UK司法省報告

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第2章 委員会における作業の進め方について

 本報告書の作成に際して、「私法上の子の手続」とされる、離別後に生じる子の問題に関する父母間の争いにおける、DAを含めた深刻な犯罪の主張に対して、家庭裁判所がいかにして適切に問題を特定し、それに対応するかについて、必要とされるエビデンスの提示を求めることから開始した。委員会としては、そのような手続に巻き込まれている当事者や子どもたちにとって、訴訟手続および判断のいずれにとっても、より確固とした根拠となる証拠を構築

することを目指して取り組んだ。

 

この事業の重要性と緊急性から、委員会としては3か月以内にエビデンスの収集を終えたいと考えていた。しかしながら、実際には、非常に多くの回答が寄せられたことから、これらを徹底的に分析し検討するために、委員会ではさらに6か月の期間を要することとなった。

 

 

 

 

 

 

2.1 事業の目的

エビデンス収集のための質問事項:

・私法上の子の手続で、子どもや親がDAその他の被害を受ける危険性があるという主張に対して、家庭裁判所は適切に対応しているか?

 

エビデンス収集の具体的な目的は次のとおりである:

・親の関わり推定を排除する危害リスクがある場合に、実務指針の解釈を含めて、Practice Direction 12J,(注2)Part 3A FPR 2010,(注3)Practice Direction 3AAおよびsection 91(14) orders(注4)が、実際にどのように適用されているかまたその影響について理解する必要性。

・実務指針およびsection 91(14)の命令の適用に関する課題について理解する必要性。

・関連する規定の適用に一貫性があるかどうかについて。

・子どもや親に対して、強制力の行使や行動抑制、その他の危害を生じさせる危険性のある行為を含めて、何らかのDAの証拠が存在する場合に、加害行為をしている親との関係の継続、または、このような関係を継続するというコンタクト命令から、その被害を被っている子どもや親に生じる危害の危険性を理解する必要性。

・収集したエビデンスを分析し、取るべき対応について勧告を行う必要性。

 

2.2 エビデンス

委員会では、エビデンスの収集に関して、関連する事件に当事者として、また専門家としてかかわった経験を有する者からの意見聴取をするという点に重点を置いていた。個人や団体から幅広くエビデンスの収集を行うために、委員会は次のことを実行した。

・実務指針第12条J項(PD12J)および児童法第91条第14項に関連する判例の調査検討の実施。

・エビデンスとなる書面の提出の呼びかけ。および

・検討を行う円卓会議とフォーカスグループ(訳者注:フォーカス・グループとはグループ・インタビューを行うために集められた一定の条件を満たす人たちのことをいう)の設定。

 

委員会では、問題の背景や対応策に関する議論を踏まえて、エビデンス提出の呼びかけに対する回答について、広範な見地から分析を行った。

 

2.2.1 調査レビュー

委員会では、ブルネル大学のエイドリアン・バーネット博士に今回の調査レビューの責任者をお願いした。調査レビューでは、DAその他の重大な犯罪の私法上の子の事件に巻き込まれている子どもと親がどのようなリスクにさらされているかを調べ、家庭裁判所がそのリスクに対してどのように対応しているかを明らかにすること目指した。調査レビューでは、次の3つのテーマを扱っている。

・親の別居する前と後でのDAの経験。

・DAに関連して、家庭裁判所の審理過程と判断で当事者である子や親が経験したこと。

・私法上の子の事件におけるDAに関して、PD12Jをどのように適用し、コンタクト命令の履行を求め、虐待に関する事件(注5)を扱っているかといったことを含めてDAへの家庭裁判所の対応。

 

調査レビューでは、イギリスだけでなく他の地域も含めて、そこで公表されている報告書、モノグラフ、学術雑誌に掲載された論文等についても広範かつ詳細に検討した。PD12Jの2017年改正(注6)の施行に関しては詳しい検討は省略しているが、それ以外の点では、前述の3点について委員会で詳細に検討を進めた。その成果がこの報告書の内容である。

報告書では、特にPD12Jおよび児童法第91条第14項に関する判例に関して、詳細な分析を行っている。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)がPD12Jに関する判例を検討し、マンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)が第91条(14)に関する判例を検討し、これらについてロレーヌ・キャバナQC(Lorraine Cavanagh QC)による補足意見が述べられている。これらの判例レビューは、本報告書のAppendixに掲載した。

 

2.2.2 書面によるエビデンスの収集

書面によるエビデンスについて、関連する私法事件の経験を有する個人及び団体に対して、広範囲に呼びかけ、提供を求めた。エビデンス提供の案内は、期間6週間で、オンラインを通じて実施した(注7)。このアンケートは、専門家だけでなく一般の人にも答えてもらえるよう準備した。

 

アンケートは次の8項目で構成されている。

・私法上の子の手続一般

・私法上の子の手続においてDAを含む重大犯罪の主張を提起すること

・これらの手続における子どもの声

・DAの主張があがった事例の手続

・DAその他の重大な犯罪被害者の裁判所における安全と保護

・DAその他の深刻な犯罪に関連する家庭裁判所への反復申立て

・それらの手続に巻き込まれた子どもと被害親のその後の状況

・情報、経験、対応策等、エビデンスを提示してくれた皆さんが、伝えたい問題点

 

 アンケートでは、回答者の家庭裁判所での経験の期間について、2014年までの期間、2014年から2017年までの期間、または、2018年から2019年の期間の区分に分けて回答を求めた。このように区分した理由は、実務指針PD12Jの適用に合わせたもので、これが初めて導入されたのが2008年、2014年に改訂され、次の改定が2017年10月、FPRPart3AおよびPD3AAが導入されたのが、2017年の後半で、これに沿った期間区分を設けたわけである。

 

委員会に対して、イングランドおよびウェールズの全域から1226件のエビデンスが寄せられた。この内の、111件は無効なものであった(注8)。残りの、1115件の内、私法上の子の手続に関わった当事者の経験について個人から寄せられたものが最も多く(87%)で、主として母親やその家族からのものであった。10%が家庭裁判所にかかわる専門家・実務家の経験に関するものが個人から寄せられた(注9)。残りの3%(32件)が団体からのものであった(注10)。寄せられたエビデンスを分析した結果、団体から寄せられた回答は、その団体の会員や団体の提供するサービスの利用者から集められたものであるという事実がわかり、委員会ではこの点に注目をした。

 


 

寄せられた回答の大多数は、質問項目中の、DAの申立てに対して、家庭裁判所がどのような効果的な対応をしたかという問いに対するものであった。父親から寄せられた回答は、DAの申立てを受けた側の立場からのものであった。父親がDA被害者の場合はほんの僅かであった。寄せられた回答の多くは、DAの被害者である母親からのもので、親密な関係にある男性が加害者で、多くの女性が深刻な被害を長期にわたり受けているという実態に関してこれまでの調査結果や統計的資料と一致するものであった(注11)。法律実務家からは、DAの程度や期間の異なる様々な事例についての経験が寄せられたが、これらの多くは母親がかなり激しいDAを長期にわたり受けているというもので、ほぼ全ての事例に威圧的支配が含まれていた。

 

一部の母親や少数の父親が加害親による性的虐待を確認した際に、その子どもの保護を図る家庭裁判所の手続は、子どもや被害親が受けている他の危害に関連しているという経験についてエビデンスが提示された。委員会では、MosacやCARA等の、児童の性的虐待の問題を抱えている家族を支援する団体の専門家からもそのようなエビデンスの提出を得ている。これらに加えて、父親による子どもや母親に対する虐待行動の中の一つとして子どもに対する性的虐待の問題が生じているということが、多くの母親から提起されている。これらのことから、DA、児童虐待および児童の性的虐待といったものが、個別に独立した現象ではなくて、一連のものとして関連して生じていることが明らかとなった。

 

DAの形態には含まれないような、成人を被害者とする重大な犯罪に関してのエビデンスの提示はなかった。

 

エビデンスの提示を求める呼びかけは、私法上の子の手続一般を対象とするものであったが、寄せられた回答のほとんどが、子の処遇に関するもので、私法上の子の手続のそれ以外のものは皆無であった。

 

提出された回答は、すべての期間区分にわたっており、かなりの割合でそれぞれの期間についての回答を寄せていた。回答者は、自分たちの事例がどの期間に該当するかについて選択可能であったと思われ、提出された回答は複数の期間を跨いでいる可能性があった。しかしながら、多くの回答は家庭裁判所における最近の経験に関するもので、2018年~2019年または2014年~2019年がほとんどであった。

 

2.2.3 円卓会議(検討会)

 委員会では、家事事件、特にDAの問題に関する専門的知識や実戦的経験を持つ人々を対象として、次のとおり3度の円卓会議を開催した。

・円卓会議1:ロンドン:司法関係者

・円卓会議2:ロンドン:ソーシャル・ケア、DA支援機関、第三セクター、カフカス、リーガルセクター、その他の関連機関に従事する実務家をイングランドから幅広く参加を募った。

・円卓会議3:カーディフ(Cardiff,):ウエールズ(Wales)から、法律専門家、児童家庭裁判所諮問支援サービス(Cafcass, Cafcassウェールズ)、DAの支援機関および男性支援機関を含む、家事事件にかかわる実務家および専門家に幅広く参加を募った。

 

この円卓会議では、私法上の子の手続を改善する上で、問題の本質を把握し、解決すべき課題を抽出し、対応策を検討するために、様々な領域の人を集めて議論を進めた。この円卓会議は録画され、テーマごとに分析がなされた。

 

2.2.4 フォーカスグループ

委員会では、イングランドおよびウェールズの全土から、異なる集団から参加者を募り、10回のフォーカスグループでの議論を行った。

開催されたセッションは、次のとおりである。

 

・DAその他の深刻な犯罪の被害者として、私法上の子の事件に巻き込まれている母親グループ。このグループのセッションには特にBAME(Black, Asian and minority ethnic・黒人、アジア系および少数民族)の女性を含めている。

・DAの被害者またはその訴えの加害者とされている父親グループ。および

・それらの手続に関連する子どもたちのグループ。

 

対象とする問題の性質上、セッションの前後に、参加者に対して必要なサポートを提供できる家事司法に関係している第三セクターの支援を得ながら、この企画が進められた。支援団体には、ウィメンズエイド英国連盟、ウェールズウィメンズエイド、リスペクトRespect、the Family Justice Young Peoples’ Board(注12)および Southall Black Sistersが含まれていた。セッションには、委員会のメンバーが参加し、進行や必要な指示を行い、記録され録画も残された。これらの記録や録画はテーマごとに分析され検討が加えられた。

 

2.3 分析

全ての異なるグループから寄せられたエビデンスの約半数については、ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)によりテーマごとに分類された(注13)。残りのものは、委員会の他の委員に配分され分類が行われた。全体的な検討に際しては、委員会の委員が全ての提出されたエビデンスの確認を行った。

 

ハンター教授によるテーマ毎の分類や問題点のサマリーに関しては委員会で説明され、全員で検討を行った。そのあとで、それぞれの委員が一人一人提出されたエビデンスを比較検討し、円卓会議やフォーカスグループでの指摘等を踏まえて、必要に応じてテーマの追加を行った。提出されたエビデンスに記載されたものの内、問題の改善に向けた指摘や提言については、注意を引くようマーカを付けた。委員会では、主要なテーマや問題点の共通理解を図るよう、自由な討議を行った。

 

この分析で明らかになった重要なポイントは、提出されたエビデンスで示された経験が、母親と父親とで大きく異なっていたということである。母親から提出されたエビデンスでは、自分たちが受けている虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしいというものであった。回答を寄せた母親によると、裁判所の手続では前述の要求(虐待を止めさせ、それにより被害を受けている自分たちの子どもの安全を確保してほしい)のいずれも実現できておらず、状況を悪化させていることが多いというものであった。これに対して、父親から提出されたエビデンスでは、コンタクト制限(禁止)命令および間接的コンタクト命令に関する経験の比率が高く、特に、第91条第14項(section 91(14))に関するものが非常に多かった。結論として、母親と父親とで、寄せられた回答に違いがあるということは、それぞれ家庭裁判所における経験が異なっておりそれが表れていることを示していると解される。

 

母親と父親で回答に違いがあるとはいえ、回答に大きな偏りがあるということや円卓会議やフォーカスグループに一定の傾向があることがあることが示されたわけである。

 

更に、寄せられた回答は、期間ごとに違いがあるというよりも、むしろ期間に関係なく一貫性のあるものであるといえる。また、イングランドとウェールズの間で問題点には特に大きな違いがないことも分析結果として明らかとなった。エビデンス提出の呼びかけに際し、回答者に対して地理的にどこで経験したかについて答えるよう求めていたわけではなかったが、回答の中には、自分たちの経験した場所に言及したものや場所が明らかに要因であることに触れたものもいくつか含まれていた。前述のとおり、イングランドとウエールズでそれぞれ、実務家やサバイバーによる円卓会議を開催した。イングランドやウェールズに関連していくつかの具体的な問題(例えば、DA加害者プログラムの提供の有無)を取り上げ、地域差があるものについては報告書でその旨指摘した。

 

2.4 報告書の作成及び改善策の提示

報告書の作成と改善策の提示は並行して進められた。

 

寄せられた回答と明らかとなった共通のテーマとの間に強い関連性があることを踏まえて、報告書では、それぞれのグループ毎でエビデンスを纏めるというよりもむしろ、章毎でエビデンスを整理するという方法を採用した。したがって、収集したエビデンスの全データから主要テーマを抽出し、この最終報告書の章立てとそこで扱う内容を決定した。

 

研究レビュー、エビデンス提出の呼びかけ、フォーカスグループおよび円卓会議でのテーマについては、そのテーマが全てカバーされるように振り分け、必要に応じて相互参照することで重複を避けるよう工夫した。ローズマリー・ハンター教授(Professor Rosemary Hunter)、リズ・トリンダー教授(Professor Liz Trinder)、およびマンディ・バートン教授(Professor Mandy Burton)によって、まず各章の第1草稿が作成され、委員会で検討したうえで各委員からの意見聴取を経て原案が作られ、執筆担当者および委員会事務局により形式および用語統一の点から編集が行われた。各章につき草案の段階で、集積されたデータや、委員会の委員の高度の専門性に基づいた指摘や承認を基に委員会として必要な修正を行った。

 

2.5 エビデンスの信憑性とその限界

個人から提供された回答、円卓会議およびフォーカスグループでの議論ならびに国内外の調査結果を含めた、広範囲にわたるエビデンスに基づいて、結論をまとめることができた。委員会における分析、それに基づく本報告書の提言は、DAの事例および私法上の子の手続において生じるその他の危害リスクの事例に対して、家庭裁判所がどのように対処して問題解決を試みるべきかについて明確な指針を提供するものであると確信している。

 

 委員会で検討されたエビデンスが問題の全てを表しているわけではないということは認識しなければならない。個々人から回答を求めるという手法ではなく、裁判所の記録の公正、広範かつ詳細な分析を行う必要性があるという指摘もあり、今回委員会がエビデンスの提出を求めた手法に関して批判的な声がないわけではない。今回の委員会における検討については、時間的制約や、回答を寄せてくれた個々人の匿名性といったことから、提出された回答に関して、裁判所の記録、謄本、判決または命令といったものを確認することはできなかった。

 

委員会に寄せられたエビデンスは、実に内容豊富なものであった。これらの重要な内包を含んだエビデンスは、それぞれ個々人および団体の経験に基づくものであり、家事司法制度のあるべき姿を示す価値のデータであった。しかしながら、エビデンスで示された内容自体からは、回答提供者が経験したような問題が一般的なものなのか、また頻繁に生じるものなのかについては、必ずしも明らかとなるわけではない。

 

裁判所を利用する人々および専門家により提供されたエビデンスが、どの程度の一般性を示しているかについても、必ずしも明らかとは言えない。委員会の設定した質問内容に対しての回答は、個々人および団体から任意に寄せられたものである。したがって、そこには何らかのバイアスがかかっている可能性があることは排除できない。家庭裁判所の手続や結論におおむね満足している人々は、エビデンスを提供しようとするインセンティブがそれほど高くないと解される。その制度の中で働いている専門家からすると、制度の運営を守りたいというインセンティブが相対的に高いということも言える。

 

寄せられた回答の中の説明が正確で完全なものであるかどうかについての確認はできない。それぞれの事例でどのようなことが発生したかについての「客観的な」説明も難しい。エビデンスの内容は、あくまでも回答を寄せた個々人や団体の認識や見解を示したものである。委員会に寄せられた見解は、エビデンスを提出する人たちの問題に対する姿勢、文化的コンテキスト、帰属している集団の文化、法律手続におけるその人の役割および個々人のバイアスにより影響を受けるものである。リコール・バイアスの影響を受けることもあると思われる。委員会としては、提出された回答には希望的観測が含まれていることは当然のこととして、理解不足、勘違いおよび曲解といったものが含まれているであろうことについては、当然に認識をしたうえで検討が進められた。

 

これらの問題はあるにしても、委員会に寄せられたエビデンスから、DA事件および私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所がどのように対処すべきかについての問題点を体系的に明らかにすることができると考えられる。委員会としては、個別で特殊な問題としては片づけることができないものであると考えている。寄せられたエビデンスから、これらの問題が制度全体を通じた多くの事例にかかわるものであり、深刻な事態を生じさせる危険性を孕むものであるということがわかるが、このことから適切な対応をするにはどうすればいいかという点についても示唆を受けることができる。このような結論に達したことについては、多くの理由がある。

 

委員会では、まず専門家から大量の回答を得て、虐待の被害者である男性も女性も、みんな同様の問題点を指摘していることを確認した。提示された問題がどの程度の生じているかについての定量化は難しいが、少なくとも、問題が一回限りのものではないし、局所的なものではないということがわかる。

 

次に、委員会へのエビデンスの提供源が複数であるという点から、それぞれの提供源からの問題点やテーマについてクロス集計をすることが可能となった。個人から提出された回答の真偽や正確さについての評価は困難であるが、DAの被害者からの回答にはテーマや懸念という点において類似性が存在した。更に、被害者から寄せられた回答で示されたテーマや懸念は、専門家や団体から寄せられたものと比較して、完全ではないがほぼ一致をしていた。重要な点として、これらの問題点や懸念は、委員会で調査した数多くの学術研究団体の知見とも高い割合で一致する内容となっていた。

 

第3に、委員会では、個々人からの報告の信憑性について慎重に評価を進めた。提出された回答を検討したところ、一般的なテンプレートに従ったと思われる(型にはまった)ものは少数派で、個々人の実体験に基づいた信頼できる詳細な情報が提供されている思われるものが多数派だということが判明した。また、提出されたエビデンスの全てが信頼できるものであるとまでは言えないが、自分たちの経験について肯定的なものも否定的なものも、いずれにもかなり微妙なものが含まれていた。多くの異なる裁判所での経験についての報告から、裁判所の違い、また期間の違いによって、法律実務にも違いがあるということが感じ取られた。PD12Jが改正され、それが施行されたことによる変化はほとんど無く、問題は一貫して継続しているが、注目すべき点として、時間の経過とともに改善されたものもあれば、悪化したものもあることが明らかとなった。PD12Jが施行される前の時期に、自分が子どもとして経験したコンタクトについて回答したものもあったが、報告書の内容は、期間の違いの影響はほとんどなく一貫しており、子どもの経験には大きな変化が生じていないということには特に注目を要する。

 

更なる定量的分析の必要性は認識しないといけないが(詳しくは第11章を参照)、判例の分析、エビデンス提供の働きかけ、フォーカス・グループや円卓会議から得られたデータなどを含めた研究成果から、DAおよび私法上の子の事件で危害が生じる恐れのある事例に対して、家庭裁判所が現在どのような対応をしているか、その対応の長所や短所について理解を深めることができると確信している。

2.6 用語と表現についての注意事項

「母(mothers)」および「父(fathers)」という文言については、その集団から特に報告書の提出や懸念の提示があった場合を反映する際に使用している。母親および父親の双方から提示されたものについては、性的中立性を考慮して「親(parents)」という用語を使用した。なお、「母」という用語が用いられた場合には、例えば、母型の祖母といったような母型の家族も含まれている。「父」という用語についても同様である。

 

DAの「被害者(victims)」や「加害者(perpetrators)」または「虐待者(abuser)」という用語については、それが使われている文脈の中で理解する必要がある。これらの用語は、ジェンダーに関連性を持っていることもあれば、そうでない場合もある。これらの用語は、裁判所における手続のなかでは、それぞれ「被害者」「加害者」または「虐待者」であると主張されている人々を指して使われることもある。

 

「専門家(professionals)」からの回答といった場合には、広い意味で専門家から寄せられた多くのものといった意味で使っており、全てが特定の専門家や特定の専門家集団からのものというわけではない。特定の専門家から寄せられた回答を指す場合には、それぞれの専門家集団、例えば、「心理学者」「法律家」「DA関連で働いている人」といったような用語を用いている。「個人(Individual)」という用語は、匿名の人による回答の場合に使用している。「団体(Organisations)」という用語については、その団体に属するものが全員同意のうえで報告書に団体名を明記することを認めた場合に使用している。

 

「家庭裁判所(family court・family courts)」または「裁判所(the court)」という用語については、現在の家庭裁判所、控訴審の家事部、かつて私法上の子の事件を管轄していた家事事件裁判所(Family Proceedings Courts)および郡裁判所(County Courts)を含めて使用している。「Cafcass/ウェールズ」という用語はそれらの団体を意味している。このうちの一つを特定する必要がある場合には「Cafcass」と「Cafcassウェールズ」で使い分けている。

 

現行の私法上の子の事件という用語は、裁判所が子どもに親と「一緒に住む」ことまたは「一緒に過ごすこと」を命じる紛争のことを指している。提出された報告書に関して、委員会では、「居住」および「コンタクト」といった古くから使われている用語をそのまま使用している。というのは、これらの用語は法律家でない人たちにも馴染みのあるものであったからである。

 

寄せられた回答に関しては、内容に変更が生じないように注意して、誤記等がある場合には必要な範囲で修正を行った。寄せられた回答で長文に及ぶものについては、注記をしたうえで要約をして提供した。

 

本報告書で使用される略語については、末尾に略語一覧を提供している。

 

【注】

(2) These provisions are discussed in more detail in chapter 3. Practice Direction 12J sets out the procedure for courts dealing with child arrangements cases where domestic abuse is alleged. It also provides for special arrangements in such cases.

(3)Part 3A and Practice Direction 3AA set out procedure and directions for courts to identify vulnerable witnesses (including protected parties) and to consider special measures to assist them to participate effectively in family proceedings.

(4)Orders pursuant to section 91(14) Children Act 1989: ‘barring orders’ prevent a party from making further court applications without prior permission of the court.

(5)In relation to other serious offences, a search was conducted for literature on children conceived from

stranger or acquaintance rape, but the lack of any relevant literature relating to England and Wales meant

that this aspect was not pursued further.

(6)Since the completion of the literature review there have been two studies published: M Lefevre and J Damman, Practice Direction 12J: What is the Experience of Lawyers Working in Private Law Children Cases? (2020); IDAS, Domestic Abuse and the Family Courts: A Review of the Experience and Safeguarding of Survivors of Domestic Abuse and their Children in Respect of Family Court Proceedings(2020).

(7)The call for evidence was available online from 19th of July to the 26th of August 2019. Copies were also made available in English and Welsh and responses were also accepted via email or hard copy in the post.

(8)Unusable or not in scope being not private law children, not England or Wales, or no response to the

questions.

(9)For example, Magistrates and Legal Advisers, solicitors and barristers, Cafcass officers and social workers, domestic abuse and family support workers, health professionals (psychologists, therapists, health visitors, GPs) and others practising in the field (McKenzie Friends, academics, campaigners, mediators, MPs/Welsh AMs).

(10)For example, legal and domestic abuse sectors, fathers’ groups and children’s charities.

(11)See literature review section 4.2.

(12)The FJYPB is sponsored and its work is facilitated by Cafcass, but the Board itself is independent. Its remit covers both England and Wales.

(13)The sample consisted of 200 mothers’ submissions, all fathers’ submissions, all individual submissions from professionals/service providers and all organisational submissions. Thematic analysis involves closely examining qualitative data to identify common themes – topics, ideas and issues – that come up repeatedly. Each idea is given a shorthand label (aka codes) to describe its content. These codes are applied across all submissions consistently to identify similar content across multiple submissions. Similar codes are grouped together as themes. The process becomes iterative until all the common key topics, ideas and issues across all the data are coded and all the resulting themes identified. The analysis writeup will generally be structured by the final themes identified.)

 

                                                                                                                                    【小川富之】

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