UK司法省報告

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第9章 裁判所の命令

 9.1 裁判所のアプローチ

 

委員会に寄せられたエビデンスは、文献と判例レビューとともに、私法上の子の事件(private law children’s case)で家庭裁判所が命令を作成する際の4つのテーマを浮かび上がらせた。これらは:子どもたちはその別居親とコンタクトすべきであること、制限されたコンタクトは制限なしのそれへ発展するべきであること、共同養育(co-parenting)は奨励されるべきであり、親が裁判所を頼るのは最小限にされるべきこと。これらのテーマは先の章で上げられた障壁に強い影響を受けている。特に、プロコンタクトカルチャー(pro-contact culture)は、子どもたちはコンタクトをするべきである、理想的にはいかなる制限もなしにコンタクトするべきである、そして離別後の子どもの処遇の理想は共同養育であると想定する。リソースの制約は、コンセント命令(consent order)の活用やレビュー聴取の回避に力点を置くのと同様、コンタクトのモニタリングや虐待的な言動を取り扱うための介入の利用可能性と実際の利用を限定する。

 

9.2 子どもたちはコンタクトしなければならない

第4章で述べたように、上級審裁判所は、家庭裁判所に、子どもたちとその親たちの間のコンタクトを維持するためにあらゆる努力を払うよう指示してきた:

「国それゆえ裁判官には、親と子の関係を維持し復元する方法を講じる、端的にはコンタクトを維持し回復させる積極的な義務がある。裁判官は、コンタクトを奨励する積極的な義務がある。裁判官は、いかなるコンタクトもなしえないと望みを捨てる前に、すべての適用可能な代替的な方法に取り組まなければならない。彼は、コンタクトが行楽地で行われたきり途絶えているとか、コンタクトを継続してもその子に利益がないことがたった1回明らかになったからと言って、早まった決定をしないよう注意しなければならない。」(注146)

 

DAの文脈で、司法円卓会議に参加した裁判官たちは正しく、Re L(2000)事件の上級審決定にしたがえば、DAの認定はコンタクトの障害にならないと述べた。PD12Jは、DAが認められた事件で子の処遇(child arrangements)をするときは、裁判所はどんなコンタクトの命令をするにも、その子が「制御できない危害リスク」にさらされず、それがその子の最善利益になることを確保しなければならないと明記している。(注147)司法円卓会議の参加者は、これを「問題の要点」だとして、次のように述べた。

 

「どのレベルならコンタクトを許してよいリスクとして受入れられるのか。どのレベルを「ダメ」とするのか?そこが難しい;むしろDAによる害は明白かもしれないが、(別居親との)関係がないとかほとんどないということには、はるかに大きいつかみどころのない危害がある。」 司法円卓会議

 

虐待を申立てられた親もしくはそれが争点になっていた親個人からの回答は、何らかの形の直接コンタクト、しばしば監視なしのそれが最もよく命じられたことを示していた(注148)。Nagalroは、認定が行われ、虐待的な親が子どもと非虐待的親に引き起こしたり引き起こす危害を認めないと、裁判所が間接的なコンタクトを命じる傾向があることを観察した(注149)。しかし、その他多数の専門家の回答は、総じてDAが見いだされた事件での終局命令と、DAが見いだされずまたは主張もされなかった事件でなされたそれとの間に、ほとんど差がないと報告した。専門家と母親たちは、裁判所が、コンタクトを推進するために、時にCafcass/Cafcassウェールズやソーシャルワーカーが行った評価や勧告も無視することにも懸念を表明した。

「私はCafcassの安全保護報告(safeguarding report)を受け、裁判所はセクション7報告の提出を求め、Cafcassが隔週末と週に1~2回訪問、宿泊なしを強く勧告していたのに、父親は50:50の割合での共同養育を勝ち取って行きました。私の事件で聴取した裁判官は、Cafcassの安全保護措置の報告、Cafcass職員の法廷での証言、父親のリスクと彼の背景に関する報告の言葉を全部無視しました。」           

母親、エビデンスの照会。

 

「私の元夫は、私たち家族を4年間恐怖で支配した後、最後はDAで逮捕されました。彼は「以前のよい性格」を理由に注意処分を受けました。ソーシャルサービスとCafcassはどちらも子どもと監視なしのコンタクトはすべきでないと言いました。私は、虐待禁止命令を申立て、出してもらうことができました。それから私たちは家庭裁判所に行かなくてはならなかった、、、(地方裁判所の)裁判官は私の元夫が暴力的で、支配的で、まさしくDA加害を行ったことを認めました。衝撃的なことに、その裁判官は「父親の権利」についてだけ関心を持ち、とにかく監視なしコンタクトを認めました。」               母親、エビデンスの照会。 

 

記録に基づく調査は、2017年の前10年以上にわたり、間接的なコンタクト命令とコンタクトしない命令がDAの主張のあった事案の約10%でしか出されなかったことを示している(注150)。Harding とNewmam はともに、DAが一般に「多数のうちの一要素」と考えられている、コンタクトなしと間接的なコンタクトの命令は、通常DA、子どもの福祉への深刻な懸念(例えば、薬物乱用、精神疾患)、子どもの異議申立、別居親の態度子どもへの関わりなどを合わせて考えて出されることを明らかにした。

 

上記引用で見たように、エビデンスの照会に答えて寄せられた情報は、養育分担shared careや、子どもが虐待者と主張された方と同居するよう命じられた事件からも引用した。BAMEのDA被害者であった女性と障害のある女性は、彼らの子どもたちが虐待親と同居するように命じられる経験がより多いようであった。

SafeLivesはこういう事例に言及した:

「加害者は、被害者がホームレスで安定した環境を提供できないから避難所で生活しているんだと言いました。裁判官はそれに同意し、彼が仕事についていて彼をサポートする家族があるからと子どもに彼と同居するよう命じました。その被害者は、彼がどんな人か知っていたので子どもたちと別れることができず、間もなく彼のところへ戻りました。」SafeLives

 

多数の母親たちは、子どもたちの性的虐待の訴えが認定されないとき、その子どもは虐待を訴えられた方の親に引き渡されるか、里親のところへ行かされたと報告した。Mosacは、その最新の年次報告の統計が示したところによれば、そこの扱った事件で子どもの性的虐待の訴えを含む事件の7%が虐待親と主張された親と「同居」することに親和的な結果になり、92%で監視なしのコンタクト命令が維持され、コンタクトなしとされたものは1%に満たないと報告している。

 

DAがコンタクトの障害ではないということを述べたとき、司法円卓会議の参加者たちは、これが一部の当事者を驚かせることになりそうだと述べた。我々の回答は、当事者が実際に経験したことが、虐待の認定やその危険性評価と下される命令との間で驚くほどズレていることを示唆していた。裁判所が虐待の深刻さとそれが継続して母親たちとその子どもたちにリスクをもたらすかをわかりながらどれほど無制限のコンタクトを実施させるのかを語るとき、多くの母親(と彼らの代わりの家族)から報告されたショック、失望と怒りを控えめに言うことは難しい。ある母親は「たった一つの目標がコンタクトなのです。それにどんな危害があろうと何が起ころうと」と述べた。彼らは裁判所が保護に焦点を当てるだろうと考えていたのに、裁判所がそれよりコンタクトを優先しているように見えたことに厳しい失望をつたえるものが多かった。

 

9.3 コンタクトは進展するべきである

裁判所が、制限なしのコンタクトが安全でないと考えるとき、関心はその子ども(や非虐待親)に向かう危害のリスクにどう対処するかに移る。これはHarwoodによる調査の一部でインタビューを受けたある地方裁判所裁判官の発言からの引用によく示されている。彼は、通常コンタクトはまずは行われなければならない」と考え、たとえその父親からとても深刻な加害を受けた子どもたちであっても父親を知る権利があると考えた。:「それがこの法律の進路だと思う。コンタクトが安全であるようにするのは何か、、、それはつまり、、、一般的には、仮に何か特別深刻な虐待があったとしても、それでコンタクトが制限されるべきとは思わない。」(注151)

 

裁判所がコンタクト中の危害リスクに対処するのを回避するための主要な選択肢は、直接のコンタクトを、事実認定のための聴取、間接的なコンタクトや監視付もしくは支援付きコンタクト、そしてDA加害者プログラム(DAPPs)の結果が出るまでの間、中止することである。以下の節ではこれらの選択肢について委員会に寄せられたエビデンスをより詳しく検討する。しかしながらそれらの多くに共通するのは、これら選択肢が、直接のコンタクトを回復するまでのステップで、一時的な制限と考えられる傾向にあるということである。それぞれの事件で、裁判所の狙いはできるだけ早く制限なしのコンタクトへ「進展させる」、理想的にはコンタクトを認めることにあるように思われる。一つの例外は間接のコンタクトで、それは暫定の措置であるかもしれないが、長期間にわたって命じられやすいようだ。しかし、上記で論じた通り、間接のコンタクトが命じられるのは比較的まれなことである。

 

9.3.1暫定命令

PD12Jは、DAに関する論争にまだ決着がついていないところでは、暫定命令は、いかなる場合にもその子どもと他方の親を制御できない危害リスクにさらさないよう確保するべきであることに特に注目している(注152)。

 

寄せられた回答はこの条項の適用がさまざまであることを報告した。英国実務家円卓会議の参加者は、多くの裁判官がPD12Jに明らかに反する形で暫定命令を出していること、いくつかの事件では、ここでもPD12Jに反して安全保護のチェックが終わる前に、コンタクト命令や共同養育命令を出していることを説明した(注153)。

 

他方で、幾人かの回答者は――特に父親とその支援者は――裁判所が(それと特に治安判事magistrates)が事実認定前のコンタクトに過剰に慎重であるとの苦情を述べた。父親たちは、コンタクト禁止とか制限付きコンタクトの命令が、母親の子どもに対する「片親引き離し」を許しその結果親子断絶になったり、親子関係への干渉を起こし、回復に長期間を要する結果を引き起こすという懸念を強調した。引離された親の全国協会は、私法上の子の事件で厳格な適用をせず、コンタクト禁止や制限付きコンタクトの暫定命令が出ることで親子関係が厳しくなっているとの情報を提出した。このような懸念は、通常、手続の遅延や事実認定のための聴取に時間がかかることと関連している。あるソーシャルワーカーは、事実認定の手続は、その子どもの時間のものさしに合っていないと述べた。これに関しては、より時宜にかなった事実認定のための聴取が行われることが、知られている多くの問題を軽減することになると思われる。

 

Cafcassとウィメンズエイド英国連盟の事件ファイルの調査では、DAの主張があったときのコンタクト禁止や制限付きコンタクトの暫定命令は多くなく、最終結論に基づき11%発令されたのに対し、最初の聴取時に13%発令された程度である。これらの事件で最初の聴取時の命令と最終の命令の間の主な違いは、42%の事件で最初の聴取時裁判所はコンタクトに関する命令を出さないことである。これがそのままの状態を維持するものの、そのままの状態がコンタクトまたはコンタクト禁止がどのくらい存在することを意味するかについて適切な情報がない。

 

9.3.2 DA加害者プログラム(DAPPs)

加害者プログラムは、事実認定がされて最後の福祉のための聴取の間に命じられる。イングランドではCafcassは認可された加害者プログラムに資金を提供し、そこに委託している。ウェールズにも認可された加害者プログラムはあるが、Cafcass ウェールズはサービスの提供や家庭裁判所への報告に関してそれらに委託はしていない。委員会への回答は、加害者プログラムは虐待親の危険が取り除かれたようなふりをしてコンタクトが許されるようにすることができる装置とみられていることを示唆した(注154)。ある母親の言葉によれば「コンタクトの食券」であると。これは、加害者プログラムがどうデザインされているかではなく、それらが裁判所のプロコンタクトカルチャーの中ではそう見えるということだ。多数の回答で加害者プログラムの適合性、利用とその働きに懸念が挙げられた。

 

いくつかの専門家と機関からの回答は、加害者プログラムの短縮についてコメントしていた。いくつかの地域では(特にイングランドの大きなへき地では)利用可能性が非常に限られていたり、認可された行動変容介入組織がなかったりするといわれる。ウェールズでCafcassウェールズが加害者プログラムに全く資金を提供していないことは、特に多くの回答者から、Cafcassウェールズが認可されたプログラムからの報告の受け入れを拒絶することとともに、語られた。司法円卓会議の参加者は、サービスについて郵便番号くじを指して「それは、どこの地域に住んでいるかとサービスが利用できるか否かは、いわば持ち寄り料理みたいなものだ」と言った。彼らはまたCafcassが委託していない加害者プログラムの状態はわからない、そして彼らの地域では利用できる状態でCafcassが委託している加害者プログラムが存在しない、と強調した。Cafcassが加害者プログラムへの委託をしていないために裁判所に利用可能な選択肢が非常に限られるとはいえ、裁判所としてはCafcassの委託を受けていない加害者プログラムや認可されず同じ基準に従っていないような加害者プログラムからの報告を受け入れるようなことはできない。

 

数人の父親たちはCafcassが女性のための加害者プログラムにはどこにも委託しなかったと苦情を述べた。DAの女性加害者のためのこの種介入の支援が調査に基づき存在するのかは明確でないし、それが対象になるごく少数者に経済的なやり方で十分広く提供されているわけでもない。しかし、はっきりしていることは、DAを犯したと認められた母親が、その子どもと元パートナーに対してなにか継続してリスクをもたらすために利用できるものは何もないということだ。

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Nagalroは、加害者プログラムへのルーティーンの照会は、DAの発見に続けて行われると示した。:

「私たちのメンバーの経験では、子の処遇の命令は通常、DAがあった場合は、犯行に及ぶ親が治療的トレーニングを終了し、裁判所にコンタクトがその子どもと他方親へのリスクなしで行うことができると示せるまで出されない。」Nagalro

 

他の専門家は、裁判所の間で虐待的な親に治療的なことを始める時間を許すかどうかで異なる考えがあると報告した。ある者は、その親を治療の利益を受けさせられるよう手続を延期する用意があったが、ほかは直接のコンタクトに向けて無頓着に進行させたがった。司法円卓会議の参加者の何人かは、加害者プログラムが「あまりに融通が利かず、26週間のプログラムか、さもなくば何もなしである」と懸念を示し、行動変容に対して柔軟性のない、「すべてにワンサイズで臨む」アプローチがあると述べた。さもなくば、虐待親の考え方と刻み込まれた言動のパターンを改めることは相当の時間がかかる。回答は プロコンタクトカルチャーが裁判所をして虐待の深刻さを矮小化させ、リスクを減らすのに有効でも効果的でもない、コンタクトを復元させるためのショートカットを探らせることを懸念すると強調した。

 

Cafcassの統計は、加害者プログラムに委託される数が少ないことを示している:

 


 

これが示すのは、実務では、かなりの数の虐待親が彼らの言動について何もすることを求められないままコンタクトを認められていることである。それ以上に、これがコンタクトへの道筋であるとみられているので、加害者プログラムを終了する割合はむしろ高いにもかかわらず、これら加害者プログラムに委託された全員がサービス提供を受けられるわけでなく(そのプラグラムと彼らの閾値による適格性により)幾人かの父親たちはそのプラグラムを開始し損ねる。母親たちからのいくつかの回答は、裁判所が、加害者には非常に限られた負担しか負わせないのに、しばしばベターな判断に背くようなコンタクトを、母親にはそれを助けて実現させるよう期待することを際立たせた。ある母親は、ある裁判官が加害者に子どもへのわびの手紙を書くよう求めたことを語った。彼はそれをしなかったが、それでも制限なしのコンタクトを続けることができた。

 

DVIPコースを受けた男性のフォーカスグループでは、参加者全員がそのコースに行くことに特典benefitがあると感じ、それで彼らは参加を命じられたが、裁判所は(彼らの)子どもと元パートナーに正しい決定をしたとも感じた。ほかには彼らは威圧的コントロール、彼らの言動への洞察力を得ること、そしてその虐待をもう否定しないことについて学んだ。同時に、彼らはそのコースが、子どもたちとのコンタクトをするために、終えなければならない方法であることをはっきりわかっていた。ある父親は、コンタクトをめぐり元パートナーとの間で紛争が続くことを説明し、こう言った:「彼女に言うつもりだ。:私が彼らに会いに行くか、そのコースを終えるのを待ってから裁判所の条件に従って彼らとのコンタクトを始めるかのどちらかだと」(Respect フォーカスグループ)。

 

元パートナーが加害者プログラムに委託された母親たちは、それにそう肯定的ではなかった。加害者プログラムに受け入れてもらうために、加害者たちは彼らの虐待を知り意味ある変化をする可能性を示すことを支援され、;そしてそのプログラムに参加することで変化が証明されたことになる。多数の母親たちは、しかし、このような基準に付きまとう過ちを報告した。

・虐待的な父親たちは、最小限の参加条件で、適格性を問われることなく、コースに受け入れられていく

・虐待的な父親たちは、「チェック項目を全部満し」、コースを「通過する」と、言動に変化がなく、支配的な言動が続き、自身の虐待を否認し続けていても、彼らの行動への責任をとることを求められもせず、リハビリができたとみなされる。

・加害者プログラム後のリスク評価には、成人被害者や子どもたちの見かたは取り入れられていない。

 

SafeLivesは、サバイバーたちが、加害者たちがハイリスクに分類されてもプログラムに受け入れられ、プログラム終了後の報告が詳細を非常に端折り、参加の結果より参加だけを報告し、徹底的なリスク評価と加害者の言動が変わったのかどうかの判定を欠いていることに懸念をあげたと言った。これらの例では、加害者プログラムが虐待的な親の持つリスクを減らすのに効果があるのかどうか疑問である。

 

最後に、ある法律家は、ある地方の運用として、裁判所が加害者プログラムに事実確認を引き続き行うよう命じて、その時点で手続を終了し、加害者プログラムが終了するとすぐに(子どもの)親たちにコンタクトに同意するよう期待するものがあることを述べた。これは、加害者プログラムが説明責任を求められたり意味ある変化を示すものでなく、単にコンタクトを進めるための救済装置と見られるようになっていることを示している。同様の理由づけが、元パートナーが加害者プログラムに出席し、脅迫と身体的・情緒的・経済的虐待を認めた、その母親の事案で行われた。:

 

「Section7(の報告)を担当したCafcassの職員は私に、裁判官は将来のコンタクトのパターンにDAは関係ないと考えているからDAの訴えには線が引かれていると言いました。そのSection7は、DAのことを触れもしなかった。」 母親、エビデンスの照会

 

9.3.3 コンタクトの支援と監視

先行する調査によると、裁判所はコンタクトを再開するための短期の選択肢として暫定命令interim orderでは監視付きないし支援付きコンタクトを用いるかもしれないが、最終的な命令の一部である長期の選択肢として採用されるのは稀である。Cafcassとウィメンズエイド英国連盟の調査によれば、支援付きコンタクトの命令ではほとんど差がない(最初の聴取時7%、最後の命令時5%)けれど、監視付きコンタクトは、DAの事案の暫定命令で少し多く命じられる(最初の聴取のときに14%、最後の命令で10%)。

 

Nagalroは、監視付き命令を、コンタクトを進めながら虐待被害者を保護することができていいと考えた。

 

「他方の親がその言動に焦点を当てるのに被害者が(まったく無理解にも)他方親と顔を合わせることに苦痛を訴えるような事案では、コンタクトセンターの関わり…は安全に子どもと親の関係を進展させる。」 Nagalro

 

しかし彼らと多くのほかの回答者たちは、リソースの制限がモニターつきコンタクトの利用が限定される主要な理由だと認めた。たくさんの情報提供がコンタクトサービスの不足、特に監視付きコンタクトの不足に言及していた。いくつかの地方(特に大きな田舎)では、監視付きコンタクトセンターで利用できるものが非常に限られるか全くないと言われた。司法円卓会議への寄稿者は、利用可能性と利用料についての問題を次のように認めた:

 

「人々が支払える子どもとのコンタクトセンターが十分ない。それらは高価で、柔軟性がない。コンタクトセンターがあると言っても、17/18週待ちで、70,80ポンドかかり、たいてい受け渡しするほどの時間がない。何のサービスも受けられない。」 司法円卓会議

 

ウェルシュ・ウィメンズエイドは、Cafcassを通じた資金が利用できても、限られたセッションに向けられるだけで、親たちはそのあとも支払い続けなければならないと述べた。

 

無料か支払い易い価格のサービス、特にコンタクトの監視サービスが、プロコンタクトカルチャーに関連して不足しているという多数の結果が上がっている。ALCは「コンタクトの監視期間の短縮が評価として分類されうる、、、裁判所は、コンタクトをさらに進めることが子どもの最善の利益になるとはいえ、安全確保の監視が必要なため実行できないことになる。他方で、CLOCKと多くの母親たちは監視付きコンタクトサービスがないところでは、裁判所は簡単に監視なしコンタクトを認めると報告した。供給の欠如が被害者たちとその代理人たちが監視付きを求めることを断念させられることにつながる。ウェールズでのサバイバーのフォーカスグループのある参加者は、例えば、利用可能なコンタクト監視サービスはなかったから、それに関して質問することもなかったと報告した。

 

第2に、支払い易い価格で利用できたり何らかのコンタクト監視がないと、裁判所はあまり警戒せずに、ボランティアが運営するコンタクト支援とか被害者やその家族に監視を頼ってコンタクトを命じる。

ALCは、コンタクトセンターの閉鎖により、DA被害者たちが、より頻繁に虐待親とのコンタクトを助けるよう求められるようになることに気付いた。これは、リスク評価の結果一方の親が子どもと他方親へのリスクがあると結論された事案で、こうした運用を終わらせようと行われたPD12Jの21017年改正(注155)に反している。Rights of Womensは新しい規定は裁判所に見過ごされ、子どもに対する深刻な身体的もしくは性的害のリスクがある事件にのみ適用されていると考えている。ある母親は2018-19に家庭裁判所を経験し、次のように説明した:「私は私の虐待者と私たちの子どものコンタクトを監視しなければなりませんでした。これは私の心の健康に有害な影響があり、わたしは彼からトラウマを受け続けたうえ、それにもかかわらず私の子どもたちの安全と幸せを守るためにそれをやり続けなければならないのです。」

 

第3に、裁判所は長期にわたる監視付きコンタクトを命じたがらない。上級審裁判所は、安全を守るために長期の監視が求められるような場合に、一般的に直接のコンタクトが命じられるべきという原則はないと強調した(注156)。これは公法領域の事件では起こる。しかし、母親たちからの回答は裁判所の期待は常にコンタクトが監視付きから監視なしへ、できるだけ早く「進展する」ことだと述べた(注157)。ある母親は「長期の監視付きコンタクト命令は非常にまれです」と述べた。

 

けれども、多くの母親たちが指摘したように、加害者の言動に変化がなければ子どもと成人被害者が監視なしで安全でいられるようになると想定する理由はない。「うまくいった」監視付きコンタクトは虐待者のリスクへの懸念をなくすわけでも減らすわけでもなく、単に彼らの虐待的言動を休止させるだけである。被害者たちをコントロールできてきた虐待者たちは見られている間は行儀良くふるまうことができるが、「進展」により監視なしコンタクトになれば邪魔されずに虐待を再開することができる(注158)。実際に、たくさんの情報提供が、監視なしコンタクトで被害者と子どもたちに対する虐待の継続を認めたと伝えている(10章参照)。

 

制限されたコンタクトがすべての子どもたちや成人被害者を十分にしっかり守るものでないという証拠もある。多数の回答は、子どもたちと成人を虐待と威圧的支配から守る目的に対し、コンタクト支援と家族による非公式の監視が妥当性を持つかについて懸念を挙げた。

 

「彼は電話を介して子どもたちにコンタクトすることが認められ、これを彼らを操作する手段として使い続け、彼が好きな時好きなだけ彼らを嫌な気持ちにさせ、悲しませました。彼はコンタクトができる間は彼らを虐待し続けるでしょう。私は常にそばにいることで身体的な加害をくい止めることはできるけれど、心理的虐待の影響とコントロールを止めることはできません。裁判所は威圧的支配を全く理解も制御もしていないのです。」母親、エビデンスの照会

 

同様に、Rights of Womensは、子の処遇における非虐待親の保護は、彼らの身体的安全にだけ焦点が当てられ、子どもを彼らが虐待的だと知っている親に引き渡さなければならないことの強い不安を含めて、継続する威圧的支配や彼らが精神的な健康への危害を受けないことに及んでいないと述べた。

 

多数の回答は、間接的なコンタクトが必ず子どもたちと被害親を守ると想定していることに対し警告を発した。The Suzy Lamplugh財団は、加害者は元パートナーを脅かしストーキングする虐待的な手紙を送ることで、間接のコンタクトを通じて虐待を続けることができるとコメントした。ある母親――彼女の元夫はレイプと子ども虐待加害で有罪宣告を受けた――は、

 

「初めに、最終聴取前の暫定措置として、裁判所は彼に、私の子どもたちに刑務所から月に1回手紙を書くことを許しました。これらの手紙は子どもたちに強い不安を与えました。彼らはとても幼いけれど彼が小児性愛者であることを十分わかっていて、彼の手紙を読んで身体的な不具合が出ました。娘は自傷行為をし、CAMHS(NHSの児童少年向け精神保健部)へ行き、息子は手紙に心底怒り、手紙が来るたびひどい反応を示しました。――それら手紙は、子どもたちにカウンセリングに通わなければならないほどの情緒的な問題を引き起こし、学校と友達との関係で問題を抱えました。                  母親、エビデンスの照会

 

ほかの母親たちはウェブカメラ、FacetimeとScypeを用いたコンタクトが、虐待者には家の中に戻ることを許されたように感じさせるため、非常に侵入的であることが分かったと報告した。この種のコンタクトのリスクにルーティーンに対応させられるのは母親たちである。

 

多数の回答が、監視付きコンタクトをなおも虐待に利用している虐待者たちに言及した。コンタクトセンターの外―そこではセンターの職員によって言動が記録されたり制御されたりすることがない―での威嚇と脅迫;職員が監視付きコンタクト中、子どものネグレクトを見過ごす;監視付きコンタクト中子どもたちに対し情緒的虐待を継続し手懐ける。回答はまた、虐待が起こったことが報告されても、子どもたちはコンタクトセンターに戻るよう命じられたと述べた。この回答者は子どもとして家庭裁判所の手続の「事件本人」であった:

 

「私は家庭裁判所にコンタクトセンターの「監視付き」コンタクトを強制されて、そこで父親が「監視」のもとでさえうまく取り繕って虐待できることに、すっかり落ち込んでしまった。私は正確詳細に述べて特定されてしまうようなことはしたくないが、彼は監視する女の人に聞こえないように静かな声で私を脅し、私たちが「遊んでいる」ように見えるように、私に関連する暴力的でぞっとするような気味悪い筋書きの話を作り、私と遊んでいるように見えるようなおもちゃを使った。私はこれで身元がばれることがすごく怖くなった。他のことも言いたいけど、そうすると私だと特定されてしまう。

こうしたことが起こったとき、私はいつも彼に、大人に言うと言ったが、彼は「誰もお前を信じないさ」と返した。

不幸にもこれは本当だった。この情報がすべて家庭裁判所の聴取に戻されると、私の母がそれらをでっち上げたと貶された。私は事件記録(the case note)で読んだからこれが本当だと知っていると繰り返さなければならない。子どもだった私への影響は、絶対にこれらコンタクトセンターに行きたくないくらい恐ろしいもので、父のセンターでの言動があまりに脅迫的であったので、私は自分の生物学的父に決して会いたくなかった。私は、そこへ行かなければならないと言われ、母がもし私が行かなければ彼女が監獄に送られると説明した時の大変な苦痛を思い起こす。私は事件記録の中で、父の弁護士から母の弁護士に宛て、彼女が命令に従い私を監視付きコンタクトに行かせなければ、公判付託決定手続(committal proceedings)を開始するつもりであると告げる手紙を見たから、これも本当だと知っている。私はまたセンターのドアの前に立って悲鳴を上げて中に入るのを拒んでいたのをはっきり思い出す。事件記録はまたこうした言動が母の「コーチ」のせい、つまり彼女が私にこうするよう教えていたことにされたことを示している。彼女はそんなことはしていない。」   DAの子ども期の被害者、エビデンスの照会

 

ある母親は、一人の心理学者の「コンタクトは相当期間監視付きで続けられるべきである」に始まる報告に従って行われた彼女と彼女の子どもの長期にわたるコンタクトセンターでのコンタクトの経験について証言した:

 

「私たちはそれを7年間やりました。息子は繰り返し学校の先生に彼が安全と感じていないことを打ち明けました。父親は、子どもにひどいナッツアレルギーがあることを知りつつ、いつもナッツの入ったお菓子を与えました。いつもトイレに連れていき、そこでさらに脅しました。コンタクトセンターの職員に話しました。教会のセッティングをしているボランティア全員にも。なんの行動も安全保護も取られませんでした。カウンセラーに打ち明けました。なんの行動もとられませんでした。私がソーシャルワーカーに電話すると、警察に言えと言われました。警察に電話すると、それはソーシャルケアの分野だと言われました。子どもが身体的に傷つけられていなかったので、問題を裁判所に戻す法的支援が受けられず、途方にくれました。7年間行き詰まりました。7年間に父親から繰り返された行為は子どものPTSDを悪化させました。最後の一撃、13歳だった息子はコンタクトセンターで父親から性的暴行を受けました。永久に傷つけられました。これがどう子ども中心なのか教えてください。」              母親、エビデンスの照会

 

このように、委員会が受けた証言は、監視付きから制限なしへというコンタクトの「進展」が子どもたちと他方親を継続する危害リスクにさらすばかりでなく、監視付きコンタクトそれ自体も子どもたちをわかった虐待者から守らないということを示唆している。

 

 

 

 

 

9.4 共同養育(co-parenting)の奨励

家庭裁判所のアプローチの3つ目のテーマは、両親がうまく共同養育できるだろうという期待である。この期待はDAと威圧的支配が背景にあっても抱かれているように見える。多数の回答者が、Sheffied City Councilを含めて、DAの被害者と彼らの以前のパートナーが、DA事案には不適切な共同養育に焦点を当てたSeparated Parents Information Programme(SPIP,イングランド)やWorking Together for Children(WT4C、ウェールズ)のコースに参加するよう命じられると述べている。

 

私は裁判所から『子どものために一緒に子育て(WT4C)』のコースに行かなければならないと勧告され、そこに参加するよう命じられました。それは最悪の4時間でした。それは私には本当に苦しいストレスに満ち、無神経でした。それを主宰していた女性は、私が彼女に話をしていると私にこう言いました。「これはカウンセリングの時間ではない。あなたは裁判のシステムでいえば、負けに負けている状況であり、あなたができる最善のことは、それを裁判所の外に片づけることです。」・・・私の元の加害者はサイコパスで、ナルシストで、それで私は保護命令を彼に対してとっていたんです、こんな人と一緒に子育てや共同養育することなどできません。」  サバイバーのフォーカスグループの参加者

 

共同養育の期待は、コンタクト命令と母親たちにコンタクトを監視させる命令において非虐待親のための保護が限定されていることに反映されている、と先に検討した。英国自閉症協会は、さらにひどい監視付きコンタクトの命令として、自閉症の子どもが同居親なしでは他方親にコンタクトすることはできないのに、同居親に対する、安全上、心理的・精神保健上のリスクにかかわらず、同居親の家で監視付きコンタクトをするよう命じた例を提供した。Southhall Black Sistersもまた、裁判所がしばしばかなり不明瞭な子の処遇の命令を出し、当事者の親の間で決めさせる、これによって虐待被害者を一人にしてその虐待者と処遇をめぐる交渉をさせることに懸念を表明した。DA支援で働く一人はCafcassの、両親が一緒にコンタクトの取り決めを行うべきだという期待は、DA事件では完全に不適切であり、虐待にさらなる手段を与える、虐待者が訴えに使ったり虐待的なメッセージを送る―時には被害者だけが意味を知る隠された言及に使う、両親の「コミュニケーション本」みたいなものだという意見を述べた。

 

裁判所が、両親にコンタクトを支援し共同養育の活動に参加するよう指示することに積極的なのは、虐待的な言動に焦点を当てた介入を限定していることと対照をなす。この裁判所の期待の対比は、虐待加害者たちに向けられる要求が最小限度であるのに、保護された親たちは、どんなにDAや他の子どもたちに対する危害が続くという懸念があっても、彼らはコンタクト命令と共同養育の理想に従う、というものだという情報が多数寄せられた。

 

9.5 裁判所への依存を減らす

裁判所のアプローチにおける4つ目のテーマは、両親に離別後の養育に関し自分たちで決めることを長年にわたり奨励してきていることである。これは、裁判所に来るような事件について、ほかの紛争の解決策を奨励したり、裁判所の決定を受けるより和解で決着するよう奨励することを含む。個人的な合意形成を進めたり親の責任を支援することが全体として適切な事案も一部にはあるが、多くの回答は、それがDA事案にあっては全体として不適切であって、被害者たちと子どもたちは虐待者の力と支配を阻止するために裁判所の保護を必要としている、との懸念を挙げた。

 

2つの主要な問題がこのテーマに関する回答で提起された。:コンセント命令への依存と振返りの聴取が限定的であることである。

 

9.5.1 コンセント命令への依存

私法上の子の事件におけるコンセント命令は、共同養育の推定の結果として、また裁判所が制限されたリソースで処理件数をこなすことを可能にする必要性の両方から、望ましいと考えられている。先行調査が明らかにした主要な点は、子の処遇事件では、最終命令のうち3/4以上が合意によって行われていること、そこではDAを含む事件があたかも合意によってDAの訴えがなかった事件と同様に解決したかのようにみなされていることである(注159)。実務では、それゆえ、DA事件における家庭裁判所によるコンタクト命令の多くがコンセント命令によって行われる。

 

PD12Jは、子の処遇事件で裁判所には、争訟命令(contested order)を出すときと同じ注意を払うよう求めている。子どもに何らかの危害が及ぶリスクがあるか否かを考えるとき、裁判所はすべての事実とそれを支える証拠を考慮しなければならない(注160)。委員会に寄せられたエビデンスではこの選択肢は多くは取り上げられていなかったが、裁判所はコンセント命令を承認する前に、セクション7による口頭または文書の報告を指示する(注161)という規定もある。

 

多くのエビデンスつき回答者は裁判所がコンセント命令に過度に依存していることに深刻な懸念を挙げた。母親たちは数多くの例を挙げて、コンセント命令がわかっているリスクを反映していないにもかかわらず、虐待者、彼らの弁護士や裁判所から、コンセント命令に同意するよう威圧されたことを報告した。

 

「それはものすごいストレス、プレッシャーと恐怖を引き起こします。単に虐待者が何をするか知れないというだけでなく、その命令に従えば最終的にもっと大きな害を引き込むだろうことがわかっているのに、被害者がその命令に従わなければその子どもの監護権を失うというリスクがあるのですから。」 

母親、エビデンスの照会

 

Southall Black Sisteresは、特に、BAMEの女性はしばしば、和解しコンタクトに同意するよう巨大な社会的文化的プレッシャーを受けるとして、コンセント命令を出すまえに、被害者と子どもたちの安全保護を図るためにより尽力する必要があると述べた。

 

専門家の回答者たちも同様に、被害者たちが頻繁に裁判官と相手方弁護士から、DAに関する懸念に焦点を当てないコンセント命令に進むようプレッシャーをかけられると報告した。彼らは被害者たちが、しばしばこれに抵抗できるためのお金も心理的なエネルギーも持ち合わせないと述べた。代わりに、彼らが訴訟を望んだら、彼らがコンタクトに同意しなくても、裁判所は、もしかしたら安全保護を減らしてでも、とにかくそれを命じることを、彼ら自身や相手方弁護士や裁判所によって明らかにすることになる。何人かの回答者たちは、被害者がコンセント命令へ同意すると、子どもたちへの保護の失敗を示すか、または彼らの主張が誇張されたものであったとか「片親引き離し」の試みであった、コンタクトは安全だという暗黙の自白を示すものと受け取られることを指摘した(注162)。

 

9.5.2 レビュー聴取が行われないこと

2014年に子の処遇プログラムが導入されてから、裁判所はレビュー聴取をしようとしなくなった。明らかに、裁判所は、何らかのコンタクトが命じられ後刻裁判所によるレビューがなされるべき場面で、ステップ・バイ・ステップのアプローチをとってきた。レビュー聴取を減らしたことで、裁判所は、コンタクトを「進展させる」ための所定の工程表に合わせ、不安定な状態でコンタクトの命令に進んできた。このアプローチは、コンタクトが最も統制されない形に「進展する」のを早めるかもしれない。

 

「監視付きコンタクトが許される前Cafcassが私の息子のセラピーが長引いていると言った、裁判官が2週間以内にコンタクトすることを命じた、息子はこの時自殺企図になりCAMHSへ送られた。」

母親 エビデンスの照会

 

レビュー聴取を渋ることは、裁判所がそこで発した命令が本当に機能し安全であることを確認するという責任を果たすのでななく、問題があればそれを裁判所に改めて持ち込む親たちに責任を押し付けることである。以下の回答の概要はこのアプローチの不都合を伝えている。母親たち、父親たちと専門家からの多くの回答が、命令は、父母を放置して不適切で安全を害する子の処遇を何とかやり遂げるか、新しい手続を始めさせるのではなく、決まった期間後に自動的にレビューされるべきであると求めた。

 

回答の概要

ある母親は、身体的虐待とレイプを含む威圧的支配の経過の末、夫と別れた。彼女は、その子どもを彼らの核家族から連れ出したことで自分を責めていると語ったが、専門家の助言に従って家を出たと言った。事実認定のための聴取日が組まれたが、彼らが警察の捜査を受けていたために最も大事な主張が省かれた。裁判官は聴取を避けたいと思い、元夫に事実を認めるよう説得した。母親は、これらが「特殊な言語や用語を使ってあまりに技巧的に(法律家たちによって)作られたもので、私が訴えたことは取るに足りないこととされた。」と報告した。Cafcassは共同養育するよう彼女を励ました。裁判官は、直接のコンタクトを命じ、「子どもとわたしがどうなるかを調べるためのレビューをすることは拒否した。」。その母親は、子どもはコンタクト前過呼吸発作を起こし、行きたがらず、父親の怒りの爆発を受け継いだ。その母親は、Children’s  Servicesが記入しようとせず、彼女にはお金がないのに単にもう一度裁判所に行けとだけ助言した時には、無力感を感じたと報告した。その間、父親は、裁判所手続で彼女が彼に同意しないと決まって彼女を脅していた。彼女は、専門家が母親たちに別れるよう言う、だが「裁判所が子ども自身のニーズとも被害者の福祉とも何の関連もなしにこれほどだめな決定をしてさらに悪い状況」に彼女たちを置くという皮肉でその報告を結んだ。

 

 【注】

(146)Re C(子)[2011]EWCA Civ 521 per Munby P at[47].「国の積極的な義務」は、人権法1998の6節に裁判所が、欧州人権条約の権利―第8条で個人的生活及び家族生活を尊重される権利が保障されている―と矛盾しないようにするという条項から導かれる義務である。

(147)PD12J、35パラグラフ。

(148)「直接」コンタクトには、対面コンタクトのほか、電話やビデオ通信のような実質的なコンタクトにあたる形式を含むことに注意。それは第三者による監視付きのことも監視なしのこともある。

(149)「間接」コンタクトは、実質を備えないコンタクト、親が子どもに、または第三者を介して、手紙、カードやプレゼントを送るようなものをいう。

(150)J.Hunt and A.Mcleod, Outcomes of Applications to Court for Contact Orders after Parental Separation or Divorce(2008);M.Harding and A.Newnham, How do Country Courts Share the Care of Children Between    Parents? Full Report(2015)(DA事案の86%で直接のコンタクトが命じられて終わり、コンタクトなしと間接のそれは8%であった);Cafcass&Women’s Aid Federation of England Allegations of Domestic Abuse in Child Custody Cases(2017)(DA事案で結果が分かったものうち57%が監視なしコンタクトを命じられて終わり、コンタクトなしと間接のそれは11%であった);文献の参照は9節12を参照。

(151)J Harwood, Child Arrangements Orders(Contact)and Domestic Abuse-an Explloration of the Law and Practice(PhD Thesis Warwick Universitty,2019)p.162.

(152)PD12J,25-27パラグラフ

(153)PD12J 12パラグラフは、裁判所は、一般的に、子どもの安全を守るためないし子どもを危害から守る保護をかけるためでない限り、安全保護措置が行われた情報がないまま暫定的な子の処遇やコンタクトを命じる命令を出すべきでないとしている。

(154)literature review section9.10.を見よ。

(155)PD12J 38パラグラフ

(156)Re S(A Child)(子の処遇の命令:福祉に関する長期の監視付きコンタクトの効果)、[2015] EWCA Civ689.

(157)literature review section9.10.を見よ。

(158)Perry and Rainey(2007) ‘Supervised, supported and indirect contact orders: Reserch findings’, International Journal of Law, Policy and the family 21:21-47,いくつかのタイプの監視付き命令を体験した親たちへのフォローアップインタビューは、その満足度の低さと、監視付きコンタクト後の問題を明らかにしている。

(159)literature review section 9.6.を参照。Cafcassとウィメンズエイド英国連盟の子のコンタクト事件におけるDAの主張に関する調査(2017年)によれば、初回聴取で出た命令の89%がコンセントによることが分かった。終局命令の86%もまたコンセントによるが、これがDAかDAでない事案かは本調査では分類されていない。

(160)PD12J、パラグラフ8

(161)PD12J、パラグラフ8

(162)こういう理由付けは例えば LD(Re-opening of fact-finding)[2017] EWHC2626(Fam)を見よ。

 

                                                                                                                                  【長谷川京子】

 

 

9.6 結論

多くの回答者は、大多数のケースにおいて、裁判所は、直接のコンタクトを命じる際、DAの主張を無視し、却下し、又はシステマティックに矮小化し、単にDAが継続的な関連性を持たないかのように取り扱っていると述べた。あまりに多くのケースで、DAが認定された場合でさえ、加害者がその認定を受け入れ又はこれに取り組む努力をしない又は最小限の努力しか示していないにもかかわらず、被害者は「気持ちを切り替え」(move on)、コンタクトを促進するよう言われていることを示唆している。そのため、被害者は、虐待者との連絡を含め、時には児童の明示的意思に反してでも、コンタクトが確実に行われるようにする責務を負わされる。これに対し、虐待者は、その虐待行為に対処する責任を十分負うことが見込まれない場合でも、コンタクトの権利を行使することができることが証明された。多くの回答は、このプロコンタクトカルチャーの結果が、家庭裁判所における固定化された性差別の一形態であると認めた。

 

PD12Jの目的にもかかわらず、回答からもたらされる支配的メッセージは、以前の調査と公式統計とともに、DAは、多くの場合、非虐待のケースと異なって取り扱われることはほとんどないということである。

 

リソース上の制約と相まり、プロコンタクトカルチャーの力で、コンタクトと同一のアプローチが、DAの有無にかかわらず、私法上の子の事件にも適用されることになる。その結果、DA事件の大部分において裁判所が行う命令は、DAでない事件の場合と非常に似ており、制限付きコンタクトは、直ちに命令されない場合には、できるだけ早期により制限の少ない又は制限のないコンタクトに進むことが期待される。少数のケースにおいてのみ裁判所は保護措置を課し、これらは、確たる虐待者に対するものとして保護が不十分であり、多くの場合期間が限られていると批判されている。

 

この場合において、コンタクトを促進し虐待者の行動に対処する努力が限定的であることは、虐待者がさらなる介入なしに何とかして虐待をやめるだろうという希望が反映されていると思われる。しかし、このことは、第10章で示すように、子及び成年のDAの被害者に対する裁判所の命令の結果の現実と合致するものではない。加害者に対して自分の行動に対処させることなく無制限のコンタクトを認めることは、子どもや保護者の安全を損なう可能性があるし、損なっている。第11章では、委員会は、改革された手続には、何よりも、裁判所の命令が安全に機能しているかどうかをチェックするための自動的レビューを含めるべきであること、及びDAPPsのレビューが存するべきであることを勧告する。より一般に、委員会の勧告は、裁判所の命令により、子ども及び成年のDAの被害者に対するより効果的な保護を支援するためのカルチャーの変化を促進するよう設計されている。

 

                                                                                                                                    【矢野謙次】

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第10章 裁判所の命令により生じる危害

 

10.1 イントロダクション

 

 

情報提供の照会に対する回答において、回答者らは委員会に対し、裁判所によるコンタクトに関する命令によるDAに関する経験等、検討すべき重要なエビデンスを委員会に提供した。虐待を行う親が別居後の子及び元配偶者に与える継続的な影響に関しては(注163)相当数の研究があるが、裁判所によるコンタクト命令について従前からある研究の大半が、規模(範囲)の小さいケーススタディーの形式をとるものであり(注164)、裁判所における手続及び命令において虐待する父に殺害された子に関する事例といったものを含むようなものであった(注165)。委員会が情報提供の照会に対する回答で得たエビデンスは、そういった研究結果に実質的に付加されるものであり、そのため、本章では前章における各事例よりも、回答及び得られた結果からより広範囲に引用を行うものとする。回答者らは、家庭裁判所における命令が、子及びDAの被害者に対する継続的な虐待及び支配を可能ならしめることを報告した。また、回答者らは、裁判所の命令及び継続的な虐待の結果として、子及び成人の被害者らが負う、長期的な身体的、精神的、感情的及び経済的な害悪、子らの学習に関する害悪及び子らの親子兄弟姉妹及び広い意味での家族関係並びに子らの将来の関係に対する害悪についても回答を行った。

 

裁判所の命令に関する(回答者らが委員会に対しなした)回答には、父と母とで一般化することができる違いが存在した。母らは、子の安全に対する強いレベルの不安を表明した。母親らの多くが、自身の子らが家庭裁判所に行くことで子らの状態が悪化することを感じ、また、母親ら自身が、裁判所の手続後の自身の状況について、無力感、怒り、苦悩、絶望感、救いようのなさの中にあることを表明している。父らからの回答はあまり詳細な内容ではなく、父らに対しなされた裁判所の命令の結果ないし実効性についてフォーカスするものであった。父らは、一般的に、裁判所の命令を実施した結果、子に虐待がなされること、子の安全又は子が虐待されるような環境に陥ること示すことに対する懸念を示すことは少なく、子が母親と同居する又は母親とコンタクトを行った結果子に生じる害悪に関する事実についても、回答としての提供されることは少なかった(注166)。

 

 

 

10.2 コンタクト命令を通じた虐待の継続

 

母親らは、コンタクト命令による継続的な虐待、支配及び苦しみについて極めて多くの回答を行った。何人かの母親は、家庭裁判所での手続の後に虐待が悪化し、子がより重大な危険にさらされている事態を憂慮している点につき回答した。母親や子が、裁判所が命令した虐待であると受け止めており、(同人らが)まさにその虐待の対象とされているのだ、ということが一貫して繰り返し述べられている。

 

「裁判所は虐待者に私たちへの虐待を続けることを許しただけではなく、過去3年間私たちが受けた虐待に積極的に関与したのです。」

母親、エビデンスの照会

「私は、コンタクトの間、悪い方向に置かれた子でした。父は暴力的な人間であることは初めから分かっていましたが、父は、私には7年間、私の兄弟にはそれ以上にコンタクトの機会を与えられ、私が父と最後にコンタクトを行ったときは、私の父が私にパンチを見舞ったときでした。7年間、私は、父を訪問した際に、父に殴られた父のガールフレンドや、父の新しい妻にたくさんの傷跡があったこと、私の母を殺したいんだという強迫やどうやって母から金を巻き上げるかという言動を見ました。これは全て虐待です。私は、毎週末や学校が休みのときに、父と会うことをとても恐れていた子でした。」

児童虐待の被害者、エビデンスの照会

 

多くの母親は、子と自らを虐待から守るため、父との関係から逃れたのに、家庭裁判所は、(逃れたことで得た)保護を破壊ないし弱体化しただけであったと説明している。裁判所で下される命令の結果、母親らはしばしば、自らや子の安全を確保する方法も、逃げる手段もないことに気づき、かつ、恐怖の中で生活することとなった。

 

「今(心理的、物理的及び経済的な)虐待が、私の2人の末っ子に起きようとしています、これは家庭裁判所が子らに一晩中監督の無いコンタクトを望んでいるからです。元夫はこの(命令の)仕組みを、私をコントロールするために利用しています。別居してから3年経ちますが、私は恐怖の中で彼が次に何をしてくるのかを待ち構えて暮らしています。」母親、エビデンスの照会

 

これらの回答は、虐待が第三者に報告されたら現状が好転するという被虐待者の期待が、事態がむしろ悪化するという現実によって否定されることをみてきた実務家が確認している。

 

情報提供の照会に回答した多くの母親らは、虐待者とのコンタクトや同居の際に、直接的な虐待があったことを述べた。そのような母親らや母親らに協力する専門家は、裁判所、Cafcassウェールズ、警察及び子のソーシャルケア機関が、コンタクトの際に母親や子に生じた、重大な物理的、性的、心理的な虐待に関する説明を含む虐待に関する懸念等に対処することを拒み、そしてコンタクトは実施されなければならず、コンタクトを実施しない虐待の被害者を非難していると報告する。

 

「元夫が私の知らないところで息子を虐待していたことが判明しました。彼は私に虐待した後に、私のもとを去りました。彼が彼の父親を伴って面会した際、息子を虐待していたのです。私はこれを報告し、警察に伝えました。私の息子は今日まで何があったかを話すことができません。息子は学校でインタビューを受けましたが、何もなされませんでした。元夫は私を威圧し、学校のクラブや私の職場、自宅に出没します。私は性的な嫌がらせを受けないようにも求めました。警察は裁判所の命令があるから手出しできないと言ったのです。」サバイバーフォーカスグループ参加者

 

「最近、私の娘が、父がどのように私の娘を虐待してきたか、CAFCASSに伝え、弁護士にも伝えました―ソーシャルサービスは、これは家庭裁判所の問題だからといい調査しないつもりです。実は―私の娘が(虐待を伝えた)翌週、彼らは娘に父との同室を強いたのです。娘は駐車場で泣き叫び、そのまま泣き震え、部屋に入りませんでした…子からの明確な証拠や(事情の)開示があるにもかかわらず、私が何とかして行おうとしていることを、CAFCASSは片親引離しになると考えているのです。        サバイバーフォーカスグループ参加者

 

母親らは、(彼女らが)虐待がなされるようなコンタクトへの懸念を提起すると、それが虚偽であり子を引離すものと非難され、子はそのようなことはないと伝えられ、虐待する親に送り返されたと述べた。母親らからは、子が虐待するような親と一緒にいる間ずっと、恐怖を感じているという多数の説明が提供された。

 

「私たちの子は、裁判所の命令により、2週間に6時間、監督なしで虐待した者と過ごすことになっています。6時間はとても大きなダメージを引き起こしうるものです。虐待者(父)と別居したのは子が2歳の時でしたが、裁判所は彼に虐待を再開させたのです…この6時間、子どもが大丈夫か、加害者が最寄りの空港に向かっていないのではないか本当に不安です。私たちの子は、彼が英国に滞在するためのチケットのようになっているのがわかるでしょう。」

母親、エビデンスの照会

 

子に対する直接の虐待と同様に、母親らは、コンタクト命令に関連して、彼女ら自身に対する継続的な虐待の経験を回答した。我々は、虐待者が、子を人質のように使い、母親らに対し強制的な支配を継続的に行使したのだという多くの説明を受け取った。

 

「虐待する親は、虐待される側の親に対して用いるための情報について、子に対し絶えず質問し、裁判所に提供できるような事情にコントロールできるようにするのです。虐待される側の親に近づき、さらに虐待する親と一緒にいないときでもさらに虐待される親を支配するために、子は虐待する親により人質のように利用されるのです。虐待された者は、虐待者のせいで、新しい関係を継続し難いと感じます、しかし実際にそのような関係を持ち、サポートをするときに虐待する親は子に対し、これを用いてますます多くの質問をして、そのような情報を得ようとするのです。子はよい状況下にはありません…これが、私が自身の健康も踏まえ娘を諦めた理由であり、私は、虐待する者が私に近づくために娘に対し何をするのかを考えざるを得ませんでした。」   母親、エビデンスの照会

 

Refuge(虐待被害者を支援するNGO)は、虐待者が子に対し電話やタブレットを与え、これらが子や母親の動きを追跡するために追跡アプリがインストールされたものであることが判明したという事例を提供した。同居親はまた、コンタクトに対する子の反応にも対処を余儀なくされることになる。

 

 「子らは(養育)放棄され、歯も磨かせず、入浴もさせず、食事も与えられないか不十分であり、睡眠も定時でなく中断され(虐待する親とのコンタクト中に)、家に帰ると、疲れ、自暴自棄になり、操られ、虐待(精神的な者者含む)され、フラストレーションとなり母に激しくあたります。父は、母が不適格だと非難するのですが、彼(父)が隠れた原因です。」

家庭内暴力関係のワーカー、エビデンスの照会

 

子の主たる世話を行う親に対する虐待により、その親の精神状態やその親の子のニーズに焦点をあて対応するような能力に影響が生じるような場合、その子は、直接的にも間接的にもDAの影響を受ける可能性がある(注167)。

 

「自分のいるコミュニティ内で嘘を言われて、深刻な精神的苦痛に苦しみました…また、そのような私に対する嘘の結果、私は重いPTSDになりました。裁判所は片親引離しには関心がありませんでした。引離しにあたる行動は、2011年も、2017年もCAFCASSによって特定されませんでした。子たちは、学校で苦しみ、生活は非常に困難です…今18歳になる上の息子と私は、10歳の時から疎遠になり、息子が虐待的な物言いやヘイトスピーチに小さいころから晒されたことによる私たちの関係への影響は壊滅的なものでした。裁判所は、(子に)疎んじられ、精神的にも感情的にも虐待するような親によって引き起こされた容赦ない苦痛により、私が深刻な心身の故障に至った結果最終的に里親監護となった下の息子への影響を認識することができませんでした…私は過保護な親と見做されていますが、私は過保護な親ではありません。私は2人の子を、私を子らと生活から確実に消そうと決めたもう一人の親から守るために苦労した養育親です。」              母親、エビデンスの照会

 

何件かの回答結果は、子らが父親と暮らす又は同居するという(内容の)命令が、(同居しない側である)母親への経済的虐待をどう永続させる効果を有したかを述べるものであった。福利厚生と養育費に関する規則に従い命じられる命令は、母親が受ける収入を減少させ、又は母親が父親に対し養育費の支払いを要するといった結果をもたらした。専門家の回答者は、虐待の疑いのある親に(子の)居住先を移す命令は、従前同居していた虐待していない親の子に関する利益・給付を失わせ、いくつかのケースは(虐待していない親)がホームレスになるような結果を生じさせ得るものであることを確認している。

 

 「2016年、私はシングルマザーとして苦労していて、娘たちの課外活動の支出を負担できないでいたころ、彼(娘の父)はぜいたくな休日や高価品を得る余裕があったので、適切な養育費の支払を求めました。私の養育費の請求への仕返しとして、娘たちの父は、娘らと(全体の)半分の間同居をするための裁判手続を始めました。私は、それに対する主たる懸念の原因として、DA(の問題を)挙げたのです。CAFCASSは…50:50の監護を実施することを勧めました。私はほかの選択もできず、やむを得ず50:50の養育分担のコンセント命令に署名しました。署名したその日、娘たちの父は、歳入関税庁)に連絡し、今(父自身の方が母よりも)娘の養育を多くやっているので、私の代わりに児童手当を受給し税額控除受けるべきだと言いました。…児童手当と税額控除は、12週間の間受けられませんでした。これらの給付を誰が法的に得るべきかが確認されている間、支払いは完全に停止されてしまったのです。この間、最早私は自分の財政的な支払責任を満たすことができず、クレジットカードの請求も支払えなくなり、債務救済命令(訳者注:Debt Relief  Order、通常12か月内の期間に生じた債務を免除する命令で、資格のある債務アドバイザーを介し申し立てる。)を取得しなければなりませんでした。」     母親、エビデンスの照会

 

母親らや専門家からの回答のうちいつかのものは、虐待の被害者が虐待者からより安全な場所へ移動することを妨げることになる、プロヒビテッドステップ命令(訳者注:一方の親が子と特定の活動や旅行、居住場所や出国を妨げる内容の裁判所の命令)に言及するものであった。逆に、虐待者が何マイルも移動して離れたことで、子のコンタクトのために、虐待被害者に長距離の運転を強いたという報告も存在した。

 

 「父は、父と母が90マイル(訳者注:約145キロ)離れていたので、中間地点での引渡しを求めていました。父母が別居した際に父が引っ越したことから、私たちは(子自身と母)はいつもこの問題と対峙しなければなりませんでした。母は私と同居していましたが、私が(そのことで)弱っていたことはよく知られており、子どもが(車に)乗っていることを気にしない道路利用者や彼ら(父母と子)が常に安全とは限りません。しかし父は自分の思い通りにしたのです。」                        虐待被害者の姉又は妹、エビデンスの照会

 

回答から分かる一つの重要なテーマは、裁判所の命令によるコンタクトの影響というものが、DAの被害者を、彼らの子が自分で決定できるに十分な年齢になるまでの間、虐待者との関係の中に追い込むものであったということである。(虐待の)被害者は、家庭裁判所の手続が虐待加害者にさらに権限を与え強化し、支配を強めたと感じていた。被害者の見解においては、加害者は、被害者にさらなる危害を加ええるために裁判所の手続を利用することができる、ということを見出していたのである。

 

「裁判所がしたのは、私の夫に力を与えることだけでした。家庭裁判所での手続後、今夫はとても強い力を持っています。既に彼は深刻な暴力の加害者でしたが、今はさらに強力です。5月にあって最終のヒアリング以降、私には絶え間なくこのようなメッセージを受けています。『どうやってお前から全て奪うのか見ておけ』『どうお前を破壊したかを見ておけ、お前には何も残らない』」

サバイバーフォーカスグループ参加者、情報照会の提供より

 

BAME(訳者注:Black、 Asian、 and minority Ethnicの略)のフォーカスグループにいる母親は、裁判所に行った際に、裁判官が自分の話を聞いてくれているという実感が全くなく、裁判官の力を恐れていたと回答した。彼女は、自分が(虐待の)犠牲者であったとしても、助けを求めている人を怖がらせることは正しいことではないと考えている。彼女は夫を恐れて生きてきたが、今は法律も同じように恐れて生きているのである。

 

何名かの母親は、回答において、(母親らが)虐待者と一緒にいる方がより安全であろうと結論づけた。何故ならば、その方が子を(虐待者から)守る機会がより得られ、子が虐待者と一緒に放置されないようにすることが確保できるからである。

 

同様に、Mosac (訳者注:1992年にロンドンで設立された、性的虐待を受けた子の親(虐待していない側の親)や監護者の支援を行う団体(Mothers of sexual abused children)は、彼らが支援している多くの親が、その親の家庭裁判所で体験したことの結果として、(その親が)子どもの性的虐待を再び当局に報告することはしないと言うのだ、と語る。サウソールブラックシスターズ(訳者注:1979年にロンドンで設立された黒人及びマイノリティの女性人権団体)は、被虐待者は、「家庭裁判所のシステム及び家庭裁判所が被虐待者や子らを危害から守る能力があるのかという点に対する深刻な不信感」を伝えるものだと述べる。他の専門家らは、むしろリスクのある裁判所の手続や裁判所が課す命令よりも子をより保護できるからという理由で、コンタクトの取決めに同意した母親や、DAのリスクが高い状況での生活に戻った母親の例を挙げた。



 

 

10.3 コンタクトに対する抵抗及びコンタクトを強制することの害悪

 

委員会は、子らがコンタクトが行われる見込みに非常に苦しんでおり、それを避けるためにあらゆることを試みているという多くの報告を受けた。

 

 「コンタクトをしなくてもいいように、必死になってベッドの下に隠れたり、部屋に鍵をかけたり、専門の監督下にありながら道路に飛び出したり、自傷したりする子、学校に行くことを拒否した子、激しい腹痛により虫垂炎の疑いで病院に運ばれたものの、ただ泣くだけで感情的な愁訴だった子、引きこもる子、「安全な」親に固執し、ふるまいが幼児退行化する子、怖がっている親について聞かれると緊張し無言になる子、ほかの子らと付き合うことをやめて定期的に悪夢を見る子らの事例が、私にはあります。

離婚及び家庭内暴力の専門家、エビデンスの照会

 

しかしながら、我々に対する回答者らは、高い頻度で、コンタクト実施の可能性に対する恐怖やコンタクト中の害悪についての報告にも関わらず、子らは子らが望まないコンタクトをするよう命じられ、母親らは子らにそのようなコンタクトを強いることを求められることもまた、指摘した。

 

10.3.1 コンタクトを強いられた子らの経験

 

多くの母親らが、子らが虐待をする親とのコンタクトを強いられることのへの不安を表明した。

「12歳のとき私の息子は発言を許されず、私は息子を父のもとへ行かせなければならず、息子はそのことで私を憎んでいました。就学状況は下り坂で、息子は学校から飛び出してしまっていました。息子は父親に傷つけられていたのですが、私は息子を行かせ続けなくてはなりませんでした。あるときまで、息子はベッドで裸になり、(コンタクトに)行くために私が息子の服を着させなければならないんだと言っていたのです。」               母親、エビデンスの照会

 

幼少期におけるDAの被害者からのエビデンスは、コンタクトを強いられた体験が類似することを語るものである。

 

「私は幸運にも、自分のPTSDによって、青少年精神保健サービス(訳者注:The Child and Adolescent Mental Health Services、国民健康サービス機関の一つ)のもとに来ました。このことで、私が7歳ころから続きていた望まない父とのコンタクトから救われたのです。弟は3歳下なのですがそれほど幸運ではなく、私たちの父と日中コンタクトをしなければなりませんでした―CAFCASSの女性が現れ、面会に行った後、弟は涙を流して悲鳴を上げ、嵌められたと感じていました。私の弟は、父親に会いたくないと主張したにもかかわらず、隔週末で面会を実施させられました。」 幼少期におけるDAの被害者、エビデンスの照会

 

回答は、強制的なコンタクトが、子らに対しいくつかの重大な結果をもたらすことを明らかにした。第一に、子らが安全だと感じない状況下においてコンタクトを強いることは有害であるということである。

 

「子らの精神的健康は、子らを身体的精神的に傷つけ、子らが行くことを望んでいない者と会うことを子らに強いることで、非常に損なわれます。私の子どもは、父と会うことに関連する、コンタクトの場所をとても怖がっていました。」SafeLives(訳者注:英国のDAに関する慈善団体)の調査回答者

 

ある実務家円卓会議の代理人は、裁判官がCAFCASS職員に対し、間接的なコンタクトを推奨するセクション7報告から、コンタクトセンターにおける監督下でのコンタクトに変更するよう説得した最近の事例について述べた。

 

「〔その母親は〕子らを連れて行き始めました。初回の日に、上の子は車から降りることができず、子らは行きたくないので蹴ったり叫んだりします。最終的には母親が子らを連れて行きます。次回の面会のために、母親は事前に連絡し、これ(コンタクト)ができると思えないと(CAFCASSに)言います。CAFCASSの女性は、『子らに(母)とどこかに行くと思わせて、騙してセンターに連れてきてください』と言うのです。そうして、母は激しく泣き叫ぶ子らと(センターに)到着し、家に連れて帰るのです。上の子は全てのことが完全にトラウマになり、今やうまくいかないことを全て母親のせいにしています…私は全てのことを明らかにするため、裁判所に再申請を行う必要があります、しかし、裁判所とCAFCASSが行ったことのせいで、子らが社会福祉サービスの関与を必要とするくらいトラウマを抱えているような状況に等しく、これは完全に惨事なのです。」

弁護士、実務家円卓会議より

 

第二に、既に引用したものが示唆するように、子らが(大人が)耳を貸さないと感じたり、子らの強く示された意見を無視したりすることは、有害であり、子らの力を削ぐものであるということである。

 

「私の子はチルドレンズサービス(訳者注:Children’s Services、子どもの保護のための公的機関)から、監視の無いコンタクトや泊りでの滞在に行くのを拒否しなくなるまで、子を養護施設に入れる、転居して父親と住ませる、母親と二度と会えないと言われていました。当時娘はあかるい10歳の子でした。私たちは共にトラウマで精神的に苦しみ、私の子は睡眠に問題を抱えていました。私の子は心理的に虐待され続けていたのです。」母親、エビデンスの照会

 

第三に、CLOCK(訳者注:The Community Legal Outreach Collaboration Keele、大学、法律事務所、住宅協会、市民相談室やDV・性的暴行の支援団体等が共同する団体)は、子らが困惑するメッセージを受けたことにつき回答を行った:一方で彼ら(子ら)は、虐待的な行動を認識し報告することの重要性を教わるが、他方で彼ら(子ら)は当局の職員などから、一方の親からの虐待的な行動を我慢しろと言われるのである。有害なことであるが、子らは子らが感じる恐怖や苦痛を無視するよう勧められるか、慣れるように言われるのである。この母親は、コンタクトを可能にするため(行動の)変化を求められたのは(子の)父ではなく、むしろ子であると述べる;

 

「確かに、6歳の子の意思に反して、子が信用せず、傷つけるようなことを言ったりしたりし、委縮させたり、取るに足らずない存在だと感じさせたり、不安にさせたりするうえ、話も聞かず、排他的で育児放棄し、無視し、養育せず、怖がらせ、孤立させ落ち込ませるような人の下へ行かせることは健康的なことではありません、それが例え自分の親であってもです。そういった父の行動を変えてくれるよう働く人による実際のサポートがないと、子と毎年いるだけで父親の行動は変わることはないでしょう。私は、裁判所とCAFCASSが、子どもの願望や感情親の関与よりも重要でないという信念、それ故に私の子を生涯にわたる傷を負わせたと思っており、それ故に父親の行動を変えたり、関係を改善したりするためのサポートなくコンタクトを強いたことが、私の子を生涯にわたり傷つけたのだと思います。」

母親、エビデンスの照会

 

最後に、特に懸念されることとして、子らは、子らの虐待の影響から回復する際の主要なよりどころになる、子らを保護する(側の)親の支援を奪われているということである。多くの回答から認められるように、コンタクトの結果(内容)を進展させることができなかった母親に対する脅迫は、子らがコンタクト中に恐怖を覚えたり虐待を受けたりしたとしても、子らが誰とも話せないという結果をもたらすのである。子らは思い切って自分の母らにコンタクト中におこったことを話すことができないことがあり、これは、(子がそれを話すと)母の「不可解な敵意」又は「片親引離し」を示すものとして裁判所において利用されうるためである。その結果、コンタクトを通じて継続的な虐待を受ける子らは、孤立していくことになる。

 

「ええ、彼女〔母〕は私をとてもサポートしてくれました、しかしあのような状況では、サポートするのは難しいと思います、何故なら子をコントロールしたんだと非難されるからです。そして、それは5年間続きました。ですから私はその5年間頼る人がいなかったのです。何故なら家族にも頼ることができなかったのですからです、なぜなら…それはよくないことで、裁判所での私の最善の利益でもありませんした。5年間、私は常に一人でした。」

FJYPBのフォーカスグループ参加者

 「一番信用できる人が自分の父や母かもしれないのに、全部を無効にされてしまうことから(父や母に)話せないというのも大変で、そう、とても大変なことです。母から『何が欲しいの?』と言ったことで母がトラブルに巻き込まれたことが一度あったことから、母に何も言えませんでした。しかし、本当に母は『何が欲しいの?』という意味で言っており、それを(紙に)書き上げたのです。」

FJYPBのフォーカスグループ参加者

 

回答からは、さらに、子どもの孤立や支援を奪われるという事態は、苦痛やトラウマになるコンタクトを経験した子らが利用できるようなメンタルヘルスやカウンセリングのサポートが欠けていることにより、悪化していることが述べられた。これは、リソースの限界とサービス不足が原因である可能性あるが、裁判所が介入した結果ということもありうる。

 

「私の子は、地域の女性援助機関による、子や特に母が虐待から回復するためのグループプログラムに通っていました。私のケースでは、裁判官は、そういったグループは子に対し子が虐待を受けたことを教えたり、子の悪い言行を生じさせたりするらしいと言い、そして、そういったグループに参加していなければ子ら自身が被害者であることも知らないだろうと言って、グループへの参加を止めたのです。」         サバイバーフォーカスグループ参加者より

 

逆にMosacはこのように述べている:「最近Mosacに対し報告された2つのケースでは、家庭裁判所は、子らが継続的に虐待を受けているにもかかわらず、子に対し、子が虐待されていないことを理解させるための治療を受けるようにという命令を下した。」上記のとおり、子らはコンタクトへの拒否を克服する変化が期待されているようであるが、他方で子らの虐待からの回復には同程度のサポートがあるとは言えない。

 

委員会には、よりサポートの受けられるような実務の例がいくつか提供された。

「私は(最終的に)私元夫の私たちに対する支配を理解した裁判官から、裁判所の命令において驚くべき発言受けました。その発言とは、子らが行きたくない(虐待のエピソードの後に安全でないと感じた)時には子らを保護すること、そうすれば、彼(父)とのコンタクトの時間にそれ(保護)がなされる以上、法律上父のもとに行かなくてよい、というものでした。この発言は、『母がコンタクトをサポートしている間は、子らの希望や感情は考慮されなければならない』という発言に沿ったものでした(訳者注:つまり、コンタクト時に子が母に対し、父とのコンタクトに行きたくないという意向を示すと、実際の父とのコンタクトの時間においても、母がコンタクトをサポートしている状態となり、その間は子の意向が考慮されなければならないので、父とのコンタクトの時間であっても、行かないことが同コンタクト命令に反するものではないことになる。)。何人かの警察官は、何という素晴らしい裁判所での命令での発言であり、もっとこのような発言が裁判所での命令でなされてほしいと私に言いました。その裁判官は私に対し、裁判所の命令に関する発言を息子らに伝えるよう言いました―裁判官は2人の子に子の発言で力を与えてくれました。そうしてくれたのです。それは私たちにとって本当にかけがえのないものであり、子らが長期的に安定して自分自身を形成することが可能になったのです。」母親、エビデンスの照会

 

10.3.2 母親によるコンタクトに対する抵抗

 

父親からの回答の多くは、(子らと)同居する母親らがコンタクトを完全にコントロールしたこと、(母親らが)コンタクト命令に違反したが処罰されていないこと及び家庭裁判所がコンタクト命令を執行するのに十分な力を有していないことに対する不満であった。

 

「子どもについての取り決めの命令は、母親らに対して執行しないのですから、どのように紙に書いてもその価値がないのです。執行が適切に執行される場合はたった0.8パーセントです。…母親らは命令を無視して(子を)引離すよりも、コンタクトを促進すべきです」       父親、エビデンスの照会

 

しかしながら、コンタクトを執行する事例についての執行日に関する唯一の研究(注168)においては、「不可解に敵対的な母親」はケース中のごく少数(4パーセント)しか現れず、他方、ケースの約3分の1は、DAや児童虐待に関する現在の危険または安全に問題があるものであることが判明した。これらのケースでは、命令が安全でないことからコンタクトは奏功していない。また、この研究においては、裁判所が、リスクのあるケースのほぼ半分を、相互の紛争及び不可解な敵意を伴うものと「誤解」し、その結果、安全確保の問題を不適切に管理、介入し、さらに安全を欠く命令をもたらしたことも判明した。この研究では、これらの結果が裁判所における、プロコンタクトカルチャーに起因するとする。

 

「片親引離し」という反論(counter-allegations)は、虐待被害者が家庭裁判所においてDAの主張を提起ないし追求することを妨げ得る要素となりうることを第5章において、また、子らの声を取り上げ奪う手段となりうることを第6章において述べた。上述のいくつかの引用に見られるように、「不可解な敵意」又は「片親引離し」という告発は、母親らがコンタクトを促進させたり安全上の懸念からこれを停止したりすることを困難にする状況、又は子供がコンタクトを拒否し、拒否について(子の)母親が責められるような状況を生じさせ得るものである。これらは、広範囲の回答及びいくつかのフォーカスグループに反映されていた。

 

委員会は、一部の同居親が、子らを非同居親とコンタクトさせることに反対する可能性があることを認めるものであるが、片親引離しの主張とDAとの強い関連性(注169)や、研究によるエビデンス(注170)及び回答のウェイトからは、片親引離し(されている)という告発は、しばしば子らを保護し、より安全なコンタクトの取り決めを実現しようとするDAの被害者を脅したり非難したりすることに用いられる、ということを示唆するものである。

 

相当数の母らが、(子の)コンタクトを促進させないと子を父と同居させるという脅威に言及した。これらはさらなる虐待の形態として彼らが体験したものである。

 

「虐待者が何をするだろうかという恐怖だけではなく、最終的にはさらに害を生じさせることがわかっていても命令に従わないと(虐待)被害者が子の監護を失ってしまうというリスクが、膨大なストレス、プレッシャーそして恐怖を引き起こすのです。」    母親、エビデンスの照会

 

いくつかのケースでは、母親らは、虐待的な父が子どもと引離されたと感じたことを理由に、(子の)居住先が虐待的な父へ移され、子らに対し保護やサポートを提供することができなくなったことを述べた。

 

「私が8歳になる子を最後に見たとき、息子は私に『お母さん、お母さんがいなくて淋しくて、怒ってる。』と言いました。ソーシャルワーカーはそのようなことは記録されていないと言いました。その前にあった、子が6歳のときのコンタクトでは息子は私に『お母さんいつまた一緒の家族になるの?』と言っていました。息子は沈んで(メルトダウン)してしまい、コンタクトにかかわるワーカーは息子が『お母さん、お母さんと一緒に家に帰りたい』と言ったのを目撃しました。そして私が言えることは…私の合意によれば…裁判所で何が起きているかについて息子らに話すことは許されていないのです。私は、息子らに家に帰ってきてほしいと言うことも許されていません…ですから私は子らを安心させてあげることができず、いつも家に帰ってこれるよう子らのために戦っていると言うこともできません。何故彼らは母と子との関係、コンタクトを促進させないのでしょうか?私には未だ親責任(parental responsibility)がありますが、何の意味もありません。」        サバイバーのフォーカスグループ参加者

 

委員会により受け取られたエビデンスは、母親らに落ち度があると認識された場合、DAを行った父親らよりも母親らの方がより否定的にみなされ、また行動の変化を求められやすいということを示唆している。同エビデンスはまた、プロコンタクトカルチャーの中で、裁判所は過度にDAを過小化又は無視、「不可解な敵意」または「引離し」母親というステレオタイプを受け入れる傾向があることを示唆している。母親と父親に適用されるこのような明らかなダブルスタンダードは、幼少期におけるDAの被害者により、否応なしに述べられるのである。

 

「当時の手続における子として、当時の記憶と成人して事件記録に全てアクセスできるようになったことから話をすると、私は、子を守ろうとする母親らを中傷・脅迫し、父らがどんなに虐待的で害のある者であっても、父らの権利や役割を高く評価してすべての人やことを排除するような、家庭裁判所の深刻な女性蔑視(ミソジニー)唖然としています。これ(女性蔑視)がなくなるまでは、女性や子ら両方への危害は危険かつ深刻なままです。」

幼少期におけるDAの被害者、エビデンスの照会

 

10.3.3 虐待的なコンタクトによる長期的影響

裁判所の命令によるコンタクトによる子らの長期的影響に関する回答者の報告は、概ね別居後の虐待親とのコンタクトによる子らへの長期的な影響に関する文献と一致する(注171)。それらはまた、有害な幼少期の経験(adverse childhood experiences (ACEs))の長期的な影響に関するより広範な文献とも一致する(注172)。加えて、回答は、裁判所が命令したコンタクトが成人の虐待被害者へもたらし続ける影響への洞察や、家庭裁判所の手続及び命令が子や成人の被害者がトラウマからの回復可能性を積極的に害しうることを提供した。

 

10.3.4 回復の妨げとなること

回答からは、子や成人の虐待被害者が家庭裁判所の手続中サポートや治療サービスへのアクセスを妨げられたという種々の態様が報告された。いくつかのケースでは、虐待者はこれらを妨げるためにプロヒビテッドステップ命令(親責任の一時停止命令)を取得した。他のケースでは、裁判所自身がサポートに関するリソースに制限を設けた。例えばCARA(訳者注:Centre for Action on Rape and Abuse、性的虐待や児童虐待に対するサポート団体で、1989年に設立されたColchester Rape Crisis Lineを母体とする団体)は、性的虐待を開示した子に対し、家庭裁判所の手続係属中の間、専門家のサポートや治療を受けてはならないとする(裁判所の)命令を報告した。彼らがこの問題を関連する指定家庭裁判所裁判官に提起した際、そのような命令はグッドプラクティスガイダンス(注173)に従ってなされたことを告知されていた。これは、『子が性的虐待を受けたかどうかの問題は裁判所により決定され、その問題に対して管理、カウンセリング、治療を他の機関が行うことは、裁判官の判断まで待つことが必要的である。』と述べるものである(CARAからの回答)。しかしながら、CARAは、このガイダンスが、現在の刑事司法における考え方や、子の犠牲者とされる者への治療の提供に関する規定である検察庁のガイダンスと大きくかけ離れたものであると述べた(注174)。

 

子が専門家によるサポートにアクセスできるとする規定は、性的虐待に関連する刑事司法の手続に組み込まれており、同規定は、証明がなされていない性的虐待の問題と矛盾しているとされていません。家庭裁判所がこの種の支援を拒否することは、子がトラウマ的な体験から改善することを妨げる可能性があります。遊戯療法(訳者注:穏やかに行われ子が主導し、性的虐待への直接的な言及を伴わないもの)を否定することも、12歳未満の子のための性的虐待に対するサービスの運営方法について重大な誤解の存在を示すものです。CARA

 

親の被害者は、家庭裁判所での手続が係属している間、支援サービスやカウンセリングにアクセスできないために、依然として虐待の状況下で(再び)生活することになったとを述べた。

 

 「SARC(Sexual Assault Referral Centre、訳者注:性的犯罪につき相談することのできる機関で、同機関への相談は、警察への相談・報告をしていなくても受け付けられる。)は、彼らがカウンセリングに関わる前に、我々が家庭裁判所サイド(での手続)から外れなければならないと言います。裁判所にとっては素晴らしいことなのでしょうが、支援へのアクセスが遅れました。一体いつ家庭裁判所の手続から外れるのでしょうか」サバイバーフォーカスグループの参加者

 「私は今、PTSD及び解離性障害と診断され、ノイローゼでもあり、これらは全て彼が家庭裁判所の手続を開始した以降に生じています。そして、私はメンタルヘルスチーム下にあるのですが、家庭裁判所の手続が終わるまで治療を開始しないことから、彼は未だ私を虐待することを許されていると言えます。」

母親、情報提供の紹介より

 

回答からは、一度最終的な命令が下されると、虐待を行う親との継続的なコンタクトが、いかに子及び親の虐待被害者に対する被害回復のプロセスを開始することの妨げになるかの説明が提供された。そして、彼ら(被害者)は、虐待のリスクに対処するために、サバイバルモード(訳者注:中断なく、延々と難易度の課題に対処しなければならない状況が長期にわたることであり、元々はTVゲームの用語である。)下に残ることを余儀なくされるのである。

 

「我々のアドボカシーと支援活動に最も共通する側面の一つは、大抵、虐待者に有利な居住/コンタクト命令が命じられるといった子に関する私法上の手続による感情的な落ち込みに対処しなければならないということです。我々は女性の生活再建や回復過程を支援するというよりもむしろ、子に関する取り決めに関する命令の結果、被害を受けた女性や子を継続して支援していかなければならないことに気づきました。我々は、集中的な支援とカウンセリングを提供するだけではなく、そのような命令がなされたことにより増大するリスクに対処する女性を支援してかなければならないのです。」サウソールブラックシスターズ

 

10.3.5 子に長期間にわたり生じる害悪

回答からは、裁判所が虐待する親らとのコンタクトを命令したことに起因して、子が被った害悪に関する多くの詳細かつ不安を生じさせるような説明が提供された。委員会は、回答者が述べた被害の規模及び深刻さを正当化することは困難であることを認識するものである。我々に対しては、子らが身体的な障害、性的虐待及び感情的に踏み荒らされてしまった複数の経験;摂食障害、睡眠障害、夜驚症、おねしょ、腹痛、心配、不安、過覚醒、怒り、行動に関する問題、自己の過小評価、ADHD、OCD、PTSD、複雑なPTSD、及びうつ病が述べられた。加えて、回答からは、子らの学校での学習に影響が及び、子らが学習障害となり学校から排除されている経験が語られた。子らが自傷行為を行う多くの子の事例や、何人かの子らは自殺を試み、さらにひどいケースでは自殺をする子らの事例も報告された。

 

「〔監督なしでのコンタクトを行う命令が下された後〕子はすぐに暴力的になり、おねしょをするようになり、食事を拒み夜驚症を発症しました…。私の子は裁判所が12J(訳者注:Practice direction(前出)の12J)に従うことを拒否し、子を守ることを拒否したために深刻な被害を受けました。」

母親、エビデンスの照会

 「私の一番上の娘は慢性的な腹痛を発症し、恐れていたコンタクトのある週の間は嘔吐をしていました。一番下の娘は、完全に諦めてしまい、2人の子が私に何度も何度も(一番下の娘が)虐待されていると言っても、何も文句を言わなかったのです、ですから問題にならず、だれもケアせず、耳を傾けることもありません…一番下の子は、成人男性と同じ部屋に長時間いるのを恐れていました。学校は、娘が男性教師の授業を受ける際の反応をとても心配していました。娘がとてもヒステリックになるためです。」母親、エビデンスの照会

 「私はPTSDを発症し、それがとてもストレスでした…私の姉妹の不安はひどくなり、学校をやめてしまいました。」

子ども期におけるDAの被害者、エビデンスの照会

 

多くの回答は、子らがCAMHS(注175)を紹介してもらう、又は利用する必要性があることを述べるものであった。これらの回答は、しばし利用可能なソースの不足及びトラウマを抱えた子らの適切な治療の確保の困難さを懸念するものであったが、家庭裁判所の命令に起因する害悪の永続化は、CAMHSに対し大きなコストを生じさせたことを示唆するものである。

 

子らの身体的精神的な健康に与える影響に加え、回答からは、コンタクトを通じ、子らが経験した継続的虐待により、子らの関係性も破壊するということが認められた。例えば、虐待父らが、子らを自分の母親から引離し、不適切なロールモデルにさらし、健全な関係性と不健全な関係性との違いを理解しないまま成長したというものである。一部の子らについては、父親の行動をそのまま反映することになり、支配し、虐待し、暴力のサイクルを継続し、虐待をする男性としての成人という関係性を形成していると述べられた。

 

「私の息子は、裁判所の命令したコンタクトを通じて成長し、父親のようになることを体得しました。息子は私に対し虐待的(物理的、言語的に)になり、下の兄弟姉妹は家に住むことができなくなりました。裁判所は息子を父親と住むようにしたのです!私は息子が支援を得るまで里親養育を検討するよう求めました。とにかく、私は息子が将来のパートナーや(息子の)子らにDVをするのではないかと思うのです。彼は支配的で、搾取的で虐待的です。裁判所が命令を下したDV犯罪者の父親とのコンタクトにより、子は壊されてしまったのです。」                母親、エビデンスの照会

 「確かに虐待のある環境で育ったと思います。そういった虐待的な環境に身をおいたとき、それが普通のことだったので自分は他の人のように早くそれに気づくことができませんでした…なので、これでいいのだと。そしてそういった環境から最終的に離れたとき、私は神様!またこんなことが起きるなんて信じられないという状況でした。」FJYPBのフォーカスグループの参加者より

 

母親らへの虐待を続けるべく父らによって搾取された子らは、子ら自身が愛されず、利用され、孤独を感じていると述べた。家庭裁判所により虐待する親とのコンタクトを余儀なくされた子らは、一生にわたる無力感について述べた。

子どもの頃私は食事、睡眠、トイレ、そして不安について深刻な問題を抱えていました。10代になり、成人しても、権威的な人物をとても恐れていました。なぜなら、そういった人は、私の意思に反して私が絶対にしたくないことを強いてくるように思えたからです。第2に、そういった人が私を罰すると考えていたからです。また、私は腎臓と不安の問題も継続して抱えていました。私は社会システムや司法システムに対し全く信頼がありません。」

                   子ども期におけるDAの被害者、エビデンスの照会

 

10.3.6 成人の被害者に対する長期的な害悪

成人の虐待被害者は、同様に、長期にわたるDAとトラウマの影響を抱えて生活しており、それらは裁判所の手続及び裁判所の命令により可能となった継続的な虐待によって強化・永続化されたという悲惨な説明を行った。これらの影響には、長期・慢性的な健康状態(の悪化)及び障害、PTSD並びにノイローゼが含まれる。

 

「裁判官は元夫のDVの罪を認めましたが、私自身が私への虐待の当事者であると言いました。どの組織においても、私たちが被害者であることを知っており、私はまた虐待されたように感じました。現在私は不安とPTSDに苦しんでおり、もう誰も信用できません。」     母親、エビデンスの照会

「〔裁判所は〕子を保護するのに時間をかけ過ぎ、耳を貸さず、裁判所が手続とガイドラインを守らないことで私たちは野蛮で屈辱的で時に非人道的な行為に従わされた結果、1人の成人と2人の子供がPTSD、不安や虐待の長期的な精神治療を受けるような何年にもわたるトラウマを引き起こしました。…子らと私は何年にもわたり直接の虐待や裁判所のシステムを通じた間接的な虐待を受け、また、脅迫や恐怖の武器として利用されているのです。」

父親、エビデンスの照会

 

何名かの母親らは、どのように仕事を失い、家を失い、訴訟費用のために巨額の負債を抱え、貧困に陥り、ホームレスになったかについて述べた。また、何名かは、子らが虐待者と同居するよう命令されたことによる子の苦痛に苦しんでいた:その一部は公法上の(子ども保護)手続の対象となった。

 

「彼(夫)が話し合いに応じないために、彼が私を継続的に出廷させることになるのを裁判所はやめさせませんでした。そして私はノイローゼになり、仕事をやめなければなりませんでした。私は、『反応性うつ病』と診断され、彼が虐待するのを知っていたにもかかわらず、最終的に一番下の娘を諦めなければなりませんでした。これは(虐待を)証明できなかったからです…私には多くの負債が残り、家を売却してその負債の大半を弁済しなくてはなりませんでした。私にはまだ5000ポンドの負債があり、負債管理機関の下で支払いを続けています。」              母親、エビデンスの照会

 

一部の父親らもまた、彼らの子と会うことを妨げられた結果生じたうつ病や、不安、自殺願望といった苦痛を述べた。

 

不必要で不適切なコンタクトの取り決めは、離れている親(非同居親)に対してまさに重大な心理的な害悪を与えます…私の息子は愛する両親のかわりに、他人の養育ケアのもとで時間を費やしたのです。」   父親、エビデンスの照会

 

ある回答者は、母親の妨害に直面し、父が子との関係を維持しようと試みていることを説明した上で、次のように述べた:

 

「これが父親に与える影響はトラウマ(traumatic)でした。彼は落ち込んだように見え、自殺願望を示し、不正義と子に対する悪影響に怒っていました。この怒りは叫びとなって現れます。無力感を感じ、自分の子らを失うことや子らへの影響、子らの将来がどうなるかについて恐れ、彼(父)が(子らを)見捨ててしまうのではないかと確信する日があります。」父親の家族、エビデンスの照会

 

親からの反応は、家庭裁判所により子を保護する側の親をサポートすることも、虐待をする親に対し定着した行動パターンを変化させるよう勧めサポートすることも実質的に失敗しているということを反映している。

 

一部の母親らは、最終的に家庭裁判所にそのような結論がない場合、虐待を行った父親は新しいパートナーや子らに同じように虐待をしているということを述べた。これらの回答は、現在手続の対象となっていない子らや成人の被害者の安全に対する懸念、同様にコンタクトのために訪問し、再び目撃することで悪化するDAを経験する子らへの懸念を提起する<

 

 10.4 コンタクトを行わないことによる長期的な影響

子らに関する私法上の命令に起因する害悪に関するエビデンス資料等の照会に加えて、エビデンスの照会においては、DAを行う親又は子や他方の親に対し重大な犯罪行為を行った親と、子らとの間で関係を持たないことによる、子らへの害悪のリスクについても照会を行った(注176)。

 

我々は、父らから子が自分の父やその親族、時には兄弟姉妹から子が引き離されることによる害悪についてのエビデンス資料の提供を受けた。これらの害悪は、確立された関係の喪失、家族のつながりの喪失、子どものアイデンティティの一部の喪失という点から述べられた。

 

「〔私の娘は〕以前とても強い関係を持っていた私側の家族全てとのコンタクトを断たれていました。これは娘にとってひどい時期であり、起こったことの全ては未だ分かっていません。娘は〔物理的なもの〕を浴びせられまましたが、娘は自分自身が(何かを)決定する際に信じるような本当のことを失ってしまったのです。…私の娘は自分のアイデンティティを失いました。娘が言うことすること全てについて、母親を通さないとならないのです。」父親、エビデンスの照会

 

子どものための法律家協会は、虐待する親と関係を持つことの害悪に関するエビデンス資料等はよく知られている一方で、彼らが『被害者とされる親が、虐待する親とのライフストーリーワーク(訳者注:life story work、 子に過去や現在将来を認識させるようにソーシャルワーカー等が情報提供を行うこと)を提供することが困難だと判断している場合に、子が親と会わないことで(子らが)アイデンティティを欠くというリスクがある』と考えたとしても『子らと虐待する親とが関係を持たないことによる害悪に関するエビデンスはそれほど明らかになっていない』という点につき回答した。以下はNagalroの見解である:

 

「(これに対する)答えは、虐待する親が子に害悪を与える可能性のある(自身の)行動をいかに認識し、受け入れ、改善したかによって異なります。これには時間もリソースも必要ですが、多くの場合親子間の安全な関係につながるものです。これが達成できる場合、子に対しては最も被害が少なく最良の結果となります…(虐待者に)子や虐待をしない親に対し危害が生じた、又は生じる可能性があるという認識がないようなケースでは、間接的なコンタクトを命じるオーダーは子の福祉が最大の考慮事項だとしなければならないことを単に反映しているだけにすぎません。」Nagalro

 

第9章で述べたように、間接的なコンタクト、子に対し父や父の家族に関する情報が提供されるライフストーリーワーク及びアイデンティティコンタクト(訳者注:子に対し別居親等の情報を提供するこ)は全て、子への害悪の可能性を最小限に抑えながら子と虐待する親との関係を維持するために用いられるメカニズムである。

 

「私たちは、年4回の独立したソーシャルワーカーの監督下でのコンタクトとアイデンティティコンタクトという結果を得るために、別途、完全な裁判手続を要しました。また、私たちは、娘が16歳になるまで、セクション91.14(訳者注:児童法セクション91.14、命令で名宛人とされた者が、関係する子に対し、同法に係る特定の種類の命令の申請を行わないよう命令することができる旨定めている。)による命令を受けました。彼(父)は(費用を)支払うべき3人のソーシャルワーカーを見つけるように言われましたが、私は娘が父といるときに世話する人を選ぶことができました。私たちはこれを行い、娘は過去1年で4回コンタクトの機会を持ちました。完璧には程遠いですが、娘はそれで落ち着きました。」母親、エビデンスの照会

 

しかしながら、第9章でも述べたように、これらの形式でのコンタクト命令は、私法上の子の事件では頻繁になされず、加害者が継続的に虐待することを防ぐことができない可能性がある。

 

他方で、多くの回答者は、我々がこのような問いを行うことにつき、にわかに信じ難いといった反応を示した。

 

「私たちは子らを、家族法が適用される場合以外のいかなる社会的な状況においても虐待し強制するような大人にさらしません。家族法が適用される場合以外の社会的な状況下で、子らが大人の虐待的又は強制的な行為に繰り返しさらされる場合、これは社会福祉の問題となります。子らが大人の虐待的で強制的な行為にさらされることによる害悪は非常に明白なので、この質問は(質問として)問われる必要がありません。虐待と強制は単に男性がその子と生物的学的な関係を有しているからという理由で問題ないとされるわけではないのです。」幼少期におけるDAの被害者、エビデンスの照会

 

以下の回答者は、虐待する親との関係性を有しないことで生じる苦痛等よりも、本章で詳述した継続的に虐待を経験したことによる深刻な害悪及びトラウマの方がはるかに重大であると考えている。

 

「DAを経験した子らは、成人患者となり我々のトラウマの治療にアクセスすることになり、これは虐待を目的することは、虐待に耐えることと同じくらい有害たりうるきわめて決定的なエビデンスです。子らに虐待者との関係を持つことを強いるのは、完全に誤りです。―しかしながら家庭裁判所では一般的な実務です。…私は、関係を持たないことによる害悪はあるとは考えていません…〔例えば、一方の親がなくなった場合〕子が他方の親により健康かつ幸せに育てることはまったくもってよいことです。そして、虐待する親とコンタクトを強いることはよいことではありません。」      DAの専門家、エビデンスの照会

 「事実、虐待者がよい親になることはできません。裁判所はこれを認識する必要があります。裁判所が有している信念は、子が親との関係を持たないことで子が後に経験するトラウマは、コンタクトを強いることで生じるいかなるトラウマよりも大きいというものです。これは端的に正しくなく、非常に野蛮で子に被害を与えるものです。」     離婚及びDAの実務家、エビデンスの照会

 

家庭内暴力及び家族支援に従事する者からの回答は、子らが落ち着いて愛情を受け、虐待の無い環境でよりよく成長すると考えているものであった。

 

「虐待的で支配的な親が常に子らを含む者との関係を持つことで混乱が係属するような状態よりも、虐待しない親が一貫して日常的にかつ定めを設けて積極的に監護(支援者やコミュニティー、学校も含めて)する方が子にとってよいのです。」              DAに係るワーカー、エビデンスの照会

虐待的な環境から逃れることができた母親らは、ひとたび虐待をする父とのコンタクトがなくなると、大きな安堵をもたらすというエビデンスを(委員会に)提供した。母親らは、子らがどのようにして徐々に回復し、安心・安全感を持ち、健やかに成長することができたかを述べた。

 

「娘は今、彼(父)がいないことで、何を言うにしても輝いています。」

母親、エビデンスの照会

 

コンタクトが一定期間中断された場合においても、母親らは子らが著しく良くなったと述べた―行動もよくなり、より落ち着きを持つようになり、トラウマの症状は緩和された。

 

 「娘に危害を加えていたことから私がコンタクトを止めたことで、娘は父と3か月会いませんでした。その3か月の間、娘は全く違う子になりました。姉妹とも喧嘩せず、私にもより優しく、落ち着きがありましたが、日曜に娘が父に会いに行ったと途端に、月曜にはカウンセリングに行き、(カウンセリング先である)彼らは、父に会った後の娘の行動に違いがあり、より怒りっぽく攻撃的になると言いました。」                母親、エビデンスの照会

 

子どものころに家庭裁判所の手続の当事者となったことがある回答者は、そのうち何件かのケースではストーカー行為や嫌がらせ(ハラスメント)を虐待する父らから受けていたものの、―コンタクトが停止されたときに回復が始まった―と、同様の内容を述べた。

「関係を断った時に、私はよくなり3年後には(繰り返しハラスメントを受け他にもかかわらず)より健康的に幸せに虐待しない親と一緒に過ごしています。」

子ども期におけるDAの経験者、エビデンスの照会

「小学校(primary school)のころ、私は酷い子でした…そこからよくなったのは、もはや父親と一緒に住まなくなったという事実があるからです。そのような環境から離れ、8か月か1年くらいで、私は別の子になりました…自由な猫のように、素晴らしかったです。」     FJYPBのフォーカスグループの参加者

「私は9歳のころから父とコンタクトしていませんし、それでさらに気分を悪くすることもありません。どちらかと言えば(そのほうが)もっと気分はいいです。何かとても恐ろしいことから解放されており、私は子らを親の一人から引き離し、関係の促進を行わないことが常に子らにとって感情的、精神的に有害であると考えるのは必ずしもフェアではないと考えます。私のケースでは、それ(関係を断つこと)が私を非常に恐ろしいことから救ったのです。」

FJYPBのフォーカスグループの参加者

 

10.5 結論

 

本章で報告されたエビデンスは、家庭裁判所が効果的にDAの被害者たる子や成人を、さらなる害悪から効果的に保護していないことを示すものである。これに反し、プロコンタクトカルチャーは、多くの子に関する私法上のケースにおいて、子や、子を保護する側の親を深刻な危害のリスクに置く命令をもたらすものである。安全でなく、虐待がなされ、トラウマになるようなコンタクトの経験は、(虐待)被害者の健全性に長期的かつ広範囲な影響を引き起こすと考えられる。多くの回答者が、そのような害悪は虐待する親との関係を継続する価値よりはるかに上回るものだと感じていた。

 

Nagalroは、継続的に(親と)関係を持つ子への安全と利益は、「虐待する親が子に害を与えるような虐待的な行動をいかによく認識し、受け入れ、改善したかにかかっている。」という重要な点を述べた。

本章で述べられた委員会へのエビデンスは、多くのケースで、虐待する親は虐待的行動について認識し、受け入れ、改善することを求められることなくコンタクトの機会を与えられ、反面、子や虐待しない親は、これ(上記のようなコンタクト)が引き起こす害悪害悪に関係なく、コンタクトやその費用負担することを期待されているのである。これらの(調査により)判明したものは、Ofsted’s joint targeted area inspection reports of children’s social care responses to domestic abuseの結果と同じである:DAを経験した子らはへの累積的影響が十分に認識されていないこと;この安全を保つために、脆弱な成人(虐待)被害者に過度に依存していること;加害者へのフォーカスが不十分であり、彼らの行動を変える必要があることである(注177)。

 

委員会は、家庭裁判所が、虐待に継続的にさらすことから子を保護し、(子を)保護する親の役割を認識・支援し、子や保護する親のトラウマからの回復を可能にし、虐待する親にチャレンジし行動を変化させるためのハードワークに取り掛かれるよう奨励・支援することで、最も子の福祉を促進することができると確信する。これには、裁判所がDAの申立てに対し徹底的に調査・理解しすること、虐待する親の行動の変化を満たすことを求めること、そして被害者の回復をアシストするための命令を下すこと、これらのための強化されたリソースが求められる。

 

委員会はまた、子と同居親が安全でないコンタクト命令下で暮らすことを強いるべきではなく、同居親がこのような状況下で子にコンタクトを強制しないことで脅迫、非難、又は罰せられるべきではないと考える。ある子が裁判所の命令によるコンタクトが安全でないと感じた場合には、命令については再検討され、子の不安に対処すべきである。さらに、委員会は、家庭裁判所の手続における子や成人の虐待被害者ための治療支援、同様に虐待加害者に対する公認の行動変容プログラムのために大きな資金投入をするケースがあると考える。

 

これらの結論は、第11章での委員会による勧告である、子に対する取り決めのケースにおける新しい一連の原則及び手続、DA加害者プログラムのレビュー及び子及び成人のDA被害者に対するサポートサービスのための追加的なリソースに盛り込まれるものである。

 

【注】

(163) 本報告書中、4.2.2参照

(164) E.g. Callaghan et al. (2018) ‘Beyond “witnessing”: Children’s experiences of coercive control in domestic violence and abuse’、 Journal of Interpersonal Violence 33(10): 1551–81; J Fortin、 J Hunt and L Scanlan、 Taking a Longer View of Contact: The Perspectives of Young Adults who Experience Parental Separation in their Youth (2012); S Holt (2015) ‘Post-separation fathering and domestic abuse: Challenges and contradictions’、 Child Abuse Review 24: 210–22; F Morrison、 After Domestic Abuse: Children’s Perspectives on Contact with Fathers (2009)、 F Morrison、 Children’s Views on Contact with Non-Resident Fathers in the Context of Domestic Abuse (2016); R Thiara and A Gill、 Domestic Violence、 Child Contact、 Post-Separation Violence: Experiences of South Asian and African-Caribbean Women and Children (2012). パネルが回答を受けたものは、これらの先行研究の結果を反映したものである。

(165)H Saunders、 Twenty-Nine Child Homicides (2004); Women’s Aid Federation for England、 Nineteen Child Homicides (2016).

(166)父親の何人かは、単に精神的に不安定である母親や、アルコールやドラッグを乱用する母親とのコンタクトに起因する子への害悪を回答において報告した。これらが深刻な保護すべき問題であることは疑いがなく、家庭内での虐待と同時存在する問題であるが、直接的に本報告書の考慮対象ではない。

(167)実務指針(Practice Direction)12J第4パラグラフ、本報告書セクション5.2参照、とりわけC Sturge and D Glaser (2000) ‘Contact and domestic violence – The experts court report’、 Family Law 30: 615–29.

(168)L Trinder et al、 Enforcing Contact Orders: Problem-Solving or Punishment? (2013). また、本報告書セクション10参照。

(169)A Barnett (2020) ‘A genealogy of hostility: Parental alienation in England and Wales’、 Journal of Social Welfare and Family Law 42(1): 18–29.参照

(170)L Trinder et al、 Enforcing Contact Orders: Problem-Solving or Punishment? (2013); articles and references in the special issue of the Journal of Social Welfare and Family Law 42(1) (2020); articles in the special issue of the Journal of Child Custody 16(1)–(2) (2019).参照

(171)本報告書セクション5.3参照

(172)ACEsに関する研究資料に関する有益な議論として、House of Commons Science and Technology Committee、 Evidence-Based Early Years Intervention HC 506 (2018).

(173)指定家庭裁判所裁判官によって引用されたと回答において言及される当該ガイダンスは、Handbook of Best Practice in Children Act Casesの性的虐待調査に関する付属書によるものである。Handbook of Best Practice in Children Act Casesは1997年に子ども法諮問委員会により発行された。委員会は、当該引用された付属書を独自に見い出すことができなかった。

(174)Provision of Therapy for Child Witnesses Prior to a Criminalについては;:  https://www.cps.gov.uk/legal-guidance/therapy-provision-therapy-child-witnesses-prior-criminal-trialhttps://www.cps.gov.uk/legal-guidance/therapy-provision-therapy-child-witnesses-prior-criminal-t

(175)NHS(国民健康サービス)のウェブサイトにおいては、以下のとおり説明されている:CAHMSという用語は、心理的又は行動に問題を持つ子どもや若者と協力する全てのサービスである。地域により、様々なサポートサービスが利用できる。: https://www.nhs.uk/using-the-nhs/nhs-services/mental-health-services/child-and-adolescent-mental-health-services-camhs/

(176)エビデンスの照会中、質問22及び23。

(177)Y Stanley (2020) ‘Domestic abuse: Keeping the conversation going’ at https://socialcareinspection.blog.gov.uk/2020/01/07/domestic-abuse-keeping-the-conversation-going/

 

                                                                  【望月彬史】


 

 

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第11章 勧告

 11.1概観

 

委員会に寄せられたエビデンスは、文献レビューと相まって、家庭裁判所がDAと他の重要な加害に一貫して効果的に対応するのを妨げるものとして、4つの重なり合う障壁があることを示している。

・裁判所のプロコンタクトカルチャー

・当事者主義的構造

・私法手続の全面にかかわるリソースの制限

・裁判所がサイロの中で孤立して働き、DAを扱う他の裁判所や機関との協同を欠いていること。

 

家庭裁判所が子どもたちと大人の被害者をさらなる害から一貫して効果的に保護することを可能にするためには、図1に示すように、これら障壁に照準を当てた総合的な改革が必要である。

図1:

 

 

 

多数の回答やフォーカスグループの参加者の意見にあったように、委員会は、これらの変化を成し遂げるためには、私法上の子の手続を根本的に改革することが必要である、と考えている。委員会は、この勧告が、裁判官たち、Cafcass、Cafcassウェールズやその他家事事件の専門家が私法上の子の手続でその持てる力を最大限発揮できるよう彼らの力を引き出し、その結果、この勧告がDAを経験した子どもたちとその親たちに利益をもたらすことを願う。

11.2 私法上の子の手続における原則をデザインする

委員会は、私法上の子の手続の基本原則として、上記図1に示したところによるべきであると勧告する。裁判所は子どもの福祉を至高と考えている。その子どもの福祉を決定し増進するための手続は、次のようでなければならない。

・安全に焦点を当て、トラウマに敏感であること(注178)

・その子どもと家族に何が起こったのかについてのオープンな質問に基づき、

調査的で問題解決型のアプローチをとること

・効果的に仕事をするのに必要なリソースを備え、それらをこれらの基本的原則に従い効果的に用いること

・関係するシステムや手続やサービスと調整して仕事をすること

 

私法上の子の事件で司法手続は、家庭裁判所の前に持ち出されるすべての問題に考慮を払わなければならない。しかし、現在、親たちが裁判所に来た時に展開される手続は、典型的には弁護士によるものが多い。最近の調査も、私法上の子の事件で安全保護上の高度の懸念が生じたことを改めて補強した(注179)。委員会は、私法上の子の手続において子どもたちのニーズと意思が中心に据えられるべきであるのと同様に、諸手続は、当事者訴訟の本人のニーズと、DAその他の安全保護上の懸念を中心的考慮事項に据えて設計するよう勧告する(図2)。最も困難な事案と最も脆弱な参加者のためにデザインされた手続は、一般的に、より簡単な事案で子どもたちのニーズに焦点を当てることができることになる。委員会は、実際は、この改正は、安全保護懸念がなくても、私法上の子どもの事件のすべてで有益であると考える。

 

 

11.3 DAと他の危害リスクが主張された事件への一貫した倫理的アプローチ

エビデンスは、相当な数の事件において、DAの被害を受けた子どもたちと大人の被害者たちの扱いについての懸念を繰り返し報告している。これらの懸念がどれほど代表しているかはわからないが、利用可能な回答に基づき、委員会は、家庭裁判所のDA事件へのアプローチは一貫性がなく、なかには有害な影響をもたらす場合もあると結論している。それらを一貫して確認し定着させるgood practiceの実例を打ち立てるために、委員会は、実務指示書を、DAやその他の害のリスクの主張がなされた事件に適合させることを勧告する。この指示書は、以下の点を含む:

・親たちや子どもたちから上がったDAとその他安全保護の懸念の主張が、敬

意を払って扱われ、それに対して十分な調査が行われること

・手続と決定が、ジェンダーバイアス、人種差別、固定観念、偏見による推定

を含む、いかなる偏見にもとらわれることなく行われること

・裁判所の手続と施設が、すべての参加者に安全と必要な警備を提供し、再被

害を防ぎ、参加者が心理的に支えられていると感じられるようにすることを

目的としていること

・手続が可能な限り迅速に進み、遅延は最小限にされるべきであるものの、安全が最優先事項であること

・裁判所とそのシステムで働く者が、裁判所の手続を虐待や支配の手段として利用しようとする者たちに対し用心深くあること。こうした言動が積極的に見出し止められること。

・裁判所が、子どもたちへの危害とリスクの問題に対し、機関を越えた協調対応を強化すること

・子どもたちに影響する事項に関する彼ら自身の考えが、国連児童の権利条約が保障する権利に従い聴かれること。Cafcass、Cafcassウェールズ、ソーシャルワークや専門家報告がその子の望みに反する勧告をしたり裁判所がそういう決定をしたときには、その理由がその子どもに説明されるべきこと。

・DAやその他の深刻な加害の主張が事実として認められる場合に、その主張を行った基礎的理由が、可能な限り、敏感な注意深さをもって評価され取り扱われること。

・子の処遇命令の裁判が継続して安全であるか振返られ続けること。もし子どもが裁判所の命じたコンタクトに不安を感じたら、その理由が子どもにあった方法で聴きとられ、その子どもの声が聴かれ、それら懸念が適切に認められ評価されること。

 

委員会は、この実務指示書を推進するために、家庭部局長the President of the Family Divisionを招請する。委員会はまた、これが、子の処遇プログラムに組み入れられることを勧告する。

 

委員会は、その勧告のメッセージが、上訴への判断や他の重要な裁判を通じて、上級Senior裁判所で承認され強調されることを望む。この提案が実行されるなら、既存の、拘束力のある有効な裁判例(DAと危害に関連する手続や実体法を扱う)の一部は、再検討されなければならないだろうと委員会は考える。

 

11.4 親の関わりに関する推定

何人かの専門家 は、1989年児童法の1章(2A)にある親の関わりに関する推定を支持したけれども、委員会は、回答で述べられたような種類の事件においては、そういう推定はプロコンタクトカルチャーをさらに強化し、裁判所の注意をその子どもの個人としての福祉と安全に焦点を当てることから逸らしてしまうと結論するに十分なエビデンスの提供を受けた。

 

委員会は、回答で伝えられたさまざまな提案を討議し、これら意図しなかった推定の結果を回避する最良のものとして国際的に採用できるモデルを討議したが、改正に向け特定の選択肢に十分な納得を得るには至らなかった。委員会は、しかし、この推定が現在のまま残されるべきでないことは明らかであると考える。

 

われわれは、親の関わりに関する推定は、その有害な影響に対処するため、直ちに見直すよう勧告する。

 

11.5 子の処遇のプログラム

エビデンスで示された重なり合う問題を扱うための必要に関して、委員会は、家庭裁判所が私法上の子の事件における処遇のプログラムの改正を試行し提供するべきであると勧告する。改正後のプログラムは、構想上の原則として次のようなことを含むことになる;安全に焦点を当て、トラウマに敏感であること;情報共有に基づく調査的で問題解決型のアプローチ、;十分なリソースを備えそれらを効果的に利用すること;関連するシステム、手続やサービスとの調整。それもまた、前記11.3で勧告した実務指示書を実施することになる。委員会は、中央政府の、統合されたDA裁判所の試行というマニフェストに留意し、これらの 2 つの作業をまとめて調整することを推奨する。委員会はまた、家事部の司法WGの長の仕事が、将来、この提案に応じて調整されるよう勧告する。

 

委員会は、改正される子の処遇プログラムが、当事者主義的でなく、問題解決型アプローチをとるべきである、そこでは裁判官の継続性が主要な特徴であると考える(注180)。それらプログラムは次の3つの段階を含むことになる:

 

(ⅰ)最初の調査と情報交換の段階―焦点を当てるべきは、子どもに何が起き

たかを、その家族内でのあらゆる虐待の直接・間接の影響と、子どもと大

人の被害者が将来のさらなる危害から保護されるニーズを含め、理解する

ことである。情報は、将来に向け先取りする形で収集され、その家族を過

去担当した専門家を含め、すべての関連するソースから引き出される。親

たちと子どもたちは相談され、親たちはそのケースで持ち上がっている問

題に関連する情報(あらゆる形態のDAに関する心理―教育的な仕事を含

む)の提供も受ける。どんな合意もできない場合は、裁判にむけた準備が

進む。

(ⅱ)裁判の段階―これは、裁判官主導で、あらゆる危害とリスクを正確に見

出し、問題解決と将来の福祉を守ることに力が注がれる。特別措置が必要

なら念のため用意される。他の裁判手続との調整が行われ、その家族メン

バーたちを支援した担当者たちが証言と支援のため呼び出される。子ども

か親のリスクを評価するのに事実を確定する必要があれば、この段階で行

われる。

(ⅲ)フォローアップの段階―裁判後3か月から6か月の将来に向けたフォロ

ーアップは、それらがどう効いているかを見るために行われている。これ

もまた非当事者主義的であり、もしさらなる裁判や異なる命令が必要であ

れば、この調査と裁判のプロセスが再度辿られることになる。

 

当事者の申立で裁判所に戻ってきた事件は、同じ原則とプロセスに従って指定された裁判官に割り当て、処理される。指定される裁判官は、他と区別できる地位にあり、反復申立を通じたあらゆる制度濫用について警告を受け、それを防止する処置を取らなければならない。

 

 

 

 

11.6 子どもの声を高める

多くの回答は、DAや性的被害の被害者である子どもたちの声が、私法上の子の手続において増幅される必要があると論じていた。子どもの聴取の障壁は、すでにあげた4つの点と同じであった:

・裁判所のプロコンタクトカルチャーは、虐待的な親とコンタクトを持ちたく

ないとか、コンタクトを安全と感じなかったり、コンタクトの間に虐待を受

ける子どもたちが彼らの声を聴取してもらえないという結果を生んでいる;

・リソースの欠如は、私法上の子の手続で、相談や弁護士代理や子ども支援

に、不十分な資源しか使えないということである;

・当事者主義的手続では、子どもたちのニーズ、意思や安全を重視すべきとこ

ろが、大人の主張とそれに対抗する主張、証明責任、technical procedural requirements、親の自己利益ではないかとの疑念を過度に重視することに置き換わってしまう;

・サイロワーキングは、その子どもに何が起こっているかに関する証拠を見落

としたり、その子どもがトラウマから回復するのに役立つ支援が抑制された

り傷つけられるという重大な結果を生じうる。

 

委員会は、国連児童の権利に関する条約12条に従い、子どもたちにはこれらの手続で聴取される機会がもっと与えられるべきであるという見解を取る。私たちは、子どもたちの声が聴かれ、代表され、応えられる方法を進化させるために、Cafcass/ウェールズ FCAsが子どもたちとの関係を築く時間をもち、子どものためにより長期の独立の法的代理ができ、そして家庭裁判所が、子どもたちを裁判所の外で支援してきたサービスや機関ともっと近しく働くことを含めて、広範な回答を受け取った。提出回答は、Cafcaee/ウェールズと地域の子ども支援サービスのリソースを含め、この分野のリソースを改善することを殆ど全会一致で主張している。

 

委員会は、子の処遇プログラムへの改正勧告が――それは見いだされた障壁を克服しようとするもので――、私法上の子の手続で子どもたちの声を高める重要な枠組みを提供することと思う。委員会は、子どもからの聴取と代弁、子どもの代理と支援の選択肢の範囲は、子の処遇プログラムの改正を練り、導く作業の一部としてより全体的に調査するべきだと勧告する。

 

加えて、委員会は、子どもたちと若い人々の証言に関してVulnerable Witness and Children Working Groupが行った働き、法務省にその勧告を可能な限り早く実施するよう働きかけた働きを支持する。委員会は、子の処遇プログラムの改正を練り上げ導く仕事が、ワーキンググループの報告に盛り込まれるよう勧告する。

 

11.7 裁判所での安全と警備

提出された回答は、圧倒的に、DA被害者のため家庭裁判所でとる特別措置、DAの加害者または被害者からの直接の交互尋問を禁止する法令、被害者支援サービスへの調和的で包摂的なアプローチを改善するよう求めるものであった。91章(14)命令を改正して、虐待的申立を防止する潜在的可能性を強化する取り組みにもかなりの支持が寄せられた。上記の家庭裁判所についての、安全を重点的に扱いトラウマに敏感であること、効果的な業務のために必要なリソースを備えること、つながりのあるサービスと調整して働くことといった勧告のもとになった原則はこの文脈にとりわけ強く関連する。

 

子の処遇プログラムの改正に向けた委員会の提案は、特別措置の率先した提供と参加の指示を含む。委員会は、特別措置と参加の指示に関連し、以下の勧告を行う。

・DA法案の、刑事裁判所がDA被害者のために特別措置をとることに関する規

定は、家庭裁判所に拡大されるべきである。当該規定は、DAが主張されるべての事件で適用されなければならない。

・DA法案の諸規定は、DAの証拠がある(自白されたり証明された場合を含

む)とか、DAが問題になっている家庭裁判所の手続で、直接の交互尋問を禁止するよう改正されるべきである。

・DAの主張があれば、当事者が裁判所で一緒になるときはいかなる時も、特別

措置を用いることを標準とすること

・DAの主張があるところでは、被害者とされる人の脆弱性は、トラウマに敏感

なやり方で評価されるべきであり、当事者たちが尋問される方法や、聴聞会

の開催に関するものを含め、第3部AとPD3AAは積極的に適用されるべきで

ある。参加指示では、加害者とされた者が遠隔に証言するよう、考慮が払わ

れるべきである。

・最初の安全保護の質問(Cafcass/ウェールズによる)や調査(改正された手

続の調査局面のもとでの)には、当事者たちが法廷で求めた安全の必要性や

安全確保の方法の議論を含むべきである。

・家庭裁判所の手続に関わる大人と子どもを保護する鍵となる枠組みは、司法

省の犯罪被害者のための規範に基づいて策定されるべきであり、事前訪問と

安全と警備の侵害に対する断固とした対応が含まれるべきである。

 

DAと支援サービスの専門家に関して、委員会は次のことを勧告する:

・当然のこととして、DAの独立アドバイザーたち、DAアドボケーターと精神保健支援ワーカーたちは、彼らが支援している当事者に付き添って法廷に入ることが許されるべきこと

・関連する実務的支持とガイダンスがこの規定に沿うように改正されること

・DAの独立アドバイザーたちDAアドボケーターと精神保健支援ワーカーたち

が、実務指示3AAに定める目的で当事者の脆弱性を評価する際に相談される

べきこと

・すべての家庭裁判所で被害を訴えた者と加害者と訴えられた者の双方を支援

する専門家に関して、適切なモデルで費用対効果を満たすものが探求される

べきこと

 

91節(14)に関連して、委員会は、1989年児童法の規定が規範的ではないものの、そのサブセクションがRe P[1999]以来、判例で例外的な状況にだけ適用があると解釈されてきたことに留意する。91節(14)を、子どもと大人の被害者を危害からもっと効果的に保護できるようにするために、委員会は、Re P事件(91節(14)ガイドライン)[1999]で最も明らかに策定された、91節(14)命令の適用は「例外的に」という要件を逆にするべく、DA法案に対策方法を書き込むことを勧告する。以下の政策目標が明確かつ正確に成文法に規定されることに対応して、これらの対策は、第6条の91節(14)を改正、入れ替え、補足することになる:

・91節(14)命令が、このような命令を受けることが当該子どもの最善利益に合

致するときに発せられてよいこと

・91節(14)命令が、裁判所の結論として、その手続を行いまたは延長することが他方親に対するDAになると判断した場合に発せられてよいこと

・裁判所がこうした命令を適切に発するのに、反復申立を示す必要はないこと

・裁判所は自身の発意で発令してよいこと

・91節(14)発令後、子の処遇命令の申立に許可を認めてよいのは、発令後の状

況が実質的に変化し、許可してもその子どもや他方親を害するリスクがない

ということを申立人が証明した場合に限られること

 

委員会は、さらに、子の処遇プログラムを改正し、虐待的な申立を判別しそれらを素早く即時の結論へと処理する手続を組み入れるべきことを、勧告する。この手続は以下のことを含む:

・先の申立と後の申立の間、および91節(14)命令と申立の許可の間の司法

の継続性;

・裁判所は、さらなる申立があった時は、前もってDAが認められないか慎重に扱う

・裁判所は、こうした事案では、91節(14)命令を出すか否かを自身の判断として積極的に考慮する

・裁判所は、継続するハラスメントや虐待からの保護を与えるために、追加的な命令(例えば、虐待禁止と禁止措置命令(Prohibited Step Order、PSO/訳者注;親に対し親責任の特定の権限行使を禁止する裁判所命令)を出すか否かを自身で考慮する;そして

・これら申立の許可を他方親と子どもたちへの影響を最小限にするよう管理す

ること。

 

これらの勧告が採用されれば、委員会は裁判所の行程が、DAの被害者たちにとって図3のように改善すると予想している:

 

 

【注】

(178)  ‘trauma-aware’によると、DAと他の深刻な加害は子どもたちと成人被害者にトラウマを生じさせること、被害者が裁判所に出廷して証言するときのトラウマの影響、裁判所の手続で再度のトラウマを受けることはできる限り回避すべきであり、トラウマを負った人たちは支援と癒しの機会が必要であることがわかっている。

(179)Cafcass/Women’s Aid Federation of England、 Allegation of Domestic Abuse in Child Contact Cases(2017)-コンタクトの申立でDAの主張があった事案は62%に及ぶ;Cafcass Support with Making Child Arrangements(Manchester) Pilot(2019)-申立ての80-86%で深刻な安全保護措置上の問題と裁判からの不適当な転用が挙げられた。

(180) 委員会は、家庭薬物アルコール裁判所(FDAC)がこうして具体化されており、異なる文脈の子ども保護手続で機能するものではあるが、家事実務家が比較的なじみやすいモデルの一つであると考える。委員会は、FDACモデルが、専門のDA裁判所とその他の問題を解決する裁判所の国際的なモデルに沿って、これらの提案を機能するシステムに導入するうえで引用されることを期待する。委員会はまた、Tier1での司法の継続性がどのように達成されるかが、特に注目されることを指摘する。

 

【長谷川京子】

11.8 コミュニケーション,協同,継続性及び一貫性のためのメカニズム

家庭裁判所におけるサイロワーキング[KH1] による悪影響に関するエビデンスは明らかである。委員会は、家事部における私法ワーキンググループの長官(訳者注:家事部長官は高等法院の家事部門の責任者であり、同ワーキンググループは家事部長官により設置された。)が裁判所と支援サービス間の協調関係を改善するための多くの勧告をしたことに言及するものである。加えて、委員会は、以下の分野につき、コミュニケーション、協調、継続性及び一貫性のために機能するメカニズムを、国および地方レベルで実施することを勧告する。

 

委員会は、国家レベルでのメカニズムは、家事部長官の確固たる支援のもと確立されるべきであると考える。国のメカニズムを実行するための地方レベルでの取決めは、指定家庭裁判所裁判官により監督されるべきである。以下これらのメカニズムの目的は、手続内において、子や成人の当事者の危害の経験及び危害からの保護を手続において一貫して確保し;家庭裁判所における子に関する私法上の事件において、同じ家族に関する他の(法的)手続を認識及び考慮するとともに、逆もまた然るべく、関連する情報を手続間で共有するためのものである。

協調がなされるべき分野は:

・子に関する私法上の事件と他の家庭裁判所の手続(差止命令、財政的手続、

公法上の手続)との間

・家庭裁判所と刑事裁判所との間(特に被害者支援及び保護に関する手続並び

に刑事有罪判決について)

・家庭裁判所、警察との間(特に子に関する私法上の手続への警察の開示に

ついて)及び検察庁(特に同時並行する刑事及び家事手続に関して)

・家庭裁判所、MARAC(Multi agency risk assessment conference)及びその他

の加害者マネジメント委員会との間(特にDAの高リスク被害者及び加害

者に関して、これらのフォーラム(マネジメント委員会)でなされた決定

及び行動計画に関して)

・家庭裁判所、児童に関する規定、第三セクター機関及びサービスとの間

(特に情報の共有及びアプローチの一貫性に関して)

・家庭裁判所、DAの専門家及び児童虐待機関並びにサービスとの間(特に

各サービスが提供できる専門知識及び情報を評価し、家庭裁判所の手続中

にこれらのサービスへのアクセスを容易化することに関して)

 ・家庭裁判所、家庭支援及び治療サービスとの間(特に各サービスが提供で

きる専門知識及び情報を評価し、家庭裁判所の手続係属中にこれらのサー

ビスへのアクセスを容易化することに関して)

 

警察の情報公開に関して家庭裁判所と警察との間の協同関係を向上する必要性に加え、当事者に支払能力のない場合に警察の情報公開の費用負担をカバーする取決めも必要である。委員会は、警察権力が、家庭裁判所及び政策首脳らと共に、当事者が法律扶助を受けられず、他の方法では費用を負担できない場合に、どのように警察の情報開示に係る費用を提供できるようにするかを早急に検討することも勧告する。

 

11.9 リソースに関する問題

委員会は、リソースの欠如が、子やDA及びその他の危害リスクの被害者らをさらなる危害にさらすことから保護するための家庭裁判所の能力に深刻な影響を及ぼしているといった、多くの回答により提起された懸念を認めるものである。子、個々の当時者、法定及び地域のサービスについての、継続するDAに生じる、現在及び将来のコストに関するエビデンスについては、第10章にて述べた。これらには、安全でない命令が失敗した代償として家事司法制度に直接生じるコストも含まれる。委員会は、家庭裁判所が子やDAの被害者の保護をより効率的に行うことを可能とするために、家事司法制度に対する追加的な資金投入について、強い議論がなされるものと確信する。以下これは、中央(Westminster)及びウェールズ州政府が、DAに対処すべくコミットメントすることを明確にし、DAによる家事司法制度及びその他のサービス並びに経済的な資金をより一般的に確保し(注181)、リソースのより生産的な使用態様を示すものである。我々は、以下の機関等に対し、我々の子の処遇プログラムの改定案と合わせて、追加的な投資を行うこと勧告する:

・私法上の子の事件に利用できる裁判所および司法リソース―聴聞(手続)の

リスト化による遅延を最小化して事件を適時に処理できるようにし、決定

が下される前に子と親との関係が長期間中断されることを避け、裁判所が

事実調査のための聴聞手続の行うための十分な時間を確保し、そのような

事件での聴聞において、手続を行う者が効果的に仕事をすることができる

よう行政及び福祉的なサポートを得られるよう保証するため。

・CAFCASS及びウェールズのCAFCASS―保護の問い合わせを含む、私法に

おけるすべての機能を改善するリソースとして;リスクアセスメ

ント(アセスメント実施のスキルアップ及び家族のダイナミクスを理解し

他の家族に対するサービス関係からフィードバックを得るために必要な時

間をアセッサーに提供することの双方);子どもに対する相談(セクション

7の報告者らに、子どもとの関係を構築するために十分な時間を提供する

こと及び子どもの趣向に応じて子どもの願望や感情を引き出すための柔軟

性を提供することを含む);私法上の子の手続にFCA(Family Court Adviser)

の専門家の関与を可能とすること;及び子の声を聞くためにより頻繁に子

の後見人(guardian)の選任を行うことを可能とするため。

・家庭裁判所の施設―特に地裁裁判官の法廷の安全を確保し;全ての裁判所に

おいて別々の待合室、別々の入口、遮蔽及びビデオリンクの提供を標準化す

るため。

・法律扶助―DAの加害者とされる者及び同様に被害者とされる者が法律扶助

を利用できるようにし;(利用するための)証拠上の要件が、被害者や第三

者からの証拠を利用できないような性的虐待から子を保護しようとする親

らにとって利用上の障壁とならないようにすることを保証し;(利用する)

当事者が法律扶助にアクセスする際に行政上の障壁に直面しないようにし、

法律扶助機関による意思決定が裁判所のスケジュールとより協調することを確保するため。

・専門家によるアセスメントのためのファンディング―法律扶助及びその他

の方法を通じて―DA又は子どもへの性的虐待が認められる複雑な事案に

おいて、適切な資格を有する専門家によりリスクの引き受け又は裁判所を

支援するための心理的なアセスメントを指示できるようにするため。これ

らの専門家は、虐待に関係する専門的な実務家又は認定機関又は裁判所の 専門的な委員会から指名されるべきである。

・イングランド及びウェールズ双方でのDA加害者プグラムに関連しての更

なる勧告については、以下11.10。

・コンタクト監督センター―より幅広いサービスの利用可能性を確保し、資力

に応じた価額で、かつ子どもの安全を監視保護するための強力な要件及び

保護すべきインシデントに対応できる強力な要件を確保するため。

・私法上の子の手続における親に対するDAに関連する教育的及び治療的な

事項に係る備え―手続の初期/調査段階(虐待的な行動の特定と利用可能

な行動の変化のための介入の理解を目的とする)、同様に手続後における被害者の回復。DAPPs及びコンタクト監督サービスと同じく、これらのサービスは適切にCAFCASS及びウェールズのCAFCASSに委託されることが適切である。

・専門家によるDA及び児童虐待支援サービス―これらには、DAを経験した

子ども及び成人の家庭裁判所におけるニーズを満たすために、持続可能な

資金及び投資の追加が必要であり、裁判所でのアドボカシーサポートの提

どもの延長、両親が私法上の子の手続において対立している際の子どもの

支援及び必要に応じて裁判所手続後の独立した治療等の提供が含まれる。

 

加えて、セクション7及び37のレポートが、DAについて充分な訓練を受けた経験のあるソーシャルワーカーにより完成されることを確保するために、適切なリソースが地方自治体のソーシャルワーカーに提供されることが必要不可欠である。

  

11.10 DAPPsの見直し

委員会は、何名かの回答者による、DAPPsがイングランド及びウェールズにおいてより広く利用されるべきであり、私法上の子の手続において、(子どもの)両親のための自己照会も認められるべきであるという勧告を承認するものである。いくつかの事件ではDAPPsの有効性についてのエビデンスも存在したが、本委員会はDAPPsの全体的なパフォーマンスはさらに向上させることができると結論付ける。

 

それ故、委員会は、DAの影響による子どもや家族への危害を減らすことに対しより効果的にフォーカスすること及びDAPPsが我々のすべての勧告の根底にある基本原則により支えられるものであることを確保するために、現在のDAPPsの規定を見直すことを勧告する。見直しは、イングランド及びウェールズの主たる利害関係者の代表、法務省、ウェールズ政府、司法、RESPECT(訳者注:英国のDA団体)、ウェールズウィメンズエイド、ウィメンズエイド英国連盟、及びDA被害者のコミッショナーらを含む運営グループにより監督され、報告されるべきである。本委員会は、見直しの結果が新しいDAPPsの仕様について運用する際の基礎を形成すべきであることを提言する。

 

当該見直しは、(委員会に対する)回答により特定され、第9章で説明されたDAPPsの利用可能性と運用に関する懸念に対処すべきであり、以下の事項を含む。

 ・DAPPの規定が、現在の私法上の子の事件にあるリスクとニーズの範囲に対

応しているかどうか;

 ・DAPPsへの適時なアクセスをどのように改善することができるか;

 ・DAPPへの参加が家庭裁判所により命令され、または命令されるべき場合は

どのようなときか;

 ・DAPPのコースの内容、特に別居後の支配(コントロール)や強制的な言動、

経済的虐待及びDA後のペアレンティングに対処することを確保すること;

 ・虐待の被害者である両親及び子どもの経験を組込む必要性、危害を減らすた

めになされた前向きな措置のエビデンスを含む、(加害的な)言動の変化を

どう評価するか;

 ・母親による虐待が特定された場合や同性の両親である場合において、何が最

も効果的な介入であるか;

 ・認定の必要性、(DAPPの)クオリティを保証することの一貫性及びすべて

の加害者に対し家庭裁判所で用いられる介入についての単一かつ標準的な

フレームワーク。

 

11.11 トレーニング

多くの回答から、家事司法制度にかかわるすべての者に対しさらにトレーニングを行う必要があるということが提案された。マジストレート(訳者注:治安判事、英国では社会人ボランティアの場合もある。)に対するトレーニングの利用可能性及び程度は、特に懸念される分野として述べられた。他方、裁判官からのエビデンスからは、彼らが既にJudicial College(訳者注:旧司法研究委員会を母体とする裁判官養成組織、司法大学)を通じ、DAについてかなりの分量のトレーニングを行い、2017年のPD12J(訳者注:子の取り決め及びコンタクトオーダー、DA及び危害に関する審理指針)の改訂に続き、この点に関するプログラムの強化を行ったことが看取された。

 

委員会は、既存のトレーニングが、現在のシステムの効果的な機能に対する4つの障壁:プロコンタクトカルチャー、当事者主義的アプローチ、サイロワーキング及び限られたリソース――によりその効果を損なわれている、または弱体化されているものと考える。本委員会は、上記の勧告による抜本的な改革が無ければ、トレーニングをより増やしてもその効果が限定される可能性があると結論付ける。委員会の勧告に従って子の私法上の手続につき抜本的な改革を行うことに続き、トレーニングの優先度はこれらの改革により具現化されるべきである。トレーニングは、上記で概説したシステムの主たる側面に沿う必要がある。

 委員会は、家事司法制度におけるトレーニングは、以下の分野をカバーすべきであると勧告する。

 

1 包括的改革:

 ・私法上の子の手続に導入し組込み、一貫性のある実施の確保を助けるための

文化的な改革プログラム。The College of Policing(訳者注:ポリス大学、警

察官向けの専門大学)での「DA問題」のトレーニングパッケージは、この

ような文化的な改革プログラムに適したものであると言える。

2 改革された子の処遇プログラムの効果的かつ一貫した実施に必要な主たる知識・分野:

 ・DAに関する深化的理解、DAのジェンダー的性質及び影響、特に威圧的な

コントロール、性的虐待、精神的虐待及び経済的虐待に焦点を当てたもの;

 ・DA を認識すること;

 ・DAが人種、宗教、文化、障害及び移民問題と交差すること;

 ・DAの虚偽主張の発生にかかる正確な事実の理解;

 ・DAが子どもに対し与える影響及び成人と比較して子どもがどのようにDA

を経験するのか;

 ・幼児の発達及び愛着理論;

 ・有病率に対する正確な理解を含む、子どもの性的虐待に対する深化的理解

 ・トラウマとその影響;

 ・リスクアセスメント;

 ・複雑な事案におけるリスク間の相互作用とその区別:DA、子どもの性的虐待、

片親引離し、薬物及びアルコールの乱用、メンタルヘルス、両親間の高葛藤;

 ・性的犯罪及び性的行為の同意に関する法(注182)

 ・脆弱な被害者の特定と対応(刑事実務家に提供されるトレーニングはこの

点に関するモデルとして(委員会に対する)サブミッションにおいて特定された。)及びDA被害者に対するPart 3A(訳者注:https://www.justice.gov.uk/courts/procedure-rules/family/parts/part-3a-vulnerable-persons-participation-in-proceedings-and-giving-evidence) and PD3AA(訳者注:https://www.justice.gov.uk/courts/procedure-rules/family/practice_directions/practice-direction-3aa-vulnerable-persons-participation-in-proceedings-and-giving-evidence)の適用;

 ・ジェンダーロールの想定に起因して生じる無意識の確証バイアス及びこれ

らがどのように人種、障害、年齢、性別及び階級と交差するか;

 ・男性のDA被害者を含む裁判所利用者の多様性及びBAME女性、障害ある

女性、及びLGBTコミュニティによる経験、及び制度上の障壁

 ・DAの加害者がどのように子どもとのコンタクト、裁判所及びその他機関を利用し虐待を継続し、手続に内在する虐待的な利用を示唆・警告するか[KH1] [KH2] [KH3] ;

 ・DA加害者の行動変容を構成するものは何であるか。

いくつかの回答は、トレーニングにつき、どのように、また誰により提供すべきかにつき、有益な提案を行った。以下について考慮されるべきである。

 ・一貫したアプローチを促進するための、複数の専門家及び期間によるトレーニング

 ・次のような専門の提供者によってファシリテートされるトレーニングの提供

  ・the Violence Against Women and Girls sector、同セクターのBAMEサービス

提供者を含む;

  ・DA及び子の性的虐待に関するチャリティ団体

  ・DAコミッショナー
 
 

11.12 ソーシャルワーカーの認定

本報告書に記載されたエビデンスは、DAが申し立てられている、またはその疑いがある、若しくはそれが認知されている子ども及び家族のリスク評価やその他の関連事項につき直接作業するソーシャルワーカーの知識及び技能に対し、重大な弱点があることを示している。イングランドでは、2017年the Children and Social Work Actが、子ども及び家族に関するソーシャルワークに関し、資格取得後の国家的な基準を定めている。資格取得後の国家による認定は、ソーシャルワーカーがこれらの基準を満たすために必要な知識及び技能を有することを確保すべく発達してきた。ウェールズでは、資格を取得したソーシャルワーカーは、DAに対処する際にウェールズ政府の法定ガイダンスと国家訓練フレームワークを遵守する義務を負い、同様に、2014年Social Services and Well-being (Wales) に関連するトレーニングの要件を遵守する義務も負う。委員会は、以下の事項を勧告する:

・ウェールズにおいて子の私法上の手続につきアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、3つのグループ――女性に対する暴力、DA、性的暴力――の国のトレーニング枠組みを基準として、トレーニングされること;

・イングランドにおいて子の私法上の手続につきアセスメントを実施するソーシャルワーカーは、国により認定された子及び家族の実務家であること;

・ウェールズでの認定トレーニング及びイングランドでの認定の評価方法の内容は、必要な知識と技能が十分に査定されるよう、DAの専門家らによって見直されること。

 

11.13 モニタリング及び監視

相当数の回答は、DAやその他重大な犯罪にかかる全ての子ども及び被害者を危害から効果的に保護する運用を確保するために、私法上の子の手続について継続的にモニタリング及び監視する必要性が示唆するものであった。委員会は、そのようなモニタリング及び監視は、この分野の懸念に継続的な注意を向けるために必要であることに同意するものである。委員会はこの点について、3点勧告する:

・法務省は、HMCTS(HM Courts and Tribunals Service)、CAFCASS及びウェー

ルズのCAFCASSと協力し、DA、子の性的虐待及びその他安全上の懸念の問題が生じる事件に関するデータを管理し集積するための一貫的かつ包括的な手法を開発・実行すること。

・私法上の子の手続において、子や被害者をDA及びその他の危害のリスクから保護する家庭裁判所のパフォーマンスを監視し、定期的に報告するために、DAコミッショナー事務所内に国家によるモニタリングチームを創設すること。

・地方自治体及びウェールズの地域保護委員会は、家族が私法上の子の手続に関与している場合における家庭裁判所につき、地域ラーニングレビュー(イングランド)、子どもの実務レビュー(ウェールズ)及び家庭内殺人レビューに含めること。これらには、法務省、CAFCASS及びウェールズのCAFCASSからのレビューに対するこれらの寄与を求めること及び家庭裁判所における事件ファイルのレビューを含むべきである。

 

11.14 更なる調査研究

専門家及び組織団体の回答者らは、追加の調査研究のためのいくつかの提案を行った。これらの提案は、以下の事項を含む、DAが主張された事件に対する家庭裁判所の手続及び結果に対する、よりシステマチックで十分なデータの必要性に焦点を置くものであった:

・保護の手続及び結果

・家庭裁判所における手続において、子の声がどのように聴かれ考慮されたか

・DAの主張と、親が引離され(疎外され)ているという主張が一致しているか、またそのような事件の結果

・PD12Jの実施状況(裁判所、地域、審級等の変数による)

・下された命令(両親による関与の推定(訳者注:2014年のthe Child and Families Actのセクション11は、裁判所が子どもについて誰と住むか、どう過ごすかを決定する際に、反証がない限り子どもの生活に双方の両親が関与することが子の福祉にとってよいと推定する。)が採用された前後)

・裁判所が1989年児童法セクション91(14)を実施しているか

 

 裁判所の手続が子どもに及ぼす影響に関してもまた、さらなる調査研究が求められた:

・子どもの家庭裁判所の手続の経験及び手続の子どもに対する影響に基づくエビデンスの吟味

・コンタクトが中断することの影響、反対に事実及びリスクのアセスメントの決定をペンディングし、コンタクトを中断させないことの影響

・裁判所命令の長期的影響、安全及び有効性

 

 委員会は以下の事項を勧告する。

・法務省は、DA、子どもの性的虐待、又はその他の重大な犯罪の主張がなさ

れた場合に、委員会の勧告による改革を実行するに先立ち、改革前のベースラインを提供するために、現在のCAP、PD12J及び(1989年の児童法の)セクション91(14)の実施に関する、独立し体系的かつ遡及的な調査研究を委託すべきである。

・The Child Safeguarding Practice Review Panel(訳者注:政府機関)は、ベースラ

インを提供するため、以降12か月の間、全国の私法上の子の手続におけるDA事案対する実務ベースの法定調査を実施し、改革後の2ないし3年間実務の変化についてフォローアップを行う;そしてthe National Independent Safeguarding Board Walesもウェールズにおいて同様のレビューを行うべきである。

・改革された子の処遇プログラムについて本委員会が勧告した事項をテストするために設立された指導部門は、裁判所の申立、命令、判決のレビューを含むものを定量・定性的な調査方法で確実に評価を行うべきである。

・11.13において設立が勧告された国家による監視チームの任務には、私法上の子の問題に対する改革されたシステムの実施に関する現在又は将来にわたる調査の委託/実施が含まれるべきであり、その資金は、上記権能の効果的な実施を可能とする程度に充分であるべきである。

 

【注】

(181)Rhys Oliver et al.、 The Economic and Social Costs of Domestic Abuse

(2019) 参照。この内務省における調査報告書は、平成29(2017)年3月31日までの12月までのDAに対するコストを660億ポンドと見積もり、うち被害者の身体及び精神的コストを470億ポンド、経済的コスト140億ボンド、50億ポンドを法に定めるサービス及び被害者サービス並びに司法制度に生じるコストとする。これらの数値には、子どもの危害にかかるコスト又は経済的虐待、強制及びコントロールを強いる言動へのコストは含まれていない。これらのコストの一部のみが、家庭裁判所のオーダーにより促進された継続的なDAに起因し、同オーダーの失敗により裁判所に返還されるとしても、本注以下のターゲットに対する財源確保の明確な可能性は存在する。

(182)委員会は、司法制度のために、the Judicial College(司法大学)がCrown Court(刑事法院)における裁判官が利用することができる性的犯罪をモデルとするトレーニングを提供しており、それが深刻な性的性質を有する犯罪に対する裁判を実施するために利用されていることを理解するものである。

 

【望月彬史】

 

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