UK司法省報告

UK司法省報告

第1章「共同代表によるイントロダクション」

 

2019年に、家庭裁判において、私法上の子の事件の新受件数が54,920件あった。これらの内で、子の処遇やコンタクト(面会交流)事件では、ドメスティック・アビューズ(domestic abuse、以下「DA」という。)の主張やその事実が認定されるものが、49%~62%の割合を占めており(注1)、総人口に占める割合と比較して、顕著に高率となっている。2019年の5月に、司法省は、家事司法制度(family justice system)全体から専門家を集めて委員会を組織し、DAその他の重大な犯罪を含む私法上の子の事件で、家庭裁判所がどのようにして子どもやその親の保護を行ったかについてのエビデンス収集を行うことを公表した。この事業の目的は、子どもをめぐる事件にかかわる者の経験を集積し、問題の全体像を把握し、状況を改善する上で有用な基礎資料をまとめる事にあった。

 

委員会を組織するにあたっては、家事事件に関して豊富な経験を有し、家事司法制度を支え、そこで働いている専門家から幅広く人材を集めた。法律実務家やソーシャルワーカー、裁判官、第三セクター、更に、子どもをめぐる裁判の当事者としての経験を有する人たちから情報提供を受け、より広範な人々の見解を集積することに努めた。この事業の開始時点では、短期集中で、家事司法制度に内在する重要課題の抽出を行う予定であった。しかしながら、非常に広範かつ深刻な問題ある情報が寄せられたことから、委員会がこの最終報告書を完成させるのに、予想以上に時間を要することとなってしまった。

委員会の構成員が幅広い領域の専門家であったことから、見解の対立が生じることも多くあり、これは、司法省の考え方と委員会の見解の間でも同様であった。この報告書やその提言には大方の賛同を得られたが、必ずしも司法省や政府の政策の指針が明示されているわけではない。この報告書では、政府がどのような改善策を構築すべきか、また危害を受ける恐れがある子どもやその親を守るために、家庭裁判所としてはどのような対応をすべきかが示されている。

 

私たちは、家事司法制度にかかわる人々が、子どもの性的搾取と虐待、強姦、殺人その他の暴力犯罪を含めて、これまでにどのような危害を経験してきたか、また、現に経験しているかについての広範なエビデンスを収集してきた。しかしながら、集まったエビデンスは、圧倒的にDAに関するものであり、したがって、本報告書の対象もこの点に焦点を当てるものとなっている。DAの被害者がどのようなことを経験しているかについて、私たちは本報告書により実質的な理解を深めることができる。貴重なエビデンスの提示をしてくれた皆さんと、その分析を担当してくれた委員会の皆さんに、この場を借りて感謝の意を表したい。

本報告書では、対象とする問題について詳細に分析を行っているが、提供されたエビデンスで全ての問題がカバーされているとまでは言えず、また、家事司法制度に関する問題を完全に代表しているとまでも言えないことは理解する必要がある。

私法上の子の手続で、DAが含まれる事例の多さを考えると、DAの影響を受ける当事者や子どもたちが、様々な異なる経験をしていることが想定できる。このような中で、私法上の子の手続に関して、多くの専門家や体験者等から提示されたエビデンスを基に委員会で検討し、制度に内在する問題についての適切な(十分説得力のある)見解を得ることができたと確信している。

家事司法制度において、裁判官、ソーシャルワーカー、法律家、裁判所の職員その他の専門家の人たちは、子の最善の利益を目指して、難しい問題を解決するため、日々懸命に努めており、これを実現するには、専門家の人たちに適切な情報提供を行い、これに基づいて対応してもらう以外には方法がない。私たちとしては、これら関係者の皆さんの不断の献身的な貢献に感謝するとともに、本報告書とそれを受けての政府の問題解決に向けた実施計画の策定が、関係者の皆さんが重要な役割を果たすうえで、大いに役立つことを願っている。

 

本件の調査および本報告書の完成に向けての、委員会の皆さん方による多大の労力と貢献に対して感謝の意を表したい。とりわけ、Rosemary Hunter、Liz TrinderおよびMandy Burtonさんについては、エビデンスを提出した人々や委員会を構成する皆さんの意見を集約し、本報告書の原稿作成をするうえで中心的な役割を献身的に果たされたことを記して、感謝の意を表したい。

エビデンスの提出の呼びかけに対して、応えてくれた団体や皆さん一人一人に心よりお礼を申し上げる。特に、DAの被害者である、千人を超える皆さんの体験を委員会に提供してくださった一人一人の方に対し感謝している。本報告書が公表されることにより、これらの人々の声が広く届けられ、必ずやこの声に答えた行動が起こされると私たちは確信している。

 

Melissa Case & Nicola Hewer,

家事および刑事司法政策局長,司法省

委員会共同委員長

 

【注】

(1)本報告書の参考文献一覧の「表4.1」を参照。

                                                                                                                                   【小川富之】

 

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