アメリカからの発信

アメリカからの発信

片親疎外1

母親を不当に攻撃する片親疎外の蔓延

アメリカでは親権や面会交流の紛争の際に、「片親疎外」が頻繁に注目される。片親疎外に反対する立場のジョージワシントン大学教授のMeierによれば、一般的に片親疎外とは子どもが片親に対して、不自然にその親は危険だとネガティブな感情を抱くことを指す。これは1980年代に小児精神科医ガードナーが提唱した説がベースとなっている。当時、社会問題となった子どもへの性虐待に関してガードナーは、性的虐待の訴えの大方は虚偽で、母親に洗脳された子どもが父から性虐待されたと思い込む「片親疎外症候群」を唱えた。

この理論は科学的に否定されているが、再度形を変え、再び母親が意図的に子どもを父親から遠ざけると非難する場合によく使われている。そして虐待親が「自分は被害者で、子どもが自分を恐れるのは妻が子どもにそう思い込ませた」と反論する時に強力な武器として悪用されている。(加害を被害に見せかけて立場を逆転させる戦略はDARVOと呼ばれているが、このテーマは別のブログに書く)。

この武器によって子どもを守る母親が悪者扱いされ、裁判所から親権を剥奪される、子どもとの接触を制限されることまで起きているから、事態は深刻だ。米国のNPO団体Women’s Coalitionが独自に調査して国連人権理事会に提出した資料によれば、母親から父親に親権が切り替えられたケースの62%が片親疎外を理由にされている。

子どもを巻き込んだ深刻な事態

ケイデン法について以前のブログに書いたが、米国の女性に対する暴力禁止法に子どもを家族の虐待から守るためのケイデン法が加わっている。その理由は裁判所が虐待父の主張する片親疎外を重視し、一方で母親が虐待を主張すると無視する傾向が横行しているからだ。さらに、このケイデン法は科学的に根拠のない親子再統合キャンプの規制を各州に求めている。このキャンプは、家庭裁判所が任命した機関を通じて、片親疎外を主張する親とその親を拒否する子どもを再統合するセラピーを行っている。これは高額な料金を請求し、母子を強引に引き裂くことから、ドメスティックアビュース支援者業界で特に問題視されている。ケイデン法が裁判官や親権判定員にドメスティックアビューズに対する教育を勧めているのは、このような異常な事態が背景にあるためだ。

離婚は子どもに負担を与えるため、子どもの最善の福祉は離婚後に両親と頻繁な交流を促進することだというのは、共感されやすいメッセージだ。しかし、両親が円満に別れ、子どもも別居親との交流を望むのであればという条件がつき、万人に当てはまるスタイルではない。虐待があれば、子どもを引き離すことは子どもの利益のためで片親疎外ではないことぐらい、理解できる人は多いのではないか。しかし子どもの最善の利益が口実として使われ、恐ろしいことに問題あるケースにも離婚後の親子の再統合が推進されてしまっている。

黒幕はオールドボーイズネットワーク

Women’s Coalitionは、子どもと良好な関係を築いていた母親が虐待を恐れて共同養育に抵抗すると裁判所が懲罰を与えたり、親権が奪われるのは「オールドボーイズネットワーク」の作ったシステムの仕業だと述べている。このネットワークは、女性が男性に離婚を突きつけることや、女性だけが親権を持つことは男性の弱体化だと考え、戦略的に父親の権威を維持するシステムを作り出したという。父親権利団体も表向きの活動団体であるが、ネットワークメンバーには政治権力者や、実は家庭裁判所裁判官たちも含まれているという。だから家庭裁判所は父親の虐待の証拠を意図的に隠蔽し、虐待を訴える良好な母親に厳しく対処する一方、父親が虐待を訴える場合は咎めないらしい。

このWomen’s Coalitionは他団体とは視点が違い、ケイデン法の要求する裁判所の教育や片親疎外を禁止させる運動は意味がないだろうと、痛い所を突いている。既に米国の家庭裁判所はオールドボーイズグループの配下なので、裁判官らは確信犯的に片親疎外を使用しているという。難治性の病に侵されたシステム内で、子どもの福祉や親権を決めることはもはや無理があると言う。解決策は母親差別に苦しむ女性たちと政治的に連携し、陪審員による新しいシステムを作る政策提言が必要なのだと説く。バイアスだらけのメンバーではなく、陪審員という一般市民の人間的な判断や経験が求められるということだ。

アメリカの二の舞いに?

米国の共同親権や共同養育システムのを作り上げるために、特定の利益団体ーオールドボーイズネットワークーが主導権を握ってきたことを明らかにした。彼らによって離婚後の子どもの最善の利益や男女平等などの聞こえの良い理念が強調され、賛同者が誘導されてきた。そしてドメスティックアビューズや自己中心的な父親の問題が大いに見過ごされ、子どもの安全が脅かされている。このシステムは、父親の権威や権利を維持しやすくし、子どもの利益を適切に考慮しない状況を生み出してしまっている。

以上の話を知ることで、日本も危険な方向に向かっていると考えられる。現在も家庭裁判所は積極的に離婚後の親子面会交流を実施し、既に共同親権法への改革が起きている。政策を動かそうとしている特定の利益団体を見ると、ここにも日本独自のオールドボーイズネットワーク運動が存在し、ドメスティックアビューズ被害者や支援者団体の反対意見を抑制している。

(参考資料)

CONGRESS.GOV. (2021-2022). S.3623 - Violence Against Women Act Reauthorization Act of 2022. Retrieved from Text - S.3623 - 117th Congress (2021-2022): Violence Against Women Act Reauthorization Act of 2022 | Congress.gov | Library of Congress

Meier, J. S. (2013). Parental alienation syndrome and parental alienation: Research reviews. National Online Resource Center on Violence Against Women, 1-21.

Women's Coalition International. Women's Coalition News & Views. (JUL 10, 2022). Down the Parental Alienation Rabbit Hole Uniting under a Shared Set of Facts. Retrieved from https://womenscoalition.substack.com/p/the-parental-alienation-rabbit-hole

Women’s Coalition International. Submission Made to UN Human Rights Council! Includes Survey Results and Requests for Action by Human Rights Council. (DEC 18, 2022). Retrieved from https://womenscoalition.substack.com/p/submission-made-to-un-human-rights

0