが、すべてに違反した。虐待禁止と同じ― 7回違反し、7回目で有罪判決を受けました!家庭裁判所では彼が裁判を取下げた後に再開したため、私は自ら証明し、2年間裁判所の手続に費やさなければならなかった。私は最終的に法律扶助が認められるまで1年間自己代理しなければならなかった。

 

私のウィメンズエイド[サポーター]は治安判事裁判所への入室を拒否された…私の元パートナーが口頭で私と裁判官を虐待し、そして非常に攻撃的で、セキュリティが以前に呼ばれていたにもかかわらず!どうやら彼らは私の履歴を全く読まずに決めた。それは必要なかった。

 

ほとんどの聴取は完全に異なる裁判官または治安判事であったため、継続性やより深い事件の理解はなかった。

裁判所の手続のために、私は何度も何度も思い出を追体験し、見知らぬ人に物事を説明しなければなりませんでした。母親、エビデンスの照会

 

対照的に、司法の継続性がある場合、裁判官は時間の経過とともに虐待者の行動に慣れ、彼の正体を見抜いたと母親はコメントした。個人の回答で引用されたグッドプラクティスの例には、多くの場合、裁判官は、事件について理解し、個人的な責任を負い、彼ら自身で将来の聴取を予約し、その結果、大変素晴らしい対応の一貫性と信頼性を提供した状況が含まれた。たとえば、この母親は2015年から19年までの4年半にわたる3件の長引く手続に耐え、2つのセクション91(14)命令と多額の費用負担命令(a large cost order)が彼女に有利に出された:

 

[場所1]に引っ越して以来、私たちの裁判官は地区裁判官[名前]です。彼は[場所1]の家庭裁判所が閉鎖されたとき私たちの事件を維持し、[場所2]までその事件を持っていきました。非常に複雑で、困難で、もっともらしく、操作的な私の元夫に対処しながら、何度も彼に直面しなければならなかったにもかかわらず、彼は大変すばらしかった。母親、エビデンスの照会

 

一方で、我々は、司法の継続性の潜在的なマイナス面のエビデンスを受け取った。母親と父親の両方が、彼らに決して公正な聴取を受けられないと感じさせる方法で事件を扱い、偏見を感じさせた裁判官の存在を語った。

 

 

 

7.7.2本人訴訟および法律扶助へのアクセス

第4章で述べたように、多くの個人の回答は、家庭裁判所で自己代理しようとすることの大きな困難を反映している。訴訟当事者によって報告された経験は、聞いてもらえない、無視される、サポートがない、いじめられている、裁判所のプロセスをフォローできない、そして相手の弁護士と彼らの間の力の不平等を鋭く意識したという認識を含んでいた。PD12Jの文脈では、母親と父親の両方が、相手の弁護士がそれを望んでいない時は、訴訟当事者が事実認定聴取をするよう裁判所を説得することはほぼ不可能だとコメントした。

 

専門家の回答者は、本人訴訟においてPD12Jを実施する際の課題についてより一般的にコメントした。

 

「私たちの経験では、裁判所が実務指針に従い、できるだけ早く(分割聴取として)事実認定聴取を実施し、最終決定を出す前にリスク評価を実施し、両親が法的に代理される場合、実務指針12Jが有効です。ただし、ほとんどの当事者は本人訴訟で、裁判所に適切にまたは公正に事件を進行させうる形で、立証や反証することができない。私たちは、LASPOによる法律扶助の削減によって、大人の当事者の法的代理は欠如し、結果として子どもたちがリスクにさらされることに直接つながったと考えている。このことは、裁判所がこのように非常にセンシティブでしばしば困難な手続を管理する上で大きな課題となっていると私たちは考えている。なぜなら、本人訴訟の場合、裁判所を現実的に支援するには限界があるからだ。」子どものための法律家協会(Association of Lawyers for Chilren・初出)

 

PD12Jを本人訴訟で実施する際に特定された明確な問題は下記を含む:

•事実認定の聴取が必要かどうかを見極めること―事実認定の聴取が必要ではないことを期待して押しつけ、できるだけ早くコンタクトアレンジメントを実施しようとする裁判所の傾向について回答者が言及している。

• 訴訟当事者に事実認定の複雑で技術的なプロセスに対処する能力がないこと―陳述書、回答書、反論、スコットスケジュール、証人の手配、第三者開示を含む―そして相手方に代理人がいる場合著しく不利になる

•警察の記録開示を受けるのに要する費用を支払う能力が当事者にないこと

•本人訴訟のbundlesを作るための裁判所スタッフの時間の不足(注130)

•裁判所が事実を決定する証拠の質が「[訴訟当事者]がどのように事件を提示し、プロセスによってどれほど脅迫されているか」によって左右される(司法円卓会議)。

 

Mosacは、子どもが他方の親による性的虐待を明らかにし、しかし法律扶助の許可のために求められる‘客観的な’証拠の欠如した親の、非常に困難な立場を述べた。これらの親は、法的代理人なしに、子どもを法的手続で保護しようとする全責任を負い、そしてしばしば自身がDAの被害者でもあるため、耐え難いレベルのストレスと恐怖に帰着する。

 

専門家はまた、DAの加害を主張された者の法律扶助へのアクセスを否定することの悪影響についてコメントした。実務家円卓会議は、法的代理人が利用できないことにより、加害者とされる者が、彼らの行動を認め、洞察を得、助けを借りるサポートを受けるよりもむしろ、虐待を否定し、子どもとのコンタクトを得るために戦わなければならないと感じ、訴訟の道を突き進むと指摘。司法円卓会議の参加者は、虐待の被害者及び加害者が法的代理人を得ることが裁判所にもたらす利益を計量化するよう求めた:

 

「[郡]の数字を見ると、年間900件の申請があります…そして…3分の2がDAの問題を抱えていたとしても、それは驚くべきことではありません。年間にすれば600件のDAの事件です。事実認定聴取がある場合…それが2日間のリストである場合、それは1200地区裁判官日です。[裁判所の場所]にある地区裁判官の全数よりも多く…まあ、ほぼ[郡]全体!…自動的にDAで告訴されまたは対象とされている人々に弁護士を与えれば、それらの数字を非常に簡単に半分にすることができます。司法円卓会議

 

全体として、裁判所および法律扶助のリソースの制限により、コストは親と子にシフトされる。私たちは、訴訟手続が訴訟当事者に直接与える大きな感情的、物理的および経済的影響、家庭裁判所との遭遇によって引き起こされた彼らの個人的資源の壊滅的な枯渇を詳述する多くの回答を受け取った。

 

7.7.3サイロワーキング

最後に、回答は、家庭裁判所と他の裁判所、手続、機関との間の連携が取れていないことが、DAの主張やその他の危害のリスクに対処する方法に影響を与えているとの指摘もあった。

 

地方自治体の子ども保護ソーシャルワーカーが家庭裁判所での公法手続に精通している、一方で、彼らは私法手続には精通していないという一般的な懸念がある。したがって、たとえば、彼らはCAPまたはPD12Jを認識しない傾向があり、どのように事実認定聴取を推奨するかを知らず、DAのリスク評価を実施する必要なトレーニングを受けていない。これらの問題は、ソーシャルワークのインプットが、Cafcass / Cafcass ウェールズではなく地方自治体によって裁判所に提供される場合に発生する。

 

多くの回答は、事実認定プロセスと他のプロセスとの間の断絶を指摘した。これらが含まれる:

•虐待禁止命令が出されており、さらなる虐待から被害者と子どもを効果的に保護している場合、虐待は家庭裁判所によって「過去のもの」と位置付けられ、したがって、子の処遇手続には関係ないものとされる

•虐待の被害者は、警察、CPS、証人サービスによるサポートのある刑事司法システムと、同じ虐待を確立するすべての負担が被害者の肩にかかる家庭裁判所との間に混乱した対比を経験する。

•刑事上の有罪判決は家庭裁判所で再裁判されうる

•刑事裁判所で有罪を認めた虐待者は、虐待を否定し、被害者が家庭裁判所でそれを証明することを主張しうる

•刑事手続で虐待が合理的な疑いを超えて以前に証明されたという事実は、家庭裁判所で無視される可能性があり、虐待者は効果的に再裁判が与えられ、被害者が信じられていないという気持ちを強化する事実

•家庭裁判所での事実認定が犯罪捜査と手続が並行して行われている場合:

•警察の調査が未完了なため、事実認定聴取のための裏付けとなる情報を提供できない

•犯罪捜査の詳細が家裁の手続で加害者に公開され、刑事事件へのダメージ、およびいずれかの法廷への司法アクセスの回避となる

•家庭裁判所のリスク評価プロセスでは、指標や、MARACs、接近禁止命令、虐待禁止命令違反、以前のおよびその後のパートナーに対するDAの証拠、DV開示スキームによる暴力の履歴開示、および子どもの性的虐待に対する有罪判決後保護観察官によって実施されるリスク評価のような他で行われたリスク評価を考慮に入れていない

 

次の回答の要約は、家庭裁判所と刑事管轄権の間の調整不足の問題の多くを要約する:

 

回答の概要

母親の元夫は、彼女へのレイプと子ども虐待の罪で投獄された。刑事裁判所は彼を危険な男だと述べたが、彼女は「家庭裁判所は子どもたちに会いたいという彼の要望に応えようと必死になったようだ。」と感じた。彼の判決から、彼女は家庭裁判所のプロセスが簡単にいくと思ったが、彼は5年以上訴訟を延長することに成功し、彼女には法的費用として50,000ポンドを超える負担がかかった。法廷では、彼女は自動的に遮蔽を与えられず、毎回頼まなければなりませんでした。彼女は、「家庭裁判所の聴取の多くは私がレイプ裁判で証拠を提出した同じ刑事裁判所でなされました。私はこのため目に見えて震えていましたが、裁判システムの誰も気にもとめないようでした。」彼女はまた、警察や刑事裁判所へ彼女の元夫がもたらすリスクの説明の照会がないことを懸念した。彼女は、「2つの裁判所が実際にある程度結合された考慮をし、情報共有をした場合、家庭裁判所の聴取の多くは必要はなかった。」と感じた。彼女はまた、彼女の元夫が「中産階級で雄弁」であるため、何人かの裁判官からより多くの余裕を与えられたと感じた。「裁判官たちが彼の見た目や言うことからして、私がそれほどの被害者になりえないと考えたのだと思います–しかし…彼らが警察のファイルにアクセスしたなら、私が本当にどれほど脆弱であるかをすぐに理解したでしょう。」彼女は「刑事裁判所と家庭裁判所の合理化について考えてほしい–それは本当に役に立ちます。2つがリンクされたら、被害者としての私たちはこれらのことを2回経験する必要はありません。」と結論付けました。母親、エビデンスの照会

 

逆に、Mosacは、刑事裁判で子ども虐待の有罪判決がなかった場合、刑事訴訟および民事訴訟における証明の基準が異なるにもかかわらず、家庭裁判所は、虐待が発生しなかったと判断する可能性が最も高いと指摘した。これは、サイロワーキングとプロコンタクトカルチャーの間の相互作用をあらわす。サイロワーキングのすべての事例は、虐待的だと主張される親に有利に働き、コンタクト実施を可能にするような結果をもたらす。対照的に、より結合されたアプローチは虐待を最小限に抑える可能性が低く、子どもや大人の被害者をさらなる危害から保護する可能性が高い。

 

7.8結論

委員会が受け取ったエビデンスは、複数の問題と実務指針12Jが実務で実施される方法に対する不満の原因を特定した。この中には、親の関与の推定の影響、DAの主張がどのような場合に関連性があると見なされるか、事実認定聴取の実施、リスク評価の質、司法の継続性の欠如、事実認定プロセスと他の手続との間の調整の欠如、本人訴訟当事者がPD12Jの複雑さを乗り越えるために経験する困難などの懸念が含まれていた。これらの問題の多くは第4章で概説されている4つのテーマに関連している。裁判所のプロコンタクトカルチャー、限られたリソース、当事者主義的なシステム、サイロワーキング。これらの同じ障壁はPD12Jを強化するためのこれまでの取り組みを妨げているようだ。

 

いくつかの回答とフォーカスグループの回答は、微調整(fine-tuning)または微調整(tweaking)では特定された問題を解決できず、根本的な障壁に対処するため代替的な家事司法のモデルを検討することと、改革のためのより基本的なアプローチを取る必要があることを示唆した。委員会は同意する。第11章では、子の処遇事件の新しいモデルを提唱し、これらの障壁に包括的に対処するさらなる提案をする。これには、家庭裁判所によるDAおよびその他の子どもへの危害のリスクへの事後対応ではなく事前対応、当事者主義的アプローチではなく調査的アプローチ、刑事司法プロセス、警察、家族と協力する法定および第三セクターのサービスとの調整の改善、より効果的な活動方法へのリソースの向けなおしが含まれる。

 

【注】

(106)M Coy et al, Picking up the Pieces: Domestic Violence and Child Contact (2012); R Hunter and A Barnett, Fact-finding Hearings and the Implementation of the President’  s Practice Direction: Residence and Contact Orders: Domestic Violence and Harm (2013); A Barnett (2014) ‘Contact at all costs? Domestic violence and children’s welfare’, Child and Family Law Quarterly 26: 439–62; A Barnett (2015) ‘“Like gold dust these days”: Domestic violence fact-finding hearings in child contact cases’, Feminist Legal Studies 23: 47–78; M Harding and A Newnham, How do County Courts Share the Care of Children Between Parents? Full Report (2015); Women’s Aid Federation of England,  Nineteen Child Homicides (2016); J Birchall and S Choudhry, What About My Right Not to be Abused? Domestic Abuse, Human Rights and the Family Courts (2018); R Hunter, A Barnett and F Kaganas (2018) ‘Introduction: Contact and domestic abuse’, Journal of Social Welfare and Family Law 40(4): 401–25; J Harwood, Child Arrangements Orders (Contact) and Domestic Abuse – an Exploration of the Law and Practice (PhD thesis, Warwick University, 2019); 文献レビューセクション9を参照

(107)2017年改正以降実施された調査 M Lefevre and J Damman, Practice Direction 12J: What is the Experience of Lawyers Working in Private Law Children Cases? (2020), Sussexの 実務家とIDASの調査に基づく, Domestic Abuse and the Family Courts (2020), based on surveys, フォーカスグループ、被害者/サバイバーとのワークショップ、裁判所とCafcassを含むサポートワーカー、サービス提供者の調査に基づく。

(108)F Kaganas(2018)‘Parental involvement: A discretionary presumption’,Legal Studies    38:549–70;文献レビューセクション7.1。

(109)PD12J、パラ9。

(110)PD12J、パラ14。

(111)事件ファイルの調査は、事実認定の聴取が事件の10%未満で実施されたことを一貫して明らかにした:J Hunt and A McLeod、Outcomes of Applications to Court for Contact Orders after Parental Separation or Divorce(2008)、M Harding and A Newnham、How do County Courts Share the Care of Children Between Parents? Full Report(2015)、Cafcass&Women's Aid Federation England 、Allegations of domestic abuse in child contact cases(2017); 文献レビューセクション9.4。

(112)この問題に関する2017年以前の調査で見つかった同様の理由については、文献レビューのセクション9.5も参照。

(113)DVIPによって提供されるDAPPは、参加者が自分の行動に責任を持つことに焦点を合わせている。すべてのDAPPsがこの焦点を共有しているわけではない。異なるプロバイダーからDAPPsを受けた別のフォーカスグループの父親はこの認識がなかった。

(114)文献レビューセクション9.8も参照

(115)PD12J、パラ19(c)。

(116)PD12J、パラ19(d)。

(117)文献レビューセクション9.8も参照

(118)Re B(子ども)(Care Proceedings: Standard of Proof) [2008]ホフマン卿によるUKHL 35:「法的規則は事実の証明を求めるなら…裁判官は…それが起こったかどうかを決定しなければならない。それが起こったかもしれないと認める余地はない。法律は、価値が0および1のみであるバイナリシステムとして機能する。事実があったか、ないかのどちらかである。」

(119)Hunter and Barnett, Fact-finding Hearings and the Implementation of the President’s Practice Direction: Residence and Contact Orders: Domestic Violence and Harm(2013)は、この問いに関する調査研究を実施した、そして最近の調査はMLefevre and JDamman、PracticeDirection12Jによっても実施された:What is the Experience of Lawyers Working in Private Law Children Cases?(2020)、しかし事件ファイルの大規模な分析はなかった。文献レビューセクション9.4、9.8を参照。

(120)PD12J、パラ32。

(121)PD12J、パラ33。

(122)Re P [2015] EWCA Civ 466 [30] per King LJ; Re W [2012] EWCA Civ 528 [19] per Black LJ.を参照。

(123)Child Safeguarding Practice Review Panel, Annual Report 2018–2019 (2020); Home Office, Domestic Homicide Reviews: Key Findings from Analysis of Domestic Homicide Reviews (2016).

(124)事実認定後の不適切または存在しないリスク評価の事例は、PD12J事件でいくつかの成功した訴えの対象であった:PD12J判例法のレビューと文献レビューセクション9.9を参照。

(125)文献レビューセクション9.9も参照

(126)FPR 2010実務指針12B、パラ10。

(127)PD12J、パラ20、31。

(128)R Hunter and S Choudhry (2018) ‘Conclusion: International best practices’, Journal of Social Welfare and Family Law 40(4): 548–62を参照。

(129)文献レビューセクション9.14も参照。

(130) バンドルは、裁判に必要なドキュメントの収集である。それらはコンパイルされ、索引付けされ、コピーされ、そして実務指針27Aパラ3.1に従って他の当事者および裁判所に提供される。実務指針は、両当事者が本人訴訟の場合、裁判所が別段の指示をしない限り、バンドル作成をどちらも必要とされないとしている。一部の裁判所では、裁判所の職員は裁判所と両当事者のためにバンドルを準備する。しかし、多くの裁判所はこれを行うためのリソースを欠いており、トライアルバンドルを準備するように一方または両方の当事者に引き続き指示する。

                                                                                                                                       【藤本圭子】
 

 

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第8章 法廷での安全と経験

「あなたが怖くて続けることができないために、早い段階で合意に達するならは、加害者は、証拠を提出したり、彼の主張を立証したり、尋問されなくて済むんです。彼は家庭裁判所を利用して、あなたとあなたの子どもを脅迫し、さらに虐待します。自分がとても恐れていた人物と裁判手続をしていく恐怖と、言葉で表現できないストレスを言い表わすことはとてもできません。」母親、エビデンスの照会

 

 

 

 

8.1はじめに

この章では、私法上の子の手続の当事者の経験について検討する。エビデンスは、DAの被害者にとって、裁判手続の経験は、身体的な安全への懸念に影響を受けることを示している。さらに、彼らの経験は、DAの結果として経験したトラウマによって根本的に影響を受ける。文献は、このトラウマが身体的、心理的および認知的影響があることを示す。その影響は、虐待者を常に怖がる、虐待者に近接している(またはその発生を見越す)ことに対して制御できない身体的または感情的な反応を伴う、出来事を明確にあるいは順序だって思い出したり説明したりできず、虐待について語ったり質問されたりするとき、フラッシュバックまたは再トラウマ(二次受傷)を経験することを含む。エビデンスの照会への回答は、裁判所プロセスのすべての参加者によって、この文脈が理解され、プロセスがトラウマを意識したものであることが重要だと示唆している。

 

回答から浮かび上がった重要な点は、家庭裁判所の手続は、DA被害者の身体的安全を常に適切に提供してはおらず、しばしば彼らの精神的な健康を無視しているということである。エビデンスの照会に応えた多くの母親は、事件の結果に関係なく、彼女らが法廷で安全であると感じておらず、裁判所の手続自体が再びトラウマを生じさせたと言った。母親の回答の中に、法廷に出席し、証拠を提出するとき被害者が経験した多くの辛い経験、試練についての証言があった:多くの人が「ギョッとするように恐ろしい」などの用語を使用して、それを人生での最悪の経験として説明した。母親の回答はこの点で驚くほど一貫していた。

 

専門家からの回答は、虐待の被害者のリスクを認知し、対処することについて家庭裁判所が、刑事裁判所よりも遅れていることや、被害者が最良の証拠を提出することへの障壁があることを示唆した。専門家は、理論的には被害者を保護するための措置が講じられていたが、実際にはこれらは常に利用可能ではなく、または効果的に使用されるとは限らない、という点に合意した。時に法廷のロジスティック設定やリソースの問題が、法廷で被害者を安全保護するための手段が利用できないことを意味した。

 

また、プロコンタクトカルチャーが被害者のトラウマや脆弱性への適切な対処を妨げているようにも見えた。当事者主義的なアプローチは被害者が最善の証拠を提供することを妨げる要因となった。

 

この章では、法廷での個別の待機エリアや遮蔽などの特別な措置の有無が、どのように被害者の体験に影響を与えるのかを調べる。また、サポーターや法的代理人の存在がもたらす影響や、虐待の加害者による裁判所への反復申立により、ほとんど制限なく虐待を継続することを可能にしてしまう方法についても検討する。裁判の道のりそしていくつかの事件で被害者が経験する可能性のある困難は、以下のように分解できる:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化、サイロ、当事者主義的システム、リソースという分野横断的なテーマは、裁判所の経験に関連する個人および専門家のいずれの回答でも明らかである。この章で特定された懸念は、母親と専門家からの回答で広く提起されたことも注目すべきである。特別措置の利用可能性と使用、直接の反対尋問、反復申立についてコメントした父親も少数いたが、一般的に父親は法廷での安全に関してほとんど何も言及せず、代わりに手続において彼らの権利がどのように尊重されるべきかに集中していた。これは、子どものコンタクト手続において、父親がしばしば彼らの権利の観点から彼らの議論を構築する一方、虐待を受けた母親がめったにそうしないことを示す文献とも一致する(注131)。

 

8.2裁判まで

安全に関する被害者の懸念は、法廷聴取の何日も何週間も前に始まる。

母親の回答には、自分が直面するであろうものへの予測に基づく、法廷に出廷するまでの彼女らの経験が記述されていた。後述するように、多くの母親は度重なる法廷聴取を経験しているため、予期されることを分かっていたが、多くの場合、予期していたものは良いものではなかった。個別の回答は、法廷聴取の前に、多くの母親が経験した、圧倒的な恐怖、不眠、パニック発作、身体的な疾病を含むストレス、不安、恐怖についての詳細な説明が含まれていた。

 

被害者が安全でないと感じる可能性のある要因の1つは、裁判所への往復の間に虐待されることへの恐れである。これは特に公共交通機関の接続が悪い農村部に住む虐待を受けた母親に当てはまった。この複合的な構造的困難は、より広いリソースというテーマに関連している。裁判所の閉鎖はより長い裁判所への移動をもたらし、被害者は、裁判所への道程で、虐待者と同じ電車やバスを使用しなければならないことに恐れを感じたと述べた。農村部のコミュニティでは、最寄りの裁判所は何マイルも離れていて1日1、2本の電車またはバスしかない可能性がある。当事者が近くから移動している場合でも、裁判所の建物の外で対面したり脅迫されるかもしれない可能性は、恐怖と不安を引き起こした。

 

聴取に至るまでの数週間の訴訟手続の恐怖は、特別措置が利用可能なことで一部軽減されたが、多くの被害者は、これらが利用可能であったか知らなかったり、またはそれらを求めることを積極的に妨害された。本人訴訟当事者の一部は、特別措置が何であるかを彼らに説明し、保護を求める手続について彼らに助言する人がおらず、この点で特に不利な立場にあったと感じたと報告した。これもまたリソースのテーマにリンクしているが、DAを矮小化し、主張を懐疑的に考慮する傾向のあるプロコンタクトカルチャー、そして、裁判所職員の訓練にも関連している。回答は特別措置の要求が無視され、または認識されたが、母親が法廷に出廷し、誰もその要求を知らず、何も手配されていなかったというものもあった。

 

「DAの被害者である人々を保護するための法律が施行されていますが、悲しいことに、裁判所は、脆弱な被害者を実務レベルで支援するための設備が整っていません。多くの場合、被害者と虐待者を離しておくために別の部屋を割り当てるのに十分なスペースがない。これは当然のこととして措置されるべきです」弁護士、エビデンスの照会

 

8.3法廷での安全

多くの個々の母親は回答において、彼らが同じ建物にいることを余儀なくされ、同じ時間または近い時間にその建物に出入りしたときに、裁判所で彼女らの虐待者に直面することを心配していたと述べた。すべての裁判所が別々の入口と出口を持っているわけではない;回答は、多くの裁判所がそうでないことを示唆している。裁判所の閉鎖は設備の整っていない裁判所が基本的施設から消えることになりうるが、残っているものは、別々の入口と出口、および個別の待機エリアという理想的なシナリオに対応する必ずしも十分な装備があるわけではない。以下で説明する家事手続規則(Family Procedure Rules)パート3Aに合わせて被害者が別の入口または出口を使用できるように設置する手配が可能な場合もある。ただし、これには裁判所の職員が潜在的なリスクを認識し、個別の入り口が実際に使用されることを確保するため効果的にコミュニケーションを取ることが必要とされる。母親たちは、彼女らが裁判所の建物から彼らの虐待的なパートナーに時間的に近接して離れたとき、彼らは交通機関を、あるいは家までずっとつけられることを懸念していた。場合によっては、これにより住所を秘密に保つことが困難になり、継続的な虐待のさらなる機会を与えた。

 

個人と専門家の両方の回答は、事件が呼ばれるのを待っている間、発生した虐待の事例を説明した。母親と彼女ら家族の個人の回答で、裁判所敷地内で言葉での虐待や攻撃を受けたという多くの報告があった。この虐待の標的となったのは女性だけではなかった;専門家の記録が確認されたように、被害者の弁護士や事件に関与した他の専門家も時に脅迫されたり虐待されたりした。ほとんどの裁判所の建物には、セキュリティスタッフがいるか、配置することができるが、脆弱な人や彼らの代理人に介入し保護することができる人がいない待機エリア内で、対面があった記録があった。

 

裁判所の建物の範囲内での対面や虐待に対する恐怖のいくらかは、適切な個別の待機エリアが利用可能になることで軽減される。事実認定の前には主張はまだ法廷で検証されてはいないが、事件が呼び出される前に、当事者が個別に安全に待機できることが確立されることは、すべての人にとって有益である。いくつかの裁判所では、個別の部屋がない場合や、そのような部屋が利用できても、安心を提供するため十分にプライベートではない場合がある。適切なオプションは、メインの待合室から見えず、直接アクセスできない施錠/キーパッド操作の部屋である。個人からの回答は、オープンエリアやメインの待合室に直接面した遮蔽されていない窓があり、メインの待合室を横切らないとトイレに行けない部屋があったことを述べた。脅迫は見た目や身振りで行いうるので、被害者が法廷で本当に安全だと感じるには、彼らはどんな瞬間でも、虐待者が現れることや近くから彼らを視覚的に脅かすことを恐れずに待つことができるスペースを持っている必要がある。待合室での保護は一部はリソースの問題であるが、コミュニケーションと文化の問題でもある。裁判所の職員は訴訟当事者が事件が呼ばれるのを待つ間、彼らを保護することの重要性に注意し、利用可能な施設を有効に活用する必要がある。個人と専門家の両方が、問題を認識した警備員の存在と、安全な個別の待機エリアの可用性は非常に役に立つというエビデンスを与えた。

 

裁判所の建物で脅迫や虐待の事件が発生した場合は、これらは裁判官によって適切に対処されることが重要だ。エビデンスの照会に対し、母親や専門家に対する虐待が裁判官によってすぐに対処されなかった事件に関する回答が寄せられた。たとえば、ある例では、Cafcassの職員は、父親の意向にそわなければ身体的虐待をするとの脅迫を受け、母親の弁護士は、法廷で父親から身体的に攻撃された。攻撃は裁判所の警備員によって目撃されたが、裁判官はそれを横に置き、「必要なら後で処理する」と言ったと報告されている。一見して、これはより強力な行動が裁判官によって直ちに取られるべきだったシナリオである。もし暴行の刑事犯罪が裁判所の建物で行われたなら、それへの対処は最優先すべきである。委員会に説明された暴行の多くの例では、裁判所は、法廷侮辱罪で加害者を拘束するための公判付託手続(committal proceedings)を開始することができたと思われる。

 

回答はまた、リーガルアドバイザーの不在下で法廷で長期間当事者が一緒に放置されたり、法廷聴取に先立つ交渉で小さな部屋に一緒に入らされた事例についても委員会に伝えた。このタイプの安全でない実務の記録は、個人と専門家の両方から来た。専門家のいるフォーカスグループの1つは、虐待者が刑事上の有罪判決があり接近禁止命令がある場合でも、当事者が法廷外で交渉することを求められるという報告があった。これは、サイロで運営されている家庭裁判所に関する一般的なテーマを示している。委員会の見解では、私法上の子の手続は、被害者に虐待者との安全でない交流を余儀なくさせることで、刑事裁判所の命令や虐待禁止命令を没却するものであってはならない。

 

8.4訴訟手続:虐待を語る経験

母親の個人の回答の多くは、法廷での彼女らの経験がトラウマを引き起こすものだったと説明した。文献レビューや提出された回答は、被害者が法廷での審理を経験することがトラウマになる要因がいくつかあることを示しているが、そのうちのいくつかは、当事者主義的システムに関連している。第4章で述べたように、当事者主義的アプローチでは、当事者は互いに「対立」し、裁判官は、「紛争の舞台」に降りることなく、中立的な意思決定者として行動する。当事者主義的アプローチは、「武器対等」の原則に依拠し、それは、当事者が同等であり、特にリソースが同等であることを前提とし、例えば双方が法的代理人を持ち、「最善の証拠」を提示するために利用できるその他の手段を持っていることなどである。回答で明らかになったように、子の処遇事件の現実では、これらの仮定の多くには欠陥があり、当事者主義的モデル自体うまく機能しておらず安全で公正なプロセスを実現していない。

 

8.4.1被害者の信頼性に対する虐待の影響

エビデンスの照会は、法廷での虐待の追体験は苦痛で、非人間的で、屈辱的であることを示す個人から複数の記録を受け取った。この章の冒頭で述べたように、多くの母親は、彼女らの人生の恐ろしいそして最悪の経験として説明した。多くの人が虐待者の前で集中したり話したりするのは難しいと語った。多くの人が虐待の主張や法廷での苦痛に対する裁判官や治安判事の対応に、侮辱された、非難された、卑下されたという気持ちになったと述べた。性的暴行のカウンセリングに関する情報など、刑事上の設定では証拠規則の下で禁止される機密情報が不適切に開示されている報告があった。これは再度、家事法廷と刑事法廷の異なるアプローチの違いとサイロワーキングというより広範なテーマを浮き彫りにする。

 

多くの母親は、裁判官が彼らの事件をよく知らず、審理前にファイルを読んでいないという印象を報告した。第7章で説明したように、専門家と個人からの回答は、異なる裁判官によって異なる日に事案が処理され、司法の継続性が感じられないという問題を強調した。司法の継続性は、文献レビューの研究が示すように、過去に起こったことをほとんど知らないように見える裁判官に対して毎回新たに経験を語り、追体験しなければならないという問題を軽減するのに役立つものだ。司法の継続性は明らかにリソースの問題である。「1つの家族に1人の裁判官」を提供することが常には可能ではないかもしれないが、費用―利益分析はそのアプローチを支持する。

 

必然的に、虐待の説明をすることは痛みを伴う可能性のある形で被害者に経験のいくつかを追体験することを求めるものだ。母親は回答の中で、子どもたちの安全を確保するためにこれに耐えなければとならないと感じたことを示した。しかし、この再話の実施に求められる方法によってその経験がトラウマになるかならないかが決まる。エビデンスの照会に応じた母親の個人的な説明は、悲惨な読みものであった。一部の母親は、自分たちの説明は彼らの事件では裁判官や治安判事に信じられておらず、威圧的支配とそれがもたらす影響がどれほどかについての理解がないか限られていると感じたという見解を表明した。この照会に応答した専門家の多くは、法廷での司法応答性の不可欠な要素としてDA特に威圧的支配に対する十分な理解が必要だと強調した。

 

あらゆる形態のDAの影響は、この報告の他の箇所で議論され、Stark(2007)他の特に威圧的支配の研究に言及している文献レビューで強調されている。威圧的支配とトラウマが被害者の信頼できる証人としての能力に与える影響については、刑事司法制度との関連で議論されており、被害者が最良の証拠を提供するためのいくつかの障壁を克服するために、様々な異なるアプローチが必要であることが認識されている(注132)。威圧的支配のトラウマ的な経験は、記憶に影響を与える可能性があり、被害者の信頼でき堅実な証人との印象を与える能力を著しく損ないうる。トラウマを負った被害者の記憶は、曖昧、不完全で無秩序なものになる可能性があり、その結果、彼らは定型的な「良い証人」とは対照的な証人になる。また、彼らは虐待の特定の事件、エピソードまたは例を思い出すように圧力をかけられた場合、「空白になる」こともある(注133)。刑事司法の文脈で真実であることは、当事者主義的アプローチが採用されている家事司法の文脈でもあてはまる。

 

個人の母親の回答は、彼女らの応答に期待されるレベルの明確さと信用性を提供する能力についてのトラウマの影響の可能性や、または虐待者の前で虐待について話すことがどれほどトラウマ的であるかについて、ほとんど考慮されることなく、虐待の詳細について掘り下げられたという説明をおこなった。一部の母親は、DAの一部として使用される支配のさまざまなテクニックの有効性について虐待者に話すことを強制されたので、彼女らが裁判手続によってさらに力を失ったと感じたと委員会に語った。この文脈では、彼らが受けた虐待とその影響を詳述することは被害者の無力感と危険認識を高め、一方で曖昧にしたり、虐待やその影響を最小限に抑えるなどの自己防衛的な反射により、信頼できる証人として登場する能力が低下する。

 

被害者が自分の話をすることができると思うと言ったときでさえ、複数の回答者が彼らの主張が信じられないか、矮小化されたように思われたことは悲惨であると報告した。多くの母親の回答は、信じられていないと感じることの影響を明らかにした。ある母親は言った: 「私は起こったことについて乗り越えて先に進む必要があると言われた。この種のコメントは虐待を軽視し、被害者に価値がないとの感情を残す」。別の人は、裁判所が、彼女が「虐待について嘘をついている、または惑わされていた」と考え、そして彼女が説明した精神的虐待に関して「それは関係がないと感じていた」という印象を持ったと述べた。

 

パートナーが重大な身体的危害の罪で起訴された1人の女性は、虐待者を犯罪者にしないという拡大家族(extended family)からの圧力のために、彼女の訴えを撤回したと述べた。彼女は、事件が家庭裁判所にきたとき、裁判官はその事件を「自傷」と改名したことを知った。いくつかの回答で被害者は、彼らの虐待の話が裁判所によって言い抜けられ、彼らが信じられていないと感じさせるだけでなく、ある母親の言葉を借りれば、「無力」と感じさせたと述べた。威圧的支配関係にあった女性の多くは、パートナーが、「ガスライティング」とも呼ばれる、出来事を再定義するプロセスによって、自分たちの現実を崩そうとしたと話した(注134)。被害者にとってこの経験を法廷で再現させられることは特に苦痛だった。ある母親は述べた。「私は真実を語っておらず、静かにしておくべきだ」と感じさせられた。これは特定の例であるが、母親の一貫した供述は、多くの人が「うそつき」と呼ばれたり、虐待を「誇張」しているとされることに非常に動揺したことを示した。

 

母親たちは、証言が検証される必要性を理解していたが、同時に自分たちに不利な状況であることも感じていた;虐待者が彼女らの話を弱体化しようとするあらゆる機会を与えられたが、彼女らは中断や脅迫なしに彼らの話を完全に話す機会を与えられなかったということだ。虐待者が身なりがよく、よく振る舞い、時には良いキャリアやそして他のそのような信頼の証を持っているように見えたので、裁判所と専門家の目には信頼性がある様に映ると感じたと母親らはしばしば言った。ある母親は彼女の回答で「彼は立派に見えたが、裁判官が適切な質問をしていれば、裁判官はその「見た目」の裏を見抜くことができただろう」と語った。別の母親は、彼女の事件の裁判官は高い専門的地位を持っていた虐待者によって簡単に「取り込まれた」または「操作された」という彼女の確信を述べた。DAはあらゆる種類の関係で発生する可能性があり、すべての社会集団、職業を横断することを示す研究とは対照的に、母親の何人かは、彼女らの専門的なパートナーの証言は、彼らが見せることのできる洗練された落ち着いた態度によって信じられたと感じた。自身が法律専門家であるパートナーに虐待された母親は、特に脆弱で不利だと感じた。虐待的な法律家のパートナーがいた一人の女性は言った:「彼はそれが自己防衛であると主張するために彼の法的知識と資源を使用した」。

 

一般的に、虐待者が外の世界に魅力的で立派な顔を提示することで、被害者による虐待の訴えがまったく信じられないように見えるのは、威圧的支配のよく見られる要素である。母親の多くは、彼女らの虐待の経験によってトラウマと資源の減少の両方の観点から虐待の継続的な影響に苦しみ、それによって彼女らが裁判所の目から見て信頼性を低下させる不利な立場に置かれていると感じた。ある母親は「私は心的外傷後ストレス障害を患っていた」と述べ、裁判官が証拠を評価する際に「原因となった加害者を見ることなく」彼女の精神的健康を強調しすぎていたと感じたと述べた。

 

さらに、複合的な構造的困難のテーマは、BAMEの母親の回答とBAMEの母親を支援する専門家グループの回答において強く出てきた。これらの回答の多くは、法廷での否定的な経験が人種差別によってさらに悪化したと感じているBAME女性の様子を伝えている。パートナーが法律家の一人の女性は、彼は彼の専門的地位を彼に有利に使用しただけでなく、彼が白人の専門家であったという事実から恩恵を受け、一方で彼女はBAMEの背景があり、彼の経済的虐待のために彼女はフードバンクに依存していたと言った。彼女は、虐待者の言い分を信じ、彼女を「厄介者」として扱った裁判所の無慈悲な対応に、人種差別や階級差別が含まれていると感じたことを述べた。BAMEの背景を持つ女性で開催されたフォーカスグループでは、このような説明が何度も繰り返された。ある女性は、反対尋問の際に、純粋に自分の民族的背景に基づいて、「ブードゥー教を信じているか」、「魔女であるか」、「血の犠牲を行っているか」などと聞かれたことを話した。事件の争点とは無関係のこれらの質問が、司法の介入なしに行われたことは、この事例がそうだったように、疑問の余地なく人種差別の印象を与える。

 

したがって、回答は、下記に要約されているように、信頼性に対するいくつかの障壁を示唆する:

 

 

 

 

8.4.2特別措置

「法的に代理されていない被害者は、「特別措置」の請求を知らないかもしれないが、本来は、彼らがそれをする必要はないはずだ。これらの人々を保護するためのシステムが自動的に実施されるべきだ。裁判所から特別措置が求められたが、法廷に到着したとき実際に設置されていない事件があった。たとえば、予備の部屋がなく裁判所職員は遮蔽を設置するのを忘れたことがあった。ある裁判所では、遮蔽が壊れていたので、彼らは「間に合わせ」の遮蔽として証人ブロックの前に机/テーブルを置かなければならなかった。それは恥ずかしいことであり、十分ではなかった。脆弱な被害者が法廷制度を経験する際の保護については、実際的なレベルでより多くのことを行う必要がある―被害者にとって裁判での経験がより困難なものにならないように、より多くのリソースを用意し、自動的なプロセスを導入する必要がある。」弁護士

 

対面での対決は、当事者主義的な法的手続の典型的な方法だが、それが必ずしも真実を確立するための最良の方法ではないことが長い間認識されてきた。刑事司法制度において、脆弱な目撃者が最良の証言をすることを可能にする遮蔽やビデオリンクでの証拠提供のような特別措置の規定は1999年青年司法および刑事証拠法(Youth Justice and Criminal Evidence Act 1999) によって20年以上前に導入された。これらの措置の範囲と家事手続への適用性は、文献レビューで検討されている(注135)。文献によると、遮蔽のような措置は家庭裁判所で技術的に利用可能であるにもかかわらず、それらはしばしば配備されない。たとえば、ウィメンズエイド英国連盟が実施した調査では、家庭裁判所を経験した女性の回答者の半数以上は、特別措置へのアクセスがなかったと回答している(注136)。

 

第3章で強調されているように、2010年家事手続規則は2017年に遮蔽とビデオリンクの潜在的な利点を示す調査を考慮に入れるため改訂された(注137)。手続規則のこれらの改訂が望ましい効果をもたらしたかどうかは、このエビデンスの照会で、具体的な内容を検討することになっている事象の一つである。我々が個人から受け取った回答は、家事手続規則の改訂の前後に発生した事件に関連したものだが、第2章で述べたように、異なる期間にも関わらず応答が高度に一致していた。ここから、特別措置が十分に活用されていないという問題は、「関与指示」(participation directions)によって特別措置の利用を奨励するように設計された変更の後にも当てはまることが分かる(第3章を参照)。関与指示は、遮蔽やビデオリンクだけでなく、建物への別々の出入り、個別の待機エリア(上記で説明)、反対尋問の実施についての指示(以下で説明)もカバーしている。専門家の回答の中には、2017年以降、一部の虐待被害者のための別の待合室や遮蔽を使用することが増えたことや、直接の反対尋問を避けるための司法介入の増加を報告するものがあった。ただし、これらの回答は、一貫性の欠如、地域慣行の多様性、リソースの制限、およびDAの最小化が遮蔽やビデオリンクなどの特別措置の利用可能性と使用に影響を与えることを強調した。専門家は、ほとんどの被害者は遮蔽のような特別措置が加害者の前で証拠を提供する恐怖と脅迫を減らすのに役立ち、その結果、彼らが提供できる証拠の質にプラスの効果をもたらことを認識すると述べた。一部の回答は、特定の措置が他の措置よりも効果的であると示唆した。たとえば、Refugeは、被害者が虐待者と同じ部屋にいる必要はないため、遮蔽よりもビデオリンクの方が役立つと感じた。さらに何人かの専門家は、遮蔽は時々間に合わせになる可能性があるため、特に効果的ではないとコメントした。

 

しかし、回答から、すべての裁判所が、最も基本的な形式であっても、利用可能または容易に配備可能な設備を持っているわけではないことが明らかとなった。ある裁判官は委員会に、遮蔽の要求がなされた場合、彼の法廷のレイアウトと限られたスペースのために、遮蔽を利用するためには被害者を彼の隣のベンチに座らせなければならないと述べた。多くの事件は、非常に小さな部屋の空間で、当事者が近距離で座らなければならない状況で聴取され、そのような状況では、遮蔽を使っても被害者がより安全を感じるのにあまり効果がないかもしれない。専門家の回答は繰り返し、地区裁判官の部屋は小さすぎて、特別措置を効果的に配備することができないと述べる。これはリソースの問題で、認識された保護の必要性に対し限られたリソースしかないことをエビデンスの照会への回答は示す。たとえば、Rights of Womenからの回答によれば、裁判所は限られた特別措置の利用可能性を事実認定聴取のために優先する傾向があると述べた、しかし彼らの回答は、被害者の視点では、ほとんどの聴取は非常に似ていると感じており、加害者が腕を伸ばして座っているときに被害者が自分で話すことはまだ非常に困難だと指摘する。

 

また、専門家の回答から、設備が技術的に利用可能であっても、遮蔽やビデオリンクなどの特別措置を与えることに抵抗が続いていることも明らかだった。受け取った回答から特に治安判事がこの見方をする可能性を示した。この抵抗は、特別措置はどういうわけか「優遇措置」であり、虐待の加害者と主張される者に対する偏見または先入観の認識を与える可能性があるという認識としばしばリンクしていた。これはこれまでの研究で明らかになっているテーマであり(注138)、DAの主張を受けたことのある父親からの供述でも繰り返されている。彼らは、特別措置の利用は自分たちへの偏見を示すものだと感じていると述べている。父親がこの認識を持っている可能性は驚くべきことではないが、専門家の回答者から、「これは不当に事件にバイアスをかけるだろうという信念」のため裁判所はしばしば保護措置の使用を思いとどまらせると聞くことは、より驚くべきことだ(ウィメンズエイド英国連盟)。明らかに、中立的な意思決定者としての裁判官は遮蔽やビデオリンクを不利なものとして見るべきではなく、裁判官は特別措置が問題を予断するというあらゆる誤解を正す能力を持っている。

 

受け取った個人の回答と同様、複数の実務家円卓会議で、被害者が特別措置を要求し、「迷惑」のように感じさせられるとの言及があった。一部の専門家は、他方に対する彼らの敵意、そして協力して共同養育することを望まないことのしるしとしてとられたので、被害者が特別措置を要求したことで「罰せられ」うるとの視点さえ表明した。回答によると、法的アドバイスは、特別措置が虐待者に対する偏見であり、母親の敵意を示すものであるという否定的な固定観念を助長することがあることが示された。個人の回答も呼応し、フォーカスグループの女性は彼女ら自身の弁護士から、虐待者に対し敵対的であると見なされるため、特別措置を要求しないようアドバイスされたと言った。DAの被害者が、特別措置の要求を、敵意、片親引離し、訴訟において戦術的な優位性を獲得する試みの証拠と見られるという認識に基づいて思いとどまされるべきでない。

 

母親が表明したもう一つの懸念は、特別措置を求めることによって、母親が「弱い」または「脆弱」として認識され、それによって彼女らの子育て能力について否定的な推定のリスクがあることである。たとえば、Mosacからの回答は子どもが性的虐待を受けたと主張する母親は、彼女らのメンタルヘルスと育児能力について、否定的な推定がなされることを望まなかったので、特別措置を要求することを延期されたと述べた。

 

回答はまた、特別措置を使用しない他のさまざまな理由についても言及した。これらには、法的代理人を持たない当事者は、特別措置の利用可能性を知らず、要求する立場にないことや、裁判所は本人訴訟当事者が脆弱な証人であるかどうかを積極的に検討していないことなどがあげられる。より一般的には、専門家は、裁判所は、DAを主張する被害者も、子どもの性的虐待を主張する保護親も家事手続規則の範囲内で脆弱な証人として受け入れられなかった一方で、学習障害を持っているか、英語を話さなかった場合のみ当事者の脆弱性を認める傾向があると述べた。さらに、一部の専門家は、裁判所が被害者がどのようにあるべきかというステレオタイプに基づいて、脆弱性の不正確な評価を行ったことを観察した。これは、虐待の男性の被害者の脆弱性が認識されておらず、男性の被害者は決して法廷で安全措置を提供されず、男性の被害者による特別措置の要求はなかったことに懸念を表明している少数の父親からの回答によって補強された。

 

全体として、遮蔽とビデオのリンクは、効果的に使用されておらず、家事手続規則の変更はその目的であるより良い保護を提供し、被害者に彼らの「最良の証拠」を与える機会を提供することを達成していないと結論付けることができる。専門家の回答は、特別措置が義務的または日常的ではなく、依然として多くの人に望ましいまたは野心的なものとみられていると委員会に語った。治安判事協会は、143人の治安判事を対象に行った調査で、68%がFPRパート3AとPD3AAに従うことに非常に自信がある、またはかなり自信があると答えたものの、常にまたは定期的に従っていると答えたのは半数以下の48%であったことを回答で指摘している。したがって、提出されたエビデンスの重みは、私法上の子の手続の被害者が特別措置を利用可能とすることを確かなものにするため、より多くのことができることを示唆している。これには、一部の残存する態度の障壁に対処するためのリソースとトレーニングが必要になる。

 

8.4.3適切な支援者の不在

母親と父親の両方の回答のいくつかは、マッケンジーフレンズ(McKenzie Friends)としてサポートワーカーを法廷に入れる要求を拒否された経験を語った。文献レビューから、そのようなマッケンジーフレンズが当事者に重要な感情的および道徳的なサポートを提供できることが知られている。しかし、委員会はDAの支援者がサバイバーを支援するため法廷に入ることができるかどうかについて実務上の一貫性がないことや、裁判官が敵意を持っていたり、父親が反対したりしたために、被虐待者の母親が支援者の立ち合いを拒否された事例があることを指摘された。ウェルシュ・ウーマンズエイドは、裁判官がバイアスの認識を生むだろうと感じたので、サポートワーカーはしばしば女性について法廷に入ることが許されなかったと委員会に語った。また、実務家円卓会議では、DAの専門家である支援者に対して、裁判官が「善意の人」と軽蔑的な表現で敵意を示していることが報告された。被害者を支援する一部の専門家からの回答は、少なくとも一部の治安判事の間では、加害被疑者は、サポーターを伴う虐待の被害者とされる者に法廷で異議を唱える絶対的な権利を有するという信念があったという認識だったと述べた。実際、これは裁判所が決定する問題であり、裁判所はまた、偏見の認識を払拭することができる。サポーター、特にIDVAに対する異議を安易に受け入れる代わりに、裁判官はサポーターの機能が何であるか、サポーターの存在に伴う先入観がないことを説明することができる。

 

報告された法廷でのサポーターへの異議は、いくつかの点で報告された特別措置に対する異議に非常に類似しているように見える; それらは他方は不当に有利だという欠陥のある認識に基づいている。しかし、サポーターは単に、被害者が訴訟に効果的に参加できるようにするためいるだけである。スペシャリストサポートは法廷の内外の安全を計画している虐待の被害者にとって不可欠である。被害者の経験を理解し、彼らが必要とする助け、例えば特別措置を求めるように指示する知識と経験を持っている人の存在は、法廷で安全を感じ、彼らの最高の証拠を与える能力に大きな違いをもたらす可能性がある。刑事司法の文脈では、IDVAの利用可能性は専門家のDA法廷の明白に成功した要素の1つだった。このように、家庭裁判所は刑事裁判の経験から学ぶことができる(注139)。

 

上記のように、それはまた、DAの被害者であった父親から受け取った彼らが適切なサポーターなしに法廷に出廷することは難しいという回答からも明らかだった。男性の被害者と一緒に開催されたフォーカスグループの1つで、父親は自身のメンタルヘルスの経験と、メンタルヘルス支援者が彼と一緒に裁判に出席することをいとわなかったが、法廷では歓迎されなかったことを説明した。DAの男性被害者のニーズを満たすように特別に設計されたサービスがある。委員会にはそのようなサービスはリソース不足であるとの声が寄せられた。しかし、それらが存在する場合、これらのサービスのアドバイザーとサポーターが、ウィメンズエイド英国連盟、ウェールズウィメンズエイドそして彼らが受け取ったと委員会に語った女性の被害者を支援する他の組織からのサポーターとして、立ち会うことへ敵対的なアプローチにあわないことが重要である。

 

BAME女性およびBAMEの母親をサポートする専門家の回答から強く浮かび上がった1つのテーマは彼女らの多様なニーズに敏感なサポーターの必要性だった。家事裁判を進めていくBAME女性の特定の困難を見落としてはならない。文献レビューはこれらの問題のいくつかを強調した(注140)。BAME被害者が経験した困難のすべてを、適切なサポーターの存在によって軽減することはできないが、サウソールブラックシスターズなどBAME女性を支援するグループが指摘するように、適切なサポートがプロセス自体に起因する害を軽減する方法を見つけるジグソーパズルの一片となりうることを示唆する。

 

8.4.4反対尋問

上で強調したように、反対尋問はしばしば苦痛、屈辱、そして再びDAの被害者にとりトラウマ体験となる。虐待者が自分で反対尋問を行うことを許可されている場合、その困難は複雑になる。このエビデンスの照会に先立って、多くの場合での、直接の反対尋問の問題が指摘されている。文献レビューは、DAの被害者が、加害被疑者から反対尋問されることは恐ろしく、トラウマ的で、二次受傷することを示す研究結果に言及している(注141)。例えば Coy et al事件(2012、2015)において、直接の反対尋問により、虐待の加害者は裁判所の手続を使用して被害者を虐待し続け、彼女のライフスタイルや活動について不適切で煩わしい質問をすることが可能になると述べている。

 

委員会への個人の回答では、このように質問されたために、プロセス全体が屈辱的で、品位を落とし、恐ろしかったと述べる虐待を受けた母親もいた。怯えて屈辱を与えられた経験、そしてフリーズしたり、はっきりと考えられなかったり、意味がある回答ができなかったりするトラウマ的な反応は、首尾一貫した証拠を提供し、したがって「良い」証人としてみられる能力を減ずる。虐待者からの反対尋問を受けることを考えると、自分が受けた虐待について法廷で話そうとしない母親もいた。また母親と専門家の両方が、最終審理での直接の反対尋問の脅威が、母親を脅してコンセント命令に同意させるために使われたと述べた事件もあった。2017年以来、直接の反対尋問を防ぐための裁判官によるより大きな介入についての専門家の報告があったが、多くの個人の回答には、虐待者による直接尋問を許可する裁判所および明らかに虐待的な質問を防ぐことに失敗した裁判官のより最近の証言があった。

 

虐待者による直接の反対尋問は、一部は私法上の家族法手続への法律扶助の制限のために起こった。彼らの回答の中で、父親は委員会に彼らが法的代理人を常に雇う余裕がなく、事件を自身で扱うことを余儀なくされたと感じたと述べた。複数の母親はまた、公的資金の制限がLASPOによってもたらされた結果、彼女らは反対尋問でより効果的に彼女らを保護しうる法的代理人を欠いたと強調した。当事者主義的なシステムは、武器の対等の仮定に依拠する。私法上の子の手続の現実は、多くの当事者が、不平等に武装しているか(一方当事者は法的代理され、他方はない)または不平等に武装していない(どちらも法的代理人がいないため、関係性での権力、脅迫、支配は緩和されない)。母親と父親の両方が委員会に、法的代理人なしで自分で反対尋問を行うか、尋問されなければならないが、相手には法的代理がいるときに、不公平だと感じたと語った。母親と父親の両方からの回答は、虐待の被害者にとっては、自分が虐待者に質問しなくてはならないことは、自分が虐待者に質問されるのと同じくらいの恐怖と苦痛があり、その結果、子どもをさらなる虐待から守るために適切に擁護することができないと感じることがあることを強調した。

 

直接の反対尋問の問題を解決するための提言は、文献レビューでも明らかにされてきた(注142)。以前にされた提案の1つで、特にPD12Jに含まれているのは、裁判官が質問を引き継ぐというものだ。しかし、Corbett and Summerfield(2017)の調査では、一部の裁判官はこれを行うことに消極的で、実務では裁判官が本人訴訟の当事者からの相手への質問に依存していることを意味する。このエビデンスの照会への回答によれば、このアプローチが必ずしも虐待の被害者を反対尋問の有害な影響から保護するわけではないことを示す。母親は、裁判官が質問を読んだときでさえ、それはまだ虐待者の言葉だったといった。さらに、裁判官へ書面による質問の提供を求められた場合、何人かの母親は彼女らが何を尋ねるべきかまたは尋ねることができるのか知るのが難しいと言った。法律的助言がない場合、反対尋問のため質問を作成することは、気が遠くなるような見通しである。全ての法的トレーニングのない人にとって気が遠くなるようなものではあるが、CLOCKが彼らの回答で指摘したように、これらの問題は識字能力に問題のある人にとってはいっそうひどくなる。一部の母親の回答は、本人訴訟として彼らが無力で、虐待者により提唱された説明は真実ではないと裁判所に納得させることができるとは思わないと感じたと述べた。

 

委員会への専門家の回答は、多くの裁判官がDA事件で多数の本人訴訟が彼らに課す責任が不快であることを示した。当事者主義的アプローチでは、裁判官は立証責任の概念に慣れており、紛争の場に降りないという考えを持っている。司法円卓会議に参加した裁判官は、彼らが直面しているジレンマを指摘した。たとえば、反対尋問とDA事件における本人訴訟の扱いについて尋ねられたとき、ある裁判官は以下のように認めた:

「私は司法の帽子をかぶって考え続けています、私たちが証拠を正しく与えるプロセスを取得することは絶対に正しい.....しかし、質問がない場合、または質問が少なすぎると、裁判官は決定を下すことができると思わないかもしれないリスクがある。私たちは主張を証明する必要があることを忘れることはできない....確率のバランスにおいて....そして誰かが主張をし、それが自動的に信じられるシステムを持つのは正しくないでしょう...それを評価するシステムである必要があります...もしあなたが何も尋ねなければ、または質問が非常に特徴がないなら、あなたは真実に到達できるとは感じない。裁判官は、私たちが必要とする認定することができません.....だからこれは事実を確認する必要性を忘れないようにとの警告です.....」裁判官

 

証言が検証される必要があることは明らかに正しいが、エビデンスの照会の回答は、私法上の子の手続において現在使用されている当事者主義的なプロセス内でどのようにそれが行われているかが依然問題であることを示唆している。回答を通して直接の反対尋問の禁止については、すべての方面から多大な支援があった。専門家の回答は、反対尋問が虐待の被害者をいじめ、威圧的支配を永続させるために使用され、虐待的な質問を回避し被害者を効果的に保護するために介入しない裁判官の多くの事例があるという母親の回答を裏付けた。一方で、父親の回答のいくつかは彼らは母親を直接反対尋問する「権利」を保持すべきだと主張していた。それらの裁判官によって彼らに代わって質問が出された経験がある父親には、不満を感じ、公正な聴取が拒否されたと感じる人もいた。したがって、例えば、ある父親は裁判官があまりにも丁寧に質問をし、質問の意義と文脈は司法的フィルターを通して失われたと感じたと委員会に話した。

 

直接の反対尋問によるいじめと威圧の問題に対する可能な解決策の1つは、両当事者が法的代理人を持つことを確実にすることだ。しかし、母親の回答は、父親の法的代理人にいじめられたとの記述があったことに注目すべきである。弁護士による反対尋問を受けることが、自動的にプロセスをあまりトラウマ的にしないことにはならない。母親の回答には、父親の弁護士から屈辱的で侮辱的な質問を受け、反対尋問中に虐待者を見ることを余儀なくされたという多くの説明があった。一部の父親の回答も、母親の法廷弁護士による反対尋問は恐ろしいものであり、虐待的な経験だったと話した。上で強調したように、刑事手続で求められうる質問の種類に関する制限は家族法の手続には存在しない。したがって、主張がレイプである刑事手続には、被害者の性的履歴について尋ねうる質問を防止または制限する証拠条項があるが、そのような制限は家庭裁判所に存在しない。母親と専門家の両方が委員会に、カウンセリングに関する機密情報と同様に彼女らの性的履歴やその他の行動について屈辱的で無関係な質問をされたという例が語られた(注143)。

 

エビデンスの照会は、個人や多様な専門家から、両方の当事者に代理人がいる場合であっても、当事者主義的なアプローチは、両方の当事者のさらなる危害を永続させない方法で、公正に彼らの事件を提示する能力を損なう可能性があるという結論を支持する、かなりの数の回答を生み出した。いくつかの専門家からの回答は、問題の解決策は、当事者主義的なアプローチを完全に放棄し、より調査的(investigative)糾問的(inquisitorial)なアプローチを採用することであろうと示唆した。これは、第11章で行われる推奨事項でさらに検討されるものである。

 

8.4.5法的代理人の不在

この章では、法的代理人の欠如がどのように法廷での当事者の経験に影響を与えるさまざまな問題と交差するかを見る。たとえば、法的代理人は、特別措置が確実に適用、使用されることを確実にするうえで重要な役割を果たすことができ、反対尋問も一方または双方の代理の有無の問題によって影響を受ける。

 

この章で引用されている回答のいくつかが示すように、法的代理人はDAの文脈で常にクライアントに支援的または保護的なわけではない。母親と父親の両方からの回答は、個々の弁護士に対する不満を示した。ウェールズの実務家と被害者のフォーカスグループの参加者も、すべての弁護士が虐待者を知っている小さな町、農村地域に住む虐待の被害者が経験する可能性のある、質の高いアドバイスを提供し、彼らの利益のために行動する法的代理人を見つける際の特定の困難を強調した。これはイングランドの農村地域に住むDAの被害者にも影響を与える問題になりうる。

 

ただし、全体として、我々の受け取った本人訴訟の複合的脆弱性に関する広範なエビデンスは、法的代理人がいないことは、次の図に示すように、虐待を受けた母親の裁判の経験を再びトラウマにする軌道上の影響の1つとみなすことができるということを示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

8.5主張を繰り返し、裁判所の手続を虐待として使用する

家庭裁判所は、元夫からのコンタクト聴取のさらなる要請を繰り返し受け入れ、虐待の歴史と彼が求めたいかなるコンタクト命令も遵守しないという事実を無視した。私の元夫は、以前に彼が求めた時間を遵守しないにもかかわらず、コンタクト時間のわずかな変動を主張し、絶えず私を法廷に連れ戻した。」母親

継続する虐待の手段として使用されている子の処遇命令についての反復申立の問題は、報告された判例法および他の文脈で司法当局によって懸念として提起されている(注144)。第3章では、裁判所の許可を得ることなく更なる子の処遇命令をすることができないという命令を裁判所ができる1989年児童法のセクション91(14)について説明した。当事者が許可なしに反復申立を「禁止」されている場合、これはDAの被害者にいくらかの休息を提供しうる。裁判所が繰り返される不当な申立を防ぐために使用できる他の規定があるが、文献レビューが強調しているように、セクション91(14)が重要な子の処遇事件の規定である。しかし、判例法は、虐待の加害者は、さらなる申立を行うことを「禁止」されている時でさえ、申立許可の申立の手続も、虐待のツールとして使用できることを示している。したがって、たとえば、Re P and N事件(2019)で裁判官コブ氏は、申立許可の不当な申立は、彼女がそれに気づいた場合、それ自体が同居親にストレスを与える可能性があると述べた。もし、セクション91(14)の命令が出されている場合の申立許可の申立にすべて相手方からの回答が必要であれば、虐待者には、まさにセクション91(14)がそれを防止するために設計されているにもかかわらず、虐待を継続するための法的に認可された手段が提供されることになる。

 

8.5.1虐待的な反復申立を制限するためのセクション91(14)命令の不使用

このエビデンスの照会が調査するために設定された目的の1つは、セクション91(14)の使用と、それらが非虐待親の資源や養育能力、DAを経験し、あるいは経験し続けている子どもたちの福祉を損なうような、虐待を継続するための道具として、反復申立が使われるのを防ぐのに有効かを検証することであった。反復申立の問題に関する個人からおよび専門家からの回答を受け取った。裁判所が反復申立を防ぐことが可能であったことを認識していた人はほとんどいなかったので、特に母親からのセクション91(14)の質問への回答は少なかった。しかしながら、多くの母親の回答が、多くの場面にわたり裁判所に引き戻されることを述べ、多くの感情的、経済的コストをかけ、何年にもわたる訴訟を記録するものもあったと伝えた。たとえば、母親の親戚の1人は、反復コンタクト申立の対応で、再住宅ローンを組まなければならず、債務水準は数万ポンドに上昇したことを語った。

 

母親は、エビデンスの照会で、虐待者が、裁判所の申立を、彼らへの虐待を継続し、支配し、ストーキングし、嫌がらせをし、経済的に虐待する道具として使うことを話した。被害者が繰り返し法廷に戻され、感情的および経済的に疲れ果て、衰弱していることを認めた。ある母親は、虐待者を「ジャングルの捕食者」と言及し、ストーカーされた獲物のように感じたことを説明した。彼女は繰り返し法廷へ連れ戻されることのトラウマ的な影響と家庭裁判所はそれを防ぐために何もしないという認識を明らかにして次のようにコメントしています。「生き残ったとしてもそれは運によるもので、仕組みによるものではない」と。裁判所はプロコンタクトカルチャーのなかで、子どもたちともっとコンタクトしようとする「良いお父さん」として父親を見る。しかし、母親はしばしば父親が子どもに実際の関心を持っていないこと、彼女らを虐待し続けるために裁判を利用し、そしてコンタクトを授与されるとそれをしそこねることを認識した。母親はまた、1989年児童法下で反復申立をすることは、長期にわたるファイナンシャル手続やファイナンシャル命令遵守の拒否などの法律手続による他の形態の嫌がらせと組み合わされることが多かったと委員会に語った。また、子どもの社会的養護のために、子どものネグレクトや虐待について虚偽の申立を社会福祉サービスに報告された経験を強調した。この複数のシステムで繰り返される行動と嫌がらせの全体像は、子の処遇事件を「サイロ」の観点から見ることがどのように見当違いかを示している。全体像を把握することで、裁判所が進行中の危害とセクション91(14)命令の必要性についてより多くの情報に基づいた正確な判断を下せるようにするだろう。

 

DAの被害者はコンタクト命令が安全ではなく、子どもたちと自分自身に継続的な危害が及ぶと考える場合や、自分が非同居親であり、虐待的同居親がコンタクトを拒否したら、子の処遇命令発出や変更の申立を繰り返し行う状況がある。実際、委員会にエビデンスを出した母親の何人かは、彼女らに対するセクション91(14)命令の申立の対象となっていた。彼女らの説明はセクション91(14)の焦点が、それらの根底にある動機や懸念ではなく、単なる反復申立の事実になっていることを示唆した。

 

回答の中で、父親は、母親によるコンタクト命令の度重なる違反に対応するため、あるいは過度に制限されていると彼らが考えるコンタクトの取り決めを変更したいために、裁判所への反復申立をしたと述べた。彼らの見解では、母親が裁判所が以前に命令したコンタクトを許容しないので、彼らは多額の費用をかけて反復申立するしかなかった。彼らはまた、裁判所がコンタクトを強制する適切な措置を講じないため、彼らは申立をしなければならなかったと委員会に語った。一部の父親には、母親はコンタクト命令違反を許容され、不処罰の状態であると考える人もいる。

 

回答した母親とは異なり、回答した父親のかなりの数がセクション91(4)の手続の経験があった。セクション91(14)に基づく「禁止」命令の申立を受けたことのある父親たちは、母親の弁護士による戦術的な駆け引きと考えられるこれらの申立に抵抗するのは非常に簡単だったと述べている。当然のことながら、裁判所の許可なしにそれ以上の申立を禁じられていた場合、彼らは裁判所が間違った決定に達したと感じ、彼らは、コンタクトを取得して実施するために無制限の反復申立を行うことを許可されるべきと感じた。

 

母親と父親の両方のコメントは、セクション91(14)に基づく申立および命令はまれであるという専門家からの回答に強く共鳴する。治安判事協会による143人の治安判事の調査では、90%以上がそのような命令の申立はめったに行われないか、まったく行われていないと述べた。これは上述したように、母親がその可能性を知らないため、法的アドバイスを受けていないため、あるいは弁護士が命令を得ることの難しさ認識しているためであろう。Nagalroは、反復申立は、家族のニーズとダイナミクスについて十分な知識や理解がないまま最終的な命令が下され、当事者のニーズや根本的な問題に対処するには不十分な命令となってしまうことの産物であると述べている(第9章も参照)。他の複数の専門家は、命令があるべき姿で機能していることを確認するのに十分な期間、裁判所が訴訟を保持することができれば、繰り返しの主張は避けられたと考えた(第6章と第9章も参照)。裁判所には、検証された実用的な解決策が確立されるまで問題をコントロールするよりも、できるだけ早く事件を終結させることが求められているという意見があった。しかしながら、一部の専門家は、反復申立する動機は必ずしも子ども中心ではないと感じていた;母親と一緒に暮らしている間、子どもたちにほとんどまたはまったく興味を示さず、将来、子どもと真の思いやりのある関係を築くという本当の意図はなく、 虐待者は、長く繰り返される手続を通じてコンタクトを追求することがある。

 

8.5.2セクション91(14)命令を取得することの難しさ

専門家の回答の多くは、セクション91(14)に基づく申立の難しさを指摘した。法的代理人のいない当事者が申立を成功させるための知識または能力はないと思われる。裁判官は自ら命令を出すことができるが、委員会にエビデンスを与える誰もこれがなされている認識がなかった。もっと典型的には、陳述書付きの正式な申立が必要であり、聴取まで時間がかかり手続は長く、面倒で費用のかかるものである。

 

司法円卓会議では、近接して2件以上の申立があり、訴訟当事者は自己代理で、何も変化がない場合には、命令が出される可能性が示唆されたが、現実には「禁止」命令発出には高いしきい値があるようだ。他の専門家からの回答は、命令を検討するには5つ以上の申立が必要なことを示唆した。Mosacは、有罪判決があり、虐待的な親が子の処遇命令や変更の複数の申立を行っていても、彼らが支援した子どもの性的虐待事件で、セクション91(14)の命令が出されたことがなかったと回答した。同様に、Refugeは命令が出されたのはほんの一握りで、それらはすべて重度の長期にわたる身体的および性的虐待を特徴とする事件だけだと言った。

 

専門家は、裁判所はセクション91(14)命令をすることに消極的である控訴院からのガイダンスに正しく従っていると述べた(注145)。家族生活の権利と公正な裁判を受ける権利の侵害についての懸念のため、親が裁判所にアクセスすることを防ぐことを正当化するには高いハードルがあるべきとされ、命令は強力な証拠によって裏付けられ、極端な状況でのみなされるべきだ。しかしながらいくつかの回答は、必要とされる説得力の程度は審判次第であると考えるものもあり、また実際には「禁止命令」ではなく、単に許可が得られることを求める命令であるという事実から、命令を出すためのしきい値がなぜそんなに高いのか他の人が疑問を呈した。したがって、いくつかの回答では、虐待の一形態として使用されている反復申立を防ぐために、セクション91(14)の命令を出す意欲を高める方向に文化をシフトすべきと示唆した。

 

また、命令が出された場合でも、単に期間が限定されている。6か月続く命令は、非虐待親と子どもに虐待の一形態として使用されている手続からの休息を与えるのに十分な長さではない。サウソールブラックシスターズは、18か月の繰り返しのコンタクト申立に直面した利用者の例をあげた。彼女のセクション91(14)命令の申立は、決定まで6か月かかり、わずか12か月が認められ、その後、彼女はさらなる申立の的になると予想し、別の命令を再申立する必要があった。

 

8.5.3申立許可の取得のしやすさ

セクション91(14)の命令を取得するための高いしきい値とは対照的に、申立許可のしきい値は一度命令が出ると低い。許可の申立は、子どもの福祉の問題が関係している場合、または命令後の事情の変化があれば一般的に認められ、何人かの加害者は、許可の申立を正当化するために小さな変更を容易に設計することができると専門家は指摘した。本人訴訟サポートサービスはまた、子どもの福祉が改善したという理由で申立許可が認められることがあるが、その改善がセクション91(14)命令の事実によるものであり、その結果として、虐待親からの嫌がらせからの救済が得られたことに起因していることを認識していないと指摘している。弁護士は、申立許可申立に惑わされないためには強力な裁判官が必要であると回答した。

 

回答はまた、申立許可申立が扱われる方法特に相手に申立の通知されるかどうかに関してかなりのばらつきがあることを報告した。回答は、他の親に常に通知されているというものから、裁判官は申立を審査し、他方からの議論を聞きたいかどうかを決定する、他方の親に決して通知されなかった、と広い幅があった。明らかに、上記のように、申立許可申立は、虐待のさらに別の手段となる可能性がある。

 

8.5.4効果のない救済策

現時点では、ある専門家の言では「不完全な救済策」のようなものとして、セクション91(14)命令が見られているようである;命令が認められるしきい値は実務ではあまりに高く、必要な証拠の量および救済策を与える裁 判官のアプローチには、いくつかの再考が必要だ。

 

この点について、すべてのグループから指摘された重要な問題の1つは、司法の継続性の欠如である。その結果、反復申立を通じて裁判所が虐待を認定することができず、そのためにセクション91(14)命令を躊躇する一方で、申立許可申立を認めがちになり、また一般的に、事件内の意思決定に一貫性がないという結果につながる。リーガルアドバイザーは、申立許可申立は元の命令を出したのと同じレベルの司法機関に指示されるが、同じ裁判官または治安判事のベンチによって審理されることはほとんどなかった。サウソールブラックシスターズはさらに、司法の継続性は良い実務であるが、聴取が数ヶ月遅れる可能性があると観察した。これは私法上の事件のための限られた司法資源の逆効果を示す。

 

セクション91(14)命令は現在理想的とは言えない形で運用されているが、専門家は、もし別の方法で実施されれば、大きな可能性を秘めていると考えている。虐待的な親に対して、裁判所が手続を虐待を永続させる道具として使おうとしていることを認識しており、それを認めていないことを示すという象徴的な側面は重要である。また虐待された親と子どもが必要としている休息を与えるという実務的な側面もある。したがって、セクション91(14)およびこの章で議論したその他の手続の側面に関する改善のためのいくつかの推奨事項に考慮を払うべきである。

 

8.6結論

この章でレビューされたエビデンスによると、女性および男性のDAの被害者は、しばしば法廷でのプロセスで二次受傷することを示す。法廷前の習熟訪問、別々の入口/出口、遮蔽、ビデオリンクなどの脆弱な証人を保護するための特別措置は理論的には利用可能だが、実際には十分に配備されていない。すべての被害者は、適切なサポートと保護がない場合、法廷で虐待者と向き合うことが難しいと感じるが、これは特に本人訴訟の場合に顕著である。被害者は、特に代理されていない虐待者によって直接行われる反対尋問の悲惨さを認識したと委員会に語った。複数の被害者が彼らの虐待者によって反復申立を経験したので、この裁判所のプロセスを複数回受けた。多くの人は、「禁止」命令の使用で裁判所がこれを阻止する権限を持っていることを知らなかった。委員会が受け取った他のエビデンスは、セクション91(14)が十分に活用されていないことを示唆しており、多くの専門家が反復申立によるさらなる虐待を防ぐアプローチを提案した。

 

エビデンスの全体的な重みは、家庭裁判所が非虐待親が安全で、保護され、耳を傾けられていると感じる場所になる必要があることを示す。これを達成するために裁判所の建物とすべての裁判所の職員は、トラウマを認識する必要がある。DAの被害者は手続に対処する感情を整え、二次受傷を回避するためのサポートが必要である。被害者が法廷で虐待者と顔を合わせなくてもよいようにするべきであり、支援者や特別措置をすぐに利用できるようにすべきである。裁判官は、さらなる虐待の手段として訴訟が利用されないようにする上でより大きな役割を果たすことができる。セクション11.7では、法廷での虐待の被害者の安全と安心を高めるための具体的な提言を行っている。これには特別措置と参加ダイレクション、反対尋問、専門家サポートサービスに、セクション91(14)および虐待的申立の特定に関する推奨事項が含まれる。セクション11.7の図は、本章の冒頭に掲載されたものを改訂し、DAの被害者の裁判の流れが改革後にどうなるかを示している。

 

【注】

(131)C Smart and B Neale, Family Fragments (1999); J Birchall and S Choudhry, What About My Right Not to be Abused? Domestic Abuse, Human Rights and the Family Courts (2018).

(132)C Bishop and V Bettinson (2018) ‘Evidencing domestic violence: Including behaviour that falls under the new offence of ‘controlling and coercive behaviour’, International Journal of Evidence and Proof 22(1): 1– 27.

(133)記憶と証拠に対するトラウマの影響の有用な説明について参照https://vimeo.com/380211656; https://vimeo.com/380211441

(134)「ガス燈」という用語は、男性が、彼女が心を失っていると思うまで妻を操作する映画「ガス燈」(1944)に由来する。

(135)文献レビューセクション8.2。

(136)ウィメンズエイド英国連盟、Nineteen Child Homicides (2016年)。

(137)N Corbett and A Summerfield, Alleged Perpetrators of Abuse as Litigants in Person in Private Family Law: The Cross-Examination of Vulnerable and Intimidated Witnesses (2017)

(138)N Corbett and A Summerfield, Alleged Perpetrators of Abuse as Litigants in Person in Private Family Law: The Cross-Examination of Vulnerable and Intimidated Witnesses (2017).

(139)M Burton (2018) ‘Specialist domestic violence courts in child arrangements proceedings: Safer courts and safer outcomes? Journal of Social Welfare and Family Law 40(4): 533–47.

(140)文献レビューセクション6.3。

(141)文献レビューセクション8.3。

(142)文献レビューセクション8.3。

(143)委員会は、JH v MF [2020] EWHC 86(Fam)におけるラッセルJの、家事の裁判官に性的犯罪に関する専用のトレーニングを受けることを求める判決、そしてこのトレーニングが現在司法大学によって実施されているという事実に留意する。

(144)B Hale (1999) ‘The view from court 45’, Child and Family Law Quarterly 11(4): 377–86.

(145)セクション91(14)「禁止命令」に関する判例法のレビューを参照。

 

 

                                                                                                                                      【藤本圭子】


 

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